追想の小夜曲(セレナーデ)

 

 

作者 片摩 廣

 

 

登場人物

 

 

石上 稔人(いしがみ としひと)・・・幼い頃に、両親を亡くして、親戚の井嶋 晴人に養子として迎え入れられ、共に暮らしている

 

 

井嶋 晴人(いじま はると)・・・作曲家  養子の稔人と、恋人の亜香里と、3人で暮らしている

 

 

重石 亜香里(しげいし あかり)・・・晴人の恋人  晴人の作る曲の、ファンでもあり、

                   それがきっかけで、付き合い、同棲するようになる

 

 

 

比率:【2:1】

 

 

上演時間:【40分】

 

 

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CAST

 

石上 稔人:

 

井嶋 晴人:

 

重石 亜香里:

 

 

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【あらすじ】

 

石上 稔人は、幼い頃に、

 

両親を亡くして、

 

親戚の井嶋 晴人に養子として迎え入れられ、

 

晴人の恋人、重石 亜香里と、

 

3人で、暮らしている

 

仲睦まじい3人だが・・・

 

この関係には、

 

重大な秘密が、隠されていた・・・

 

 

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追想の小夜曲(セレナーデ)

 

から、

 

寂寥の協奏曲(コンチェルト)

 

へ、物語は引き継がれる時、

 

昼下がりの夜想曲(ノクターン)

 

と、物語は、リンクする・・・

 

 

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【本編は此処から】

 

 

 

 

(井嶋の家)

 

(目覚まし時計が鳴っても、寝ている井嶋と石上)

 

(起きて来ない二人を、起こしに来る重石)

 

 

 

重石:「もう、いつまで、寝てるの? 早く起きて。・・・晴人、稔人・・・!」

 

 

井嶋:「(欠伸)・・・もう、朝・・・?」

 

 

重石:「そうよ。・・・ほらっ、ちゃんと起きて、顔、洗って」

 

 

井嶋:「・・・後、5分だけ寝かして。・・・良いだろう・・・?」

 

 

重石:「またその手・・・。もう、引っかからないんだから。ほらっ、稔人も、早く起きて!」

 

 

石上:「・・・まだ眠いよ・・・。おやすみ~・・・」

 

 

重石:「もう・・・、何なのよ・・・。・・・わかった、そんな態度でいるなら、

    二人共、朝食、抜きだからね!」

 

 

井嶋:「何!? それは、駄目だ! おいっ、稔人・・・、早く起きるんだ」

 

 

石上:「朝食は要らないから、寝かせてよ~・・・」

 

 

井嶋:「そうしてやりたい所だけど、早く、目を開けて、目の前、見て見ろ!」

 

 

石上:「もう、一体、何があるって言うんだよ~・・・。あっ・・・」

 

 

井嶋:「・・・何が見える?」

 

 

石上:「般若が見える・・・」

 

 

井嶋:「だろ・・・?」

 

 

重石:「よし、良い根性だ。二人共、朝食、抜き、決定!!! ふんっ!!!」

 

 

井嶋:「そんな~、あんまりだ~」

 

 

重石:「口は災いの元よ。覚えときなさい!」

 

 

井嶋:「おい、起きろ、稔人! お前のせいで、俺まで朝食、抜きになったじゃないか!」

 

 

石上:「晴人さんも、俺の返答に対して、だろ? と、答えただろう。・・・自業自得だよ・・・。

    それじゃあ、そういう事だから、おやすみ~・・・」

 

 

 

井嶋:「全く・・・、朝から、付いてない日だ・・・。はぁ~・・・」

 

 

 

 

 

(リビングキッチンで、朝食の用意をしている重石)

 

 

 

重石:「もう・・・、何よ、あの言い方・・・。本当、信じられない・・・。あの二人・・・」

 

 

 

井嶋:「おはよう・・・。亜香里・・・」

 

 

 

重石:「・・・」

 

 

井嶋:「う~ん! 今日も、良い天気だ~」

 

 

重石:「・・・」

 

 

井嶋:「・・・おい、そろそろ機嫌、治してくれないか?」

 

 

重石:「誰が般若ですって?」

 

 

井嶋:「つい口が滑ったんだ・・・。許してくれ・・・!」

 

 

重石:「・・・誰のせいで、いつも怒ってると思うのよ・・・」

 

 

井嶋:「俺と、稔人のせいなのはわかってる・・・。いつも、ごめん」

 

 

重石:「わかってるなら、もう少し、努力してよ・・・」

 

 

井嶋:「うん・・・。・・・それじゃあ、俺は少し買い物に・・・」

 

 

重石:「どうしてよ?」

 

 

井嶋:「ほらっ・・・、俺達、朝食、抜きだから・・・。

    何か、買いに行こうかなと・・・」

 

 

 

重石:「何言ってるのよ。・・・ちゃんと、用意してるんだから、食べてよ」

 

 

 

井嶋:「そうか。それなら、喜んで食べるよ」

 

 

 

重石:「調子が良いんだから。・・・ねぇ、稔人は?」

 

 

 

井嶋:「あいつなら、二度寝してるよ」

 

 

 

重石:「仕方ないわね・・・。今日は、仕事も休みと、言ってたし、寝かしといてあげよう。

    それにしても、いつまで二人で飲んでたの?」

 

