終夜の烏

 

 

作者 片摩 廣

 

 

 

登場人物

 

 

夜城 衛(やしろ まもる)・・・24歳、RAVENのデザイナーアシスタント

                いつか独り立ちして、自分のお店を持ちたいと思ってる努力家

                恋愛面は年上好き。M気質があるのを大志に知られ、それ以来、

                仕事終わりに呼び出される仲になる

 

 

瀧口 大志(たきぐち たいし)・・・35歳、既婚者、子持ち 妻とは別居

                  過去に会社でのミスがきっかけで、酒浸りになり男も抱くようになる

                  男女関係なく、遊ぶバイセクセクシャル

                  S気質のA型

                  RAVENのオーナー

 

 

比率:【2:0】

 

 

上演時間:【40分】

 

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CAST

 

 

夜城 衛

 

 

瀧口 大志

 

 

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夜城:「・・・お先に失礼します」

 

 

 

瀧口:「お疲れ。気を付けて帰れよ」

 

 

夜城:「・・・」

 

 

 

 

 

瀧口:「・・・もう、こんな時間か。

    すまない、俺も先に帰るから、戸締り、宜しく。

   (溜息)・・・」(電話をかける)

 

 

 

夜城:「・・・もしもし」

 

 

 

瀧口:「さっきの態度は何だ?」

 

 

 

夜城:「別に・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・昨日の事か?」

 

 

 

夜城:「・・・約束、破ったのは、そっちでしょ」

 

 

 

瀧口:「秋冬コレクションの準備で、忙しかったんだ・・・。

    それくらい、お前もわかるだろ?」

 

 

 

夜城:「わかってるけど・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・これから時間あるか?」

 

 

 

夜城:「明日も、仕事・・・」

 

 

 

瀧口:「あっそ、なら良い」

 

 

 

夜城:「ごめん、すぐに用意する・・・」

 

 

 

瀧口:「最初から、そう言えよ。・・・いつもの場所で待ってる。じゃあな」

 

 

 

 

 

夜城(N):「いつもの場所・・・。人通りの少ない公園で、会うのが俺達の定番・・・。

       きっかけは、仕事場での自慰行為を目撃されてからだった・・・」

 

 

 

 

(過去)

 

 

 

夜城:「・・・瀧口さん、・・・瀧口さん・・・」

 

 

 

瀧口:「そこで、何してる?」

 

 

 

夜城:「瀧口さん!? いえ・・・別に何も・・・、残ってた作業、してただけで・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・俺の名前、呼びながらか?」(机に座ってる瀧口に近付こうとする)

 

 

 

夜城:「あっ・・・」

 

 

 

瀧口:「どうした?」

 

 

 

夜城:「それ以上、近付かないで・・・」

 

 

 

瀧口:「それ以上じゃ、わからないだろ」

 

 

 

夜城:「お願いします・・・、近寄らないで・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・それじゃあ、駄目だ。こんな遅くに、残って何してたんだ?」

 

 

 

夜城:「それは・・・、瀧口さんの事、思って、一人で・・・」

 

 

 

瀧口:「そうだ、それで良い・・・。・・・俺にお前は従えば良い。良いな?」

 

 

 

夜城:「はい・・・」

 

 

 

瀧口:「良い子だ。・・・それで、このままでは、辛いだろう?

    俺にどうして欲しい?」

 

 

 

夜城:「瀧口さんに、手伝って欲しいです・・・」

 

 

 

瀧口:「やれば出来るじゃないか。・・・手伝ってやっても良い。・・・ただし、条件がある」

 

 

 

夜城:「条件ですか・・・?」

 

 

 

瀧口:「あぁ、そうだ。俺が性欲を発散したい時に、呼び出すから、指定された場所に来い。

    この条件なら、お前にも悪くない話だろ」

 

 

 

夜城:「でも・・・」

 

 

 

瀧口:「考えるな。お前は、もう俺の物なんだ。返事は、ただ一つ。

    はい、だけだ・・・。さぁ、言ってみろ」

 

 

 

夜城:「はい・・・、俺は、瀧口さんの・・・、物・・・、です・・・」

 

 

 

瀧口:「それで良い。・・・楽園へようこそ、・・・衛・・・」

 

 

 

 

 

 

夜城(N):「それから数日後・・・、瀧口さんから、初めての呼び出しが来た。

       言われた通り、指定された公園に行くと、瀧口さんの車は到着していた。

       一回、深呼吸をして、俺は、瀧口さんの車に乗り込んだ・・・」

 

 

 

 

瀧口:「・・・逃げずに来たんだな」

 

 

 

夜城:「・・・逃げたりしないです」

 

 

 

瀧口:「この数日、俺からの連絡、期待してたんだろ?」

 

 

 

夜城:「・・・はい」

 

 

 

瀧口:「そんなに緊張するな。・・・いきなり痛い想いはさせないから」

 

 

 

夜城:「痛みは・・・、ちょっと・・・、っ・・・」

 

 

 

瀧口:「悪いな・・・。そんな可愛い態度、取られたら、虐めたくなる・・・。

    服越しに、乳首、弄られただけで・・・その反応・・・。

    お前・・・、Mだろ?」

 

 

 

