魅せられて

 

              

                         

作者:ヒラマ コウ

 

 

 

登場人物

 

 

ユウスケ:30歳 国際結婚をしてスペインに住んでる妹に会いに来た。

 

マリア:28歳 スペインに住んでる。夜の酒場で日々ダンサーとして踊っている。

 

 

比率1:1

 

上演時間【30分】

 

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CAST

 

ユウスケ:

マリア:

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(1日目 昼)

 

 

ユウスケ(N):「日本から遠く離れ、辿り着いた異国の地、スペイン。

         飛行機に何十時間も搭乗していたからか腰がなんだか痛い。

         だが、そんな疲れも吹っ飛ぶ程にこの国の人達は明るい。

         まるで、人々が太陽のようだ。

         妹に呼ばれ来てはみたが、暫く気晴らしをするには良さそうだ。

         妹と合流するまで、まだ時間があったので街を探索する事にした」

 

 

(街の広場 綺麗な女性が楽しく群衆の前で踊っている)

 

 

ユウスケ(M):「あそこの群衆はなんだろう?なんだか音楽も聴こえてくるな。

         時間もあるし行ってみるか・・・」

 

 

 

 

 

ユウスケ(N):「広場の噴水の前で、一人の女性が楽しそうに踊っていた。

         圧倒された・・・。笑顔で踊っている時もあるかと思えば、

         時には険しい表情で激しく踊ったり・・・。

         気付いた時には踊りは終わり、溢れる程の拍手が聞こえた」

 

 

マリア:「何、ぼさっとしてんだい?チップは此処に入れておくれ!

     それともタダで観てくって気じゃないだろうね?」

 

ユウスケ:「あぁ!済まない!あまりに素敵な踊りに魅了されてたんだ・・・」

 

マリア:(微笑み笑いながら)「だったら尚更チップを入れておくれよ!

               ねえ、旅のお客さん、提案なんだけどさ、夜、時間あるかい?」

 

 

ユウスケ(N):「俺はその誘いに一瞬戸惑ったが、この目の前の女性の事を

         もっと知りたいと思った。妹家族と約束があったけど、

         なんとかなるだろう」

 

 

ユウスケ:「予定は特に無い」

 

 

マリア:「良かった! じゃあ、あたいの働いてる酒場においでよ。

     夜は、そこでダンサーとして働いてるんだ!

     たっぷりサービスもするからさ!」

 

ユウスケ:「・・・」

 

 

マリア:「安心しなよ。サービスと言っても料理をって事だよ。

     いくらあたいでも、旅行に来てる知らない人をいきなりとって喰おうなんてしないよ!

     あんた、名前は? あたいはマリア」

 

 

ユウスケ:「マリア・・・」

 

マリア:「どうしたんだい? そんなにあたいの名前は珍しいのかい?」

 

ユウスケ:「あぁ、ごめん。気にしないで。俺は、ユウスケ」

 

マリア:「ユウスケ、日本人の名前は、不思議な響きが多いね。でも、あんたになんだか、似合ってる気がするよ。

     それじゃあユウスケ、21時に待ち合わせなんてどうだい?」

 

ユウスケ:「オッケー」

 

マリア:「待ってるから! あっ、仲間達が呼んでる! それじゃあね!」

 

ユウスケ:「おい! 店の名前!」

 

マリア:(微笑みながら)「周りの人に尋ねてみなよ!!! あたい、この街では結構有名だからさ!!!」

    (マリア、遠くへ走り去る)

 

 

ユウスケ(M):「不思議な魅力のある女性だな。マリア・・・まさかな・・・」

 

 

 

 

 

 

(1日目 夜)

 

 

