Marguerite

 

 

作者:ヒラマ コウ

 

 

 

 

登場人物

 

 

マーガレット 本名:光輝(こうき)38歳・・・・物語の主人公 高校のある出来事後にノンケからゲイに目覚める。 

                        BARマーガレットを経営し今は日々過ごしている。

                        目覚めて色々経験してく内に女言葉を使うようになった。

 

ローズ 25歳・・・・BARマーガレットの店員。

           見た目はダルマのように太ってるけど、愛嬌が良くお店のマスコット的なキャラ。

           イケメンを見るとすぐアプローチして度々マーガレットを困らせる。

           だけど、本当は凄く優しい性格。

 

 

朋子(ともこ)38歳・・・・光輝とは幼馴染で好意を抱いてる。女手一つで一人息子の春斗を育ててる。

              苦しい時も笑顔を絶やさず周りからはパワフルな印象と見た目の若さで噂の的。 

 

 

春斗(はると)18歳・・・・朋子の息子。高校生で真面目な性格。生まれた時からの環境により

              朋子に心配かけたくないと何でも我慢しているうちに優しいけど

              どこか遠慮がちな性格になっていった。

 

 

 

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マーガレット:

 

ローズ:

 

朋子:

 

春斗:

 

 

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春斗(N):これから始まるのは俺とある人との恋の話。

      ある人とは、誰かと言うと・・・

      それは、まだ俺がこの世に生まれてない時代から始まる・・・。

 

 

 

(1994年 高校3年生の春 学校に向かう途中)

 

 

 

朋子:ちょっと先に行かないで待っててよ~。

 

光輝:おっせーなー。朋子を待ってたら、始業式に間に合わないじゃんか。

 

朋子:そんな事言ったって・・・、だいたい迎えに来るのが遅いのが悪いんじゃん!

 

光輝:それを言うならお前が朝の準備に戸惑っていつまでも待たすのが悪いんだろ!

 

朋子:今日から3年だって思ったら中々寝つけなかったの!

 

光輝:は?お前な~。3年になるんだから少しは・・・

 

朋子:はいはい!朝からうるさい!

 

光輝:逆切れかよ!あったまきた!先に行くからな!

 

朋子:え?うそ?ちょっと待ってよ~!!!

 

 

(高校内 クラス発表の掲示板前)

 

 

朋子:ふ~、間に合った~。

 

光輝:よっ!遅かったな!

 

朋子:この薄情者~!あんたは良いわよ!自転車だし急げば余裕で間に合うじゃない!

   私は歩きなのよ!どれだけ急いで走ったと思ってんの!!!

 

光輝:じゃあ、お前も自転車通学にすればいいじゃん。

 

朋子:出来るならそうしたいわよ!だけど、悔しい事にぎりぎり自転車通学許可の距離に

   届かないから歩きなのよ・・・!!!

 

光輝:あはははは!お前もつくづく運が無いな。

 

朋子:笑う事ないでしょ!少しは可哀想と思って後ろに乗せてくれたりしても良いんじゃない!?

 

光輝:あ、それは無理。先生にばれると俺まで歩きで通学になっちまう。

 

朋子:それでも良いじゃない。

 

光輝:嫌だよ。

 

朋子:なんで?

 

光輝:歩きでとかかったるい。

 

朋子:この~!

 

光輝:痛っ!いきなり殴るなよ!

 

朋子:あ~ら、ごめん遊ばせ!手が勝手に動いちゃった。

 

光輝:おまえ、それ絶対わざと・・・

 

朋子:あ~!光輝見て見て!!!

 

光輝:今度はなんだよ。

 

朋子:新しいクラス一緒だよ。

 

光輝:まじで?

 

朋子:うん♪

 

光輝:朋子と一緒なんて小学校以来だな。

 

朋子:そうだね。中学はなぜか3年間同じクラスにならなかったもんね。

 

光輝:そうそう。高校に入ってからも別々で、俺達このまま高校も一緒にならないで

   卒業か?って思った。

 

朋子:うん。でもこうしてまた同じクラスになれた。これから1年間よろしくね。光輝。

 

光輝:こちらこそよろしくな。朋子。

 

 

 

(1994年 冬  通学路 帰宅途中)

 

 

朋子(N):季節はあっという間に過ぎて、クリスマスイヴ。

      私はある決心をして光輝と待ち合わせしていた。

 

 

光輝:悪い!待ったか?

 

朋子:ううん。私も今来た所。

 

光輝:思うんだけどさ。クリスマスイヴに幼馴染のお前と毎年カラオケってのも芸が無いよな。

 

朋子:そうね。その事なんだけど今回は提案があるんだ。

 

光輝:おっ?カラオケ以外の楽しい事か?

 

朋子:うん・・・。その・・・。

 

光輝:なんだよ。勿体ぶらないで言えよ。

 

朋子:あのね、今日家に親いないんだ。だからさ・・・、家でクリスマスパーティーしない?

 

光輝:良いな。じゃあ折角だからお酒でも買っていくか♪

 

朋子:うん。シャンパン飲んでみたいな♪

 

光輝:わかった。任せとけ。

 

朋子:ごめん。じゃあ先に帰って食べ物の用意しとくね!

 

光輝:了解!

 

 

 

(朋子の家)

 

 

 

SE:インターフォン

 

 

光輝:よっ!シャンパン買ってきたぜ!

 

朋子:ありがとう♪今開けるから待ってて。

   お待たせ♪

 

光輝:おう♪

 

朋子:部屋で待ってて。すぐに料理持ってくから。

 

光輝:わかった。あっ、シャンパングラスも忘れずにな!

 

朋子:大丈夫、もう準備済み♪

 

光輝:用意が良いな!

 

朋子:それほどでも~♪

 

 

(朋子の部屋)

 

 

 

 

朋子:お待たせ~。腕によりをかけて作った料理を見よ!

 

光輝:お~!すげーな!美味そう♪

 

朋子:へっへーん!どうだ!

 

光輝:朋子、料理出来たんだな。意外。

 

朋子:意外って何よ!これでも夕飯の手伝いとかしてるんだからね。

   あまりにも美味しくて、泣いちゃわないでよ~?

 

光輝:ばーか!そんな事が起こるわけないだろう。

 

朋子:ふふふふ、冗談よ♪ さあ、冷めないうちに食べて。

 

光輝:それじゃあお言葉に甘えて。いただきまーす♪

 

朋子:召し上がれ♪

 

光輝:おっ♪上手い!上手いよ!好みの味だ♪

 

朋子:良かった♪あっ、光輝。シャンパン。

 

光輝:そうだった!シャンパングラスは?

 

朋子:これでどうかな?

 

光輝:良いんじゃないか?じゃあ注ぐぞ。

 

朋子:うん。

 

光輝:よし、こんなもんかな。では、かんぱーい!

 

朋子:かんぱーい!うーん、美味しい♪

 

光輝:おいおい、そんなに一気に飲んで大丈夫か!?

 

朋子:大丈夫よ~♪凄く飲みやす~い♪

 

光輝:なら良いけどさ。

 

 

 

 

光輝:ふ~。食った食った。

 

朋子:満足?

 

光輝:大満足♪

 

朋子:良かった♪

 

朋子(M)光輝喜んでくれてる!良い雰囲気だし

     今日こそはちゃんと言ってみようかな。

 

光輝:どうしたんだ?真剣な顔して?

 

朋子:・・・あのさ、光輝聞いて。実は私ね。ずっと前から・・・

   光輝の事が好き。

 

光輝:え?

 

朋子:光輝はさ・・・私の事どう思ってる・・・?

 

光輝:・・・。

 

朋子:・・・。

 

光輝:俺は・・・。

 

朋子:他に・・・好きな子がいる?

 

光輝:いいや。俺も・・・朋子の事が好きだ。

   正直に言うと、家に招待された時から、もしかしたらって思ってた。

 

朋子:じゃあ・・・。

 

光輝:こんな俺でも良いのか?

 

朋子:光輝じゃないと嫌・・・。

 

光輝:・・・ありがとう。

 

 

 

 

朋子:ねえ、抱きしめて。

 

光輝:うん・・・。

 

朋子:緊張してる?

 

光輝:馬鹿。緊張しないわけねえだろ・・・。

 

朋子:ふふふ、そうだね。

 

光輝:苦しくないか?

