60th full moon

 

作者 ヒラマ コウ

 

 

 

登場人物

 

ラシード・・・気高き王子

 

 

アマル・・・身分の低い民の女

 

 

ジャミーラ・・・気高き王女

 

 

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CAST

 

ラシード:

 

アマル:

 

ジャミーラ:

 

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(王宮の庭にある噴水の前で月夜を見上げ、溜息をつくラシード)

 

 

 

 

ラシード:「・・・あの月の輝きだけが、本当の私を照らしてくれている。

      嘆いても仕方ないのはわかっている・・・。

      己の運命を受け要れさえすれば、楽になるのも・・・。

      しかし、私は・・・」

 

 

 

 

ジャミーラ:「姿が見えないと思ったら、こんな所に居たのか・・・」

 

 

 

ラシード:「ジャミーラ・・・。こんな夜更けに、どうしたんだ?」

 

 

 

ジャミーラ:「目が覚めたら、御前がいないから、急いで探したのじゃ。

       また、この王宮を抜けて、逃げ出すんじゃないかって思ってのう」

 

 

 

ラシード:「眠れなかったから、月を眺めていたんだ。逃げる気なんてない」

 

 

 

ジャミーラ:「ようやくお前も、自分の運命を、受け入れる気になったのじゃな」

 

 

 

ラシード:「そうしなければ、この王国の民を、路頭に迷わす事になる。

      私、一人の犠牲で、それが間逃れるなら、

      喜んで、私は、この身を貴女に捧げる」

 

 

 

ジャミーラ:「そうか・・・。あくまで妾には、心までは、差し出さないつもりか。

       だが・・・それでも、構わぬ。妾が、欲しいのは、ただ一つ。御前の血の力じゃ」

 

 

 

ラシード:「くっ・・・!」

 

 

 

ジャミーラ:「そんな目で、睨んでも無駄じゃ。何も運命は変わらぬ。

       妾達の婚礼まで、数日・・・。

       その日を迎えれば、妾は、神に近い存在に生まれ変わる!

       だから、もう諦めるのじゃ」

 

 

 

ラシード:「私は、偽りの神の、僕(しもべ)と言う事か・・・」

 

 

 

ジャミーラ:(ラシードの頬をぶつ)

 

 

 

ラシード:「・・・例え、この身を叩かれ、引き裂かれても、

      貴女には、心は差し出さない・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「何れ、お前は妾に、自らその心を差し出すことになる。

       その日が、楽しみじゃ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

ラシード:「私の犠牲は、民の為・・・。私の選択は、間違っていない。

      なのに、私の身は、どうしてこれ程までに、震えるのだ・・・」

 

 

 

 

アマル:「ラシード様・・・」

 

 

 

ラシード:「その声は、アマルか・・・」

 

 

 

アマル:「はい・・・」

 

 

 

ラシード:「ジャミールは、寝室に戻った。・・・出て来ても、見つかりはしない」

 

 

 

アマル:「あぁ・・・、何て酷い目に・・・。今すぐ、手当を・・・」

 

 

 

ラシード:「手当は良いのだ。お前も、その事は知っているだろう?」

 

 

 

アマル:「それでも私は、貴方様を、そのままにしては、置けません!

     私達、民の為に、これ程までにも、自らを犠牲にしてると言うのに・・・」

 

 

 

ラシード:「私、一人の犠牲で、お前達を守れ、この国も豊かな生活が続き、

      未来永劫、幸せで居られるなら、私は、それだけで、嬉しいのだ・・・。

      だから、そんな目で、見つめないでくれ・・・」

 

 

 

アマル:「私達、民の幸せを、願っていただけるのは、とても光栄です。

     しかし、ラシード様の幸せも、私達は願っております・・・

     今のままでは、その願いは・・・」

 

 

 

ラシード:「気持ちは嬉しいが、それは不可能だ・・・。

      私が、この王宮から、去れば・・・、ジャミールは、その力で、この国を、

      そして、民を滅ぼすだろう・・・。

      ・・・国王と、王妃の時のように・・・」

 

 

 

 

