葬春花

 

 

作者:片摩 廣

 

 

読み方:葬春花(さくら)

 

 

登場人物

 

蓮沼 侑一(はすぬま ゆういち)・・・最愛の妻、真紀を亡くしている

 

篠上 優花(しのがみ ゆうか)・・・蓮沼に声かける落ち着いてる雰囲気の女性

 

蓮沼 真紀(はすぬま まき)・・・蓮沼の奥さん 既に亡くなっている

 

 

比率:【1:2】

 

上演時間:【50分】

 

 

オンリーONEシナリオ2022

 

4月、【桜】をテーマにしたシナリオです

 

 

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CAST

 

蓮沼 侑一:

 

篠上 優花:

 

蓮沼 真紀:

 

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侑一:「(溜息)・・・真紀・・・」

 

 

(妻の真紀と一緒に、観た桜の木の前で、1年前を振り返る侑一)

 

 

 

真紀:「・・・こっちよ、こっち・・・! 貴方・・・! 早く・・・!」

 

 

侑一:「・・・そんなに急いで、見せたい物って・・・、何だい?」

 

 

真紀:「それはね・・・、観て、此処の桜、とても綺麗ね・・・」

 

 

 

侑一:「これは、見事な・・・、大きな桜の木だ・・・」

 

 

 

真紀:「・・・貴方と夫婦になったら、一緒に観に来たいと思ってたの。

    やっと、夢が叶った・・・」

 

 

 

侑一:「ふっ・・・、お前らしいな」

 

 

 

真紀:「え・・・?」

 

 

 

侑一:「もっと大きな夢を望んだって、罰は当たらないのに」

 

 

 

真紀:「・・・」

 

 

 

侑一:「真紀・・・?」

 

 

 

真紀:「それもそうね・・・。・・・ねぇ、貴方・・・」

 

 

 

侑一:「何だい?」

 

 

 

真紀:「・・・来年も、二人で一緒に桜、観に来ましょう」

 

 

 

侑一:「あぁ、勿論」

 

 

 

真紀:「(笑顔で微笑む)・・・嬉しい。・・・約束よ」

 

 

 

 

 

 

 

侑一:「・・・今年も、此処の桜は、満開だよ・・・。君と・・・、今年も一緒に・・・」

 

 

 

優花:「・・・此処から、観る桜、綺麗ですよね・・・」

 

 

 

侑一:「・・・え?」

 

 

 

優花:「私ったら、つい・・・。・・・こんなにも綺麗な桜だから、誰かと一緒に感動を共有したくて・・・。

    そう思ったら、声かけてました・・・。驚かせてしまい、すみません・・・」

 

 

 

侑一:「あっ・・・、いえ・・・」

 

 

 

優花:「こんなに綺麗な桜の前なのに、・・・何処か・・・寂しそうな表情・・・」

 

 

 

侑一:「・・・いけませんか? ・・・誰もが、桜を見て、楽しい表情で見なくても、良いでしょう・・・」

 

 

 

優花:「私ったら・・・、また・・・。・・・不快な思いさせたなら、謝ります・・・」

 

 

 

侑一:「・・・もう、大丈夫なので・・・。気にしないでください・・・」

 

 

 

優花:「あっ・・・」

 

 

 

侑一:「・・・」

 

 

 

優花:「・・・」

 

 

 

侑一:「・・・まだ、何か用ですか・・・?」

 

 

 

優花:「・・・いえ・・・」

 

 

 

侑一:「・・・そうですか・・・。私は、此処らへんで・・・」

 

 

 

優花:「あのう・・・」

 

 

 

侑一:「はい・・・?」

 

 

 

優花:「・・・もう少し、お話して行きませんか?」

 

 

 

侑一:「・・・」

 

 

 

優花:「嫌でなければですけど・・・。

    ・・・この先に、東屋があるので、其処でも良ければ・・・」

 

 

 

侑一:「わかりました・・・」

 

 

 

優花:「私、何か飲み物、買って来るので、先に座って待っててください!」

 

 

 

 

 

(丘の上に設置されてる東屋に向かう間、真紀との事を思い出している侑一)

 

 

 

真紀:「貴方・・・、もう少しよ・・・。頑張って・・・」

 

 

 

侑一:「何処まで、行くんだ・・・? 桜なら、この辺で見れば充分だろう・・・」

 

 

 

真紀:「どうしても、貴方に、見せたい風景があるの・・・」

 

 

 