 

朋子:平気。光輝の体、温かくて気持ち良い♪

 

光輝:あのさ・・・。

 

朋子:良いよ。

 

光輝:え?

 

朋子:・・・もう。最後まで言わせないで・・・。

   私だって・・・恥ずかしいんだから。

 

光輝:ごめん・・・。わかった・・・。

   朋子、大好きだ。

 

朋子:うん。私も光輝が大好き。

 

 

 

朋子(N)その夜は幸せな時間だった。光輝と心も体も繋がれて、

     私はこの2人の時間が永遠に続いて欲しいと願った。

     だけど運命は想像してたよりもはるかに残酷な展開を私達に示したのだ。

 

 

 

光輝(N)確かにあの時まで俺は朋子を愛していた。だけど、その後の出来事が

     俺の人生を変えてしまったのだ・・・。

     それは、帰りの満員電車での事だった。いきなり男の人に後ろから股間を触られ、わけもわからないまま

     男に触られ続け・・・、気づけば俺は・・・何とも言えない快感に心も体も支配されていった・・・。

     そして、その快感を知ってからというもの・・・、俺は男との快感を毎日求め続けた・・・。

 

 

 

朋子:光輝、一緒に帰ろうよ。

 

光輝:悪い・・・。俺、ちょっと用事あるからまた今度な。

 

朋子:うん・・・。なんかさ、最近付き合い悪いよね?

   もしかして、私より好きな人出来た?

 

光輝:・・・。

 

朋子:それならそうとちゃんと言ってよね!

   その時はさ、私も諦めるし・・・。

 

光輝:・・・。

 

朋子:・・・。

 

光輝:話はそれだけか?ごめん、俺行くよ。じゃあ、またな。

 

朋子:うん、またね・・・。

 

 

朋子(M)どうして・・・?何があったの?光輝がなんだか遠くに感じる・・・。

     このままどんどん距離が離れていずれは一緒に居られなくなるなんて・・・

     嫌だよ・・・。どうして、私・・・諦めるし、なんて心に思ってない事言ったんだろう。

     本当は・・・好きで、好きで、たまらないよ・・・。光輝・・・。

     

 

光輝(M)俺はいったいどうしたら良いんだ・・・。朋子を傷つけたくない・・・。

     だけど、気付いてしまった・・・。朋子に話かけられても、

     朋子に側に寄られても、前みたいな心臓が高鳴る感覚が無い。

     それなのに、見知らぬ男に抱きしめられる度に

     なんとも言えない幸福感と快感を感じてしまい、

     それが恋しくなり男を探したくなる・・・。

     俺は・・・いったいどうしたっていうんだ・・・!

     苦しい・・・。だけど、あの快感が欲しくてたまらない・・・。

     この衝動に抗えない・・・。

     欲しい・・・。もっと味わった事の無い快感が欲しい・・・!

 

 

 

朋子(N)それから更に月日は流れ、気づけば卒業式の2か月前になってた。

     あれだけ幸せだったのが嘘だったかのように

     光輝は私と一緒の時間を過ごさなくなった・・・。

     お互い学校でも声もかける事も無く

     わけがわからないまま容赦なく時間だけが過ぎて、とうとう卒業式・・・。

     私は、このまま光輝と終わるなんて嫌だった・・・!

     だから・・・勇気を振り絞って卒業式の帰り道に声をかけた。

 

 

 

(1995年 高校卒業式 帰り道)

 

 

朋子:光輝。

 

光輝:・・・。

 

朋子:一緒に帰らない?今日で高校最後なんだし

   思い出にさ。

 

光輝:・・・。

 

朋子:光輝、待って!なんで無視するの!?

   私、何か悪い事した・・・?お願い!!!答えて!!!

 

光輝:・・・。

 

朋子:私が悪いなら謝る!それに何か気に入らない所あるなら努力して変わるから!

 

光輝:・・・違う。

 

朋子:え?

 

光輝:朋子は何も悪く無い・・・。

 

朋子:じゃあ・・・なんで?どうして!?

 

光輝:・・・。

 

朋子:黙ってたらわからない!他に好きな子が出来たの・・・?

 

光輝:違う・・・。

 

朋子:ならどうして・・・。

 

光輝:俺は・・・。

 

朋子:え?

 

光輝:もう朋子を愛せない・・・。

 

朋子:どういう事・・・?だって私達あんなに・・・!

 

光輝:それはもう過去だ。もうあの時には戻れない・・・。

 

朋子:そんな・・・。

 

光輝:俺が全部悪いんだ・・・。朋子は・・・他の人と幸せになってくれ。

 

朋子:そんなの・・・、嫌だ!

 

光輝:俺といてもお前は幸せになれないんだ!お前を不幸にしたくない・・・!

   お願いだからわかってくれ・・・。

 

朋子:なんで・・・そんな事言うの!?ねえ!!!どうしてなのよ!!!

   私は、今でも光輝の事が大好きだよ!愛してるのに・・・!

 

光輝:・・・。話はそれだけだ。もうこの先・・・二度と会う事も無いだろう。

   ごめん・・・。朋子・・・幸せになってくれ。さよなら・・・。

 

朋子:待って!!!!光輝!!!置いてかないで!?・・・私どうしたらいいの!?

   こんなの酷過ぎるよ・・・!!!!

   光輝!!!!!!!!!

 

 

朋子(N):その卒業式を境に光輝とは音信不通になった・・・。

      今どこで何をしてるのかさえわからない・・・。

      私は・・・暫く何もする事が出来なかった。

      愛してた人に訳もわからないまま捨てられ・・・

      いっその事、死んでしまおうとも考えた・・・。

      だけど・・・私はそうする事は出来なかった・・・。

      そして季節は流れ・・・。

 

 

 

(2015年 夏 BARマーガレット 店内)

 

 

 

マーガレット:いつまでだらけてるつもり?お店OPENの時間なんだから

       さっさと準備なさい!

 

ローズ:だって~ママ。この暑さの中、出勤したばかりよ~ん。

    もう少し休ませて~ん。ローズ倒れて死んじゃ~~う。

 

マーガレット:あんたみたいなのが死んじゃう?馬鹿は休み休み言いなさい。

       そんな下らない事言う元気があるなら、お店の冷房止めるわよ!

 

ローズ:やっだ~~ん!ママの意地悪~!そんな性格だからいつも男に逃げられるのよ~ん!

 

マーガレット:なんですって!?今の言葉もう一度言ってみなさい!

 

ローズ:や~よ~ん!そんな事したら私の事ぶつに決まってるわ~ん!

 

マーガレット:わかってるじゃない。それが嫌ならさっさと準備する!ほらほら!早く!動~く!

 

ローズ:もう!わかったわよ~ん!これで倒れて死んだらママの枕元に出てやる~~~!!!

 

マーガレット:あんたなんて死んでも願い下げよ!枕元に出たら次の日に引っ越すわ。

 

ローズ:ひっど~~い!

 

 

SE:お店のドアを開けて閉める音

 

 

マーガレット:いらっしゃいませ。・・・あら?初めての方かしら?どうぞ。

 

春斗:はい・・・。こういう店初めてでどうしたら良いかわからなくて・・・。

 

マーガレット:最初は誰でもそうよ。捕って食ったりはしないから。さあ好きな席に座って。

 

春斗:素敵なお店ですね。

 

マーガレット:ふふふ。ありがとう。お客さん、お名前は?

 

春斗:あっ、えっと、春斗です。

 

マーガレット:春斗。素敵な名前ね。

 

春斗:ありがとうございます。

 

マーガレット:それで?こっちの世界に目覚めたのはいつ頃から?

 

春斗:実は・・・、まだよくわからないんです。女性が好きなのか男性が好きなのか・・・。

 

マーガレット:そうなのね。話続けて。

 

春斗:悩んでた所にこの店を見つけて。何度も入ろうとしたのですが・・・、常連客が多くて

   なんだか怖くて入る事出来なくて・・・。

 

マーガレット:うん。

 

春斗:そうやって悩んでる中、今日もお店を外から覗いたら・・・、そうしたら常連客がいなくて

   チャンスだと思って入りました。

 

マーガレット:そうだったの。

 

春斗:はい・・・。

 

 

 

 

春斗:あの!これからもお店に来て良いですか?

 

マーガレット:え?なんでそんな事聞くの?