アマル:「・・・私が、ジャミール様の本来の目的に、気付いてさえいれば・・・、

     こんな事には・・・」

 

 

 

ラシード:「それは、私とて同じ事だ・・・。私の、この血を手に入れる為に、

      近付いたのだと、気付いていれば・・・、

      これ程までに、お前を苦しめる事は無かった・・・」

 

 

 

アマル:「ラシード様・・・」

 

 

 

ラシード:「アマル・・・。手当、感謝する。

      ・・・もうすぐ夜が明ける。家に戻るのだ・・・」

 

 

 

アマル:「もう少しだけ・・・、ラシード様の御傍に、居させてくださりませんか?」

 

 

 

ラシード:「しかし・・・、他の者に見つかれば、お前の身が・・・」

 

 

 

アマル:「夜が明け、日が昇り始める、その時までで良いです。どうか、我儘をお許しください・・・」

 

 

 

ラシード:「・・・わかった」

 

 

 

アマル:「ありがとうございます・・・」

 

 

 

ラシード:「・・・」

 

 

アマル:「・・・ラシード様の御傍に居られて、私は幸せです・・・」

 

 

ラシード:「私もだ・・・。傍にいてくれて、ありがとう・・・」

 

 

 

 

 

 

 

アマル:「・・・そろそろ、戻ります・・・」

     

 

 

ラシード:「いつも、こうして会いに来てくれて、済まない・・・」

 

 

 

アマル:「謝らないでください。

     私が、好きで会いに来てるだけですので。では・・・」

 

 

 

 

 

ラシード(M):「アマル・・・。私は、お前と一緒になれたら、どんなに幸せであろう・・・。

         しかし、それを願えば、お前も失う事になる・・・。

         私は・・・、祝福されし者ではない。・・・呪われし者だ・・・!

         あぁ、神よ・・・。何故、貴方は、私に、このような試練を、与えたのですか・・・?

         私は・・・、私は・・・、どうすれば・・・」

 

 

 

 

 

 

 

ジャミーラ:「アマル、アマルは、居らぬか?」

 

 

 

アマル:「ジャミーラ王女、お呼びでしょうか?」

 

 

 

ジャミーラ:「なぁ、アマル。この首飾りは、どうじゃ?

       妾に似合っておるか?」

 

 

 

アマル:「とても、御似合いでございます・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「なら、お前に上げよう。跪き、手を差し出し、受け取るが良い」

 

 

 

アマル:「光栄でございます・・・。ジャミーラ王女・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「・・・気に食わぬ」

 

 

 

アマル:「何がで御座いましょう?」

 

 

 

ジャミーラ:「お前のその目じゃ。・・・ラシードと同じ、紫・・・。

       妾には、無いものじゃ・・・」

 

 

 

アマル:「この目の色は、我ら国民、全員、同じです。・・・貴女様を除いて・・・」

 

 

 

ジャミール:「それが気に食わぬのじゃ! 

       どうすれば、妾も、お前達のように、その綺麗な紫の目になれる?

       お前から、奪い取れば良いのか?」

 

 

 

アマル:「例え、私の目を奪っても、貴女様は、同じには、なれません」

 

 

 

ジャミール:「それでは、妾は、一人と言う事か・・・」

 

 

 

アマル:「ジャミール王女の、一族が居るじゃありませんか」

 

 

 

ジャミール:「そんな者、とっくの昔に、滅んでおる・・・。

       妾の国の民は、もう居らぬのじゃ・・・」

 

 

 

アマル:「ジャミール王女・・・」

 

 

 

ジャミール:「ええい! 同情など要らぬわ!」

 

 

 

アマル:「・・・」

 

 

 

ジャミール:「そうじゃ。良い事を思いついた。

       婚礼の儀式が、終わり、あの力を手に入れたら、

       お前等を、私の目と同じ色に、変えてやろう・・・。

       そうじゃ、それが良い!

       妾だけ、違うなんて、断じてあってはならぬ!」

 

 

 

アマル:「ジャミール王女、それは、お止めください! この目は、私達の誇りです!」

 

 

 

ジャミーラ:「黙れ! 黙れ! ・・・これは、もう決めた事じゃ!