侑一:「・・・そうは言ってもな・・・」

 

 

 

真紀:「ほらっ、・・・あの丘に見える東屋までだから、もう少しよ・・・。ねっ・・・?」

 

 

 

侑一:「・・・まだ距離があるじゃないか・・・。・・・また今度にしよう・・・。ほらっ、帰るぞ・・・」

 

 

 

真紀:「貴方・・・! ちょっと待って・・・。・・・貴方ったら・・・」

 

 

 

 

(東屋に設置されてるベンチに座り待つ侑一)

 

 

 

侑一:「(溜息)・・・」

 

 

 

優花:「お待たせしました。・・・どうぞ」

 

 

 

侑一:「・・・コーラですか・・・」

 

 

 

優花:「お嫌いでしたか?」

 

 

 

侑一:「いえ・・・。しかし、こう言う場合は、普通・・・、お茶などが適切ではと思っただけです」

 

 

 

優花:「それもそうですね・・・! 私、買い直して・・・」

 

 

 

侑一:「結構です・・・。コーラで構いません」

 

 

 

優花:「・・・とりあえず、乾杯しましょうか?」

 

 

 

侑一:「は? 何にです?」

 

 

 

優花:「こう言う場合、・・・出会いにとかが、妥当でしょうか?」

 

 

 

侑一:「・・・そうですね」

 

 

 

優花:「・・・ひょっとして、私、迷惑ですか?」

 

 

 

侑一:「・・・少し・・・」

 

 

 

優花:「それもそうですよね・・・。・・・でも、どうしても、理由が知りたくて・・・」

 

 

 

侑一:「悲しい表情の理由ですか?」

 

 

 

優花:「・・・聞かせてもらえませんか?」

 

 

 

侑一:「・・・ちょうど1年前の事でした・・・。

    私は、妻の真紀と、此処に桜を見に来ていました。

    その日も、今日と同じように、晴天で・・・。

    妻の頭上を、桜吹雪が舞ってて、とても美しかった・・・。

    その時、私はこう思いました。・・・来年も、妻と一緒に、此処の桜を見に行きたいと・・・。

    しかし、その願いは叶いませんでした・・・」

 

 

 

優花:「・・・もしかして、奥さんは・・・?」

 

 

 

侑一:「・・・ええ。・・・もう、この世には、居ません・・・」

 

 

 

優花:「・・・そうでしたか・・・。・・・あのう・・・」

 

 

 

侑一:「何でしょう?」

 

 

 

優花:「奥さんは、どんな方でしたか?」

 

 

 

侑一:「妻は・・・、私の事、何かと心配する性格で・・・」

 

 

 

(真紀との回想シーン)

 

 

 

真紀:「・・・貴方ったら、またそんな物、飲んで・・・。

    糖尿病になっても、面倒、見ませんからね・・・」

 

 

 

侑一:「少しくらい良いじゃないか・・・。・・・何も、1日に2、3本、飲む訳じゃないんだし・・・」

 

 

 

真紀:「それはそうだけど・・・、貴方には、長生きして欲しいのよ・・・」

 

 

 

侑一:「お前は、少し心配し過ぎだ・・・。・・・大丈夫、すぐには死にはしないよ・・・。

    だから、1本だけなら、良いだろう?」

 

 

 

真紀:「どうなっても知りませんからね・・・。・・・ふんっ!」

 

 

 

(真紀との回想シーン 終わり)

 

 

 

 

 

侑一:「実は、私・・・、甘党なんです・・・。

    そのせいか、妻からは・・・、いつも、怒られてばかりで・・・。

    だから、このコーラも、久しぶりなんです・・・」

 

 

優花:「そんな事情とは、知らなかったです・・・。やっぱり私、違う飲み物を・・・」

 

 

 

侑一:「・・・構いませんよ。・・・これも、何かの縁だと思うので・・・。

    それにしても・・・、どうして、私にコーラを・・・?」

 

 

 

優花:「初めは、お茶にしようか迷ったのですが・・・、

    男性の方は、コーラが好きな方、多いので・・・、それでです・・・」

 

 

 

侑一:「そうでしたか・・・。それにしても、此処から見る桜は、また一味、違いますね・・・」

 

 

 

優花:「・・・気に入ってもらえて、私も嬉しいです・・・」

 

 

 

侑一:「え?」

 

 

 

優花:「(微笑む)・・・悲しんでる方、見かけると、放って置けない性分でして・・・」

 

 