 

 

井嶋:「・・・う~ん、深夜2時超えた辺りまでは、覚えてるんだけど、

    その後の記憶は、覚えてないよ・・・」

 

 

 

重石:「お酒も、程々にしてよね・・・」

 

 

 

井嶋:「努力する・・・」

 

 

 

重石:「あっ・・・、卵と牛乳、切れてる・・・。・・・買いに行かないと・・・」

 

 

 

井嶋:「良いよ。後で・・・、俺と、稔人で、買いに行って来る」

 

 

 

重石:「いつも二人に任せてばかりで、悪いわね・・・」

 

 

 

井嶋:「何を言うんだ。亜香里は、料理も、家事もやってくれてるんだ。

    これくらい、俺達に任せても良いんだよ」

 

 

 

重石:「晴人・・・。・・・ねぇ、私達、頃合いなんじゃないかしら?」

 

 

 

井嶋:「何が?」

 

 

 

重石:「結婚よ~。・・・付き合い、一緒に暮らすようになって、もう随分と経つわ。

    そろそろ、晴人の奥さんになりたいな~」

 

 

 

井嶋:「その事については、散々、話し合っただろう。

    稔人の事もあるし、もう少し、このまま3人で居ても良いじゃないか・・・」

 

 

 

重石:「・・・わかった」

 

 

 

井嶋:「そんなに拗ねないでくれよ。・・・お詫びに、今夜、2人でデートしよう」

 

 

 

重石:「本当に!?」

 

 

 

井嶋:「あぁ、本当だ。・・・江の島に景色の良いお店、見つけたから、そこ、後で予約しておくよ」

 

 

 

重石:「嬉しい。・・・楽しみにしてるね」

 

 

 

井嶋:「うんと、お洒落、してくれよ」

 

 

 

重石:「そのつもりよ。・・・さっ、朝食、食べちゃって」

 

 

 

井嶋:「あぁ」

 

 

 

 

石上:「おはよう~・・・」

 

 

重石:「あら? まだ寝て無くて良いの?」

 

 

石上:「流石に、さっきは言い過ぎたなと思ってね・・・」

 

 

重石:「般若なんて、次、言ったら、殴るからね」

 

 

石上:「ごめん、それは勘弁して・・・」

 

 

井嶋:「稔人・・・。後で買い物に行くから、用意しといてくれ」

 

 

石上:「わかった」

 

 

重石:「男手、二人か~。それじゃあ、米も一袋、お願いしようかな~」

 

 

井嶋:「良いよ。それくらい」

 

 

重石:「ありがとう、助かる~」

 

 

井嶋:「ご馳走様。稔人、先に外に出てるから、食べ終わったら、すぐ用意して、来いよ」

 

 

石上:「は~い」

 

 

 

 

重石:「・・・ねぇ」

 

 

石上:「何?」

 

 

重石:「久しぶりに、晴人から、デート誘われた!」

 

 

石上:「ふ~ん、良かったね」

 

 

重石:「だから、今夜は・・・」

 

 

石上:「・・・はいはい、外食で済ますよ」

 

 

重石:「ありがとう。・・・今から楽しみ~」

 

 

 

石上:「ご馳走様。それじゃあ、行ってくるね」

 

 

 

重石:「うん、買い物、頼んだわよ」

 

 

 

 

 

(家の前で待っている井嶋 そこに用意を終えた石上がやってくる)

 

 

 

井嶋:「おっ・・・、用意、完了か?」

 

 

 

石上:「うん、大丈夫」

 

 

 

井嶋:「よし、それじゃあ、出発」

 

 

 

 

石上:「・・・ねぇ」

 

 

井嶋:「何だ?」

 

 

石上:「亜香里さんと、デートするんだね」

 

 

井嶋:「・・・」

 

 

石上:「・・・いつまで、こんな事、続けるの?」

 

 

井嶋:「・・・亜香里の、気が済むまでかな・・・」

 

 

石上:「・・・出来るなら、このまま、ずっと、そうだと良いな・・・」

 

 

井嶋:「稔人・・・」

 

 

石上:「そりゃあ、初めは驚いたけど、・・・今、こうして3人で暮らせて、嬉しいからさ」

 

 

井嶋:「俺も、出来るなら、そうしたいよ・・・」

 

 

石上:「前にも、言ったけど、後悔してない・・・?」

 

 

井嶋:「全然、後悔なんてしてないよ。前にも言っただろう? 俺は幸せなんだよ」

 

 

石上:「そう・・・」

 

 

井嶋:「お前には、苦労をかけっぱなしだな・・・」

 

 

石上:「これくらい、平気だよ。・・・この暮らしが続くなら、楽なくらいだよ」

 

 

井嶋:「そうか、それは心強い。・・・所で、体の調子はどうだ?」

 

 

石上:「・・・ぼちぼちかな。・・・最近は、だいぶ楽になったよ。

    ・・・いつも心配してくれて、ありがとうね。

    でも、この事は・・・」

 

 

井嶋:「わかってる、二人だけの秘密だ」

 

 

 

石上:「うん。・・・デート、楽しんできてね」

 

 

井嶋:「思う存分、楽しむさ。・・・さ~て、買い物、済ませるか。

    ・・・あっ、米持つのは、稔人、頼むな」

 

