願いが届く海辺の街

 

 

作者 ヒラマ コウ

 

 

 

 

登場人物

 

 

白石 美波・・・36歳 海辺のすぐ近くにあるイタリアンのお店【delfino(デルフィーノ)】のオーナー。

            デルフィーノはイタリア語でイルカ

            過去に結婚して、愛する夫もいたが、死別してからは、もう独り身で生きていこうと思っている

 

松島 雫・・・23歳 結婚を約束していた婚約者と、連絡がつかなくなり、人間不信に陥る。

           そんな中、旅行に行こうと海辺の街に訪れ海を見てたら、

           ガラス瓶に入ったボトルメッセージを見つけ、拾おうとした時に、白石に声をかけられ出会う

       

 

 

比率:【0:2】

 

上演時間:【50分】

 

 

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CAST

 

白石 美波:

 

松島 雫:

 

 

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(海辺の街 海岸 

 松島は、ぼーっと海を眺めていた

 波は音は、小さくなったり大きくなったりを繰り返してる)

 

 

 

 

SE:(海の音)

 

 

 

 

松島:「・・・綺麗」

 

 

 

松島:「波の音色が、今の私には丁度良いな~」

 

 

 

松島:「いつまでも、聴いてたい~」

 

 

 

 

(波の音が時に激しくなり、松島の心に響く)

 

 

 

 

松島:「何で、私・・・此処にいるのだろう・・・」

 

 

 

松島:「・・・どうして。・・・何を間違ってたのか、誰か教えてよ・・・。・・・一人は嫌・・・」

 

 

 

 

松島:「・・・。馬鹿やろーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

松島:「・・・。私の何が悪かったのよーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

松島:「・・・。・・・馬鹿・・・」

 

 

 

 

(足元に何か当たり、松島は下を見る)

 

 

 

 

松島:「・・・あれ? ・・・これって・・・?」

 

 

 

白石:「それ、ボトルメッセージよ。・・・そろそろかなって思って見に来たけど、先を越されちゃった」

 

 

 

松島:「えっ・・・ごめんなさい・・・」

 

 

 

白石:「どうして、謝るの? 今回は、貴方が先だったってだけよ。・・・ほらっ、見つけたんだし、中のメッセージ、読んでみて」

 

 

 

松島:「良いのですか?」

 

 

 

白石:「良いも何も、それは貴方に向けて、届いた物よ。・・・だから早く」

 

 

 

松島:「はい・・・」

 

 

 

松島:「Hello...I hope for your happiness.」

 

 

 

白石:「あなたの幸せを願っています・・・か。・・・良いメッセージね」

 

 

 

松島:「・・・え? これだけ・・・?」

 

 

 

白石:「・・・そうね。・・・言葉は短いけど、・・・これを書いて、海に投げた人は・・・、どんな感情で、投げたとか・・・

    色々、込められた意味を考えるとね・・・」

 

 

 

 

白石:「あ~、・・・私達は決して、一人ぼっちじゃないんだなって・・・。・・・遠いこの海の向こうに、・・・こうして、

    幸せを願ってくれる誰かが居るんだって思うと・・・」

 

 

 

 

白石:「・・・元気が出てこない?」

 

 

 

 

松島:「え? もしかして・・・」

 

 

 

白石:「そのまさかよ。・・・あれだけ大声で、海に向かって叫んでんだもん。・・・何があったの?」

 

 

 

 

(白石の問いかけに再び心を閉じる松島。無言で砂浜に座り海を再び眺める)

 

 

 

 

松島:「・・・」

 

 

 

白石:「そっか・・・。余程の事があったんだ・・・」

 

 

 

松島:「・・・」

 

 

 

白石:「・・・ねぇ、お腹空いてない?」

 

 

 

松島:「・・・今は、食べる元気は・・・」

 

 

 

白石:「・・・そう」

 

 

 

松島:「・・・」

 

 

 

白石:「なら、一つ提案。・・・私ね、この海沿いにあるお店で、イタリアンを作ってるのだけど・・・気が向いたら来て。

    ほらっ、あそこに見える青い屋根の所よ」

 

 

 

松島:「・・・」

 

 

 

 

白石:「・・・じゃあ、そろそろ私、行くね」

 

 

 

松島:「・・・」

 

 

 

白石:「・・・またね」

 

 

 

松島:「・・・」

 

 

 

 

(自分のお店へと戻る白石 一人残されてもずっと無言のまま海を見続ける松島)

 

 

 

 

 

 

 

 

(何時間眺めていただろう。辺りは日が暮れ夕焼けの赤い色と夜の濃い青色が混ざりあい、美しい色になっている

 それを見ている松島)

 

 

 

 

 

松島:「・・・綺麗。・・・でも・・・」

 

 

 

松島:「・・・夜になったら、・・・それで終わりにする」

 

 

 

松島:「・・・それが一番なんだ」

 

 

 

松島:「私なんて・・・居ない方が良い・・・」

 

 

 

 

(やがて辺りは暗くなり、遠くに見える海沿いのお店の明かりだけになる)

 

 

 

 

松島:「そろそろ時間だ・・・。これで、楽に・・・」

 

 

 

(立ち上がり、海の中に一歩ずつ足を運ぶ)

 

 

 

 

松島:「・・・冷たい。・・・でも、心地いい・・・。・・・これで終わる。・・・全て・・・」

 

 

 