       妾の国の、技術があれば、そう時間もかからぬ。

       そうすれば、お前達は、妾と同じ、この赤い目の民じゃ!

       はっははははは!!!!」

 

 

 

アマル:「・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「いつまで、そこに居るつもりじゃ! さっさと仕事に戻れ」

 

 

 

アマル:「わかりました・・・」

 

 

 

 

 

 

ジャミーラ:「あ~、今日という日は、何と、素晴らしい日なのじゃ!」

 

 

 

ラシード:「ジャミーラ・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「ラシード・・・。丁度、良い所に来た。お前達、この国の民は、

       もうすぐ妾と同じになる・・・」

 

 

 

ラシード:「同じになるだと・・・? 一体、何を企んでいる?」

 

 

 

ジャミーラ:「妾と同じ、この赤い目に、民、全員を変えるのじゃ。

       そうすれば、もう妾を、あの澄んだ紫の目で、蔑む事も出来ぬ!」

 

 

 

ラシード:「お前は・・・、我らの誇りまで、奪おうというのか・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「誇り? そんな物、持っていて、何の役に立つのじゃ。

       それに、忘れたわけでは、なかろう?

       この国は、私の力で、守られてる事を・・・」

 

 

 

ラシード:「くっ・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「妾は、お前の父、国王の要請で、この国の防衛と繁栄を任されたのじゃ。

       まぁ、その国王も、もう居らぬがな・・・」

 

 

 

ラシード:「それは、お前が殺したからだろう・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「殺す? 人聞きの悪い事をいうのじゃな。

       妾は、国王、自ら、この国の為に、貢献する機会を与えただけじゃ。

       誰も、意図的に殺そうなど、思っておらぬ」

 

 

 

ラシード:「・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「結果的に、この国は守られ、民も笑って過ごせるようになった。

       それも、何もかも妾のお陰ではないか。

       憎まれるのではなく、感謝されるべきじゃ!」

 

 

 

ラシード:「感謝する・・・、なんて、いう訳ないだろう・・・!」

 

 

 

ジャミーラ:「そうやって、いつまで抗い続けるか、見物じゃ。

       婚礼の日まで、持つと良いがな! はっはははは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アマル:「・・・私は、とんでもない事を、言ってしまった・・・。

     でも、あんな仕打ち・・・、耐えられなかった・・・」

 

 

 

ラシード:「アマル・・・」

 

 

 

アマル:「ラシード様・・・! ・・・私・・・、私は・・・!」

 

 

 

ラシード:「もう良い。お前は、何も悪くない・・・」

 

 

 

アマル:「私は・・・、ジャミール王女に、跪き・・・、

     手を差し出し、首飾りを・・・」

 

 

 

ラシード:「お前にまで、そんな酷い仕打ちを・・・」

 

 

 

アマル:「私があの場で、屈辱に耐えていれば、こんな事態には、ならなかったでしょう・・・。

     でも、どうしても・・・、耐えることが出来ませんでした・・・。

     ジャミール王女は、私を、貧しく身分の低い者と、嘲笑ってるように思えて・・・、

     悔しかったのです・・・」

 

 

ラシード:「お前は、断じてそのような者ではない・・・。誇り高き、この国の民だ・・・!」

 

 

 

アマル:「その誇りも、もうすぐ奪われる事となります・・・。

     我ら、民は、一体どうすれば、良いのでしょうか!?

     あのような、醜き赤い目に、私は、なりたくありません・・・!」

 

 

 

ラシード:「それは、私も同じだ・・・。この目は、我らに残された、唯一の誇り。

      それだけは、絶対に奪わせたりは、しない」

 

 

 

 

アマル:「・・・ラシード様、お願いがあります・・・」

 

 

 

 

ラシード:「何だ?」

 

 

 

アマル:「私の命を、この場で、奪ってくださいませ」

 

 

 

ラシード:「何だと!?」

 

 

 