 

石上:「どうせ、そんな事だろうと、思ってたよ」

 

 

 

 

 

 

(買い物を終えて帰宅する井嶋と、石上)

 

 

 

井嶋:「・・・ただいま~」

 

 

重石:「おかえりなさ~い」

 

 

石上:「亜香里さん、はいっ、米・・・」

 

 

重石:「え? 稔人に持たせてたの?」

 

 

井嶋:「俺より若いし、これくらいしても、平気だよ」

 

 

重石:「・・・もう、調子良いんだから」

 

 

石上:「それじゃあ、俺、部屋に戻って寝るね・・・」

 

 

重石:「昼食は?」

 

 

石上:「朝食食べたから、要らない」

 

 

重石:「そう・・・」

 

 

井嶋:「良いさ、自由にさせてやれ」

 

 

重石:「うん・・・」

 

 

 

 

 

(日はすっかり落ち、自分の部屋で目を覚ます石上)

 

 

 

石上:「・・・う、う~ん、もう19時か・・・。

    晴人さん、亜香里さん、今頃、付いた頃かな・・・」

 

 

 

 

 

 

(江の島にあるお洒落なお店で、ディナーを楽しんでる)

 

 

 

重石:「・・・稔人、ちゃんと夕食、食べてるかな・・・」

 

 

井嶋:「子供じゃないんだから、ちゃんと食べてるよ。

    そんな事より、ディナーの味はどう?」

 

 

 

重石:「美味しいよ。・・・こんなに贅沢するなんて、久しぶり~」

 

 

 

井嶋:「気に入ったんなら、良かった。さっ、まだまだ料理は来るから、楽しみにしてて」

 

 

 

重石:「うん」

 

 

 

 

 

(食事を終え、江の島の海岸を散歩する井嶋と、重石)

 

 

 

井嶋:「今夜は月が綺麗だね」

 

 

重石:「うん・・・。・・・でも、何か、夢の中みたい・・・」

 

 

井嶋:「え?」

 

 

重石:「だって、あんな素敵なお店で、ディナーも食べられて・・・。

    今は、こうして、江の島の綺麗な海岸を、晴人と見てるなんて・・・」

 

 

井嶋:「安心して良いよ。

    これは、ちゃんと現実だから・・・」

 

 

 

重石:「そう、それなら安心した。ねぇ、晴人・・・」

 

 

井嶋:「何?」

 

 

重石:「愛してる・・・」

 

 

井嶋:「・・・俺も、愛してるよ」

 

 

重石:「あっ、今、少し間があった」

 

 

井嶋:「そんな事はないよ。ちゃんと、愛してるよ」

 

 

重石:「そう・・・」

 

 

井嶋:「さぁ、長居したら、風邪、引いちゃうし、家に帰ろう」

 

 

重石:「うん」

 

 

 

 

 

(外食を終え帰ってくる石上を一足先に帰ってきた井嶋が出迎える)

 

 

 

石上:「・・・ただいま~」

 

 

井嶋:「・・・おう、随分と遅かったな」

 

 

石上:「二人に、気をきかせただけだよ。・・・亜香里さんは?」

 

 

井嶋:「疲れたのか、先に寝て、今頃・・・、夢の中だよ・・・」

 

 

石上:「・・・ねぇ」

 

 

井嶋:「ん?」

 

 

石上:「何かあった・・・?」

 

 

井嶋:「流石に、気付いたか・・・」

 

 

石上:「そんな顔してたら、誰でもわかるよ」

 

 

井嶋:「そうか・・・。・・・ディナーの後にな・・・、亜香里から、愛してると言われたよ・・・」

 

 

石上:「良かったね・・・」

 

 

井嶋:「本当に・・・、これで良いのか、わからなくなってきた・・・。

    だって、亜香里は・・・、・・・くっ・・・」

 

 

石上:「・・・晴人さん、それ・・・!?」

 

 

井嶋:「・・・あぁ。残念ながら、もう、時間は残されてないようだ・・・」

 

 

石上:「嫌だよ・・・。この生活が終わるなんて・・・」

 

 

井嶋:「俺だって、終わらせたくないよ・・・。でも、この有り様だ・・・。

    稔人・・・。いざという時に、計画していた事、実行だ・・・」

 

 

石上:「いつ?」

 

 

井嶋:「明日の夜にだ」

 

 

石上:「・・・嫌だ」

 

 

井嶋:「お願いだ・・・、稔人」

 

 

石上:「まだ、幾ら何でも早すぎるよ。それに心の準備も・・・」

 

 

井嶋:「この1ヶ月の間、考え抜いた答えなんだ・・・。わかってくれ・・・」

 

 

石上:「・・・わかったよ。・・・準備する」

 

 

井嶋:「すまないな・・・」

 

 

 

(次の日の夕方、計画の為、準備をしていた石上)

 

 

 

石上:「ただいま~・・・」

 

 

重石:「もう、朝早くから、何処に行ってたのよ? 晴人も、稔人も居なくて心配したんだから」

 

 

石上:「・・・ごめんね」

 

 

重石:「晴人は一緒じゃ無かったの?」

 

 

石上:「その事なんだけど・・・」

 

 

重石:「どうしたの?」

 

 