ユウスケ(N):「妹と合流後も、俺の頭の中はあの女性「マリア」の事で一杯だった。

         時折、妹に話を聞いてるの? と怒られはしたが、そんな時も

         マリアに早く会いたいと思っていたし、こんな事知られたら

         今以上の説教がくるだろう。当然だが、俺はこの事は黙っておくことにした。

         なんとか妹を説得し俺は再び、この異国の地、スペインの夜の街に足を運んだ。

         昼間の雰囲気とは打って変わり怪しい雰囲気を感じたが、それでさえ

         今の俺には、なんだか心地良かった。肝心のお店だが・・・周りの人に尋ねても

         そんな女性は知らないと言われ続け、5人目でやっとマリアの働いてるお店がわかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

マリア:「いらっしゃい! 待ってたよ! どうだい? すんなり店に来られただろう?」

 

ユウスケ:「それについては言いたいことが沢山あるけど、まずはこの空腹を満たしたいかな」

 

マリア:「そうかい! じゃあ、まずは、たらふく料理を食べておくれ!」

 

ユウスケ:「そうする。メニュー、もらえるかい?」

 

マリア:「何言ってんだい? こちらの用意した料理の数々があるから、ユウスケは座って期待して待ってるだけでいいよ!

     心配しなくて良いよ! あたいのおごりさ!」

 

ユウスケ:「ありがとう」

 

マリア:「残さず食べておくれよ! どれも味は絶品なんだからさ!」

 

ユウスケ(N):「そう言って笑いながら、マリアは店の奥へと料理を取りに行った。

         待つこと10分。両手に溢れんばかりの料理を抱え戻って来た」

 

マリア:「お待たせ! まずこれは、トルティージャだよ!」

 

ユウスケ:「トルティージャ? 初めて聞く料理だ」

 

マリア:「じゃがいもがたっぷり入った卵料理だよ! 日本人は半熟とかが好きなの聞くけどさ

     しっかりと火を通すのがスペイン流なのさ!」

 

ユウスケ:「俺も正直半熟が好きだな・・・」

 

マリア:「つべこべ言わずに食べてみな! 美味しいからさ!」

 

ユウスケ:(恐る恐る一口食べてみる)「美味しい・・・。じゃがいもの食感が卵に合ってる・・・」

 

マリア:「そうだろう! 一度食べると何度も食べたくなる味だよ! お次は、チャンピニョーネス・ア・ラ・プランチャだよ!」

 

ユウスケ:「これはマッシュルーム?」

 

 

マリア:「正解! マッシュルームの笠に、刻んだニンニクとパセリとチョリソーを詰めて、鉄板で焼いた料理だから

     熱々を頬張れば口いっぱいに旨みが広がるよ! だけど火傷には気を付けて!」

 

 

ユウスケ:「熱っ!」

 

マリア:「言わんこっちゃないね! ほらお水!」

 

ユウスケ:「ありがとう! それにしても大きい・・・。日本で見るのより2倍くらいはありそうだ」

 

マリア:「そうなのかい? あたいは、これしか食べた事無いからよくわからないよ」

 

ユウスケ:「日本には来た事無いのかい?」

 

マリア:「・・・行ってみたいとは思うんだけどさ、なんせ遠くだから、まだ行った事はないよ」

 

ユウスケ:「いつか行けると良いな」

 

マリア:「あぁ・・・」

 

ユウスケ:「どうかしたか?」

 

マリア:「なんでもないよ! さぁ、次の料理持って来ないとね!」

 

 

 

ユウスケ(N):「マリアは、一瞬寂しい顔を見せたかと思うと、それを誤魔化すかのように

         再び奥へと料理を取りにいった。なんだか気にはなったけど、なんだか・・・

         それ以上聞くのもこの賑やかな雰囲気を壊す様な気がして、俺は問うのをやめた。

         少し待っていると、再び両手いっぱいに料理を持って、マリアは戻って来た」

 

 

 

マリア:「お待たせ! 次の料理はガンバス・アル・アヒージョだよ!」

 

ユウスケ:「アヒージョ・・・。日本でも名前は聞いた事あるが食べた事無いな」

 

マリア:「じゃあちょうど良かった! たんと食べておくれ! マッシュルームに、かたつむりとかもあるけど

     具材は海老にしといたよ! その方が食べやすいだろう? 熱々だから気を付けるんだよ」

 

ユウスケ:「子供じゃないんだから同じ失敗はしない。海老の旨みの中に鷹の爪やにんにく、

      オリーブオイルが効いてて、これまた美味しい」

     

マリア:「気に入ってもらえたようで良かったよ! さて次は・・・(大きい鍋を持ちながら)これだよ!