アマル:「ジャミーラ王女は、貴方に想いを寄せる、私の事だけが、憎いだけです・・・。

     私が死に、その亡骸を差し出せば、

     この国の民は、きっと、この誇りを、守れます・・・。

     だから、お願いです。

     貴方の、その手で、私のこの命・・・、終わらせてくださいませ・・・」

 

 

 

ラシード:「それでは、民の誇りは守れても、お前の誇りは・・・!」

 

 

 

アマル:「私の誇りは・・・、ラシード様の心の中で、ずっと、生き続けます・・・。

     だから、このナイフで、一思いに・・・」

 

 

 

ラシード:「・・・くっ!」

 

 

 

アマル:「さぁ、早く・・・!」

 

 

 

ラシード:「・・・アマル。・・・それは、出来ない・・・」

 

 

 

アマル:「どうしてですか!? 貴方様は、この国の王となるべきお方!

     私一人の命と、この国の民、全員の命を、天秤にかけては、なりません・・・!」

 

 

 

ラシード:「これ程までにも、お前の事が、好きであってもか!」

 

 

 

アマル:「でも、私と貴方様は身分が・・・」

 

 

 

ラシード:「身分の違いなんて、どうでも良い・・・!

      幼き頃から、私は、お前の事が好きだった・・・。

      ・・・他の者とは違い、私を恐れず、

      私が辛い時は、こうして、

      いつも傍に居てくれた、お前の事が・・・、好きで堪らないのだ・・・」

 

 

 

アマル:「・・・私も、ラシード様の事が、大好きです・・・。

     ずっと、ずっと側に、こうして居られたら、どんなに、幸せでしょう・・・。

     けれど、それを望めば・・・、この国の民は、どうなります・・・?」

 

 

 

 

ラシード:「それは・・・!」

 

 

 

アマル:「私達が結ばれれば、この国は、終わります・・・。

     そんな事は、決して許される事ではありません・・・。

     国王も、王妃の死も、報われなくなります・・・」

 

 

 

ラシード:「では、私は、どうすれば良いのだ!?

      お前を、この手で、殺し、好きでもない王女と、一緒になり暮らせと言うのか?」

 

 

 

 

アマル:「それが、この国の未来にとっては、最善の選択です。

     婚礼まで、残り僅か・・・。

     どうか、一刻も早い決断を・・・」

 

 

 

ラシード:「くっ・・・!」

 

 

 

アマル:「もうすぐ夜が明けます。・・・私は、これで・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャミーラ:「ラシード。今朝は早いのじゃな。そんなに早く、妾の顔が見たかったのか?」

 

 

 

ラシード:「お前の方こそ、噴水まで来て、どうしたのだ?」

 

 

 

ジャミーラ:「ただの気分転換じゃ。此処からの景色は、最高じゃな。

       この国、全部が見渡せる」

 

 

 

 

ラシード:「アマルの事だが・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「そんなに、あの女の事が気になるのか?

       今、お前が考えてる事を、当ててやろう。

       妾が、何か、酷い仕打ちをするんじゃないかと、恐れておろう?」

 

 

 

ラシード:「その通りだ・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「心配せずとも、そんな事はせぬ。

       あの女は、まだ利用価値がある。

       それに・・・」

 

 

 

ラシード:「何だ?」

 

 

 

ジャミーラ:「あの女の性格上、妾に許しを請う為に、自らの命を差し出すであろう!

       そうすれば、この国の民を救えると・・・」

 

 

 

ラシード:「・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「その様子からすると、どうやら図星だったようじゃな。

       では、妾は待つとしよう。

       御前から、贈られる、あの女の亡骸を!」

 

 

 

 

ラシード:「そうすれば、この国の民の誇りは・・・、守られるのか?」

 

 

 

 

ジャミーラ:「あぁ。約束しよう」

 

 

 

ラシード:「・・・わかった」

 

 

 

ジャミーラ:「期待しているよ。ラシード。はっはははは」

 

 

 

 

 

 

 

 

アマル:「・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「アマル・・・、こんな所で何して居る?」

 

 

 

アマル:「ジャミーラ王女・・・。いえ・・・、別に・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「さては、私達の会話を、盗み聞きしておったのじゃな?」