 

春斗:だって、俺まだどちらが好きなのかわからないし・・・。お店の常連客の雰囲気にも慣れれるかわからないし・・・。

 

マーガレット:馬鹿。来ても良いわよ。いつでも来なさい。

       ・・・ここはね。新たな出会いの場。それこそ、貴方みたいに悩んでる子も多く来るわ。

       今はどちらでも良いじゃない!男が好きか女が好きか・・・なんて。

       ゆっくりと決めれば良いのよ。

 

春斗:ありがとうございます・・・。ママ。

 

マーガレット:ちょっと。誰がママよ?私は貴方を産んだ事も無いし、ママになったつもりも無いわよ!

       私の名前はマーガレットよ。マーガレットと気軽に呼んでちょうだい。

 

春斗:わかりました。マーガレット・・・さん。

 

マーガレット:さんも付けなくても良いわよ。まったく・・・、もう少しリラックスしなさい。

       自由にして良いのよ。

 

春斗:はい・・・。

 

 

ローズ:ママお待たせ~~♪ やっだ~ん!! 超可愛い子発見!!!

 

マーガレット:ローズ。遅かったじゃない。あまりにも遅いからサボって外で男でも探してるのかと思ったわよ。

 

ローズ:そんなわけないじゃな~い♪そ・れ・よ・り、ママこの人だ~れ~ん?

 

マーガレット:新しいお客さんで名前は春斗さんよ。

 

ローズ:春斗さんか~♪素敵な名前ね。私はこの店の店員のローズよ~ん♪

    気軽にローズでも~、親しげにローズちゃん♪でも好きに呼んでね~ん♪

    お客さんみたいなイケメンに言われたら、私、それだけで妊娠しちゃ~う♪

 

春斗:え・・・。

 

マーガレット:ちょっと!下品過ぎよ。初めてのお客様で、まだお店にも慣れてないのよ。

       もう少し、テンション抑えなさい。だいたい、声だけで妊娠してたらキリが無いわよ!

 

ローズ:は~~い。もう、ママったら考えが固いんだから♪私達は愛を運ぶキューピットなのよ~ん♪

    お客様に夢♪と希望♪と性欲♪を・・・!

 

マーガレット:最後が余計よ。何がキューピットよ。ダルマみたいな顔してるくせに笑わせないで頂戴。

 

ローズ:ちょっと~ん!ママ酷過ぎ~~!!

 

春斗:あはははは!

 

マーガレット:その笑顔よ。それが大事なのよ。

 

春斗:え?笑顔?

 

マーガレット:確かに、お店の雰囲気や常連と慣れる事も大事・・・。だけど一番大切なのは、自分自身が心から楽しむ事よ。

       そうしないと周りも楽しくないし、第一、貴方は笑顔の方が素敵だわ。

 

春斗:マーガレットさん・・・。

 

ローズ:そうよ~ん♪春斗さんの笑顔、超タイプかも~♪これからもこのお店に来てね~ん♪

    なんなら指名も同伴も、それ以上も・・・。

 

マーガレット:ちょっとローズ。今日のまかないはそんなに無しが良いかしら?

 

ローズ:やだやだやだ!もうママ、冗談よ~ん!ごめんなさ~~い!!!

 

マーガレット:まったくこの子は。本当どうしようも無くて困るわ・・・。

 

春斗:まあまあ。ローズさんも反省してるみたいですし。

 

マーガレット:ローズには気を付けなさい。何かあったら遠慮せずに言うのよ。

 

春斗:何かあったらって・・・。

 

ローズ:ママ~♪春斗さんに飲み物何出せば良い~?

 

マーガレット:まだ聞いてないわよ。

 

ローズ:OK♪じゃあ聞いとく~。ねえ~、春斗さんは何歳~?

 

春斗:年齢ですか?えっと・・・。

 

ローズ:なあに?年齢は非公開とか~?

 

春斗:えっと、今年で二十歳です・・・。

 

ローズ:やっだ~ん♪年下♪ますますタイプかも~ん♪じゃあお酒もOKね~ん。何にする?

 

マーガレット:待ちなさいローズ。春斗、私には嘘は通じないわよ。

       本当の年齢はいくつ?

 

春斗:それは・・・。

 

マーガレット:・・・。

 

春斗:・・・18歳です。

 

ローズ:やっだ!未成年なの?

 

春斗:はい・・・。

 

ローズ:じゃあお酒は駄目ね~ん。

 

春斗:・・・あの、お店も入店禁止ですよね?

 

マーガレット:・・・。

 

ローズ:ママ~ん?

 

春斗:そうですよね・・・。未成年がこんな所に来たら迷惑かけますよね・・・。

   今日はありがとうございました。帰ります・・・。

 

マーガレット:待ちなさい。

 

春斗:え?

 

マーガレット:誰が帰りなさいって言ったかしら?

 

春斗:でも・・・。

 

マーガレット:居てもいいわよ。・・・わかってると思うけど、本来のお店であれば未成年者は入店禁止。

       それを知ってたから二十歳なんて嘘付いたのよね?

 

春斗:・・・はい。

 

マーガレット:身分証を提示してと言われたらどうするつもりだったの?

 

春斗:その時は・・・今日は忘れましたって・・・。

 

マーガレット:無理。考えが甘過ぎ。そんな嘘すぐにばれるわ。

 

春斗:そうですよね・・・。

 

マーガレット:本来であれば、ここも入店禁止にしなければ行けないのかもしれないわ。

       だけど、安心して。うちは口頭でしか年齢は聞かないから。

       それに嘘をついてる人は、その表情を見てたらわかるのよ。

 

ローズ:ママったらさすが~ん♪私も頑張ろ~うと。

 

マーガレット:そうよ。あんたはもう少しお客を見極める目を磨きなさい。

 

ローズ:は~~い。

 

マーガレット:これからも来ても良いわよ。ただし、これだけは必ず守ってもらえるかしら?

       未成年の間は絶対にお酒はお店では出せないし頼んだら駄目。

       お店に来るお客やローズと仲良くなるのも自由だけど、お酒は絶対に駄目。

       わかったかしら?

 

春斗:わかりました。必ず守ります。

 

マーガレット:良い子ね。さ~て、改めて何を注文する?ソフトドリンクの中から選んで。

 

春斗:はい。じゃあ、えっと、カルピスを。

 

ローズ:カルピスね~ん♪私もカルピス大好き♪ちょっと待っててね~ん♪

 

マーガレット:お腹は空いてない?食べ物も用意出来るわよ。

 

ローズ:ママのね~、お手製焼きそばは絶品よ~ん♪

    余りにも美味しくて何皿でも食べちゃうから困っちゃうくらい~♪

 

春斗:ふふ、それは少し食べてみたいかも。

 

マーガレット:あんたはいつも食べ過ぎなのよ。

       まかないだからって言っても少しは遠慮って物を覚えなさい。

 

ローズ:固い事言わないでよ~ん♪美味しい物はいくらでも食べたいのよ~ん♪

 

マーガレット:あんた、このままじゃ、ローズじゃ無くてロースに名前変えるわよ。

       そう言う体型好きな人にはモテモテになりそうだからこの案も良いかも知れないわね~。

 

ローズ:ママの意地悪~。私が好きなのは春斗さんみたいな痩せてるイケメンよ~ん♪

    は~い♪カルピス、お・ま・た・せ♪

 

春斗:ありがとございます。案外、ロースって名前も似合うかもしれませんよ♪

 

ローズ:春斗さんまで~。もう二人ともひっど~~~い!!!

 

マーガレット:ふふふ。

 

春斗:はははは!!!

 

マーガレット:それでどう?焼きそば食べてみる?

 

春斗:はい。ロースさんのおすすめだし!

 

ローズ:もう~!!!私の名前はローズよ~ん!!!

 

 

 

春斗(N):初めてのBARはとても温かい雰囲気で、マーガレットさんもローズさんも

      凄く良い人で心が落ち着いた。マーガレットさんのお手製焼きそばは

      とても美味しくてどこか懐かしい味がした。

      ローズさんがおかわりしたくなるのもわかるかも!

      楽しい時間はあっという間に過ぎ俺は2人に別れを告げて帰宅した。

      まだ興奮がおさまらない。この気持ちはいったい何なんだろう・・・。

 

 

 

 

(夏 BARマーガレット 店内)

 

 

 

SE:お店のドアを開けて閉める音

 

 

 

ローズ:いらっしゃいませ~♪ あら~ん♪春斗さん♪この前はどうも♪

 

春斗:ローズさんこんばんわ。マーガレットさんは?