     アロス・ネグロ! 日本でも食べた事無いかい? スペイン料理の定番、パエリアだよ!」

 

ユウスケ:「パエリアって黄色い色して無かったっけ?」

 

マリア:「そう来ると思ったよ! せっかく、はるばる遠くから来てくれたんだからこっちにしようかと思ってね。

     このアロス・ネグロは、イカ墨を加えたスープで、イカ、パプリカ、海老などの具材を炊き上げたものさ!

     イカの風味が絶品だよ!」

 

ユウスケ:「見た目の黒さには驚いたけど、味は美味しい。パプリカとイカ、その他の具材の旨みが合わさって

      なんとも深い味になってる」

 

マリア:「この味がわかるなんて、ユウスケやるね!それでこそ誘ったかいがあるってもんさ!

     おっと、そろそろ時間・・・。

     もっと話してたいけど、時間だから、後の料理は他のスタッフに持ってこさせるよ!」

 

ユウスケ:「まだ料理くるのかい?」

 

マリア:「まだまだあるよ! じゃあ、また後でね!」

 

ユウスケ(N):「そう言うとマリアは店の奥に走って行った。その言葉の通り、その後も料理は運ばれ続け、

         どの料理も美味しかったのだけど、いい加減お腹が一杯になってきた・・・。

         少し休憩をと思った時、店内の明かりが少し暗くなった。

         次の瞬間、俺は目が釘付けになった。さっきまで此処で、楽しく話していたマリアが、

         お店の舞台に立っている。仕事用の衣装だろうか?赤の情熱的なドレスが、

         焼けた肌の色に合ってて、妖艶な感じでもあった。

         そして、ギターの陽気な音楽が鳴り出すと、マリアは軽やかに、

         カスタネットを両手で鳴らしながら踊りだした。

            その姿はなんとも美しくて、それでいて恐ろしさにも似た気迫を感じた。

         これが本場のフラメンコなのか。その踊りに俺は圧倒されてしまった。

         少し落ち着き、薄暗い店内を見ると、そこには同じように、料理や飲み物から手を止め、

         マリアの踊りに魅了されてるお客がいた。

         それもそうだ。こんな圧倒的な踊りを見せられては・・・。

         フラメンコシューズから幾度となく繰り返されるその音は、

         時に優しく、時に寂しく、そして、時に激しくも聴こえ、心を何度も揺さぶられた。

         どれくらいの時間が経っただろうか・・・。気付いた時には、

         マリアが深々とお客の前にお辞儀をしているのが見えた。

         鳴り止まない歓声と拍手。俺も負けじと手を叩き、マリアに拍手を送り続けた」

 

 

 

 

 

 

マリア:「ユウスケ、どうだいあたいの踊りは?」

 

ユウスケ:「・・・」

 

マリア:「どうしたんだい、ポカーンとして? そんなにあたいの踊りに魅了されたのかい?」

 

ユウスケ:「ああ・・・。惹きこまれたよ・・・」

 

マリア:「そうかい! そりゃあ良かった! ねえ、今夜はどこに泊まるんだい?