 

 

 

アマル:「・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「御前も、ラシードも、すぐに顔に出るから、分かりやすいのう」

 

 

 

アマル:「ジャミーラ王女!」

 

 

 

ジャミーラ:「何じゃ?」

 

 

 

アマル:「私の命を差し出せば、本当に、この国の民の誇り、奪わないでいてくださるのですか!?」

 

 

 

ジャミーラ:「勿論、そのつもりじゃ。妾は、御前が憎いだけじゃからな。

       御前さえ、この世から、いなくなれば、この国の民の誇りも、暮らしも、

       この先ずっと、守ると約束しよう! どうじゃ? 良い条件であろう?」

 

 

 

アマル:「えぇ・・・。・・・その条件で構いません・・・」

 

 

 

 

ジャミーラ:「交渉成立じゃな。では、最後に一つだけ、忠告しておく。

       死後の世界は、それはそれは、暗く、何も聴こえず、苦しいらしい。

       せいぜい、己の犯した罪を、悔やみながら、長い時間を過ごすが良い。

       はっはははは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(その夜 噴水でアマルを待つラシード)

 

 

 

 

ラシード:「・・・」

 

 

 

アマル:「ラシード様・・・」

 

 

 

ラシード:「アマル・・・」

 

 

 

アマル:「決心は、付いたのですね」

 

 

 

ラシード:「私は、この国の王子。今は亡き国王に代わり、民を守る義務がある・・・」

 

 

 

アマル:「その通りで御座います。・・・それでこそ、この国の王となる者です」

 

 

 

ラシード:「アマル。お前の事は、決して忘れない」

 

 

 

アマル:「嬉しいです。こんなにも、ラシード様に、愛していただけて・・・」

 

 

 

ラシード:「最後に、一つお願いして良いか?」

 

 

 

アマル:「何で御座いましょう?」

 

 

 

ラシード:「抱きしめさせてくれ」

 

 

 

アマル:「わかりました・・・」

 

 

 

ラシード:「・・・」

 

 

 

アマル:「あっ・・・。・・・ラシード様・・・」

 

 

 

 

 

 

ジャミーラ:「これはまた、随分と暑い夜じゃのう・・・」

 

 

 

ラシード:「ジャミーラ、どうして此処に?」

 

 

 

ジャミーラ:「決まって居ろう。ちゃんとお前が、その女を殺すのか、

       見届けに来たのじゃ」

 

 

 

アマル:「心配しなくても、すぐに貴女様に、この命、差し出します・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「そうか。なら、早くせよ。私は、待つのは嫌いじゃ」

 

 

 

アマル:「分かっております・・・」

 

 

 

ラシード:「アマル・・・」

 

 

 

アマル:「心の準備は、出来ております。ラシード様。

     早く、その手で、終わらせてくださいませ・・・」

 

 

 

ラシード:「わかった・・・。アマル・・・。本当に、済まない・・・」(ナイフで心臓を刺す)

 

 

 

 

アマル:「・・・ラシード様。・・・この国を・・・。・・・民をどうか、守ってください・・・ませ・・・」

 

 

 

ラシード:「あぁ・・・。約束する・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「ラシード、見事な終わらせ方じゃ。躊躇う事すらせぬとは、

       ようやく、御前も、己を運命を受け要れたわけじゃな。

       それでこそ、妾の伴侶に相応しい!」

 

 

 

ラシード:「・・・ジャミーラ、アマルの遺体だが・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「もう、死んだのであろう? そんな亡骸、もはや、どうでも良い!

       お前の好きにせい!