 

ローズ:ママは~、少し遅れるみたいよ~ん。

 

春斗:そうですか。しかし・・・この暑さは参りますね・・・。

 

ローズ:本当よ~ん。お店の冷房ももう少し温度下げたいわよね~ん。

 

春斗:え?温度下げれないのですか?

 

ローズ:違うのよ~ん!ねえ、ちょっと聞いてよ~ん。ママったらね、やれ地球が温暖化する!とか

    体に悪いから駄目!とか節約!とか、うるさくて下げさせてくれないのよ~ん。

 

春斗:マーガレットさんらしい♪

 

ローズ:でしょ~ん。おかげで、もう暑くて暑くて私、アイス5本目よ~ん。

    春斗さんも食べる~?

 

春斗:ローズさんたら食べすぎですよ・・・。え?良いんですか?

 

ローズ:良いのよ~ん♪これはお店のでは無くて私達スタッフ用だから自由に食べてOKよ~ん♪

 

春斗:そうなんですか。じゃあお言葉に甘えて。

 

ローズ:はい♪召し上がれ~♪はあ~、暑~~い。28℃設定とかまじであり得な~い。

 

春斗:そうですか?余り下げ過ぎても外との気温差もありますし、体に悪いですよ。

 

ローズ:え~、春斗さんまでそんな事言うの~?もう~勘弁してよ~ん!

 

春斗:はははは。ごめんなさ~い、ローズさん。

 

 

 

 

ローズ:はああああ~。決めた~ん。もう1本アイス食べる~!

 

春斗:ちょっとローズさん、さすがに6本目は・・・

 

マーガレット:そうよローズ。あんた食べ過ぎよ!今月の給料からアイス代、天引きしとくわ。

 

ローズ:ママ、おはよう~。って!そんな~~~!!!!

 

マーガレット:そんな~~って言っても無駄よ。だいたいアイスもタダで買えるわけでは無いのよ。

 

ローズ:わかってるけど~。暑いから欲しくなるのよ~~ん。

 

マーガレット:まったくあんたって子は・・・。あら?春斗じゃない。いらっしゃい。

 

春斗:マーガレットさんこんばんわ。今夜も来ちゃいました。

 

マーガレット:貴方もすっかり常連ね。ゆっくりしてって頂戴ね。

 

春斗:はい。

 

ローズ:はい♪ママの分のアイス♪

 

マーガレット:今は要らないわ・・・。それよりローズ、お水と胃薬持ってきて頂戴。

 

ローズ:良いけど、ママ大丈夫?なんか辛そうだけど・・・?

 

マーガレット:ちょっと気持ちが悪くなっただけよ。少し休めば治るわ。

       あたしも年なのかしらね。

 

ローズ:ママはまだまだ若いわよ~ん。じゃあ持ってくるから、ママはここに座ってて。

 

マーガレット:わかったわ。ありがとう。

 

春斗:大丈夫ですか・・・?

 

マーガレット:大丈夫よ。暑い中来たから少し疲れただけよ。

       それより、飲み物は注文した?

 

春斗:まだです。えっと、じゃあコーラを。

 

マーガレット:わかったわ。すぐに用意するから待ってて。

 

春斗:え?マーガレットさん急がなくても良いですよ。

 

マーガレット:平気よ。心配しないで。これくらい出来るわ・・・。はい・・・おまた・・・せ・・・。

 

 

SE:倒れる音

 

 

春斗:え?ちょっと!マーガレットさん!!!

 

マーガレット:・・・。

 

春斗:マーガレットさん!!!!

 

ローズ:ちょっと~、どうしたの大声で?・・・きゃあああああああああああああああ!!!!!!!!

    ママ!!!!!しっかりして!!!!!

 

春斗:ローズさん落ち着いて!

 

ローズ:ママ!!!ママ!!!目開けて!!!死んじゃ嫌だあああああああああああ!!!!

 

春斗:・・・凄い熱だ。(抱きかかえる)ローズさん大至急!タクシー呼んでくれますか!?

 

ローズ:それなら救急車の方が~!!

 

春斗:いいえ!一刻も早く病院に連れて行かないと!タクシーで俺が病院まで運びます。

 

ローズ:わかったわ。お店の方は任せて。ママ目当ての常連客が来たら上手く接客しとくわ。

 

春斗:よろしくお願いします。これ、俺の携帯番号です。

 

ローズ:結果がわかったらすぐに知らせてね・・・。ママ・・・。

 

春斗:わかりました。必ず連絡します。

 

 

 

 

 

ローズ:タクシー来たわよ。

 

春斗:はい。それじゃあ行って来ます。

 

ローズ:うん。ママの事よろしくね・・・。

 

春斗:はい。

 

 

 

 

 

(病院内病室 ベッド)

 

 

 

 

マーガレット:・・・ううん。・・・ここはどこ・・・?

 

春斗:気づかれましたか?ここは病院のベッド・・・です。

 

マーガレット:病院・・・?

 

春斗:マーガレットさんはお店で倒れて・・・それで俺がここまでタクシーで。

 

マーガレット:タクシーで・・・。そうだったの。ごめんなさい・・・。

      

春斗:気にしないでください。お医者さん曰く検査などもあるので1週間くらいは

   このまま病院で安静にとの事です。

 

マーガレット:1週間・・・。

 

春斗:ええ。

 

マーガレット:駄目よ・・・。わたしは倒れてるわけにはいかないの・・・。こうしてる間にも常連客はやってくる。

       そんな人達に、そして・・・ローズに迷惑をかけるわけにはいかないのよ・・・。

 

春斗:マーガレットさんは頑張り過ぎです・・・。

 

マーガレット:・・・どうして?

 

春斗:もっと自分を大事にして下さい・・・。マーガレットさんの倒れた原因は・・・極度の過労と風邪によるものです。

   もう少し、休んでも良いんじゃないんですか?こんな倒れるまで一生懸命になって頑張らなくても・・・。

 

マーガレット:そんな事、貴方に言われなくてもわかってるわ・・・。でも無理よ。あのお店は私とローズしかいないし

       今の経営上、バイトの店員を雇う事も出来ない・・・。私が頑張るしかないのよ・・・。

 

春斗:だったら・・・俺が働きます・・・。

 

マーガレット:何を言ってるの・・・?

 

春斗:皿洗いでも接客でも何でも言ってください!俺の出来る事なら何でもします!

 

マーガレット:馬鹿な事は言わないで。無理よ。

 

春斗:どうしてですか!?俺、体力ならありますし、接客だって未経験だけどちゃんと覚えます!

 

マーガレット:簡単に言うんじゃないわよ!貴方が思ってるほど簡単な事では無いの。

       接客は勿論の事、酔ったお客様の相手をしたり、もしかしたらお店出た後も誘われるかも

       しれないし危険なのよ・・・。未成年の貴方にそんな真似させられないわ・・・。

 

春斗:俺、もう大人です。自分の事は自分でなんとか出来ます!

 

マーガレット:甘えた考え言わないで頂戴!それ以外にもあるわよ。

       お酒も飲めないのにお客様の相手が出来るわけないじゃない。

 

春斗:俺、お酒は飲んだ事あるんで平気です。それに見た目も周りより大人に見えますし

   20歳でもばれないです。だから働かせてください。勿論お金は要りません!

 

マーガレット:春斗、私との約束破るつもりなの?

 

春斗:こんな時まで何いってるんですか!今はそんな事言ってる場合じゃ無いでしょ?

   このままじゃ、マーガレットさん・・・、またこんな風に倒れて・・・、今度は無事でいれるのか

   どうかもわからないんですよ・・・。俺・・・あのお店が無くなるの・・・

   マーガレットさんが倒れて死んじゃうのなんて見たくないです・・・。

 

マーガレット:春斗・・・。

 

春斗:・・・。

 

マーガレット:お店の事は大丈夫よ。何とかするから・・・。でも、心配してくれてありがとう。

       今日はもう遅いわ。親御さんも心配するだろうし帰りなさい。

 

 

 

春斗:俺、実は父親がいないんです・・・。

 

マーガレット:・・・え?