夜城:「違う・・・、あっ・・・」

 

 

 

瀧口:「さっきより、反応、良いじゃないか。

    安心しろ・・・。少しずつ俺好みに、調教してやる・・・」

 

 

 

夜城:「調教・・・?」

 

 

 

瀧口:「・・・楽しみにしていろ。・・・俺無しでは、いられない体にしてやるよ・・・」

 

 

 

 

 

(過去終了)

 

 

 

 

夜城(N):「あれから、何度、抱かれたのだろう・・・。

       瀧口さんの事、考えるだけで、自分が自分で無くなっていくのがわかる・・・。

       冷静に考えれば、こんな関係、上手く行くわけない・・・。

       わかっているのに、心とは裏腹に、この後の快楽に期待して体は紅潮していく。

       支度を終え、車に乗り込み、待ち合わせ場所に向かう間も・・・、

       期待と後悔に押し潰されそうになり、息が苦しくなる・・・。

       待ち合わせ場所に着くと、2、3台、車が停まっている。

       いつものように、奥に停め、瀧口さんの到着するのを待つ・・・

       暫くすると、瀧口さんの車も到着し、一回、ハザードランプが点灯する。

       来ても良いと言う合図だ・・・」

 

 

 

 

瀧口:「よっ、お疲れ」

 

 

 

夜城:「・・・遅かったね」

 

 

 

瀧口:「元嫁から、電話でな。出るの遅れたんだ・・・」

 

 

 

夜城:「そう・・・」

 

 

 

瀧口:「いつまで、そんな態度で居るんだ・・・。いい加減、機嫌を直せ・・・」

 

 

 

夜城:「いきなり・・・抱きしめないで・・・」

 

 

 

瀧口:「嫌か・・・?」

 

 

 

夜城:「嫌・・・、じゃない・・・」

 

 

 

瀧口:「なら、遠慮するな・・・」

 

 

 

夜城:「うん・・・」

 

 

 

瀧口:「それで良い。・・・悪かったな。最近、忙しくて、構ってやれなかった・・・」

 

 

 

夜城:「わかってるけど・・・、寂しかった・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・秋冬コレクションが終わるまでの辛抱だ。

    ・・・今回のお前のデザイン、攻めの姿勢、出てて、良かったよ」

 

 

 

夜城:「本当・・・!?」

 

 

 

瀧口:「インターンとして、入って来た時は、保守的なデザインばかりだったのに・・・、

    あの夜を境に、急成長したな。・・・これは、俺のお陰だよな?」

 

 

 

夜城:「うん、瀧口さんのお陰・・・」

 

 

 

瀧口:「衛・・・、そうじゃないだろ。・・・二人っきりの時は、何て呼ぶんだった?」

 

 

 

夜城:「・・・大志のお陰・・・」

 

 

 

瀧口:「相変わらず、初々しいな・・・」

 

 

 

夜城:「だって・・・、名前で呼ぶのは、恥ずかしいから・・・。・・・ごめん・・・」

 

 

 

瀧口:「謝らなくて良いんだ。・・・余りに可愛いから、虐めたくなった。

    良いよ、衛はそのままでも良い。ずっと純粋なままで居てくれよな・・・」

 

 

 

夜城(N):「そう言いながら、より一層、強く抱きしめて来る瀧口さんから、いつもの香水が香る・・・。

       刺激の強い香りと・・・、タバコの香りが、混ざりあい・・・、

       媚薬のように、心と体を刺激し、浸透していく・・・」

 

 

 

瀧口:「そんなに、俺の匂い、好きなのか・・・?」

 

 

 

夜城:「え・・・?」

 

 

 

瀧口:「匂い嗅ぐ度、蕩けたような表情になってる・・・。

    そして、お前からも、甘い香りがしてきて、堪らないよ・・・」

 

 

 

夜城:「それは、ボディーソープの・・・」

 

 

 

瀧口:「そうじゃない・・・。これは、金木犀の香りに似てる、お前の匂いだ・・・」

 

 

 

夜城:「そんな恥ずかしい事、言わないで」

 

 

 

瀧口:「良いだろ? これからもっと恥ずかしい事、するんだ・・・。なっ・・・」(首筋にキスする)

 

 

 

夜城:「首は止めて・・・。・・・会社の人に見られたら・・・困る・・・」

 

 

 

瀧口:「首、以外なら、良いんだな?」

 

 

 

夜城:「うん・・・」

 

 

 

瀧口:「わかった・・・。続きをして欲しいなら、後部座席においで・・・」

 

 

 

 

夜城(N):「瀧口さんは、そう言い残すと、後部座席に移動する。

       言われるままに、後を追い、瀧口さんの横に座る・・・。

       瀧口さんは、ビールを片手に、いつものように、話しかけてきた・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・今夜も、お疲れ・・・」(ビールを飲む)

 

 

 

夜城:「1本だけにしてよね・・・」

 

 

 

瀧口:「わかってる。・・・どうした? 緊張してるのか?」

 

 

 

夜城:「別に・・・」

 

 

 

瀧口:「なら、リラックスしろ」

 

 

 