(更に深く海の中へと入ろうとした時、背中越しに白石の声が聴こえる)

 

 

 

 

白石:「ねぇ、死んでどうするの?」

 

 

 

 

松島:「・・・え? ・・・どうして?」

 

 

 

 

白石:「さっきの貴方、昔の私と、同じ目をしていたから」

 

 

 

 

松島:「・・・そうですか。・・・でも、もうこれしか思い浮かばないんです・・・」

 

 

 

 

白石:「私も同じだった」

 

 

 

松島:「なら、尚更、放っておいてください。・・・構わないで・・・」

 

 

 

白石:「本当は、誰かに救って欲しいって、貴方は思ってる」

 

 

 

松島:「そんな事、思ってません・・・」

 

 

 

白石:「心が張り裂けるくらい痛いって叫んでる!」

 

 

 

松島:「・・・それを正直に伝えても、・・・相手の迷惑になるだけ・・・。だったら・・・」

 

 

 

白石:「誰かに迷惑かけても良いじゃない! 素直に甘えなさい!」

 

 

 

松島:「そんな簡単に甘えられない・・・! ・・・内心では何を考えてるかわからない・・・」

 

 

 

白石:「・・・人を信じるのは確かに怖い・・・。だけど、お願い! 信じることを諦めないで・・・!」

 

 

 

松島:「そんなの無理・・・」

 

 

 

白石:「無理じゃない! 貴方になら出来る」

 

 

 

松島:「勝手な事ばかり言わないで! ・・・私の何がわかるって言うの!? ついさっき会ったばかりなのに!」

 

 

 

白石:「・・・わからないよ。・・・だから、もっと貴方の事、教えて・・・! 話、聞くから・・・」

 

 

 

松島:「・・・」

 

 

 

白石:「ねっ?」

 

 

 

松島:「どうして、放っておいてくれないの・・・!? ・・・赤の他人でしょ・・・」

 

 

 

白石:「私も今の貴方のように、あの時、救われたから・・・! だから今度は、きっと私が、今の貴方を救う番なの!」

 

 

 

 

松島:「・・・私を救う・・・」

 

 

 

 

白石:「・・・ええ」

 

 

 

 

松島:「・・・」

 

 

 

 

白石:「早く、海から上がってこっちに来て」

 

 

 

 

(白石のその言葉で、海に背をむけ松島の元へ向かう)

 

 

 

松島:「・・・」

 

 

 

白石:「・・・思いとどまってくれて、ありがとう。・・・今まで一人で耐えて、辛かったよね。・・・もう、大丈夫」

 

 

 

白石:「私が側に居るわ。・・・ねっ」

 

 

 

 

(そう言うと白石は、海に入りずぶ濡れになった松島を抱きしめる)

 

 

 

白石:「・・・こんなに濡れて・・・。・・・体もこんなに冷え切ってる」

 

 

 

松島:「私・・・、私・・・」

 

 

 

白石:「良いのよ。・・・わかってるから」

 

 

 

 

(白石の優しさに触れて、今まで耐えていた感情が溢れて来て松島は号泣する)

 

 

 

 

松島:「(号泣)」

 

 

 

白石:「よしよし・・・」

 

 

 

松島:「・・・ごめん・・・なさい・・・」

 

 

 

白石:「うん」

 

 

 

松島:「馬鹿な・・・真似して・・・ごめん・・・なさい・・・」

 

 

 

白石:「うん。・・・私こそごめんね。・・・もっと早くに駆けつけるべきだった・・・」

 

 

 

白石:「それと、私を信じてくれて、ありがとう」

 

 

 

松島:「・・・」

 

 

 

白石:「さてと、このままじゃ、風邪引いちゃう。・・・ねぇ、お店に来て」

 

 

 

松島:「はい・・・」

 

 

 

 

(お店に向かって歩く2人

 店に着くと店内では、ゆったりとしたボサノバが流れている

 店内を見る松島。白石はお店の2階の居住スペースにタオルと着替えを取りに行く)

 

 

 

 

白石:「さぁ着いた。此処よ。私、タオルと何か着る物、用意してくるから、そこで待ってて」

 

 

 

松島:「ありがとうございます・・・」

 

 

 

松島:「・・・素敵なお店。・・・窓の外には、さっきの海が広がってる・・・。・・・良いな・・・」

 

 

 

 

 

 

松島:「お店の名前・・・デルフィーノ・・・」

 

 

 

 

白石:「その名前・・・、気になる?」

 

 

 

松島:「・・・はい」

 

 

 

白石:「じゃあ、話す前に、まずはシャワーを浴びて、着替えて来て。はい、タオルに着替え」

 

 

 

松島:「ありがとうございます」

 

    

 

白石:「奥の階段から2階に上がると、居住スペースになってるわ。

    左側の部屋が来客用だから、そこを使って。バスルームは右側にあるわ。濡れた衣類は、洗濯機に入れて」

 

 

 

松島:「わかりました」

 

 

 

白石:「じゃあ、後で落ち着いたら、お店に下りて来て。待ってるわ」

 

 

 

 

 

 

松島:「この部屋だ。・・・此処から見える海も綺麗・・・。・・・本当、何もかも素敵だ・・・。

    待たせ過ぎても失礼だし、まずは、シャワー・・・」

 

 

 

 

 

 

(シャワーを浴び終え、一息ついた後、着替え終わった松島はお店へ下りてくる

 キッチンでは、待ってる間に着替え終わった白石が、松島の為にホットミルクを作っている)