 

春斗:俺が生まれた時には既に居なくて・・・母が女手一つでここまで育ててくれました・・・。

   決して裕福な家庭では無かったです・・・。だけど、俺は母が大好きです。

   いっぱい俺の為に苦労して来てる所も小さい頃から見て来ました。

   だけど・・・、やはり父親がいなくて寂しかった・・・。

   周りはみんな父親も居て、幸せそうで・・・。

   羨ましかった・・・。

 

 

マーガレット:・・・。

 

春斗:でも・・・、母にそんな気持ちは伝えられなかった・・・。一生懸命頑張ってる母を辛い気持ちに

   させたく無かったから・・・。

 

マーガレット:・・・お父さんとは別れたか何かなのかしら?

 

春斗:違います・・・。一度だけ気になって母に聞いた事あるのですが、俺が生まれる前に・・・不慮の事故で亡くなったそうです・・・。

 

マーガレット:そう・・・。じゃあ顔も見たこと無いの?

 

春斗:写真も無いか聞きました。だけど残ってないって言われました。父は写真が苦手だったみたいで・・・。

 

マーガレット:そうなの・・・。

 

春斗:それで・・・、いつの間にか父親って存在に・・・。年上の男の人に惹かれてたんだと思います。

 

マーガレット:それって・・・。

 

春斗:はい。俺はマーガレットさんの事、父みたいにいつの間にか想っていました。

 

マーガレット:どうして?私なんかに・・・。それこそちゃんとした年上の男が他にもいっぱい・・・

 

春斗:あのお手製焼きそば・・・。

 

マーガレット:え?

 

春斗:あの味がどこか母の作る焼きそばに似てるんです。それで、なんか嬉しくてそう思ったのかもしれません。

 

マーガレット:・・・。

 

春斗:ごめんなさい。俺ってば変な話しして・・・。焼きそばの味なんて手作りなら似ますよね。

   でもマーガレットさんの事、父のように思ってるのと

   同時に、もしかしたら好きなのかもしれないです。

 

マーガレット:え?

 

春斗:マーガレットさんが倒れた時、目の前が真っ暗になりました。そして凄く心が痛みました・・・。

   後は無我夢中で冷静さをローズさんの前では装いましたが今にも泣きだしそうなくらい不安でたまらなかった・・・。

   マーガレットさんが死んでしまうかと思うと心が張り裂けそうで・・・苦しくて・・・。

 

 

マーガレット:春斗・・・。

 

春斗:俺はマーガレットさんの事が大好きです。これからもずっと一緒にいたいですしそれ以上にも・・・。

 

マーガレット:それ以上って・・・。

 

春斗:こう言う事です。(マーガレットの頬にキスをする)

 

マーガレット:・・・。

 

春斗:これが今の精一杯の俺の気持ちです・・・。

 

マーガレット:・・・。ありがとう春斗。私も・・・春斗の事が好きなのかもしれない・・・。

       年も離れているしいけない事とはわかってても

       どんどん気持ちは惹かれていくわ。私、こんなのよ。それでも良いの・・・?

 

春斗:今のままのマーガレットさんが大好きです。これからは俺と一緒に残りの人生過ごしてください。

 

マーガレット:プロポーズのつもり?

 

春斗:ええ。変でしたか?

 

マーガレット:大人に感じたわ。まだまだ十年早いわよ。でもありがとう・・・。

 

春斗:はい。じゃあ俺、ローズさんにマーガレットさんの診察結果伝えて来ます。

   そして今夜は遅いので、そのまま帰ります。

 

マーガレット:わかったわ。春斗ありがとう・・・。

 

春斗:マーガレットさんは一日も早く退院出来るようにちゃんと寝て下さいね。

 

マーガレット:子供じゃないんだから言われなくてもそうするわよ。

 

春斗:それもそうですね。じゃあまた明日来ます。おやすみなさい。

 

マーガレット:ええ。おやすみなさい。春斗。

 

 

 

マーガレット(N):一周り以上も離れてる春斗に私はいつの間にか恋していた。

          いえ、最初からだったのかもしれない・・・。

          ローズが春斗に強引にアプローチするたびに茶々を入れて

          邪魔をしたわ。我ながら大人げないとは思うけど・・・、

          その時は気付いたらそうしてたの。

          やはり私、我儘ね。気に入った玩具を取られそうになって

          怒る子供みたい。だけど今最高に幸せ。

          やっと人生を共に出来るかもしれないパートナーに巡りあえたのだから。

 

 

 

 

 

(病院 玄関ロビー ローズにマーガレットの検査結果を電話する春斗)

 

 

 

 

春斗:もしもし、ローズさん。

 

ローズ:もう~、春斗さんってば連絡遅すぎ~。

 

春斗:すみません。それで検査結果なのですが、過労と夏風邪によるもので念の為に1週間ほど入院になりました。

 

ローズ:やっぱりママ、無理してたのね~。春斗さん、お店は心配しなくて大丈夫よ~ん!

    こういう時の団結力って強いものなの。ママが倒れたっての聞いて周りのお店の人達も

    ママが退院するまでお店手伝ってくれることになったわ。

    だから、安心してね。

    

 

春斗:そうなんですね。ローズさんありがとうございます。俺も今夜は遅いので帰ります。

   お店の事は明日マーガレットさんに伝えます。

 

ローズ:わかったわ~ん♪おやすみなさい、春斗さん。夜遅いから寄り道したら駄目よ~ん♪

    ローズとの約束♪

 

春斗:わかりました。ちゃんと真っ直ぐ帰りますよ。

   おやすみなさい、ローズさん。

 

 

 

春斗(N):ローズさんにはマーガレットさんとの事は伝えなかった。

      今はまだ伝え無い方が良い気がして。

      これから先の事はまだ正直わからない・・・。

      だけど今凄く幸せな気分だ。

      この幸せがずっと続いて欲しいと俺は願った。

 

 

 

 

(春斗の自宅)

 

 

 

春斗:母さんただいま~。

 

朋子:おかえり、春斗。またあんた何処かで遊んでたんでしょ?

   夜遊びなんかしてたら駄目なんだからね!

 

春斗:わかってるよ。友達の家でゲームしてて遅くなっただけだよ。

 

朋子:なら良いけど。あまりお母さんを心配させないでね。

   お腹空いてるでしょ?すぐに夕飯にするから。

 

春斗:今夜は何作ったの?

 

朋子:ふふふ。春斗の大好物よ♪

 

春斗:俺の大好物?もしかして♪ステーキ?

 

朋子:ぶー、残念。はずれー♪

 

春斗:え~。じゃあ何なんだよ。

 

朋子:まだ秘密~♪早く手洗いとうがい済ませて来なさ~い!

 

春斗:まったく、良い年こいて秘密かよ~。

 

朋子:良い年って、私はまだ若いわよ♪春斗を産んでから20年経ったけど

   「まあ!奥さんったらその若さの秘訣は何か教えて~!」とか近所のおばさんから言われるんだからね♪

 

春斗:はいはい。それを俗に言うお世辞って言うんじゃ・・・

 

朋子:なんですって~!!

 

春斗:やば!!!じゃあ手洗い行って来ま~す!

 

朋子:こら!待ちなさい!!!春斗!!!・・・まったく誰に似たのだか・・・。

   あれから20年か・・・。本当なんだか色々あったけど・・・あっと言う間だったな・・・。

 

 

 

 

春斗:母さ~ん、手、洗ってきたよ~!

 

朋子:じゃあ座ってて。

 

春斗:うん。

 

朋子:じゃーん!おまたせ~♪

 

春斗:何かと思って期待してたら、焼きそばかよ~。

 

朋子:何よ!その言い方~。あんた昔から好きじゃないの~!

 

春斗:好きだけどさ~。

 

朋子:あっそう。いやなら食べなくても良いのよ~!

   白飯だけでせいぜい食べてなさい!

 

春斗:えええええ!母さんそれは無いよおおおお!

 

朋子:いやならさっさと文句言わずに食べなさい!冷めちゃうわよ。

 

春斗:うん。いただきま~す♪

 

朋子:召し上がれ♪

 

 

 

 

春斗:なあ、母さん・・・。質問して良い?

 

朋子:な~に突然、どうしたのよ。何かあった?

 

春斗:・・・あのさ、この焼きそばって俺以外に誰かに食べさせた事てある?

 

朋子:え?

 

春斗:いや、なんか気になっちゃって・・・。

 

朋子:ふふふ。おかしな子ね~。母さんね。この焼きそばにはね、だいぶ救われたのよ。

 

春斗:どういう事?