石上:「晴人さんに、頼まれたんだ。・・・亜香里さんを、連れて来て欲しいって。

    だから、付いてきて」

 

 

重石:「え? 何処に行くの?」

 

 

石上:「着いたら、わかるよ・・・」

 

 

 

 

 

(重石をレトロなお店に案内する石上)

 

 

 

重石:「此処って・・・、もしかして・・・」

 

 

石上:「そう・・・、亜香里さんが、晴人さんと、初めて会ったお店だよ」

 

 

重石:「どうして、此処に?」

 

 

石上:「・・・中で、晴人さんが待ってる。さぁ、中に入って」

 

 

重石:「わかったわ」

 

 

 

(お店の扉を開くと、井嶋が立って二人を出迎える)

 

 

 

井嶋:「やぁ、よく来たね。待っていたよ」

 

 

重石:「その姿・・・。どうして、スーツなんて・・・」

 

 

井嶋:「亜香里と、稔人と、一緒にディナー食べたいと思ってね。

    さぁ、先ずは、このドレスに着替えて」

 

 

重石:「うん・・・」

 

 

井嶋:「稔人も、奥でこのスーツに着替えてくれ」

 

 

石上:「わかったよ」

 

 

 

 

井嶋:「着替え終わったようだね。亜香里・・・」

 

 

重石:「ねぇ、他にお客もいないけど、どうして?」

 

 

井嶋:「今日の為に、貸し切りにしてもらったよ」

 

 

重石:「貸し切り? 店員も居ないけど・・・」

 

 

井嶋:「どうしても、3人で過ごしたいから、料理だけ用意してもらって、帰ってもらったんだ」

 

 

重石:「店を貸切にしたり、そんな我儘、聞いてくれるお金なんて、一体何処に・・・」

 

 

井嶋:「お金の事は心配しなくて良い。・・・どうやら、稔人も着替え終わったようだ」

 

 

石上:「お待たせ」

 

 

井嶋:「色々と手配、ありがとうな。店の人は、文句、言ってなかったか?」

 

 

石上:「大丈夫だよ。上手く話、付けといた」

 

 

井嶋:「そうか」

 

 

重石:「ねぇ、二人で話てないで、いい加減、教えて・・・」

 

 

井嶋:「・・・それもそうだな。

    ・・・なぁ、亜香里、此処の事、覚えてるか?」

 

 

重石:「勿論、覚えてるわ・・・」

 

 

 

(過去)

 

 

石上:「あのお客さん・・・、さっきから、晴人さんの事、ずっと見てるよ。知り合い?」

 

 

井嶋:「そうじゃない。・・・此処、最近・・・、毎日、通ってくれてるんだ」

 

 

石上:「へぇ~・・・。あっ、こっちに、近付いてくる」

 

 

井嶋:「え?」

 

 

重石:「・・・あのう~」

 

 

井嶋:「はい・・・」

 

 

重石:「もしかして、井嶋 晴人さんですか?」

 

 

井嶋:「そうですけど、貴方は?」

 

 

重石:「あっ、失礼しました・・・。私は、重石 亜香里と言います。

    私、井嶋さんの作曲する、曲のファンなんです。この色紙に、サインしてください!」

 

 

石上:「へぇ~、晴人さんにも、ファンがね~・・・」

 

 

井嶋:「それくらい、居たって良いだろう? ありがとう、嬉しいよ。

    サインね・・・。ちょっと待ってね」

 

 

 

重石:「はい・・・」

 

 

 

井嶋:「よしっ、これで良いだろう。はいっ、どうぞ」

 

 

 

重石:「ありがとうございます・・・。嬉しいです!」

 

 

 

井嶋:「ねぇ、良ければ、この後、時間ある?」

 

 

 

重石:「え・・・?」

 

 

井嶋:「貴重なファンに、出会えたし、お酒、飲みながら話でも、したいなって」

 

 

重石:「良いんですか?」

 

 

井嶋:「構わないよ」

 

 

重石:「それなら、喜んで」

 

 

井嶋:「よし、決まりだ。・・・そういう事だから、悪い。先に帰ってくれ」

 

 

石上:「はいはい。ごゆっくり・・・」

 

 

 

(過去、終了)

 

 

 

重石:「こんな感じだったわよね?」

 

 

井嶋:「あぁ」

 

 

石上:「いきなり晴人さんに、近付いてきて、何か企んでるのかと、警戒したよ・・・」

 

 

重石:「ごめんって・・・。

    ・・・その事に関しては、晴人と、稔人が寝れなくて、月を見ていた・・・あの夜にも・・・」

 

 

石上:「え? もしかして、思い出した?」

 

 

重石:「え? 何を?」

 

 

石上:「今、月を見ていた・・・、あの夜にもって・・・」

 

 

重石:「あの夜・・・? あれ? 何でそんな言葉、出てきたんだろう・・・」

 

 

井嶋:「このお店なら、きっと思い出すと思っていたよ・・・。

    だから、此処を選んだんだ・・・」

 

 

 

重石:「思い出すって何を? あれ・・・、どうして・・・私、震えてるの・・・」

 

 

石上:「晴人さん、やはり、まだ無理なんだよ・・・。・・・このまま続けたら、亜香里さんが・・・」

 

 

井嶋:「いいや、駄目だ。このまま、続ける」

 

 

石上:「・・・」

 