 

侑一:「・・・心配、おかけました・・・。貴女のお陰で、元気が出ましたよ・・・」

 

 

 

優花:「それは、良かったです。・・・あのう・・・、もう一つ、提案なのですが・・・」

 

 

 

侑一:「何でしょう?」

 

 

 

優花:「・・・毎年、同じ日に、此処で一緒に、この桜、見ませんか・・・?」

 

 

 

侑一:「毎年ですか・・・?」

 

 

 

優花:「・・・いきなりこんな提案、幾ら何でも、迷惑ですよね・・・。

    私ったら、また・・・」

 

 

 

侑一:「・・・構いませんよ」

 

 

 

優花:「本当ですか・・・?」

 

 

 

侑一:「・・・貴女と出会わなければ、私はこの先も、ずっと桜を見るたび、悲しんでました・・・。

    来年も、会えるの楽しみにしてます」

 

 

 

優花:「私も、楽しみにしています」

 

 

 

侑一:「それじゃあ、また来年の今日に」

 

 

 

優花:「はい、来年の今日に」

 

 

 

 

 

 

 

(1年後、東屋に向かう間も、真紀との事を思い出している侑一)

 

 

(真紀との回想シーン)

 

 

 

真紀:「・・・(激しい咳)」

 

 

 

侑一:「おい、大丈夫か・・・?」

 

 

 

真紀:「ごめんなさい、心配かけて・・・。少し、仕事の疲れが出たみたい・・・」

 

 

 

侑一:「・・・それなら、今日は休んだらどうだ・・・?」

 

 

 

真紀:「いいえ、駄目よ、そんな事は出来ない・・・。

    ・・・仲間にも迷惑かけちゃうし、・・・今日は休めないの・・・」

 

 

 

侑一:「それなら、・・・今度の休みに病院に行って・・・」

 

 

 

真紀:「わかった・・・。貴方の言う通り、そうする。・・・だから、お願い・・・」

 

 

 

侑一:「わかったよ・・・。でも、決して無理はするなよ・・・」

 

 

 

真紀:「わかってるわよ・・・。行ってきます・・・」

 

 

 

(真紀との回想シーン)

 

 

 

 

 

 

優花:「・・・あっ、お久しぶりです・・・」

 

 

 

侑一:「お久しぶりです・・・」

 

 

 

優花:「お待ちしてました・・・。・・・今年も良い天気ですね。」

 

 

 

侑一:「そうですね・・・。あっ、そうだ・・・」

 

 

 

優花:「え?」

 

 

 

侑一:「・・・去年のコーラのお礼です・・・。・・・お口に合うか、わかりませんが、どうぞ」

 

 

 

優花:「あんぱん・・・」

 

 

 

侑一:「あっ・・・、お嫌いでしたか?」

 

 

 

優花:「いいえ・・・、大好きです」

 

 

 

侑一:「良かった・・・。・・・行きつけのパン屋のですが、とても美味しいんですよ」

 

 

 

優花:「・・・ふふっ」

 

 

 

侑一:「どうかされましたか?」

 

 

 

優花:「お返しが、甘い物だったので、ついっ・・・」

 

 

 

侑一:「それもそうですね・・・。・・・あのう・・・」

 

 

 

優花:「はい・・・?」

 

 

 

侑一:「そう云えば、私達、お互いの名前、知らないままだなと・・・」

 

 

 

 

優花:「そう言えば、そうですね・・・。

    一層の事、このまま、お互い名乗らないままも、ミステリアスな関係で良いかもしれませんね」

 

 

 

侑一:「それもそうですね・・・」

 

 

 

優花:「ふふっ・・・」

 

 

 

侑一:「何か、私・・・、可笑しな事を言いましたか?」

 

 

 

優花:「いいえ・・・。・・・わかりづらくてすみません・・・。

    さっきのは、精一杯のジョークです・・・」

 

 

 

侑一:「そうでしたか・・・。てっきり、名前を言いたくないのかと・・・」

 

 

 

優花:「そんな事ないです・・・。私の名前は、篠上 優花(しのがみ ゆうか)です」

 

 

 

侑一:「ご丁寧にどうも・・・。私は、蓮沼 侑一(はすぬま ゆういち)です」

 

 

 

優花:「蓮沼さん・・・」

 

 

 

侑一:「どうかされました?」

 

 

 

優花:「いいえ・・・。何でも無いです・・・。

    そうだ・・・、今日は蓮沼さんの為に、用意した物があるんです」

 