 

朋子:母さんのお母さん・・・つまり春斗のおばあちゃんから、作り方教えてもらったのだけど

   私も昔から大好きで小さい頃どんなに嫌な事があってもこの焼きそばを食べるだけで幸せになれたものよ♪

 

春斗:へ~。

 

朋子:それに・・・、美味しい♪て出会う沢山の男性に言われたし~♪

 

春斗:はあ~、はいはい。

 

 

朋子:父さんとも仲良くなって春斗が産まれて・・・

   だからこの焼きそばは私の大事な料理なのよ♪

 

春斗:父さんもこの焼きそば食べたの?

 

朋子:あたりまえでしょ!何おかしな事言ってるのよ~。

 

春斗:てことは、その沢山の男性の中に俺の父さんが・・・

 

朋子:そうなるわね~。それで、何でいきなりこんな事聞いたの?

 

春斗:それは・・・。

 

朋子:それは?

 

春斗:実は最近行ってるお店があって・・・。

 

朋子:え?どんなお店?

 

春斗:それは今はまだ言えないのだけど・・・、そのお店で食べたお手製焼きそばが母さんの焼きそばと味似てたんだ。

 

朋子:・・・え?

 

春斗:だからなんか不思議で・・・。気になって聞いたんだ。

 

朋子:そうだったの・・・。へ~、そんなに似てるのなら母さんもそのお手製焼きそば食べてみたいな。

 

春斗:ええええ!

 

朋子:あら?駄目なの?何、春斗、母さんが入ったらいけないようなお店に出入りしてるんじゃ・・・。

 

春斗:とにかく!今は駄目!そのうちに教えてあげるから。

 

朋子:なんだか知らないけどまあ良いわ。楽しみにしてるわね♪

 

春斗:わかったよ。御馳走様~。

 

 

 

 

ローズ(N)全て上手く行くなんてそう簡単におこらないわ~ん♪

      だけど私達は、その数少ない幸せを願って、足掻いて足掻き続けるの。

      例え何度フラれても、めげずに羽ばたき続けるのよ~ん♪

      ママも1週間の入院が終わり無事に退院してほっとしたわ~ん♪

      でも、正直、ママと春斗さんがあの日に付き合いはじめてたの聞いた時は

      ビックリしたわよ~ん♪まさかとは思ってたけど~、まったく嫌になっちゃう!

      だけど・・・羨ましいと同時に、幸せそうなママの姿を見てホッとしたわ~ん♪

      あ~ん♪私のまだ見ぬダーリンはどこで道草食ってるのよ~ん♪

      早くしないとローズ干からびちゃ~う!

      

 

 

 

(BARマーガレット 店内)

 

 

 

マーガレット:それでどうするつもり?

 

春斗:どうって?

 

マーガレット:お母さんの事よ。付き合ってる事もまだ言ってないのでしょ?

 

春斗:うん。

 

ローズ:思い切って言ってみたらどうなの~ん?

 

春斗:それも考えたのですけど、中々言えなくて・・・。

 

マーガレット:これじゃいつまでたっても解決しないわね。

       春斗、来週お母さんを連れて来なさい。

 

春斗:え?

 

マーガレット:いつまでも隠しとうせるわけないでしょ?

       こういう事は先延ばしにしてたら言うタイミング逃す物なのよ。

 

ローズ:それもそうよね~。私も微力ながら手伝わせてもらうわ~ん♪

 

春斗:ローズさん。

 

マーガレット:良い?来週よ。大丈夫。きっと上手く行くわ。

       春斗、そんなに心配しないで。

 

 

春斗:うん・・・。

 

 

 

(春斗の自宅)

 

 

朋子:お帰りなさい。

 

春斗:・・・。

 

朋子:ぼーっとしてどうしたのよ?

 

春斗(M)マーガレットさんはああ言ってたけど、母さん俺達の事受け入れてくれるかな?

     ショックで傷つけたりしないかな・・・。

 

朋子:春斗、ますは座りなさい。

 

春斗:うん・・・。

 

朋子:そんな深刻な顔して何か私に言いたい事でもあるの?

 

春斗:えっと・・・。

 

朋子:もう!はっきりしないわね!男なんだからしっかりしなさい!

 

春斗:ごめん・・・。

 

朋子:この子ったら、馬鹿ね。謝らなくていいのよ。

   それで何かしら?

 

春斗:実は、この前話したBARの事なんだけど・・・

   そこの方が母さんと会ってみたいから来週連れて来てって。

 

朋子:そのBARって・・・例の私の焼きそばの味と似てる場所の事ね。

 

春斗:うん・・・。

 

朋子:・・・。

 

春斗:駄目かな・・・?

 

朋子:良いわよ。来週ね。時間空けとく。

 

春斗:ありがとう。母さん。

 

朋子:良いのよ。春斗、話たかったのはそれだけ?

   他にも何かあるんじゃない?

 

春斗:え?

 

朋子:まだ険しい顔してるからなんとなくそう思ったのよ。

 

春斗:・・・ごめん。詳しくは来週話すよ。

 

朋子:わかった。来週楽しみにしてる。

 

春斗:うん。

 

 

春斗(N)その時にはどうしてもマーガレットさんとの関係は母さんには伝えれなかった・・・。

     そしてあっという間に時間は過ぎ、約束の日になった。

 

 

(1週間後 BARマーガレット 道路近く)

 

 

朋子:いよいよなのね♪私と同じ味のお手製焼きそばか~。

   どこまで似てるかじっくり検証してやろうじゃないの!

 

 

春斗:もう母さんたら、余計な事は言わないでね。

 

朋子:余計な事って何よ~。私は厳選に味の審査を・・・。

 

春斗:母さん着いたよ。

 

 

(お店の派手なピンクのネオンや雰囲気を見て、普通のBARと思ってた

 

 朋子は疑問に思い、春斗に問いかける。)

 

 

朋子:え?・・・ここって?BAR?

 

春斗:うん、詳しい説明は中でするからとにかく入って。

 

朋子:うん・・・。

 

 

SE:お店のドアを開けて閉める音

 

 

ローズ:いらっしゃいませ~♪ 春斗さん待ってたわよ~ん♪ お母さんも初めまして~♪

    私の名前はローズよ~ん♪今、ママ呼んでくるわね~ん♪

 

朋子:ここって・・・

 

春斗:母さん良いから座って。(遮るように)

 

朋子:良いからじゃないわよ!これはいったいどう言う事なの!?

   あなた、ゲイになったの・・・!??

 

春斗:母さん・・・。

 

ローズ:お待たせしました~ん♪うちのママのマーガレットで~す♪

 

 

マーガレット:ようこそ、初めまして。春斗のお母さ・・・

 

マーガレット:!!!! 

 

朋子:!!!!!

 

(二人同時に驚愕)

 

 

春斗:母さんどうしたの?

 

ローズ:ママ~どうしたの~ん?

 

 

 

 

マーガレット:貴女・・・、朋子なのね・・・。

 

朋子:・・・もしかして、そうじゃないかとは思ってた。でもまさか予想が的中するなんて・・・。

 

マーガレット:・・・。

 

朋子:ずっと探してたのよ・・・。あれからずっと・・・。

 

マーガレット:ええ・・・。

 

朋子:それが20年経ってこんな場所で再会なんて・・・。

 

マーガレット:本当・・・。運命って残酷なものね・・・。

 

春斗:いったいどういう事?

 

朋子:ごめん・・・。春斗。少し母さんマーガレットさんと話があるの・・・。

   お店の外に出てて。

 

春斗:なんでここにいたら行けないんだよ?

 

朋子:後で説明するから・・・!お願い外で待ってて・・・!

 

春斗:わかった・・・。

 

マーガレット:ローズ、あんたも春斗と一緒に外で待ってなさい。

 

ローズ:なんだか知らないけど・・・、わかったわ~ん。

    行きましょ・・。春斗さん。 

 

(2人を交互に見て心配そうに春斗と外へ)

 

 

春斗:うん・・・。

 

 

 

 

(春斗、ローズ お店外へ退場)

 

 

マーガレット:これで私達2人きりよ。さあ、言って。私に言いたい事があるんでしょ・・・?

 

朋子:なんで・・・、よりにも寄ってこんな事になったの?答えて!光輝!!!

 

マーガレット:話すと長くなるわ・・・。それでも良いかしら?