 

井嶋:「俺と出会って、それから暫くして、俺達は付き合い、同棲をする事になった」

 

 

重石:「ええ・・・。・・・晴人と、稔人の3人で・・・」

 

 

井嶋:「あぁ・・・。楽しい日々だった・・・」

 

 

重石:「ねぇ・・・、どうして、過去形なの・・・?」

 

 

井嶋:「それから、俺達は順調に、愛を育み・・・、そして・・・」

 

 

石上:「晴人さん・・・!!!」

 

 

井嶋:「そして・・・、結婚する事に決めた・・・」

 

 

重石:「え? 結婚・・・? そんなの嘘よ・・・。だって、私が結婚しようと言っても、

    もう少し、待ってくれって・・・」

 

 

井嶋:「すまない・・・。もうこれ以上、嘘を付いていられなくなったんだ・・・」

 

 

 

重石:「嘘・・・?」

 

 

 

井嶋:「俺達は結婚も誓い合って、準備も順調に進んだ。

    ・・・そして、結婚式の3日前・・・。

    俺は、亜香里に・・・、こう言った・・・。

    後3日で、重石 亜香里じゃなくて、井嶋 亜香里だなと・・・」

 

 

 

(過去に起きた事を思い出そうとする重石)

 

 

 

重石:「私は・・・、晴人と結婚を誓い合って・・・、そして・・・、そして・・・」

 

 

石上:「もう良いよ。それ以上、思い出さないで・・・!」

 

 

井嶋:「止めるんじゃない! 稔人!」

 

 

石上:「でも・・・! 忘れたままでいた方が、幸せなんだよ・・・!」

 

 

重石:「ねぇ・・・? 稔人・・・。一体、何が起きたの・・・?」

 

 

石上:「それは・・・」

 

 

井嶋:「稔人・・・、もう良いんだ・・・」

 

 

石上:「晴人さん、駄目だよ・・・! そんな事したら、貴方はきっと・・・!」

 

 

井嶋:「お前も、十分に苦しんだはずだ。・・・俺の為に、もう無理はしないで良い」

 

 

石上:「そんなの嫌だ・・・。俺は・・・、晴人さん、亜香里さん、

    3人でこれからも、一緒に、笑いあって過ごしたいんだ・・・!」

 

 

井嶋:「それは偽りの幸せに過ぎない! 俺も、出来るなら、そうしたかった・・・。

    でも、昨日の夜、見ただろ!? もう、時間が残されてないんだ・・・。

    そんな俺に出来る事は、一つ・・・。

    お前にも、亜香里にも、前を向いて生きて欲しいんだ・・・!」

 

 

石上:「でも、それじゃあ、晴人さんは・・・! 何か、このまま一緒に居られる方法が、あるはずなんだ・・・。

    だから、その曲を流すのは止めて・・・!」

 

 

井嶋:「稔人、ありがとう・・・。俺は、お前と亜香里に、出会えて幸せだったよ」

 

 

石上:「晴人さん・・・」

 

 

井嶋:「今まで、ありがとう・・・稔人。・・・さぁ、思い出す時間だよ・・・、亜香里」

 

 

(曲を流し始める)

 

 

重石:「この曲・・・、聴き覚えがある・・・。・・・でも、どうして、こんなに怖いの・・・」

 

 

井嶋:「亜香里、よく聞いて。・・・もう無理しなくて良いんだよ」

 

 

重石:「晴人・・・。・・・嫌・・・。この曲を止めて・・・! 凄く怖い・・・! これ以上、聴きたくない・・・!」

 

 

井嶋:「それは駄目だ。・・・ちゃんと現実を受け入れて、思い出すんだ」

 

 

重石:「嫌・・・、思い出したくない・・・、お願いだから・・・、止めてええええ・・・!」

 

 

 

(過去)

 

 

石上:「晴人さん・・・」

 

 

井嶋:「稔人、眠れないのか?」

 

 

石上:「・・・晴人さんこそ、・・・こんな夜更けに月なんて眺めて、どうしたの・・・?」

 

 

井嶋:「あ~、今までの事、考えていたのさ」

 

 

石上:「ふ~ん・・・」

 

 

井嶋:「お前を養子に向かえ・・・、一緒に暮らし始め、・・・亜香里に出会い・・・、

    ・・・、色々な事があったなってさ」

 

 

石上:「感謝してるよ・・・。両親を亡くして、途方に暮れていた俺を・・・、

    嫌な顔、一つせずに、養子に向かえてくれた事・・・。

    晴人さんが居なければ、俺はもうこの世には・・・、居なかったかもしれない・・・」

 

 

 

井嶋:「稔人・・・。・・・あのな・・・、やはり俺は・・・」

 

 

 

石上:「俺の事は、気にしなくて良いよ・・・。

    ・・・晴人さんは、今までずっと俺の事ばかり気にして、

    自分の幸せは、二の次にしてたんだから・・・。

    いい加減、幸せにならないと、罰が当たるよ・・・」

 

 

 

井嶋:「それを言うなら、お前もだ、稔人。・・・お前も、いい加減、幸せになる事を考えろ」

 

 

 

石上:「俺の事は、まだ先で良いよ・・・。ほらっ、・・・抱えてる物が、物だしさ・・・。

    誰かを好きになっても・・・、長続きしないの、わかってるから・・・。

    それに・・・」

 