     良ければ、家(うち)に来ないかい?日本の事、それに、ユウスケの事もっと知りたいんだ」

 

ユウスケ:「今夜は妹の家に泊まろうかと・・・」

 

 

ユウスケ(N):「俺はその瞬間を逃さなかった。妹の名前を出した途端、マリアはさっきと同じ寂しい顔を見せた。

         これは何かある。俺はその理由が知りたかった。いや、これはただの口実だ・・・。

         俺は目の前の女性、マリアに惹かれている」

 

 

マリア:「妹さんが待ってるのなら仕方ないね! 今夜は遅いしそろそろ帰ったほうが・・・」

 

ユウスケ:「いや、帰らない。妹には電話するから、今夜はマリアの家に泊めてくれないか?」

 

マリア:「いいのかい? 妹さんもユウスケと会話するの楽しみにしてるんじゃ?」

 

ユウスケ:「いいんだ」

 

マリア:「わかったよ。もう1(ワン)ステージ残ってるからこのまま待ってておくれ! じゃあまた後で!」

 

ユウスケ:「あぁ」

 

 

ユウスケ(N):「その後のステージも素晴らしかった。あれだけ激しく踊ってたのに、疲れを見せず、

         むしろさっきよりも、より情熱的にマリアは、俺とお客を魅了し続けた。

         二度目の拍手も終わり、店が落ち着いた頃、マリアの声が店内に響いた」

 

 

マリア:「マスター! あたい、先に帰るよ! うん、ありがとう! じゃあまたね!

     お待たせ! ユウスケ、行こうか!」

 

ユウスケ:「あぁ」

 

 

ユウスケ(N):「暫く無言で歩いていると、マリアが問いかけてきた」

 

 

マリア:「あのお店どうだい? 気に入ったかい?」

 

ユウスケ:「そうだな。料理も美味しかったし、マリアの踊りにも圧倒された。言う事無いな。」

 

マリア:「そうかい。本当、ユウスケは優しいね。あたいは・・・」

 

ユウスケ:「どうかしたか?」

 

マリア:「なんでもないって言いたいところだけどさ、詳しくは家に着いてから話すよ」

 

ユウスケ:「わかった」

 

 

ユウスケ(N)「その後も会話が途切れたり続いたりを繰り返し、お店から歩いて20分、

        ようやくマリアの家に着いた」

 

 

マリア:「遠慮せず上がんな。靴はそのままで良いよ」

 

ユウスケ:(周りを見ながら)「お洒落な部屋だな」

 

マリア:「そんな事ないさ。ここいらでは当たり前の部屋だよ。何か飲む?

     ワインでも良いかい?」

 

ユウスケ:「酔わせてどうする気だ?」

 

マリア:「さぁ、どうしようかね・・・。(ユウスケの顔に近づいて)襲ったりもいいかもね」

 

ユウスケ:「・・・」

 

マリア:「あははは! 冗談だよ!」

 

ユウスケ:「冗談なのか?」

 

マリア:「いきなり襲ったりはしないよ。ただ、ユウスケと飲んで話がしたかったのさ。

     あたいの話、聞いてくれるかい?」

 

ユウスケ:「あぁ、良いよ。聞かせてくれ」

 

マリア:「ありがとう。じゃあ、乾杯」

 

ユウスケ:「乾杯」

 

 

 

 

 

 

マリア:「実はあたいさ、好きな人が居たんだ。その人とは、さっきのお店で出逢ってさ、一目惚れだった。

     外見もタイプだったんだけど、中身も本当気が合ってさ、一緒にいて楽しかった。

     その人から色々教えてもらったんだ。日本語とか日本の事とか」

 

 

ユウスケ:「それで日本語が上手いのか・・・」

 

 

マリア:「あぁ。それで、その人といる時は、本当楽しい事ばっかしでさ、同棲みたいな事もしていた。

     だけど、ある日、彼が言ったんだよ。日本に戻らないと行けないって・・・」

 

 

ユウスケ:「仕事か何かで此処へは来てたのか?」

 

 

 

 

マリア:「そう・・・仕事で来てた。こっちでの仕事も軌道にのってきたから戻ってこいって連絡があったみたいでさ・・・

     彼、言ったんだ。一緒に日本に来て結婚しないかって。

     その言葉聞いた時嬉しかったよ! だけどすぐ現実に戻った。あたいはこっちに両親を残して日本には行けないって。

     それにあたいには夢があるんだ・・・!」

 

 

 

ユウスケ:「夢?」

 