夜城(N):「本当は、この瞬間が嫌いだ・・・。瀧口さんは、俺を抱く前にいつも、お酒を飲む・・・。

       素面で、男は抱けないのだ・・・。女は、素面でも抱けるのに・・・。

       お酒は止めてと・・・、素直に言えない自分が情けなかった・・・」

 

 

瀧口:「待たせたな・・・。・・・さぁ、始めよう」

 

 

 

夜城:「・・・大志・・・」

 

 

 

瀧口:「何だ?」

 

 

 

夜城:「・・・今夜は、激しくしても、良いよ・・・」

 

 

 

瀧口:「そんな事、言ったら、手加減、出来ないだろ・・・」

 

 

 

夜城:「手加減なんて、要らない・・・。・・・好きにして良いよ」

 

 

 

瀧口:「これだから、お前は最高なんだ・・・。愛してるよ、衛・・・」

 

 

 

 

夜城(N):「心無い愛を囁きながら、瀧口さんは俺を抱く・・・。

       体は素直に反応し、快楽に溺れていく一方、心は、冷え切っていくのがわかる・・・。

       後部座席の窓越しに、一羽の烏が見えた・・・。その烏は、もう一人の自分だ・・・。

       獣のように、貪られてる様子を、冷ややかな目で見ている・・・。

       こんな関係、いつまでも続くわけ無い・・・。

       ちゃんと、伝えなくちゃ・・・。わかって居るのに、・・・声が出ない・・・」

 

 

 

(車のサンルーフ越しに月を見る夜城)

 

 

 

瀧口:「・・・ふぅ、少し休憩・・・」

 

 

 

夜城:「ねぇ・・・、今夜は月が綺麗だね・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・月なんて、いつ見ても変わらないだろ・・・」

 

 

 

夜城:「そうだね・・・」

 

 

 

瀧口:「どうした? 少し、疲れたか?」

 

 

 

夜城:「ううん・・・。大丈夫・・・」

 

 

 

瀧口:「そうか・・・。・・・なぁ、衛・・・」

 

 

 

夜城:「何・・・?」

 

 

 

瀧口:「・・・俺の事、愛しているか?」

 

 

 

夜城:「愛しているよ」

 

 

 

瀧口:「だったら、俺以外の男には抱かれるな。良いな?」

 

 

 

夜城:「うん、そんなの、わかってる」

 

 

 

瀧口:「わかってるなら、良いんだ・・・」

 

 

 

夜城:「どうしたの?」

 

 

 

瀧口:「今朝、衛が俺の側から離れる夢を見たんだ。・・・凄く怖かった・・・」

 

 

 

夜城:「離れたりなんてしないよ。・・・ただの夢じゃない」

 

 

 

夜城(N):「今の関係も、覚めたら忘れてしまう、ただの夢・・・」

 

 

 

瀧口:「俺の側から、消えないでくれ。・・・衛」

 

 

 

夜城:「消えないよ、安心して」

 

 

 

瀧口:「俺の事、わかってくれるのは、衛だけだ・・・。愛しているよ・・・」

 

 

 

夜城(N):「そう言うと、再び瀧口さんは俺を抱きしめた。

       抱きしめられながら、窓を見ると、さっきの烏は、居なくなっていた・・・」

 

 

夜城(M):「ねぇ、瀧口さん・・・、貴方は・・・、何人の男と女を、その表情と、声で、騙したの・・・?」

 

 

 

夜城(N):「そう一言、言ってしまえば、こんな苦しい関係は、終わる・・・。

       でも、終わりにしたくない・・・。

       ・・・どんなに心無い愛され方されても、俺は・・・瀧口さんの事が好きだ・・・」

 

 

 

(瀧口に腕枕されている夜城)

 

 

 

瀧口:「・・・そろそろ、帰る時間だ。・・・衛、服を着ろ・・・」

 

 

 

夜城:「お願い・・・、もう少しだけ、こうさせて・・・」

 

 

 

瀧口:「今夜は、随分と甘えん坊じゃないか・・・。わかった、もう少しだけだからな」

 

 

 

夜城(N):「このまま時間が、永遠に止まれば、良いと思った。

       神様が居て、願いを叶えてくれるなら、

       お願いです・・・。どうか・・・このまま、彼と、一緒に・・・」

 

 

 

(瀧口のスマホが鳴る)

 

 

 

瀧口:「衛・・・、電話だ・・・。離れてくれ」

 

 

 

夜城:「うん・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・もしもし、こんな朝早くから、どうした?

    ・・・運動会は、お前が出る予定だったろ・・・。

    今更、代わってくれと言われても、困る・・・。

    ・・・あぁ。・・・すまないけど、無理だ・・・。じゃあな・・・」

 

 

 

 

夜城:「・・・奥さんから?」

 

 

 

瀧口:「・・・息子の運動会に、出ろって言われたよ・・・。

    いつも、自分の都合ばかりで、俺の都合なんて、お構いなしだ・・・」

 

 

 

夜城:「そう・・・。瀧口さんも大変だね・・・」

 

 

 

瀧口:「衛・・・、お前・・・」

 

 

 

夜城:「ごめん、少し帰って寝るね。

    ・・・瀧口さんも、お酒、抜けたら、ちゃんと帰ってよね」

 

 

 

 