 

 

 

 

松島:「お待たせしました」

 

 

 

白石:「戻ってきたわね。・・・うん、服のサイズも良いみたいだし、良かった。・・・ほらっ、そんな所に立ったままでなく、

    こっちの椅子に座って。ホットミルクも出来た所よ」

 

 

 

松島:「はい」

 

 

 

白石:「どうぞ召し上がれ。・・・あっ、牛乳は苦手じゃなかった?」

 

 

 

松島:「大丈夫です。・・・いただきます」

 

 

 

白石:「どう?」

 

 

 

松島:「美味しいです。・・・心が落ち着く・・・」

 

 

 

白石:「この街で売ってる蜂蜜が、隠し味よ。ねぇ、お腹空いてるでしょ?」

 

 

 

松島:「・・・はい。・・・あっ、それと・・・」

 

 

 

白石:「何?」

 

 

 

松島:「服、濡らしちゃって・・・ごめんなさい・・・」

 

 

 

白石:「え?」

 

 

 

松島:「着替えられてるので・・・」

 

 

 

白石:「あっ、・・・大丈夫よ。気にしてないわ」

 

 

 

白石:「貴方、名前は? 私は、白石 美波」

 

 

 

松島:「・・・松島 雫」

 

 

 

白石:「じゃあ、雫ちゃんって呼ぶね」

 

 

 

松島:「・・・はい」

 

 

 

白石:「私の事も、気軽に美波って呼んで」

 

 

 

松島:「えっと・・・美波さん・・・」

 

 

 

白石:「ごめんごめん。いきなり呼び捨ては、ハードル高いよね。・・・それで良いわ」

 

 

 

白石:「それで、雫ちゃんは、何か苦手な物はある?」

 

 

 

松島:「特に何もないです」

 

 

 

白石:「偉いわね・・・。わかった・・・。作るから少し待っててね」

 

 

 

松島:「はい。・・・あの、お店の名前・・・」

 

 

 

白石:「あぁ、そうだった。このお店の名前、デルフィーノは、イタリア語で、

    イルカなんだって。此処の前のオーナーが付けた店名よ」

 

 

 

松島:「イタリア語で・・・イルカ」

 

 

 

白石:「イルカが大好きで、いつかお店を持てたら、店名はそうしようと決めてたんだって。

    初めてのお客さんが来るたびに、そう話てたわ」

 

 

 

松島:「そのオーナは、今は?」

 

 

 

白石:「それがね・・・。・・・2年前に病気で亡くなられたわ・・・」

 

 

 

白石:「優しい人柄で、街のみんなからも、慕われてて・・・」

 

 

 

白石:「・・・善人は早くに死ぬって、言葉通りに、亡くなられて・・・」

 

 

 

白石:「亡くなる時も、満足した笑顔でね・・・。・・・こうして、お店を引き継いだ今でも・・・」

 

 

 

白石:「そこのドアが、空いて・・・、ただいまって笑顔で入って戻ってくる。・・・そんな気がしてならないの・・・」

 

 

 

松島:「素敵なオーナーだったんですね。・・・私も会ってみたかったです」

 

 

 

白石:「その言葉、オーナが聞いたら、きっと、喜ぶと思うわ」

 

 

 

松島:「益々、会ってみたくなりました」

 

 

 

 

 

 

白石:「はい、お待たせ」

 

 

 

松島:「これは・・・」

 

 

 

白石:「この海で捕れた新鮮な魚介が一杯の、ボンゴレよ。冷めない内に食べて」

 

 

 

 

松島:「いただきます」

 

 

 

白石:「召し上がれ」

 

 

 

 

 

 

白石:「味はどうかしら?」

 

 

 

松島:「とても美味しいです・・・。・・・私の為に此処まで・・・」

 

 

 

白石:「良いのよ・・・。さぁ、どんどん食べて」

 

 

 

松島:「はい・・・」

 

 

 

 

(松島がボンゴレを食べ終わると、白石は珈琲を入れて問いかける)

 

 

 

 

松島:「ご馳走様でした・・・」

 

 

 

白石:「・・・はい。・・・珈琲。・・・ミルクと蜂蜜はそこにあるから、要るなら入れて」

 

 

 

松島:「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

松島:「・・・美味しい」

 

 

 

白石:「ねぇ、あそこで叫んでた理由、教えてくれる?」

 

 

 

松島:「・・・」

 

 

 

白石:「やはり、まだ駄目かな・・・」

 

 

 

松島:「・・・私。・・・結婚を約束していた彼が居たんです」

 

 

 

白石:「うん」

 

 

 

松島:「結婚式の日取りも決まり、幸せでした。もうすぐ彼の奥さんになるんだって。・・・でも、日にちが近くになるにつれ、

    彼が素っ気ない態度になり・・・。ついには連絡がつかなくなりました・・・」

 

 

 

白石:「今も連絡はとれないの?」

 

 

 

松島:「番号を変えたみたいでとれないです・・・」

 

 

 

白石:「そう・・・」

 

 

 

松島:「私って昔からこうなんです・・・。順調だと思ってても時期に別れたりで・・・。

    今回ばかりは、そんな人生から抜け出せるって思ってただけにショックが大きかったです・・・」

 

 

 