 

朋子:ええ・・・。

 

マーガレット:あれは、高校卒業前の1か月前だったわ。

       帰りの満員電車でね、男の人に痴漢されたの・・・。

       だけど、その時何とも言えない快感に襲われて

       気づいたらその快感の虜になってたわ。

 

 

朋子:・・・。

 

 

マーガレット:それからはその快感が忘れられなくて・・・

       男の人に出会っては快感を楽しんだわ。

       その時は凄く幸せなの。

       だけど・・・一夜限りの相手。

       別れてしまった後は何とも言えない罪悪感と虚しさが

       襲ってきたわ・・・。

       だけどね、またその快感が欲しくて欲しくてたまらなくて

       男の人を探し続けたわ・・・。

       

 

 

朋子:・・・。

 

 

マーガレット:そんな事を繰り返す内に気づいちゃったのよね・・・。私は男の人が好きなんだって。

       勿論・・・初めは葛藤もあったし、貴女への罪悪感もあったわ。だけど・・・

 

朋子:だけど?

 

マーガレット:そう言う気持ちになっても、快感を求めたくてたまらなくなって

       自分で自分の衝動を抑えることが出来なかったの。

       そんな自分を貴女に気づかれたくなくて

       距離を置いたのよ・・・。

 

 

 

朋子:そうだったのね・・・。ずっと私悩んでた・・・。

   あの日を境に貴方はまるで別人のように

   学校で声をかけても無視して・・・、わけがわからなかった。

   もしかしたら私にも何か原因があるのかもとも考えた。

   一晩中寝れなくて・・・どうしようもなく不安で・・・。

   でも、諦めたく無かった・・・。

   だってどんなに無視され続けても・・・光輝の事好きだったから・・・。

 

 

マーガレット:本当にごめんなさい・・・。貴女の気持ちはわかってたわ・・・。

       でも気持ちに答える事は出来なかった・・・。

 

 

朋子:じゃあ・・・!なんであの時!そうはっきり言ってくれなかったの???

   貴方がその事を素直に伝えてくれてたら・・・っ!!!

 

マーガレット:怖かったの!!!・・・貴女を傷つけるのが・・・。そして自分自身も傷つくのが・・・。

       卑怯でしょ?でも・・・そうするしか無かった・・・。(自嘲気味に)

 

       だって男の人に抱かれる為に毎日出会い探してたなんてそう簡単に言えるわけが無いし・・・

       貴女だって・・・納得するわけないってわかってた・・・。

       だから卒業式も本当なら・・・貴女と話さないで帰ろうと思っていたわ。

 

 

朋子:でも、そうは出来なかった。私が声をかけたから・・・。

 

マーガレット:ええ、そうよ。

 

朋子:だって・・・卒業式を終えたら本当にお別れになっちゃうし・・・

   居ても立っても居られなかった。私を無視し続けた理由(わけ)をちゃんと

   聞きたかった・・・。

 

マーガレット:声かけられた時はどうしようも無く怖かったわ・・・。

       本当の事伝えたら貴女を傷つけるのがわかってたから・・・。

 

 

朋子:それでも・・・その時に光輝がその事を素直に告白してくれてたら・・・

   私はこの長い間ずっと悩まなくて良かった。

 

マーガレット:ごめんなさい。あの時、貴女に男の人に抱かれていたなんて告白したら・・・

       貴女がその事を受け止められないのがわかってたわ。

       だから私は・・・言わなかったの・・・。

       いいえ。違うわね。恐くて言えなかったの・・・。

       言ったら貴女は完全に壊れてしまうのがわかってたから。

 

朋子:そうね・・・。あの頃の私が理由(わけ)を聞かされたらこの世にいなかったかもしれない・・・。

   貴方が去った後、私は絶望でしかなかった。もう生きているのでさえ辛かった・・・。

   だけどね・・・私は死ねなかった・・・。なんでかもうわかるでしょ・・・?

 

マーガレット:ええ・・・。春斗ね・・・。

 

朋子:・・・そう。春斗が私のお腹にいるとわかった時に、一人でも育てようと決心したの。

   どんなに苦しくても、この子が一人前になるまで、私が一人で立派に育てようって。

   だって・・・光輝の残してくれた、たった一人の大切な命だから・・・。

 

マーガレット:そんな春斗に私は恋をした・・・。運命の神様って本当残酷ね・・・。

       私の罪を赦(ゆる)してはくれなかった・・・。

       貴女を自分の我儘で傷つけて・・・怖くて・・・、

       貴女のいる街からこの街に逃げて来て・・・

       一から人生をやり直そうと足掻いて足掻き続けて・・・

       最初は勿論大変だった・・・。年上の男を好きになって・・・

       初めての同棲を経験したわ。だけど上手く行かなくて別れて・・・

       次には年下の男の子に恋をしてまた別れて・・・

       そう言う出会いを繰り返してる内になんだか疲れちゃって・・・

       そんな時に入ったのが今のBARなの。

       初めは戸惑ったわ。女言葉で話すママにその店員。

       全てが未経験で・・・。でも気づいたらね。そんな雰囲気に癒されてたの・・・。

       そしてやがてそこで働くようになり・・・色々なお客様と接してる内に

       私もこう言うお店を持ちたいと思うようになってた。

       そしたらね・・・、それを待ち望んでたかのようにママがこの店を私に譲ってくれたの。

       そして更に時が過ぎて、このお店にローズが来て経営は厳しかったけど・・・

       毎日が充実していたわ。

       そして今年の夏、春斗に出会った・・・。

 

 

朋子:・・・。

 

マーガレット:このまま全てが上手く行くと思ったわ。だけど・・・そうもいかないようね・・・。

 

朋子:・・・春斗にはこの事伝えるの?

 

マーガレット:ええ、伝えるわ。だって実の息子とこのまま恋なんて出来ないでしょ・・・?

       これは、私への罰なのよ・・・。貴女を傷つけた罰・・・。

 

朋子:光輝・・・。

 

マーガレット:朋子、・・・2人を呼んできて。

 

朋子:・・・わかったわ。

 

 

SE:お店のドアを開けて閉める音

 

 

(朋子 退場)

 

 

マーガレット(M)これで良いの・・・。もう終わりにしないと・・・。ごめんね・・・春斗。

         貴方を傷つける事になるのはわかってるわ・・・。

         だけどこんな私を許して・・・。

 

 

 

(店の外)

 

 

 

朋子:春斗・・・。お待たせ。

 

春斗:母さん、マーガレットさんと何話してたの?

 

朋子:それも中で話すわ。さあ二人とも戻っていいわよ。

 

春斗:わかった。

 

ローズ:行きましょ。

 

 

 

SE:お店のドアを開けて閉める音

 

 

 

マーガレット:お帰りなさい。2人とも待たせたわね。

 

ローズ:暑い中、外はきつかったわよ~ん。ママ~。

 

マーガレット:ごめんなさいね。ローズ。

 

春斗:マーガレットさん、母さんと何を話してたのですか?

   俺らの事は・・・?

 

マーガレット:慌てないで、春斗。これから話す事は凄く大事な事なの。

       ちゃんと最後まで聞いてくれるかしら?

 

春斗:わかりました。

 

マーガレット:私は・・・、春斗と出会って恋をして凄く楽しかったわ。

       だけど、そんな夢のような時間も今夜で終わり。

       私はね・・・春斗、貴方の父さんよ・・・。

 

春斗:え・・・?

 

マーガレット:私は・・・高校の頃、貴方のお母さん、朋子と付きあってたの。

       幼馴染だったんだけど徐々に好きなって高校3年生のクリスマスイヴに

       一夜を共にしたわ。そしてその時に出来たのが春斗なの。

       そうよね?