 

井嶋:「それに?」

 

 

 

石上:「ううん・・・。何でもない・・・。・・・結婚式、1週間後だね」

 

 

 

井嶋:「・・・俺で本当に良いのかな?」

 

 

 

石上:「何、弱気になってるの。・・・言いに決まってるだろ。

    ・・・亜香里さんが、心から、晴人さんを愛して、一緒になろうと、決めたんだから。

    そんな事、言ってたら、幻滅されちゃうよ・・・」

 

 

 

井嶋:「それもそうだな・・・」

 

 

 

重石:「二人共、こんな夜更けに、何してるのよ・・・」

 

 

 

井嶋:「何でもない。二人で月を見ていただけだよ。・・・亜香里こそ、どうしたんだ?」

 

 

 

重石:「何だか、胸騒ぎして、寝れなくてね・・・」

 

 

 

井嶋:「胸騒ぎ?」

 

 

 

重石:「結婚式・・・。1週間後で、思ってる以上に、・・・不安なのかも・・・」

 

 

 

石上:「それって、マリッジブルー? 亜香里さんでも、センチメンタルな気分になる事あるんだね」

 

 

 

重石:「稔人・・・、私だって女よ。そんな気分になる事もあるわよ。

    私ね・・・、嬉しいの。稔人も、私にそういう発言してくれるようになった事。

    ほらっ、初めはよそよそしくて、私の事、警戒していたじゃない?」

 

 

 

石上:「あれは・・・」

 

 

 

重石:「言わなくても、わかってる。私に、晴人の事、盗られると思ったんでしょう?

        何たって、最初に、いきなり、声かけて、

    私、井嶋 晴人さんの、ファンなんです・・・。

    なんて、言ったら、幾ら何でも、警戒するわよね・・・。

    私も、あの時は悪かったと思ってる・・・。

    それから暫く、晴人と二人っきりになる為に、色々と試行錯誤もしたし・・・」

 

 

 

石上:「そんな事もあったね・・・。あの時は、俺も、悪かったし、もう帳消しで良いよ」

 

 

 

重石:「ありがとう」

 

 

 

井嶋:「あの頃、俺の知らない所で、そんな事、二人でしてたのか・・・? 全然、気付かなかったよ」

 

 

 

重石:「当たり前よ。気付かれないように、これでも努力してたのよ。どう・・・? 幻滅した?」

 

 

 

井嶋:「するわけないだろう。・・・むしろ、惚れ直した」

 

 

 

石上:「は~、すぐこれだよ・・・。・・・俺は、そろそろ寝るとするよ・・・。

    晴人さん、亜香里さん、結婚、おめでとう・・・。

    いつまでも、幸せにね・・・」

 

 

 

井嶋:「稔人、どうした? 気が早いんじゃないのか?」

 

 

 

重石:「そうよ、まだ1週間もあるし、ちゃんと結婚式で、その言葉は言ってよね・・・」

 

 

 

石上:「わかったよ・・・。ちゃんと結婚式でも、伝える・・・。それじゃあ、おやすみ~」

 

 

 

(過去、終了)

 

 

 

重石:「・・・そうよ、私は、晴人と1週間後に、結婚を控えていて・・・」

 

 

井嶋:「・・・それで良いんだ」

 

 

石上:「・・・」

 

 

重石:「・・・その後に・・・、何か・・・。・・・何かが起きた・・・」

 

 

 

(過去)

 

 

 

井嶋:「後3日で、重石 亜香里じゃなくて、井嶋 亜香里だな」

 

 

重石:「まだ、実感、湧かないけどね・・・。それより、稔人、待ってるよ」

 

 

井嶋:「なぁ、本当に良いのか?」

 

 

重石:「良いに決まってるでしょう。独身最後の旅行、楽しんできて」

 

 

井嶋:「わかったよ。亜香里も、女友達と羽目を外し過ぎるなよ?」

 

 

重石:「わかってるわよ、それくらい」

 

 

石上:「晴人さん、荷物、詰み終わったよ」

 

 

井嶋:「わかった、今行く。・・・それじゃあ、亜香里、また明後日にな」

 

 

重石:「うん、行ってらっしゃい。晴人」

 

 

 

 

 

 

石上:「さっきは、朝から、見せつけてくれたよね・・・」

 

 

井嶋:「もうすぐ新婚になるんだ。それに、結婚したら、あんな情景、日常茶飯事になるんだ。

    今の内に、慣れておけよ」

 

 

石上:「はいはい・・・」

 

 

 

井嶋:「お前と、二人っきりで旅行なんて、久しぶりだな」

 

 

石上:「そうだね。でも、良かったの? 本当に?」

 

 

井嶋:「良いんだ。結婚したら、こんな機会なんて、減っていくだろうし。

    それに、亜香里も、女友達と、独身、最後の日々を楽しむみたいだからさ」

 

 

 

石上:「それなら、良いか」

 

 

 

井嶋:「そうだ、例のプレゼントだけど、今、聴いてみるか?」

 

 

 

石上:「晴人さんが、作った曲だよね? タイトルは、もう決まったの?」

 

 

 

井嶋:「タイトルは決まってるよ。えっと、確か、この辺に・・・、MP3プレイヤーが・・・」

 