松島:「働いてた会社も、上司や同僚に寿退社する事を伝えた後だったので・・・。・・・やはり結婚は駄目になりましたから、

    残らせてくださいなんて言える訳もなく・・・」

 

 

 

松島:「周りからの同情の目にも、耐えられなくなって・・・。居場所がなくなって・・・辞めちゃいました」

 

 

 

白石:「・・・そうだったのね」

 

 

 

松島:「住んでたマンションも、彼との思い出がいっぱいで、苦しくて・・・。引き払いました・・・。

    それからは、色々な街を点々として、この街に辿り着いた感じです」

 

 

 

松島:「いい加減、何もかも疲れちゃって・・・。死のうって思ってました・・・」

 

 

 

白石:「話してくれてありがとう。事情はわかったわ。そこで、提案なのだけど・・・。ねぇ、良ければ此処に住まない?」

 

 

 

松島:「え?」

 

 

 

白石:「一人だと、色々大変だと思ってたのよ。お店を住み込みで手伝ってくれたら、朝、昼、晩の食事も付けるわ。どうかしら?」

 

 

 

松島:「こんな私でも良いのですか?」

 

 

 

白石:「大歓迎よ。・・・そうやって心を痛めるのは、優しい人間の証拠よ。・・・って、これも前のオーナーの言葉なんだけど・・・。

    どうかしら?」

 

 

 

松島:「わかりました。此処で働かせてください」

 

 

 

白石:「良かった。・・・じゃあ、早速、明後日から宜しくね」

 

 

 

松島:「明日からじゃなくて良いのですか?」

 

 

 

白石:「明日は、この街を案内したり、住むのに居る物を買いに行きましょう」

 

 

 

松島:「あの・・・」

 

 

 

白石:「何?」

 

 

 

松島:「これから、宜しくお願いします!」

 

 

 

白石:「ええ。宜しくね。・・・ほら、もう夜も遅いし、今夜はゆっくり寝てね」

 

 

 

松島:「はい。・・・おやすみなさい。美波さん」

 

 

 

白石:「おやすみ。雫」

 

 

 

 

(松島は2階の部屋に戻って行く

 そのまま残って洗い物をしながら呟く白石)

 

 

 

 

白石:「美波さんっか・・・。少しは打ち解けてきたみたいね・・・」

 

 

 

 

(部屋の窓際のベッドに横になり夜の海を眺めている松島

 波音を聴いてる内に寝てしまう)

 

 

 

 

松島:「・・・此処が、今日から私の居場所なんだ。・・・頑張らなくちゃ・・・。・・・美波さんに迷惑かけないように・・・。ちゃんと・・・」

 

 

 

 

 

(翌日、松島が起きると既に白石は起きて住居スペースのキッチンで昼食を用意していた)

 

 

 

 

白石:「おはよう~。 昨日はよく眠れたかしら?」

 

 

 

松島:「かなりぐっすり寝れました・・・」

 

 

 

白石:「うんうん。ちゃんと健康な証拠よ。安心した」

 

 

 

 

白石:「良いでしょ。雫、そこにあるお皿とってくれる?」

 

 

 

松島:「これですか?」

 

 

 

白石:「そうそう。それよ。こっちに持ってきて。スクランブルエッグよそうから」

 

 

 

松島:「はい」

 

 

 

白石:「ありがとう。・・・ねぇ、雫はベーコンの焼き加減は普通、それともカリカリ派?」

 

 

 

松島:「どちらかと言うと、カリカリ派」

 

 

 

白石:「一緒だ。じゃあ、パンの焼き加減は?」

 

 

 

松島:「外側はサクッと中はしっとり」

 

 

 

白石:「それも一緒。じゃあ、これくらいかな・・・」

 

 

 

松島:「良い感じです」

 

 

 

白石:「よし。じゃあ、後は珈琲を入れてっと」

 

 

 

松島:「う~ん。珈琲の良い香り~」

 

 

 

白石:「ねぇ、朝の珈琲の香りって、これから素敵な一日が始まるんだって気分にならない?」

 

 

 

松島:「今日はどんな日になるんだろうって、ワクワクしちゃいますね」

 

 

 

白石:「それよそれ。私もね、こうしてじっくり時間かけて珈琲を入れてる時、そんな事を考えて楽しくなるのよ」

 

 

 

松島:「素敵な朝の過ごし方ですね」

 

 

 

白石:「ねっ、雫もやってみる?」

 

 

 

松島:「気にはなるけど、止めときます。・・・私、結構不器用で・・・せっかくの珈琲を台無しにしたくないし・・・」

 

 

 

白石:「別に失敗しても良いのよ。失敗から学ぶことも多いし」

 

 

 

白石:「でも・・・そうね。雫がチャレンジしたいって思った時で良いわ」

 

 

 

松島:「美波さんって、優しいですよね」

 

 

 

白石:「そんな事ないわ。私は、ただ雫に何でも新しい事にチャレンジして欲しいだけ」

 

 

 

松島:「それでも、私には十分、優しいです」

 

 

 

白石:「あら、その言葉、覚えとくわ。その内、きっと・・・美波さんの鬼~! とか言うと思うから」

 

 

 

松島:「もう! 絶対、そんな事は言いませんよ~だ」

 

 

 

白石:「言ったわね~。じゃあ、行った時は、何してもらおうかな~」

 

 

 

松島:「美波さんの・・・!」

 

 

 

白石:「何?」

 

 

 