瀧口:「わかったよ。・・・衛こそ、気を付けて帰れよ」

 

 

 

夜城:「うん・・・。じゃあ、会社でね・・・」

 

 

 

 

 

瀧口:「(溜息)・・・どうして、こうなるんだ・・・」

 

 

 

 

(RAVEN 作業場)

 

 

 

夜城:「お先に失礼します」

 

 

 

瀧口:「衛・・・、話が・・・」

 

 

 

夜城:「急ぐんで、また別の日にしてください。・・・お疲れ様です」

 

 

 

瀧口(M):「衛・・・、昨日の事、怒ってるのか・・・。一体、どうしたら誤解、解けるんだ・・・」

 

 

 

夜城(N):「こんな態度、子供なのは、十分わかっている・・・。

       俺は瀧口さんの一番に、どう足掻いてもなれない・・・。わかっているけど・・・」

 

 

 

瀧口:「待つんだ! 衛・・・!」

 

 

 

夜城:「追いかけて来ないで!」

 

 

 

瀧口:「無理だ! 今のお前を一人になんてさせれない・・・!

    頼むから、俺の話を聞いてくれ!」

 

 

 

夜城:「話って何だよ!? どうせ、またいつものように、我慢してくれと、言うだけなんだろう!

    ・・・俺は、いつまで我慢しなければ・・・ならないの・・・」

 

 

 

瀧口:「衛・・・。狡く聴こえるかもしれないけど、今は俺を信じて、待って居て欲しい。

    必ず、朱莉(あかり)とは決着を付ける・・・」

 

 

 

夜城:「狡いよ・・・。その言葉・・・。・・・わかった、信じてあげる。

    その代わり、条件がある」

 

 

 

瀧口:「条件?」

 

 

 

夜城:「今度、日中に二人で出かけたいな・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・」

 

 

 

夜城(N):「瀧口さんは、途端に険しい表情になる。無理もない・・・。

       日中に出かけたりしたら、奥さんの朱莉さんに、見られるかもしれないからだ。

       きっとこの後の答えは、こうだろう。・・・夜に・・・」

 

 

 

瀧口:「わかった。・・・それなら、俺からも一つ条件がある。

    近場だと、お互い見つかったら不味いから、一泊二日の旅行に行かないか? どうだ・・・? 衛?」

 

 

 

 

夜城(N):「予想外の返答で、思考が停まってしまった・・・」

 

 

 

瀧口:「黙ってたら、わからないだろ・・・。・・・二人で旅行は嫌か?」

 

 

 

夜城:「嫌なわけないでしょ・・・。嬉しい・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・やっと、笑顔、戻ったな」

 

 

 

夜城:「・・・馬鹿。・・・まじまじと、顔、見ないで・・・」

 

 

 

瀧口:「俺がSなの、知ってるだろ。・・・それは無理だ」

 

 

 

夜城:「馬鹿・・・、死ね、変態・・・」

 

 

 

瀧口:「不安にさせて悪かったな。・・・旅行では、うんと甘えて良いんだからな」

 

 

 

夜城:「うん・・・」

 

 

 

瀧口:「それじゃあ、仕事、戻る。やりかけの作業、そのままにして来たから、

    パタンナーの連中にも、怒られる・・・。

    衛、寄り道しないで、帰れよ」

 

 

 

夜城:「わかってるよ。・・・大志、仕事、頑張って」

 

 

 

 

瀧口:「おう!」

 

 

 

 

夜城(N):「瀧口さんは狡い人間だ。

       ・・・きっと、こういう場面では、こういう対応が一番だと、

       瞬時に判断して行動が出来てしまう・・・。

       飴と鞭を使いわけ、心も体も調教し虜にする・・・

       わかって居るのに、・・・その嘘から覚めないでと思っている自分がいる。

       俺も相当、狡い人間だ・・・」

 

 

 

 

(旅行で、滝を見に来ている瀧口と夜城)

 

 

 

 

夜城(N):「ニ週間後、待ちに待った旅行の日がやって来た」

 

 

 

 

瀧口:「衛、・・・少し疲れたか?」

 

 

 

夜城:「・・・朝、早くの出発だから、まだ、ちょっと眠い・・・」

 

 

 

瀧口:「初めての旅行だから、少しでも長く、衛と一緒に居たかったんだ。

    ・・・でも、無理させちゃったな・・・」

 

 

 

夜城:「・・・その理由なら、許す・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・ほらっ、衛、見て見ろ。立派な滝だな」

 

 

 

夜城:「綺麗な滝・・・」

 

 

 

瀧口:「どうしても、一緒にこの滝、見たかったんだ。・・・衛が気に入ってくれて俺も嬉しいよ」

 

 

 

夜城:「ねっ・・・大志・・・」

 

 

 

瀧口:「どうした?」

 

 

 

夜城:「・・・恋人、繋ぎしたいな・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・馬鹿、それは流石に不味いだろ・・・。周りの目もあるし・・・」

 

 

 

夜城:「そうだよね・・・。ごめん、今のお願いはなしで良いよ・・・。忘れて・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・衛、お腹空いたから、何か食べに行こう」

 

 

 

夜城:「うん、わかった・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・」

 

 

 