 

 

マリア:「プロのダンサーになるって夢がさ! だから・・・彼にはついていけなかった。

     そりゃあ悩んださ! このまま彼に、ついて行こうかなって・・・。だけど、あたいには出来なかった。

     この街が好きだし、ここには両親もいる・・・」

 

 

 

ユウスケ:「・・・」

 

 

 

マリア:「別れて半年が経ったくらいからかな、彼から手紙が届いたんだ。

    『元気か? 俺はいつまでも日本で待ってる。例えお前が来なくてもずっと・・・』

      文章は短かったけど、彼の意志が伝わった。だけど・・・返信はしなかった」

 

 

 

ユウスケ:「彼はその後?」

 

 

 

マリア:「その後も彼は手紙を送り続けたよ。あれからもう2年・・・。手紙も来なくなって、

     あたいも彼の事すっかり忘れてた時に出会ったのさ、ユウスケに。

     あんたを見た瞬間、彼かと思った! 顔も背丈も瓜二つで、手にはスーツケース。

     だから声かけたのさ。だけど・・・声や雰囲気で別人だとわかった・・・」

 

 

 

ユウスケ:「そうだったのか。だったら俺は・・・」

 

マリア:「察しの通り・・・彼の代わりにと初めは思ったさ・・・」

 

ユウスケ:「・・・」

 

 

 

マリア:「さっきお店で会話してる時、本当楽しかった。それは紛れもない事実さ。

     だけどあまりに似てるからさ、彼と違うんだと思うと寂しくなったよ・・・。

     気付いてたんだろう? 寂しい顔してたの」

 

 

 

ユウスケ:「あぁ・・・」

 

 

マリア:「優しいんだね・・・。なぁ、ユウスケ、お願いがあるんだ・・・。あたいを・・・抱いてくれないか・・・?

     それで彼を忘れさせて・・・」

 

 

ユウスケ(N):「俺は迷った。マリアは魅力的な女性だ。だけど・・・このまま抱いて良いのか?

         答えを出せないでいる俺に、さらにマリアは言った」

 

 

マリア:「ねぇ、そんなにあたいは・・・魅力がないかい・・・?」

 

 

ユウスケ(N):「その言葉をきいた次の瞬間、俺はマリアを押し倒し、キスをしていた。

         マリアの唇は柔らかく、とても心地良かった。

         いけないと頭では思っていても、心と体がマリアを求めた。

         お互いの体を何度も何度も愛し・・・気付けば朝になり、マリアは涙を流していた」

 

 

マリア:「(泣いている)」

 

ユウスケ:「辛いのか・・・?」

 

マリア:「そうじゃないよ。嬉しいんだよ・・・。こうして、ユウスケと一つになれてさ」

 

ユウスケ:「マリア・・・。」

 

マリア:「ユウスケは、あたいとこうなって後悔してないかい・・・?」

 

ユウスケ:「あぁ、後悔してない。俺は、マリアをあの噴水で一目見た時から・・・」

 

マリア:「なんだい? 最後まで聞かせておくれ」

 

ユウスケ:「マリアに惹かれていた」

 

マリア:「嬉しいよ。だけどね・・・一夜限りにしないかい?」

 

ユウスケ:「どうして?」

 

 

マリア:「あんたもいずれは日本に帰らないと行けない身。

     旅行先での、一時(ひととき)のアバンチュールが・・・一番良いんだよ。

     それならお互い傷つかないしさ・・・」

 

 

ユウスケ:「そうだな・・・。じゃあ、今度は俺の話聞いてくれるか?」

 

マリア:「いいよ。聞かせておくれ」

 

 

ユウスケ:「俺には・・・兄貴がいるんだ。

         そして、ここへは妹に呼ばれたのとは別に、もう一つ頼まれた事があるからなんだ。

       『ある女性を探して欲しい』そう兄貴に頼まれた。

      その女性は、太陽のように明るく、名前は・・・」

 

 

 

マリア:「ん?」

 