松島:「はっ!? ・・・何でもないです・・・」

 

 

 

白石:「雫ったら、膨れちゃって可愛い」

 

 

 

松島:「別に、膨れてません!」

 

 

 

白石:「そう言う事にしといてあげる。さぁ、出来た。食べましょう」

 

 

 

 

 

(昼食を食べ終えて出かける準備をする白石と松島)

 

 

 

 

 

松島:「ご馳走様でした。はぁ~・・・幸せだ~」

 

 

 

白石:「その気持ちが大事よね~。・・・食べた後ってこの余韻をちょっと楽しんでいたくなる」

 

 

 

松島:「その気持ち、わかります~」

 

 

 

白石:「う~ん、出かけるのは、1時間後にしよっか」

 

 

 

松島:「それまで、のんびりですね」

 

 

 

白石:「ええ。のんびりしましょ~う」

 

 

 

 

 

 

松島(N):「美波さんと居ると、心がどんどん穏やかになるのが分かる」

 

 

松島(M):「私・・・、こんなに笑顔で、笑えるんだ・・・。笑って良いんだ・・・」

 

 

 

 

 

 

(街の雑貨屋 生活に必要な物を買いに来てる二人)

 

 

 

 

白石:「ねぇねぇ、このマグカップとかどう?」

 

 

松島:「もう、美波さんったら、イルカ好きなんだから」

 

 

白石:「だって、こんなに可愛いじゃない! しかも、ペアだし、このマグカップは、今日此処で、私達に巡り合うのを、

    今か今かと、待ってたに違いないわ!」

 

 

松島:「ロマンチックなんですね」

 

 

白石:「そうなのかしら? でも、そう思った方が、何かワクワクしない?」

 

 

松島:「楽しい気分になります」

 

 

白石:「良かった。あっ、あっちにも可愛いイルカのお皿が! あぁ、あそこに置いてある置物も可愛い!」

 

 

松島:「あっ、あの、トングとかも良さそうですよ」

 

 

白石:「雫ったら、センス良いじゃない。よ~し、こうなったら、気になったの全部、買っちゃおう!」

 

 

松島:「え!? お金、大丈夫ですか?」

 

 

白石:「心配無用よ。さぁ、どんどん、籠に入れちゃって!」

 

 

松島:「わかりました」

 

 

 

 

 

 

(雑貨屋を出て、帰り道)

 

 

 

 

白石:「ふ~。大満足~」

 

 

松島:「流石に、買い過ぎたんじゃ・・・」

 

 

白石:「そうかもしれないわね。でも、楽しかったし、気にしない気にしない」

 

 

松島:「美波さんって、意外と計画性、無いですね」

 

 

白石:「こう見えても、昔は計画性あったのよ」

 

 

松島:「昔は?」

 

 

白石:「うん。・・・オーナーと出会うまでは、すぐ人の目気にしたり、何かあれば、計画性の事ばかり考えてて、

    その計画通り、行かなかったら、イラついたり、落ち込んだりしてたわ。

    でも、そんな私を見かねて、オーナーがある日、こう言ったのよ。

    もっと、適当でも良いんじゃないかって。計画通りに行かないからこそ、毎日が、人生は楽しいって」

 

 

 

松島:「・・・」

 

 

 

白石:「そのオーナーの言葉、初めは受け入れることが出来なかった・・・。むしろ、反発しちゃったわ。オーナーは、

    そんなんだから、計画性が無いんですって」

 

 

 

松島:「それは、オーナーも、流石に怒ったんじゃ・・・」

 

 

 

白石:「そう思うでしょ。でも、実際はその逆だった。怒るどころか、

    こりゃ、一本取られた。まぁ、ゆっくりやりなさいって。言って笑ってたわ。

    それからも、オーナーと考え方で喧嘩したりも、多かった。

    でも、ある日、気付いたの。オーナーは、いつも笑顔だけど、

    私は眉間にしわよせてばかりで、笑ってないって・・・」

 

 

 

松島:「それって・・・」

 

 

 

白石:「私ね、計画性ばかり気にして、人生を楽しんでなかったの。

    そればかりか、お客さんへの接客も、不愛想で、効率ばかり考えてた。

    その事に気付いてからは、変わる努力を頑張ったわ。

    毎日、どんなに忙しい時でも、笑顔になれる事、何か一つ探したり・・・。

    結果は、この通り。今では、毎日が楽しくなったわ」

 

 

 

松島:「適当なのも、大事なんですね」

 

 

 

白石:「うん。さっきの雫、良い適当加減だったわよ」

 

 

松島:「え?」

 

 

白石:「トング見つけた時よ」

 

 

松島:「あれは、美波さんが楽しそうで、私もつい・・・」

 

 

白石:「それで、良いのよ。雫は、普段は計画して、あれこれと行動してたでしょ?」

 

 

松島:「何で、わかるのですか?」

 

 

白石:「昨日の感じと、さっきの感じでね。昔の私みたいだって思った」

 

 

松島:「・・・似てるなら、こんな私でも、変われるのかな・・・」

 

 

白石:「この私が、変われたのだから、雫も変われるわよ。私が保証する」

 

 

松島:「本当、適当なんだから」

 

 

白石:「あっ、今、笑ったでしょ?」

 

 

松島:「笑ってない」

 

 

白石:「嘘。絶対、笑ってた。照れちゃって、可愛い」

 

 

松島:「照れてないから」

 