夜城(N):「瀧口さんは、そう言うと、足早にその場を離れてしまった。

       無言で、後を付いて行くと、突然、瀧口さんは止まり辺りを確認しだした」

 

 

 

 

夜城:「どうしたの・・・?」

 

 

 

瀧口:「・・・誰もいないな。・・・衛、手・・・」

 

 

 

夜城:「・・・良いの?」

 

 

 

瀧口:「恋人繋ぎ・・・、此処でなら、しても良いから、早くしろ・・・」

 

 

 

夜城:「うん・・・!」

 

 

 

瀧口:「・・・」

 

 

 

夜城(N):「手を繋いだまま暫く無言で森林を歩いた・・・。

       ただそれだけの事なのに、今にも心臓が破裂するくらい緊張していた・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・そんなに、俺と手を繋ぎたかったんだな・・・」

 

 

 

夜城:「大志の体温、感じれるし・・・、俺、一緒に此処に居て良いんだと、実感できるから・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・衛は、一途なんだな・・・」

 

 

 

夜城:「瀧口さんは、一途じゃないの?」

 

 

 

瀧口:「・・・一途に決まってるだろと、断言出来たら、格好良いんだろうな・・・。

    でも、俺は既婚者だし、現にお前とこんな関係になってる以上・・・、浮気者、確定だよ・・・。

    なぁ、衛、俺の何処が好きなんだ?」

 

 

 

夜城:「う~ん・・・、駄メンズな所かな・・・。

    ほらっ、大志は放っておくと、すぐに疑心暗鬼に落ちたりするし」

 

 

 

瀧口:「それ好きな部分と言えるのか? どちらかと言うと・・・」

 

 

 

夜城:「間違いなく好きな部分だよ。・・・狡くて、駄目で、我儘で、何でこんな人、好きになったんだろうって、

    思う事ばかりだけど・・・、理屈じゃないんだよ・・・きっと・・・。

    気付いたら、大志の事、好きになってた」

 

 

 

瀧口:「理屈じゃない・・・か・・・。それ言えてるかもな。

    ・・・俺も、気付くと、お前ばかり、目で追いかけてたよ。

    流石に、仕事場では、お前だけ優遇するわけいかないから、我慢してるんだからな・・・。

    いや・・・待てよ。俺はオーナーだから、我慢する事もないのか・・・」

 

 

 

 

夜城:「ば~か。そこはオーナーであっても、我慢して。

    何であいつだけ、優遇されてるんだとか・・・、俺、陰口言われるのなんて、嫌だからね!」

 

 

 

 

瀧口:「衛に、陰口言うスタッフいたら、オーナー権限で、辞めさせてやる」

 

 

 

夜城:「・・・大志なら、本当にしそうだから、止めて」

 

 

 

瀧口:「それだけ、お前の事、愛してる意思表示だ。・・・なぁ、衛・・・」

 

 

 

夜城:「何?」

 

 

 

瀧口:「愛してる・・・。ずっと俺の側から、離れるなよ・・・。・・・以上。

    さっ、車に戻って、昼飯、食べに・・・」

 

 

 

夜城:「ねっ、もう少し、恋人繋ぎ、続けても良い?」

 

 

 

瀧口:「甘えん坊め・・・。・・・良いよ」

 

 

 

夜城:「やった・・・」

 

 

 

瀧口(N):「その時の衛の笑顔は、今でも忘れられない・・・。

       衛と居ると、俺は自分でも驚くくらい優しい表情で、笑っている

       衛さえいれば、他は要らない・・・。心の底からそう思う事が出来た」

 

 

 

 

(昼を食べて、観光を終え、予約している旅館に行く二人)

 

 

 

 

 

夜城:「お昼、美味しかった。旅館にも付いたし、少し休憩・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・なぁ、衛・・・」

 

 

 

夜城:「どうしたの・・・?」

 

 

 

瀧口:「こんなに早く、旅館で良かったのか? もっと観光したり・・・」

 

 

 

夜城:「・・・十分、恋人気分、満喫出来たから良いよ。

    ねぇ、この旅館、・・・露天風呂からの景色、良いみたいだよ。

    浴衣、着替えて行こう」

 

 

 

瀧口:「・・・衛と露天風呂・・・」

 

 

 

夜城:「今、エッチな事、想像したでしょ?」

 

 

 

瀧口:「・・・して悪いか? 健全な男なんだ。好きな相手の裸、想像したら興奮するだろ・・・」

 

 

 

夜城:「・・・許す。・・・う~ん、浴衣、上手く着れない・・・」

 

 

 

瀧口:「どれ、貸して見ろ」

 

 

 

夜城:「あっ・・・」

 

 

 

瀧口:「黒と灰色の市松模様・・・。デザイン的に悪くない・・・。衛は細身だから、モノトーンが映える」

 

 

 

夜城:「大志・・・、近いよ・・・」

 

 

 

瀧口:「恥ずかしがる事ないだろ。・・・俺は、ただ、浴衣を着せてるだけだ」

 

 

 

夜城:「わかってるけど・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・ふ~ん、この帯か・・・。これで、何かされると期待したんだな・・・」

 

 

 

夜城:「するわけないだろう・・・。変態・・・、死ね・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・素直にならないなら、お預けだ。・・・さっ、これで良いだろ。