 

 

石上:「もう、本当、だらしないんだから」

 

 

 

井嶋:「あった、あった。・・・よし、流すからな」

 

 

 

石上:「うん」

 

 

 

井嶋:「・・・どうだ? 良い曲だろ?」

 

 

 

石上:「良いね・・・。これなら亜香里さんも、喜ぶと思うよ」

 

 

 

井嶋:「そうだろ」

 

 

 

石上:「・・・あっ、晴人さん、自販機ある。・・・少し、そこで車、停めて。

    何か、飲み物、買ってくる」

 

 

井嶋:「それじゃあ、俺は、緑茶で良いよ」

 

 

石上:「わかった。買ってくるね」

 

 

井嶋:「稔人、頼むな」

 

 

石上:「うん。・・・う~ん・・・俺は、これにしようかな。・・・よしっ。

    後、晴人さんは、緑茶と・・・。これで、良いよね。

    よし、買えた。・・・はっ、晴人さん!!!! 危ない!!!!」

 

 

井嶋:「え!?」

 

 

 

石上:「そんな・・・。晴人さあああああああああああん!!!!」

 

 

 

 

 

(病院に駆けつける重石)

 

 

 

重石:「稔人・・・! ・・・晴人は・・・」

 

 

石上:「亜香里さん・・・。晴人さんは・・・、さっき・・・」

 

 

重石:「・・・何よ?」

 

 

石上:「・・・さっき、息を引き取ったよ・・・」

 

 

重石:「そんな・・・!!! 嘘よ・・・!!! 今朝まで、あんな元気に・・・!」

 

 

石上:「・・・俺のせいなんだ・・・」

 

 

重石:「・・・え?」

 

 

石上:「俺が・・・、飲み物を買いに、車を停めてもらわなければ・・・」

    晴人さんは・・・、居眠り運転のトラックになんて、追突されずに・・・」

 

 

重石:「そんな・・・」

 

 

石上:「亜香里さん・・・。ごめん・・・」

 

 

重石:「ねぇ、晴人を返して・・・。・・・どうして、貴方が、代わりに死ななかったのよ・・・!

    貴方が、そんな事、言わなければ・・・、3日後には、結婚式も・・・。

    お願いだから、今すぐ、晴人を返してよおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

石上:「本当に・・・、ごめん・・・」

 

 

 

重石:「嫌あああああああああああ・・・!!!」(号泣して、泣き崩れる)

 

 

 

(過去、終了)

 

 

 

長い間

 

 

 

井嶋:「・・・その顔は、どうやら・・・、全部、思い出したようだね・・・。・・・亜香里・・・」

 

 

 

石上:「亜香里さん・・・」

 

 

 

重石:「・・・全部、思い出した。・・・晴人が死んだ後・・・、私は・・・、

    何度も謝りに来る、稔人に対して、いつも酷い罵声ばかり、浴びせ続けてた・・・。

    そんな日々も、続いていく内に、・・・私は、狂い・・・、ついには、現実逃避を始めたわ・・・」

 

 

 

 

(過去)

 

 

 

石上:「亜香里さん・・・」

 

 

重石:「帰って・・・」

 

 

石上:「でも・・・」

 

 

重石:「お願いよ・・・。貴方の顔、見てると、気が可笑しくなりそうなの・・・!」

 

 

石上:「・・・ごめん」

 

 

重石:「何度も、何度も、謝るくらいなら、今すぐに、晴人を返して・・・!!!

    いいえ・・・、そうじゃない・・・!!!

    悪いと思うなら、私の目の前で、早く死んで! 死になさいよおおおおお!!!!」

 

 

 

石上:「・・・」

 

 

 

重石:「死ぬ勇気もない癖に・・・。表面上だけの、謝罪なんてしないで・・・!!!

    さぁ、気が済んだでしょ! さっさと帰って・・・。良いから、帰りなさい!!!!」

 

 

 

石上:「・・・また、来るよ・・・」

 

 

 

 

 

 

(数日後)

 

 

 

重石:「・・・ねぇ、今日は・・・、良い天気でしょ? 

    ・・・貴方と初めて会った場所に、デートしに行きましょう・・・」

 

 

 

石上:「亜香里さん・・・、どうしたの?」

 

 

 

重石:「あら? 稔人、お帰り・・・。ねぇ、今日は良い天気よ。

    これから3人で、海にドライブに行きましょうよ・・・」

 

 

 

石上:「3人って・・・?」

 

 

 

重石:「決まってるじゃない。晴人と、私と、稔人の3人でよ。

    う~ん、どんな服、着ていこうかしら~」

 

 

 

石上:「亜香里さん、しっかりして!!! 晴人さんは、死んだんだよ・・・!!!」

 

 

 

重石:「何、言ってるのよ? ほらっ、此処にちゃんと居るじゃない!