 

白石:「もう、素直じゃないんだから。さぁ、帰って夕食の準備よ」

 

 

 

 

松島(N):「なんて事の無いやり取りだった。だけど、この日から、私の中で、何かが変わった気がした。

       夕食を終え眠りについたけど、珍しく寝る事が出来なかった」

 

 

 

 

 

松島:「う~ん、寝れない・・・。何か飲み物・・・」

 

 

 

松島(N):「キッチンへと向かうと、そこには、同じように寝れないのか、美波さんが居た」

 

 

 

白石:「雫、こんな夜遅くに、どうしたの? もしかして寝れない?」

 

 

松島:「うん・・・。美波さんこそ、寝れないの?」

 

 

白石:「うん・・・。そうなの・・・。だから、作業してた・・・」

 

 

松島:「何の作業? 見て良い?」

 

 

白石:「ただの作業だから、見てもつまらないわよ。ほら、ホットミルク作ってあげるから、

    それ飲んだら、ちゃんと寝なさい。

    明日から、お店の手伝いしてもらうんだから。

    寝不足だと、体、持たないわよ」

 

 

 

松島:「うん・・・」

 

 

 

 

白石:「はい。シナモンも入れてあるから、体も温まれば寝れると思うわ」

 

 

松島:「ありがとう。美波さん」

 

 

白石:「じゃあ私は、先に寝るわね。おやすみ」

 

 

松島:「おやすみ・・・」

 

 

 

 

(翌日 お店の開店準備をしている白石)

 

 

 

 

白石:「今日の仕込みは、これでオッケーね」

 

 

松島:「おはよう」

 

 

白石:「雫、おはよう。あれから、ちゃんと寝れた?」

 

 

松島:「何とか寝れた。でも、まだ眠いよ~」

 

 

白石:「じゃあ、もう少し寝とく? お店の営業は昼からだし、まだ時間あるわよ」

 

 

松島:「美波さんこそ、ちゃんと寝たの?」

 

 

白石:「私は大丈夫。3時間寝たら、平気だから。もう元気元気!」

 

 

松島:「・・・」

 

 

白石:「その顔は、まだ何か訊きたいって感じね」

 

 

松島:「うん・・・。昨日の深夜の事が気になって・・・」

 

 

白石:「雫ったら、気にしたがりなんだから。・・・あの作業は、本当、何でもないんだって。

    だから、気にしないで」

 

 

松島:「わかった・・・」

 

 

松島(N):「何か隠してるのはわかってしまった。でも、それ以上訊くと行けない気がして、

       訊くことが出来なかった。

       昼になると、お店は段々と混み始め、私は手伝いに奮闘していた」

 

 

 

白石:「雫、あちらのお客様の分、出来たから持って行って」

 

 

松島:「はい! ・・・お待たせしました。本日の日替わりランチです。ごゆっくりどうぞ」

 

 

白石:「いらっしゃいませ! こちらのカウンター席にどうぞ! こちらメニューでございます。それと、

    本日の日替わりランチのパスタは、カルボナーラとなっております」

 

 

 

松島:「美波さん、奥の席のお客様、本日の日替わりランチと、ラビオリお願いします!」

 

 

白石:「わかったわ。雫」

 

 

 

 

 

 

松島:「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

 

 

白石:「ふ~。本日の営業、無事終了~。雫、疲れたでしょ? 2階で先に体休めてて良いわよ」

 

 

松島:「ありがとう。美波さん。そうする~」

 

 

 

 

 

 

松島:「ぶふぁ~。接客業って、こんなに大変なんだ~。美波さん、凄いな・・・」

 

 

白石:「お疲れ様。どうだった?」

 

 

松島:「お疲れ様、美波さん。・・・接客業って物凄く大変なのわかった・・・。もう足がパンパンだよ・・・」

 

 

白石:「そう言うと思った。ほらっ、足貸して。マッサージしてあげるから」

 

 

松島:「うん」

 

 

白石:「ねぇ、やって行けそう?」

 

 

松島:「う~ん、この足の辛さ、続くのか~」

 

 

白石:「足の痛みなんて、時期になれるわよ」

 

 

松島:「そうだと良いな・・・。かなり疲れたけど、お客さんと接したり、笑顔を見てると、

    そんな中でも段々と接客が楽しくなってた」

 

 

白石:「雫、接客業、向いてるのかもね」

 

 

松島:「天性の才能かな?」

 

 

白石:「もう、調子にのらない。まぁ、でも、今日来たお客様、みんな笑顔で溢れてたから、才能があるのは認めるわ」

 

 

松島:「やった」

 

 

白石:「ねぇ、雫。・・・雫さえ良ければ、ずっと此処に居ても良いのよ」

 

 

松島:「え・・・?」

 

 

白石:「私は別に迷惑じゃないし、むしろそうなったら嬉しいくらい。

    今まで、一人でお店、やって来たけど、今日は、私自身も、凄く楽しかったし、充実してたわ」

 

 

 

松島:「美波さん・・・」

 

 

 

白石:「それに、まだ先かもしれないけど、私に何かあった時は、このお店、雫に譲りたいって思ったの」

 

 

松島:「お店を?」

 

 

白石:「うん、雫になら、安心して任せられる。引き受けてくれる・・・?」

 

 

松島:「私で良いの?」

 

 

白石:「ええ。雫じゃないと駄目なの」

 

 