    ・・・俺も着替えるか、少し・・・、どうした? 衛・・・」

 

 

 

夜城:「本当は・・・期待してた・・・。だから、お願い・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・わかった。・・・その前に、風呂、行こう。なっ?」

 

 

 

夜城:「うん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

瀧口:「うわ~・・・これは、見事な絶景だ。・・・どうした? 衛、早く、こっちに来て、見て見ろ」

 

 

 

夜城:「そんな事、言ったって・・・。・・・脱ぐの早すぎだよ・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・何、もたもたしてるんだ? 夕焼け、見過ごす気か?」

 

 

 

夜城:「今、行くよ・・・。・・・やっと脱げた・・・。・・・うわ~、これは凄い・・・」

 

 

 

瀧口:「なっ、絶景だろ」

 

 

 

夜城:「うん・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・衛、洗ってやるから、此処座れ」

 

 

 

夜城:「良いよ。・・・一人で洗えるから・・・」

 

 

 

瀧口:「そう言わずに座れ」

 

 

 

夜城:「強引なんだから・・・」

 

 

 

瀧口:「なぁ、衛・・・。・・・また二人で、来ような。・・・いつかは約束出来ないけど、

    きっと、またいつか・・・」

 

 

 

夜城:「どうしたの? いきなり?」

 

 

 

瀧口:「夕日見たから、センチな気分になったんだ。悪いか?」

 

 

 

夜城:「何か、大志らしくない」

 

 

 

瀧口:「悪かったな・・・俺らしくなくて・・・」

 

 

 

夜城:「でも、たまには良いんじゃない。センチな気分になっても。・・・さっ、交代」

 

 

 

瀧口:「え?」

 

 

 

夜城:「今度は、俺が洗うから、ほらっ、あっち向いて」

 

 

 

瀧口:「良いな、それ。・・・それじゃあ、前、中心でお願いしよう」

 

 

 

夜城:「生憎、当店はそんなサービス、行っておりません」

 

 

 

瀧口:「おっ、サービス、悪い店だな。クレーム入れてやらないと」

 

 

 

夜城:「そんな事したら、二度と洗ってあげないからね」

 

 

 

瀧口:「怒るなよ、冗談だって」

 

 

 

夜城:「・・・いつか、また、連れて来てよ、此処でも、他の旅館でも良いから・・・」

 

 

 

瀧口:「わかった、約束する・・・」

 

 

 

夜城:「さっ、終わり。・・・体も冷えて来たし、入りに行こう」

 

 

 

瀧口:「サンキュー、衛」

 

 

 

夜城:「・・・ちょっと、くっ付かないで・・・」

 

 

 

瀧口:「貸し切り状態なんだ。気にするな」

 

 

 

夜城:「・・・」

 

 

 

瀧口:「ふ~、いい湯だな~。これで、お酒もあれば、最高なんだけどな~」

 

 

 

夜城:「大志・・・」

 

 

 

瀧口:「どうした?」

 

 

 

夜城:「今夜は、飲まないで・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・」

 

 

 

夜城:「・・・一度で良いから、素面で・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・どうしたんだ? 衛・・・。

    折角の旅行なんだから、1本だけなら良いだろ?」

 

 

 

夜城:「うん・・・。仕方ないな・・・。1本だけだよ・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・衛は、優しいな」

 

 

 

夜城:「・・・ごめん、少し喉、乾いちゃった・・・。・・・ちょっと、飲み物、買ってくるね」

 

 

 

瀧口:「・・・わかった。早く戻って来いよ」

 

 

 

 

 

 

夜城(N):「今にも泣きそうになるのを我慢して、脱衣場に戻り、服を着ようとした時、

       瀧口さんのスマホの着信がなる。・・・何だか胸騒ぎがし、そのスマホを手にした・・・」

 

 

 

 

夜城(M):「・・・これは・・・。・・・そっか、あの夜・・・、こんな事してたんだ・・・。

       ずっと前から俺は・・・、裏切られてたんだ・・・」

 

 

 

 

夜城(N):「メールの相手は、パタンナーの一人だった。

       ・・・気持ちよかった。また、ラブホでいっぱい愛してね。

       と、短いメールと一緒に、裸画像も添付されていた・・・。

       見てしまった後悔と、裏切られたショックで、その場に居られなくなり、

       着替えた後、俺は旅館を後にした・・・」

 

 

 

 

 

 

瀧口:「おいっ、・・・衛、どうしたんだ? ・・・いない。・・・あいつ何処に行ったんだ・・・。

    ん・・・、着信・・・。・・・(溜息)・・・あれだけ旅行中は送るなと言ったのに・・・、くそっ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

夜城(N):「・・・俺は、RAVENを辞めた。

       ・・・あの後、何度も瀧口さんから電話はかかって来たけど、到底、出る気にはなれなかった・・・。

       禁断の果実を齧ったアダムとイヴは、楽園から追放された・・・。

       ・・・あの時、スマホを見て気付かなければ、ずっと・・・楽園に居られたのかもしれない・・・。

       同じ事を何度も繰り返し考えてる時、・・・玄関のドアを叩く音がした・・・」

 

 

 

(玄関のドアを激しく叩く瀧口)

 

 

 

瀧口:「衛・・・! 中に居るんだろ! お願いだ、俺の話を聞いてくれ!」

 

 

 

 

夜城:「・・・帰ってよ・・・」

 

 

 

瀧口:「衛・・・、俺が悪かった・・・。・・・愛してるのは、お前だけなんだ」

 

 

 

夜城:「そんな見え透いた嘘、信じられないから・・・」

 

 

 

瀧口:「嘘じゃない・・・。・・・そうだ、これならどうだ! 