ユウスケ:「名前は・・・マリア」     

     

マリア:「・・・もしかして!? あんたの兄貴の名前は・・・」

 

ユウスケ:「シンイチだよ・・・。」

 

マリア:「っ!! そんな・・・。」

 

 

ユウスケ:「マリアを見かけた時、俺は恋に落ちた。だけどその相手が、まさか・・・兄貴の今でも恋しい女性とはな・・・。

      本当、運命って残酷だな・・・」

 

 

マリア:「・・・」

 

 

ユウスケ:「マリアの名前を聞いた時、まさかとは思った。だけどスペインは広い。同じ名前なんていくらでもいる、

      そう自分に言い聞かせた・・・。マリアの部屋に来るまでは・・・。今でも大事に写真飾ってるなんて、

      兄貴の事、本当は忘れてないんだろう・・・?」

 

 

マリア:「ユウスケ、あたいは・・・」

 

ユウスケ:「兄貴は、こっちで暮らす覚悟が出来ている! マリア、お前はどうなんだ?」

 

マリア:「あたいは・・・」

 

 

ユウスケ:「マリア、俺も君を愛している。一目惚れだし・・・兄貴とマリアの過ごした時間には

      到底敵わない・・・。

      だけど兄貴には、本当に渡したくなんかない! こんな気持ちになったのは産まれて初めてなんだ。」

 

 

マリア:「ユウスケ・・・」

 

 

 

 

ユウスケ:「惑わせてすまない。だけど、もし、俺を選んでくれるなら、

      今日の昼、あの噴水の前で。兄貴を選ぶなら空港へ。

      じゃあ、待ってる・・・」

 

 

マリア:「・・・」

 

マリア(M):「シンイチ、ユウスケ、2人を苦しめてごめんよ・・・。あたいは・・・」

 

 

 

(2日目 朝)

 

 

ユウスケ(N)「マリアの家を出て街を歩いた。お昼までの時間は永遠にも感じる程に長く、

        このまま、何処か遠くへ行ってしまおうかとさえ思った・・・。

        そして、いよいよ、その時は来た。俺は半分諦めながらも、

        残りの半分には期待を持ちながら、噴水前で待った。

        正午を知らせる鐘が何処からか鳴り響いた。

        彼女は・・・マリアはやってきた。逸(はや)る気持ちを抑えながら、

        俺は、マリアに声をかけた」

 

 

 

ユウスケ:「マリア!」

 

マリア:「お待たせ」

 

ユウスケ:「ここに来たって事は、俺を選んでくれたんだな!嬉しいよ」

 

マリア:「・・・」

 

ユウスケ:「マリア・・・?」

 

マリア:「ごめん・・・。あたい、やっぱりシンイチの事、忘れられない。

     ユウスケに会わないで空港に行こうかと思ったけど出来なかった・・・」

 

ユウスケ:「マリアは優しいな。兄貴の元に直接行けば良かったのに」

 

ユウスケ(M):「今の俺にはその優しさは・・・毒だ・・・」

 

ユウスケ:「兄貴が空港で待ってる。早く行って驚かせてやれ!」

 

ユウスケ(M):「お願いだ。マリア、行かないでくれ!」

 

マリア:「ユウスケ、本当にありがとう! あたい、ユウスケと過ごした日々は絶対に忘れないから!」

 

ユウスケ:「マリア、俺も絶対に忘れない!」

 

ユウスケ(M):「マリア・・・。愛しいマリア・・・。どうかお元気で・・・」

 

 

 

ユウスケ(N)「マリアは、俺の前から走り去って行った。

        俺は、マリアが見えなくなるまでその姿を目で追い続けた。

           街は昨日と変わらず賑やかだ。

           だけど、そんな賑わいも今の俺には、虚しく聴こえた・・・。

        情熱の国スペインでの一夜の出来事だったけど、

        俺はこの先も絶対に忘れることは無いだろう。

           愛しい君へ・・・。いつまでも幸せであれ」

 

 

 

終わり