       さぁ、明日は、婚礼の日だ。早く眠らなければな。

       今夜は、さぞ、良い夢が見られるだろう・・・。はっはははは!」

 

 

 

 

ラシード:「アマル・・・。・・・済まない・・・」

 

 

 

 

 

 

 

(翌日 婚礼の儀式)

 

 

 

 

ジャミーラ:「民の諸君。おはよう! これより、婚礼の儀式を取り行う!」

 

 

 

ラシード:「・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「さぁ、我が伴侶、ラシード! その血の力を持って、妾を、神の領域に!!!」

 

 

 

ラシード:「わかった・・・。・・・」(ジャミーラを抱きしめ噛む)

 

 

 

ジャミーラ:「・・・おおおおお!!! 妾の体の中に、新たな力が、流れ込むのが分かる・・・。

       これで、私も、永遠の美と若さを得る事が出来たのじゃな!」

 

 

 

ラシード:「・・・その通りだ」

 

 

 

ジャミーラ:「民の諸君、これにて、婚礼の義は終了とする! 妾は、約束しよう!

       この国は、未来永劫、安全で平和だと言う事を!」

 

 

 

 

 

 

ラシード:「・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「あぁ。これで御前は、妾の者じゃ」

 

 

 

ラシード:「ジャミーラ、私は言い忘れた事がある」

 

 

 

ジャミーラ:「何じゃ?」

 

 

 

ラシード:「この血の力は、月に一度、御前を噛んで、与えなければならない」

 

 

 

ジャミーラ:「そんな事か。構わぬ。

       ・・・そうじゃな。今夜は丁度、満月じゃ。

       満月の度に、妾を噛んで、力を与えるが良い」

 

 

 

ラシード:「わかった・・・」

 

 

 

 

ジャミーラ:「それと、御前にはもう一つ、役目を与えよう。

       妾一人では、まだ、この国の民に対して、安心は出来ぬ。

       御前のような、反乱者も現れるかもしれないしのう」

 

 

 

ラシード:「今度は私に、御前の護衛をしろと言うのか・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「その通りじゃ。さぞかし、期待して居こう。御前の働きぶりをな」

 

 

 

ラシード:「くっ」

 

 

 

 

 

(一ヶ月後)

 

 

 

ジャミーラ:「今夜は、満月じゃ。早速、噛んで、力を与えるが良い」

 

 

 

ラシード:「わかった・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「・・・それで良いのじゃ。・・・護衛の任は、順調か?」

 

 

 

ラシード:「反乱者の鎮圧は、している・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「ほう・・・。同じ民でも、容赦せぬとは、御前も、恐ろしい男じゃ!

       その調子で、妾の為に、働くが良い! はっはははは!」

 

 

 

ラシード:「仰せのままに・・・」

 

 

 

 

(月日は流れ、婚礼の儀式から60回目の満月)

 

 

 

 

ジャミーラ:「此処に居ったのか?」

 

 

 

 

ラシード:「・・・何の用だ?」

 

 

 

ジャミーラ:「用じゃと? 用なら決まって居る。今日は、満月じゃ。

       いつものように、噛んで、力を与えるのじゃ」

 

 

 

ラシード:「もう少し、満月を見ていたいんだ。別に構わないだろう?」

 

 

 

ジャミーラ:「どうせ、あの女の事を、考えてたのであろう?」

 

 

 

ラシード:「・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「相変わらず、嘘が下手じゃな。

       ・・・御前の心をいつまでも、離さないなんて忌々しい!

       やはり、あの計画、実行するべきか・・・」

 

 

 

ラシード:「計画だと?」

 

 

 

ジャミーラ:「5年程、かかったが、準備は整ったのじゃ。

       この国の民を、妾と同じ、赤い目に変える計画がな!

       そうすれば、御前の中に、居続ける、あの女の守りたかった誇りも、

       綺麗に全部、消える!」

 

 

 

ラシード:「あの時の約束を、破ると言うのか!?」

 

 

 

ジャミーラ:「それも、全て御前が悪いのじゃ!

       妾に、いつまでも、心を差し出さない御前が!」

 

 

 

ラシード:「・・・そうか」

 

 

 

ジャミーラ:「今更、公開しても遅いのじゃ! これで、御前も、この国の民も!