    お前が望むなら、あのパタンナーとは連絡も取らないし、RAVENも辞めさせる。

    だから、戻ってきてくれ・・・。俺にはお前が必要なんだ・・・」

 

 

 

夜城:「信じられない・・・。だって、パタンナーの子、俺より可愛かった・・・。

    ねぇ、瀧口さん・・・。本当の事、教えて・・・。俺の何処が好きなの・・・?」

 

 

 

瀧口:「それは・・・、勿論・・・、お前の全部だ・・・。・・・何処なんて言える訳・・・」

 

 

 

夜城:「もう良い・・・。わかったよ・・・。・・・結局、体だけだったんだね・・・」

 

 

 

瀧口:「誰に口を聞いてるんだ・・・」

 

 

 

夜城:「え・・・?」

 

 

 

瀧口:「お前の何処、気に入ったかだよな? そんなに知りたいなら、教えてやる・・・。

    お前の腕と、体だよ。・・・初めてお前が俺の名前、呼んでしてる時、

    上手く、調教したら使えると思った。だから、今まで優しくしてやったんだ」

 

 

 

夜城:「・・・」

 

 

 

 

瀧口:「察しの通り、顏も体も、パタンナーの子の方が、俺の好みだ。

    でも、才能は正直、いまいちで、辞めさせようと思ってた所だ。

    あいつの事だ・・・、辞めさせられても、俺とのセフレ関係は、切らないだろうから、

    俺にとっては、良い事づくめって訳だ」

 

 

 

 

夜城:「・・・本当は気付いてた・・・。・・・素面で抱けないのも・・・、タイプじゃないんでしょ?」

 

 

 

 

瀧口:「抱いて気持ちよければ、素面かなんて関係ないだろ・・・!

    お前、正直・・・、重いんだよ・・・」

 

 

 

 

夜城:「・・・重い。ねぇ、どうして・・・?

        じゃあ、俺はどうすれば、良かったの・・・!」

 

 

 

瀧口:「・・・自分で考えろ。・・・俺は帰る・・・」

 

 

 

夜城:「待って・・・!!!

    好きになったら、相手の声、聴いただけで、

    喜んだり・・・、笑ったり・・・、どんなに細やかな事でも、

    嬉しいんだよ・・・。・・・大志に出会って・・・、

    やっと、将来、死ぬまで一緒に居られるパートナー、見つかって・・・、

    これから、ずっと幸せな日々・・・、続くと思ってた・・・。

    思ってたのに・・・、どうして・・・、そんな酷い事・・・、言うの・・・?」

 

 

 

瀧口:「酷いだと?」

 

 

 

夜城:「俺の願いは・・・、ただ一つだけだよ・・・。

    浮気なんてしないで、俺だけ愛して欲しかった・・・。

    ・・・ずっと側に、居て欲しかった・・・。

    ・・・もう、スマホも見たり、絶対にしないし・・・、

    素面で抱いてなんて・・・言わない・・・!

    セフレだって、他に作ったって・・・、俺・・・我慢するから・・・!

    大志は、狡くて・・・、我儘で・・・、駄メンズで・・・、

    浮気性のどうしようもない男だけど・・・、それでも良いよ・・・!

    どんなに、酷く扱われても・・・、それでも・・・俺は・・・! 

    大志の事・・・愛して・・・!!!」

 

 

 

 

瀧口:「・・・話はそれだけか・・・。愛して、愛して、鬱陶しいんだよ・・・。

    俺は、ただ楽しくて、気持ちよくなれる関係が欲しかっただけだ!

    女々しい、お前なんて、もう、一緒に居る価値すらない・・・。

    もう二度と、俺の前に現れるな」

 

 

 

 

夜城(N):「そう言い捨てると、瀧口さんは帰って行った。・・・俺はドアの前で膝を付き、泣き崩れた・・・」

 

 

 

 

 

 

夜城(N):「半年後。・・・瀧口さんとの事も、忘れ始めた頃、

       出会い系を通して、意気投合して、一人の男性と会う事になった・・・」

 

 

 

 

 

 

夜城:「・・・待ち合わせ、・・・此処で間違いなかったよね・・・。

    それにしても、遅いな・・・」

 

 

 

 

瀧口:「・・・衛、・・・久しぶりだな・・・。元気してたか・・・?」

 

 

 

 

夜城:「大志・・・。どうして此処に!? 俺、待ち合わせしてる人が・・・」

 

 

 

 

瀧口:「その待ち合わせ相手なら、来ない。・・・お前のメール相手は、俺だ・・・」

 

 

 

夜城:「・・・騙したって事・・・?」

 

 

 