松島:「ありがとう。少し考えさせて」

 

 

白石:「わかった。さてと私は夕食の準備するから、雫は先にお風呂入って良いわよ。足の疲れ、癒してらっしゃい」

 

 

松島:「うん。そうするね」

 

 

 

 

 

(お風呂場でさっきの事を考える松島)

 

 

 

松島(M):「これから美波さんと一緒に此処で、この街で暮らす・・・。それも悪くないかも。

       そして、いずれは私が、このお店のオーナー・・・。う~ん、それはまだ決められないな~」

 

 

 

 

 

松島(N):「お店の手伝いをし始めて気付けば2週間が経った。足の痛みも美波さんの言う通り、

       慣れて良き、より一層、お店での手伝いが、楽しいと感じるようになった。そんなある日だった」

 

 

 

 

 

白石:「雫、お店の手伝いもすっかり慣れたわね」

 

 

松島:「美波さんのおかげだよ。教え方上手いし。あ~あ、これで私も料理も手伝えたらな~」

 

 

白石:「う~ん、そうね。じゃあ明日から簡単な料理、教えようかな~」

 

 

松島:「本当に!?」

 

 

白石:「うん! 雫が料理、出来るようになってくれたら、私も助かるわ」

 

 

松島:「私、頑張る!」

 

 

白石:「期待してるわね! さてと、じゃあ夕飯の準備でも・・・。あっ、雫、電話鳴ってるわよ」

 

 

松島:「本当だ。誰からだろう。・・・えっ・・・!?」

 

 

白石:「どうかしたの?」

 

 

松島:「ごめん、美波さん。ちょっと、席、外すね・・・」

 

 

白石:「わかったわ・・・」

 

 

 

 

 

 

松島:「もしもし・・・。・・・久しぶり。・・・今まで何してたの・・・?

    えっ? ・・・だとしても、何で今更・・・。

    私がどんだけ心配してたか・・・。・・・馬鹿言わないで・・・。

    今更、そんな事言われても、信じられない!!!

    え・・・? ・・・無茶言わないで。・・・そんなの無理だから。

    ・・・信じてと言われても、信じる自信無い・・・。

    ・・・待って。そんな事、言われても、困る・・・。

    ごめん・・・。もう切るから・・・」

 

 

 

 

白石:「誰からだったの?」

 

 

松島:「・・・」

 

 

白石:「その感じからすると、婚約者ね・・・」

 

 

松島:「うん・・・」

 

 

白石:「何て言われたの?」

 

 

松島:「やり直そうって・・・。彼、今、イタリアに居るみたいで、そこで二人で暮らそうって・・・」

 

 

白石:「そう・・・」

 

 

松島:「大体、いっつもこうで嫌になっちゃう・・・。我儘で、適当で、計画性も無くて、

    私とも正反対で・・・」

 

 

白石:「・・・」

 

 

松島:「忘れようって何度も思っても、忘れられなかった・・・」

 

 

白石:「でも今更、都合が良すぎじゃない。こんなに雫が、傷ついてたのに、そんな事も知らずに自分の事ばかり優先して。

    そんな婚約者の言う事、信じれるの? また、途中で音信不通になるかもしれないわよ」

 

 

松島:「そうかもしれない・・・。でも・・・」

 

 

白石:「これ以上、雫が傷つく必要なんて無いのよ。此処で私と暮らしましょう。

    そんな婚約者なんて、信用したら駄目よ!

    雫には、そんな都合の良い事、言って陰では、浮気とかも・・・」

 

 

 

松島:「美波さんに彼の何がわかるのよ。・・・彼は変わったかも知れないのに!」

 

 

白石:「変わった? 何が変わるって言うのよ! 一度、音信不通になる男なんて、クズ以下よ!

    そんな男と暮らすより、私と一緒の方が、ずっと幸せよ!」

 

 

松島:「美波さん、最低だよ・・・。クズ以下なんて言う美波さんとなんて、暮らしても幸せになれない。

    過去に何があったか、わからないけど、過去の自分と、私を重ね合わせないで!

    私が幸せかどうかは、私自身で決める!」

 

 

 

白石:「待ちなさい! 雫!!!!」

 

 

 

 

松島(M):「美波さんの馬鹿、馬鹿、馬鹿・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

松島(N):「私は、その晩は、お店へは帰らなかった。とても帰る気分にはなれなかった。

       一夜明けて、置いて来た荷物もあるので、店へ戻ると、美波さんは居なかった。

       私は、荷物をまとめ、店から出ようとした時に、テーブルに私宛の手紙があるのを見つけた」

 

 

 

 

 

松島:「これって・・・。美波さんが・・・?」

 

 

 

白石:「雫へ。私が悪かったわ。これは、せめてものお詫びよ。彼と幸せになってね。美波より」

 

 

 

松島(N):「短い文章と一緒に、同封されてたのは、イタリア行きの航空チケットだった・・・。

       私は、その場で、深く一礼をして、お店を後にした」

 

 

 

(お店を後にする雫を遠くで見つめ静かに心の中で呟く白石)

 

 

 

白石(M):「ごめんね・・・。雫。でも、貴方には貴方の幸せがあるわ。元気でね・・・」

 

 

 

 

 

 

(それから10年後。再びお店のある街に戻って来た松島)

 

 

 

松島:「あれから、もう10年か・・・。この街も、少し雰囲気変わったわね・・・」

 

 

松島(N):「私は再び、この街に戻って来た」

 

 

松島:「ただいま・・・。美波さん・・・」

 

 

白石:「お帰り。雫」

 

 

 

松島(N):「店に入ると美波さんの、元気な声が聴こえた気がした。

       でも、それは気のせいだ・・・。

       彼女は、もうこの世にいないのだから・・・」

 

 

 

松島:「ねぇ、美波さん、あれから色々な事があったのよ。

    そんな中でも、

    美波さんの事が気になって、手紙書いたのよ・・・。

    何通も・・・。それなのに、どうして、返事返してくれなかったの?