       全て、妾の者に!!!」

 

 

 

ラシード:「残念だが、そうはならない・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「何じゃと!? そんな訳はない!!! 妾の計画は、全て順調・・・・うっ!!!」

 

 

 

ラシード:「どうやら、始まったようだ」

 

 

 

ジャミーラ:「どういう事じゃ・・・? 全身の力が、抜ける・・・。妾の体に、何が起きてる・・・!?」

 

 

 

ラシード:「・・・私は、神に祝福された者と、言われ続けた。

      しかし、それは違ったのだ・・・。

      私は、神に呪われし者なのだ・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「何じゃと!? ・・・じゃあ、妾も、その呪いに・・・!?」

 

 

 

ラシード:「あぁ。・・・私に婚礼の儀式で、噛まれた時から、御前は、その呪いに、かかっていたのだ。

      この血の力は、御前が望んだように、永遠の美と若さも、与える。

      しかし、条件があるのだ・・・」

 

 

 

 

ジャミーラ:「条件じゃと・・・?」

 

 

 

ラシード:「それは、私に、月に一度、噛まれ続けなれけば、ならない。

      そうでなければ、今の御前のように、全身の力が抜け・・・・、やがて・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「やがて何じゃ? 妾はどうなる!?」

 

 

 

ラシード:「その噴水で、己の全身を写し見るが良い。それで、全てわかる・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「何じゃこれは!? 妾の美しい顔が・・、体が・・・、崩れていって・・・」

 

 

 

ラシード:「その身が、崩れ、散りとなって消え去る前に、もう一つ、教えよう。

      アマルを刺したあの夜、私は、御前が来る前に、アマルを抱きしめ、噛んだ・・・。

      そうする事で、刺しても、アマルが、暫くして生き返るからだ」

 

 

 

ジャミーラ:「あの女は・・・生きておるのか・・・?」

 

 

 

ラシード:「・・・彼女を安全な場所に隠し、その場に手紙を置いといたのだ。

      生き返ってから、状況を理解させるために・・・。

      そして、私とアマルは、隠れて、会いながらも、ずっとこの日を待っていた。

      ・・・60回目の満月が昇る、その日を・・・」

 

 

 

ジャミーラ:「全て、御前の・・・計画通りってわけか・・・。・・・しかし、わからぬ・・・。

       御前は、ちゃんと月に一度、私を噛んでいたはずだ・・・」

 

 

 

ラシード:「あぁ、私は、噛み続けた。

      しかし、59回目の満月の時、私は、御前を噛んだが、力を与えなかった」

 

 

 

ジャミーラ:「何じゃと・・・?」

 

 

 

ラシード:「悪いが、自分で制御、出来るのだ。

      ・・・さぁ、そろそろ、ジャミーラ、終わりの時間だ。

      最後に忠告をしておく。死後の世界は、暗く、何も聴こえず、苦しいらしい。

      アマルと私に味合わせた苦しみ、そこで、悔やみながら、過ごすと良い!」

 

 

 

ジャミーラ:「・・・己。・・・妾は・・・こんな事で・・・、死にたくない・・・。

       まだ、やり残した事もある・・・。

       死後の世界は・・・嫌じゃ・・・」(散りとなって、消える)

 

 

 

 

 

 

 

 

ラシード:「これで、何もかも、終わった・・・」

 

 

 

アマル:「ラシード様・・・」

 

 

 

ラシード:「アマル・・・。長い間、よく耐え抜いてくれた・・・」

 

 

 

アマル:「・・・ラシード様の辛さに、比べましたら、私なんて・・・」

 

 

 

ラシード:「しかし、私は、御前にも、呪いを背負わせてしまった・・・」

 

 

 

アマル:「良いのです。・・・あの状況を、変えるには、そうするしか、ありませんでした。

     私は、・・・ラシード様を、恨んだりはしません」

 

 

 

ラシード:「アマル・・・」

 

 

 

アマル:「それに、嬉しかったのです・・・。例え、呪いであっても、私を助ける為に、

     この力を授けてくれたのを・・・。

     これで、私も、貴方の御傍で、この国を、民を、ずっと守り続けることが出来ます・・・!」

 

 

 

ラシード:「永遠という時間を、私と共に、居てくれるのか・・・?」

 

 

 

アマル:「・・・はい。

     私は、ラシード様と一緒に、永遠に、御傍に居ます・・・。

     もう、二度と、離れません・・・」