瀧口:「そうじゃない。・・・お前ともう一度、話がしたかったんだ・・・」

 

 

 

夜城:「・・・今更、話って何・・・?」

 

 

 

瀧口:「あの頃の俺は、どうかしてたんだ・・・。秋冬コレクションも良いアイディア浮かばなくて、

    ・・・パタンナーの子に、愚痴を言ってる内・・・、何かムラっと来て・・・つい・・・」

 

 

 

夜城:「・・・まだ、続いてるんでしょ・・・。その彼と・・・」

 

 

 

 

瀧口:「・・・俺に飽きたのか、さっさと辞めたよ・・・。セフレ関係も、今はない・・・」

 

 

 

 

夜城:「・・・お互い、一人ぼっちか・・・」

 

 

 

 

瀧口:「一人になって、気付いたんだ。・・・俺には、衛だけしか居ないって。

    俺の事、本当に愛してくれたのは、お前だけなんだ・・・。衛・・・」

 

 

 

夜城(N):「久しぶりに聞いた瀧口さんの声に、心が揺らいだ・・・。

       ・・・強引で、駄目で、どうしようもない最低野郎で・・・、

       ・・・嘘ついてるかもしれないのに・・・

       ・・・愛おしいと思うなんて・・・、俺も相当、狡い人間だ・・・」

 

 

 

 

瀧口:「衛も、本当は・・・俺と、やり直したいと思ってるんじゃないか?

    ・・・今度こそ、お前の事、大事にする・・・。

    それに、朱莉とも別れる事にした・・・」

 

 

 

 

夜城:「・・・子供達は、どうするの・・・?」

 

 

 

瀧口:「それなら心配しなくて良い。息子は、・・・朱莉と一緒に暮らす事になった・・・。

    ・・・お前が望むなら、一緒に部屋探して、住む事も出来る・・・」

 

 

 

 

夜城:「一緒に・・・」

 

 

 

瀧口:「旅行にも、これから沢山・・・」

 

 

 

夜城(N):「瀧口さんの甘い誘いに、乗りそうになった時だった・・・。

       ふと、電柱に止まっている烏に目が言った・・・。

       その烏を見てから、俺は瀧口さんにこう告げた・・・」

 

 

 

夜城:「・・・旅行、良いね。それなら、あの滝、見に行きたいな・・・」

 

 

 

 

瀧口:「・・・衛、あそこは一度行ったから、別の場所にしよう。他にも、お前と行きたい場所・・・沢山・・・」

 

 

 

夜城:「袋田の滝・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・」

 

 

 

夜城:「最初から、知ってたんだね・・・。あそこの滝は、恋人同士で行くと、別れるジンクスあるの・・・」

 

 

 

瀧口:「・・・知ってた。・・・でも、もう過去の事だろ? いい加減、忘れてくれよ・・・」

 

 

 

夜城:「・・・ねぇ、瀧口さん」

 

 

 

瀧口:「何だ・・・?」

 

 

 

夜城:「俺も、瀧口さんの事、愛しているよ」

 

 

 

瀧口:「許してくれるのか?」

 

 

 

夜城:「うん、許してあげる・・・。その代り・・・」

 

 

 

瀧口:「その代り、何だ? 俺に出来る事なら、何でも言ってくれ!」

 

 

 

夜城:「もう二度と、俺の前に現れないで・・・」

 

 

 

瀧口:「え?」

 

 

 

夜城:「このまま、また大志と付き合い直したら、楽しい日々も待ってるかもしれない・・・。

    大志との日々は、今までの人生で、一番楽しかったよ・・・。

    でもね・・・、そんな日々、続けたら・・・、俺・・・、自分の事、好きで居られなくなる・・・。

    自分に正直に、生きたいんだ・・・。

    だから、もうこの楽園も、自分から出て行く・・・」

 

 

 

 

瀧口:「楽園から出て行かなくて良い・・・! 俺の側に居ろ・・・!

    俺も、お前との日々は、楽しかったし、また戻りたいんだ!

    だから・・・、

    お前の居場所は・・・俺の・・・!」

 

 

 

 

夜城:「俺達の楽園は、終わったんだよ・・・」

 

 

 

瀧口:「衛・・・!」

 

 

 

 

夜城:「息子さん、大事にしてね・・・」

 

 

 

瀧口:「待ってくれ・・・!」

 

 

 

夜城(N):「振り向いたらいけない・・・。あの烏のように・・・、何処へでも、自由に・・・。

       終夜の烏(よもすがらのからす)は・・・、今日で卒業する・・・」

 

 

 

 

瀧口:「俺を置いてくな・・・! 衛・・・! 俺を一人にしないでくれ・・・。 俺にはお前しか・・・」

 

 

 

 

夜城:「さようなら・・・。・・・大志・・・」

 

 

 

 

 

 

瀧口(N):「衛は一度も振り向く事なく、その場を去った・・・。

       一羽の烏が、電柱に止まり・・・、こちらを見て鳴いている・・・。

       あぁ・・・、そうか・・・。衛もこんな気持ちで、いつも夜空を、見つめていたのか・・・。

       後悔している俺の前から、烏は、自由な夜空へと・・・飛び去って行った・・・」

 

 

 

 

 

 

終わり