    あの時の事、怒ってたの・・・?」

 

 

 

 

松島:「彼とはね、浮気が元で別れたわ。美波さんの言った通りだった。

    暫く幸せは続いたけど、結局、また私は一人ぼっち・・・。

    ねぇ? 何で待ちに待った手紙が、危篤の知らせなのよ・・・。

    私は、どうしたら良いの・・・」

 

 

 

松島(N):「お店を見渡すと、あの時と同じように、私宛の手紙と、

       そして美波さんのノートパソコンがあった」

 

 

 

 

白石:「雫へ。久しぶりね。出来る事なら、もう一度会って、話たかった。

    あの時の事、謝りたかった・・・。

    私ね、あの時、わざと大げさに怒ったの・・・。

    そうしないと、雫はこのまま、私と居る事、決めると思ったから。

    正直言うとね。それも望んでた。だけど、

    彼と幸せになって欲しいとも思った。だから、悩んだけど、

    あんな態度取ってしまったの。本当に、ごめんね・・・。

    雫からの何通もの手紙、嬉しかったわ。

    何度も、返事を書こうと思った。だけど、手紙を出してたら、

    雫の事だから、飛んで帰ってくるかもってわかってたから、出来なかった。

    彼と幸せに暮らしてる所、邪魔したくなかった。

    でも、お店の事も、諦める事は出来なかった。

    私に何かあったら、このお店は無くなってしまう・・・。

    だから、貴方宛ての手紙に、このお店の鍵、同封したの。

    私が死んだ時に、貴方に届くように・・・。

    これは、私からの最後の我儘よ。

    どうか、このお店、【delfino(デルフィーノ)】をお願い・・・。

    それと、あの晩、私のしてた事も、

    パソコン見てもらえたら、わかるのと、

    出来る事なら、続けてもらえたら嬉しいわ・・・。

    パスワードは、delfinoよ。

    最後まで、我儘ばかりで、ごめんね・・・。

    私の大好きな雫へ。美波より」

 

 

 

 

松島:「・・・本当、勝手なんだから・・・。私より、先に死なないでよ・・・。馬鹿・・・」

 

 

 

 

松島(N):「パスワードを打ち込みパソコンを見ると、そこには、彼女の思いが詰まっていた。

       美波さんは、悩みを抱えている人達の為に、

       相談サイトを作り、毎晩相談に親身になって、応えていたのだ。

       私は、一つの相談に目がいった」

 

 

 

 

松島:「この相談にだけ、返信がされてない・・・。どうして・・・」 

 

 

 

松島(N):「日付を見ると、彼女が亡くなった翌日だった。私はその相談に返信した」

 

 

 

 

松島:「お返事遅れてごめんなさい。決して、忘れていたわけじゃないの。

    実は、この相談サイトの管理人は、事故で亡くなりました。

    だから、今これを書いてるのは、彼女の代理人です。

    私は、雫。海辺の街で、イタリアン料理のお店をやっています。

    良ければ、一度、会いに来ませんか? 待ってます」

 

 

 

 

 

松島(N):「私は、お店の住所も一緒に書いて返信した。けれども、返信は帰って来なかった。

       それでも、毎日、海に行ってはボトルメッセージを探したり、その相談サイトに届く、

       悩みに返信を続け、更に10年が経ったある日。

       海に行くと、あの時の私のように、一人の女性が海に向かって叫んでるのを見かけた」

 

 

 

 

松島:「あれって・・・、もしかして・・・」

 

 

 

白石:「ほらっ、雫。行ってあげて」

 

 

 

松島(N):「波音と一緒に、美波さんの声が聴こえた気がした」

 

 

 

松島:「でも・・・」

 

 

 

白石:「あの時の貴方みたいに、助けを求めてるわ。声をかけてあげて。ほらっ、勇気を出して! 今度は貴方の番よ!」

 

 

 

松島:「うん。そうだね。行って来るね。美波さん」

 

 

 

白石:「行ってらっしゃい。雫!」

 

 

 

 

 

 

松島:「こんにちわ。ねぇ、何かあったの? 私もね、昔、此処で貴方のように叫んでた事があったから、

    つい、声かけちゃった。・・・えっ、delfinoの雫さんに会いに来た?

    そっか、ちゃんと私のメッセージ、届いてたんだ。

    ようこそ、delfinoへ。貴方が来るの、待ってたわ。

    ねぇ? お腹空いてない? お店で、貴方のお話、伺うわ。こっちよ」

 

 

 

 

 

 

 

松島(M):「ねぇ、美波。そっちで見守ってて。私は、これからもあのお店で、

       貴方の意志を引き継いでいくわ。

       いつか、天国で再会した時は、笑顔で、頑張ってねって、褒めてよね

       私の大好きな美波へ。雫より」

       

 

 

 

 

終わり