 

朋子:ええ、そうよ・・・。

 

春斗:そんな・・・。

 

マーガレット:そのまま何も起こらなければ私は、貴方の父親として朋子と親子3人で

       家庭を築けたと思うわ。だけど私は男に目覚めこの世界に入った・・・。

       だから・・・私は朋子の前から去ったの。

       そしてこの街に来て、時を経て、貴方に出会った・・・。

 

春斗:じゃあ・・・あのお手製焼きそばが懐かしかったのも・・・。

 

マーガレット:朋子が私に得意げに何度も作ってたから、いつの間にかあの味を覚えちゃってたのね。

       あの時に春斗が母さんの味と似ていると言った時にまさか・・・とは思ったわ。

       だけど・・・そんなはずが無いって思い続けた・・・。

       貴方に病院で告白された時も・・・嬉しい気持ちの反面、その事が頭によぎったわ・・・。

 

春斗:・・・だから今夜、母さんを連れて来てと言ったのですね。

 

マーガレット:確かめたかったの。そうじゃ無いって、別人だって・・・。

       だけど、別人じゃ無かった・・・。

       運命って本当・・・残酷よね・・・。

       本気で好きになり始めた男が・・・まさか実の息子だなんて・・・。

 

春斗:俺の父さん・・・。なんで・・・。よりにもよってマーガレットさんなんですか・・・!

   どうして・・・。

 

朋子:ごめんね・・・春斗。私が今日ここに来たかったのも全てを確かめる為だったの。

   春斗にこの前、母さんのお手製焼きそばに味が似ている人がいると言われた時に

   まさか!って思ったの。だけど・・・もう20年も前の話だし別人かなとも思ったわ。

   でもね・・・、光輝だとしたら・・・母さんね・・・、もう一度会いたいって思ったの。

   それがこんな結果になってしまって・・・本当にごめんね・・・春斗。

 

春斗:母さんは悪く無いよ・・・。俺を今まで弱音を吐かずに育ててくれた・・・。

   凄く感謝しているよ。だけど・・・本当は父さんって存在に憧れてた・・・。

   母さんは、父さんの事聞いても事故で亡くなった以外は話さないから、

   薄々おかしいなとは思ってた・・・。だけど母さんを傷つけたくなかったんだ・・・。

 

 

朋子:春斗・・・。母さんこそごめんね。春斗が父親って存在に憧れてたのも気付いてた。

   私が出かけてる間にこっそり部屋の中を探してたのも・・・。父さんの写真を探してたのよね?

 

春斗:うん。どんな人か顔を見たかった・・・。

 

朋子:写真はね。貴方に見つからないように1枚だけ財布の中に入れてたの・・・。

   本当はこの1枚の写真も破り捨てた方が良かったのかも知れない・・・。

   でもね、どうしても出来なかった。私は・・・光輝の事が忘れられなかった・・・。

 

春斗:・・・。

 

朋子:実の父親に訳もわからないまま捨てられて・・・今は音信不通なんて事、伝えられなかった・・・。

   だから事故で死んだ事にしたの。

   だって春斗を傷つけたくなかったから・・・。

 

マーガレット:朋子が貴方に私の事を事故で亡くなったって言ったのも貴方を傷つけない為ね・・・。

 

春斗:母さん・・・。

 

マーガレット:私は二人を傷つけてしまったわ・・・。本当、どしようもない馬鹿よね・・・。

       許して欲しいとは言わないわ。だけどこれだけは言わせて頂戴。

       朋子、春斗を産んでくれてありがとう・・・。

       そして春斗、こんな私を好きになってくれてありがとう・・・。

 

朋子:・・・光輝。

 

春斗:・・・。

 

 

長い間

 

 

朋子:春斗、母さん先に帰るね。ちゃんと光輝と、いいえ、お父さんとゆっくり話しなさい。

   そしてちゃんと家に帰ってくる事。わかった?

 

春斗:・・・うん。わかったよ。母さん。

 

朋子:じゃあそう言う事で。それじゃあね、光輝。

   春斗の事よろしくね。

 

マーガレット:ええ。朋子またいつでも来なさい。

 

朋子:う~ん、それは考えとく。

 

マーガレット:・・・わかったわ。

 

朋子:じゃあね。

 

 

SE:お店のドアを開けて閉める音

 

 

(朋子 退場)

 

 

ローズ:ママ~ん♪元気を出して~ん♪

 

マーガレット:ありがとう。ローズ。悪いけど今日はもう上がって良いわよ。

       明日からまたよろしくね。

 

ローズ:わかってるわよ~。ママ。私はママの事もこのお店の事も来る常連客も大好き♪

    そして春斗さんも、春斗さんのママも。みんなが大好き♪

    だから、これからもみんな一緒ね♪約束だからね~ん♪

    じゃあ、お先に失礼しま~す♪

 

 

(ローズ退場)

 

 

マーガレット:ローズなりの励ましみたいね。本当あの子も心配性で不器用なんだから。

 

春斗:でもそこがローズさんの良い所ですよね。

 

マーガレット:そうね。

 

 

 

 

春斗:・・・。

 

マーガレット:・・・。ごめんなさい・・・。春斗。

 

春斗:なんで謝るんですか?

 

マーガレット:私は春斗の事が好きだった・・・。いえ、今も好きよ・・・。

       だけど、今日で終わり・・・。

 

春斗:そうですね・・・。マーガレットさん、最後に俺の我儘聞いてもらって良いですか・・・?

 

マーガレット:・・・何かしら?

 

春斗:マーガレットさん、俺を強く抱きしめてください・・・。

 

マーガレット:・・・良いわよ。

 

 

(マーガレットは春斗を強く抱きしめる。)

 

 

 

 

春斗:マーガレットさん、好きになってくれてありがとう・・・。

   短い恋だったけど幸せでした・・・。

 

マーガレット:ええ。春斗、好きになってくれてありがとう・・・。

       この恋はこれで終わるわ・・・。だけどね春斗・・・。

       これからも恋をしなさい・・・。

       勿論・・・私も恋をするわ。

       これは2人の約束よ・・・。

 

 

春斗:・・・はい。わかりました・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

マーガレット:春斗。このお店は無くならないわ。また来たい時に来なさい。

       待ってるわ・・・。

 

春斗:・・・はい。

 

マーガレット:じゃあ朋子も心配するだろうし、帰りなさい。じゃあね・・・。

 

春斗:マーガレットさん・・・。まだ、今すぐ受け止めきれるかはわかりませんが・・・

   気持ちの整理が付いたらまた会いに来ます。今度はその時にはマーガレットさんの事を・・・、父さんと・・・

 

 

マーガレット:駄目よ。(春斗の言葉を遮るように)

 

春斗:わかりました。じゃあ、今日は帰ります・・・。

 

マーガレット:お店では私はマーガレットよ。覚えときなさい。だから・・・お店の外でね。

 

春斗:・・・はい!じゃあ、帰ります。マーガレットさん。また。

 

マーガレット:ええ。またね。春斗。

 

 

SE:お店のドアを開けて閉める音

 

(春斗退場)

 

 

 

 

 

 

マーガレット(N)これで良かったのよね・・・。本当運命の神様って残酷・・・。

         だけど・・・今回は感謝しないといけないのかしら。

         だって、私の罪を・・・全部では無いけどこうして20年経った今

         こうして償うチャンスをくれたのだから・・・。

         まだ・・・正直この先、春斗と朋子とどう接していけば良いかわからない・・・。

         だけど、きっと乗り越えられる。

         今はそう信じて前に進むわ。

 

         

春斗(N) 俺の短いけど記憶にいつまでも残るひと夏の恋は終わりを告げた。

      マーガレットさん、いや父さんの事をすぐに受け入れられるかわからないけど

      この先、色々な事があると思うけどきっと乗り越えられる。

 

 

朋子(N)光輝の事は正直驚いたけど・・・こうしてまた巡りあう事が出来た。

     今すぐには受け入れられるか自信無いけど・・・、

     春斗とそして光輝と3人でじっくり今後の事を話していこうと思う。

     今はそれが今後の私の目標。

 

 

ローズ(N)人生何が起こるか本当わからないわ~ん♪

      ママと春斗さんにはあのまま幸せになって欲しかったけど

      この方が本当に幸せなのかもしれないわね。

      実の親子だったのには驚いたけど・・・

      これからもローズは、ママや春斗さんや朋子さん、

      そしてお店のお客様みんな大好きよ~ん♪

      そして、私の未来の旦那様見つけるために頑張るわ~ん♪

 

          

 

 

 

ローズ:恋って、素敵な事だけど必ず叶うとは限らないもの。

 

朋子:だから私達は恋をする。まだ見ぬ新しい相手を探して喜んだり、ドキドキしたり、苦しんだり。

 

春斗:だけど俺達は恋をする事を決して諦めない。これからも色々な人に出会い続ける。

 

マーガレット:だってそれこそが恋。私達のかけがえのない一度きりの人生なのだから。

       

       

       

 

 

 

 

 

 

終わり