    今日の、稔人ったら、可笑しい・・・。ねっ? 晴人さん!」

 

 

 

 

石上:「亜香里さん・・・」

 

 

 

 

(過去、終了)

 

 

 

重石:「私・・・、今まで・・・、晴人の死を受け入れずに、狂い始め・・・。

    現実逃避を繰り返す度に、自分自身に、貴方が生きていると、自己暗示、かけていたのね・・・」

 

 

 

井嶋:「・・・その通りだよ」

 

 

 

重石:「・・・稔人、ごめんね・・・。私・・・」

 

 

 

石上:「良いんだよ、もう・・・。亜香里さんのおかげで、

    俺にも、晴人さんが、見えるようになったんだから・・・。

    むしろ、感謝してるよ・・・。

    もう一度、晴人さんに、巡り合わせてくれて、ありがとう・・・」

 

 

 

重石:「稔人・・・」

 

 

 

井嶋:「稔人も、長い間、傷つき・・・、苦しんだんだ・・・。

    でも、真実を封印して、亜香里に合わせ続けたのは、

    お前の事を思ってなんだよ」

 

 

 

重石:「うん・・・」

 

 

 

井嶋:「俺も、お前達、2人の未練のおかげで・・・、こうして、奇跡も起きて・・・。

    一緒に笑ったり、3人で出かけたり、楽しい日々を過ごせたよ・・・。

    ありがとう・・・。亜香里、稔人。

    でも、それも、もう御終いにしよう・・・。

    そろそろ、二人は、現実に向き合う時間だ・・・」

 

 

 

石上:「晴人さん・・・、ごめん・・・」

 

 

 

井嶋:「謝る事なんて、何一つない。・・・稔人、お前は、俺の分まで、幸せになるんだ」

 

 

 

石上:「でも・・・」

 

 

 

井嶋:「お前なら、病気も乗り越えられる。・・・そして、いつかお前の事、理解して、

    生涯、側に居てくれる、素敵な人が現れるはずだ。

    その時には、お前のありったけの気持ち、ちゃんとぶつけろ。

    良いな?」

 

 

 

石上:「うん・・・、必ずその時は、そうする・・・」

 

 

 

井嶋:「よしっ・・・。

    そして・・・、亜香里・・・。本当に、ごめんな・・・。

    俺のせいで、こんなに長い間、苦しませて・・・。

    でも、これだけ、思い続けてもらえたんだし、もう十分だ・・・。

    お前も、・・・いつか、新しい相手と出会い、そして・・・、幸せになるんだ」

 

 

 

重石:「私に、幸せになる資格なんて・・・」

 

 

 

井嶋:「いいや、あるよ。・・・俺の分まで、幸せになって良いんだ。

    それと、亜香里には、お願いしたい事がある・・・」

 

 

 

重石:「どんな事・・・?」

 

 

 

井嶋:「・・・稔人の事、頼む。・・・すまない、病気の事、隠していて・・・」

 

 

 

重石:「良いわよ、それくらい・・・」

 

 

 

井嶋:「今、すぐには言えなくても・・・。

    いつか必ず、稔人自身から、病気の事、打ち明けてくれる日が来ると思う。

    その時には・・・、ちゃんと最後まで、話を聞いてあげてくれ」

 

 

 

重石:「わかったわ。・・・稔人に今まで、迷惑をかけた罪を、ちゃんと償う為にも、

    晴人の分まで、長く生きて、稔人の事、見守る・・・。

    だから、安心して、天国に行ってね・・・」

 

 

 

井嶋:「そのつもりだよ。・・・亜香里、それじゃあ、この奇跡を終わらせるよ。

    ・・・今まで、本当に、ありがとう・・・。

    この曲は、結婚式のサプライズに、作った曲なんだ・・・」

 

 

 

重石:「うん・・・。稔人から、CD貰って、ちゃんといつも聴いてたよ・・・。

    嬉しかった・・・」

 

 

 

井嶋:「そうか・・・。・・・これからも、思い出した時には、

    聴いてくれたら、嬉しい・・・。

    この曲のタイトルは・・・、追想の小夜曲(セレナーデ)だ。

    これで、俺の未練も、消えた・・・。

    それじゃあな・・・。亜香里、稔人・・・」

 

 

 

 

(井嶋の姿も複数の光となり消え、流れていた、追想の小夜曲(セレナーデ)も、止まる)

 

 

 

 

重石:「晴人・・・。ありがとう・・・。

    私は、もう大丈夫よ・・・。

    ねぇ・・・稔人・・・」

 

 

 

石上:「何・・・? 亜香里さん・・・」

 

 

 

重石:「いつの日か、ちゃんと話してよね。・・・病気の事、貴方の抱えてる沢山の事・・・」

 

 

 

石上:「・・・」

 

 

 

重石:「ちゃんと、その日が来るまで、待ってるから・・・。だから、約束して・・・」

 

 

 

石上:「・・・亜香里さん・・・。・・・うん、その時にはちゃんと話すよ・・・。約束する・・・」

 

 

 

重石:「ありがとうね。・・・晴人・・・、ちゃんと、天国に着いたかしら?」

 

 

 

石上:「晴人さんなら、きっと大丈夫だよ」

 

 

 

重石:「それもそうね・・・。さぁ・・・、家に帰りましょう」

 

 

 

石上:「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

井嶋(M):「亜香里・・・、稔人・・・、俺は、二人に出会えて、幸せだったよ・・・。

       いつまでも、元気に過ごしてくれ・・・。

       天国から・・・、お前達の事・・・、見守ってるからな・・・」

 

 

 

 

 

終わり

 

 

 

物語は、寂寥の協奏曲(コンチェルト)へと、続く・・・