 

 

侑一:「私の為に?」

 

 

 

優花:「・・・お口に合うか、わからないですけど、これです・・・」

 

 

 

侑一:「・・・これは、お弁当ですか・・・」

 

 

 

優花:「一生懸命、作りました・・・。・・・召し上がっていただけますか?」

 

 

 

侑一:「勿論です・・・。いただきます・・・。・・・甘い玉子焼きですね・・・」

 

 

 

優花:「甘党だと仰ってたので・・・」

 

 

 

侑一:「ありがとうございます・・・。とても、美味しいです・・・。

    それにしても、この優しい甘さは・・・」

 

 

 

優花:「甜菜糖(てんさいとう)です・・・。・・・砂糖に比べて体にも優しんですよ」

 

 

 

侑一:「ひょっとして、私の体も考えて・・・?」

 

 

 

優花:「ええ・・・、それと・・・、自分自身の為もあるんです・・・。

    実は、去年・・・、無理し過ぎて、体を壊して入院してました・・・。

    退院後は、今までの食生活を変えようと、色々、試行錯誤の繰り返しで・・・。

    少しでも、体に良い物にしようって、考えてても、中々、上手く出来なくて・・・」

 

 

 

侑一:「そうでしたか・・・。・・・」

 

 

 

 

 

(真紀との回想シーン)

 

 

 

真紀:「貴方・・・、その玉子焼き・・・、味はどう・・・?」

 

 

 

侑一:「いつも通り、美味しいよ」

 

 

 

真紀:「そう・・・。・・・そっちの煮物も、食べて見て」

 

 

 

侑一:「わかったよ・・・(食べる)・・・」

 

 

 

真紀:「どう・・・?」

 

 

 

侑一:「どうって・・・? こっちも、いつものお前の味だ。変わらず、美味しいよ」

 

 

 

真紀:「そう・・・」

 

 

 

侑一:「どうしたんだ? 何だか、不機嫌だな・・・」

 

 

 

真紀:「そんな事ないから・・・。・・・美味しいのなら、良いのよ・・・。

    さっ、気にしないで、どんどん食べて・・・」

 

 

 

侑一:「うん・・・」

 

 

 

(真紀との回想シーン 終わり)

 

 

 

 

 

優花:「蓮沼さん・・・?」

 

 

 

侑一:「あっ・・・、これは失礼しました・・・。妻の事、思い出していました・・・。

    ・・・妻も、私の健康の為に工夫して、料理してくれてたのが・・・、

    篠上さんの料理を食べて、わかりましたよ・・・。

    駄目な夫ですよね・・・。・・・妻の亡くなった後に、気付くなんて・・・!」

 

 

 

優花:「・・・亡くなった後でも、こうして気付いたんですから・・・、

    きっと奥さんも、喜んでいると思いますよ・・・」

 

 

 

侑一:「篠上さん・・・」

 

 

 

優花:「・・・さぁ、他の料理も、どうぞ、食べてみてください」

 

 

 

侑一:「いただきます・・・」

 

 

 

優花:「・・・」

 

 

 

 

 

 

侑一:「ご馳走様でした・・・。どの料理も、美味しかったです・・・」

 

 

 

優花:「お粗末様です・・・」

 

 

 

侑一:「・・・今日、再び、篠上さんに会えて良かった・・・」

 

 

 

優花:「え?」

 

 

 

侑一:「・・・本当は、今日、会えないかも知れないと、疑ってました・・・。

    だから、この東屋に一歩ずつ近づく度・・・、怖かったんです・・・」

 

 

 

優花:「ふふっ・・・。・・・どうやら私達、同じ気持ちだったようですね」

 

 

 

侑一:「え?」

 

 

 

優花:「・・・私も、怖かったです・・・。だから、御相こですね」

 

 

 

侑一:「・・・そうですね。・・・あのう・・・」

 

 

 

優花:「はい?」

 

 

 

侑一:「・・・来年も、待ってます・・・」

 

 

 

優花:「私も・・・、待ってます・・・」

 

 

 

侑一:「それじゃあ、また来年の今日に・・・」

 

 

 

優花:「はい、来年の今日に・・・」

 

 

 

 

(1年後、東屋で再会する侑一と優花)

 

 

 

 

 

 

侑一:(N)「篠上さんとは、1年で毎年、今日の1日だけしか、会えなかったけど・・・、

       それでも、私は、彼女の優しさに、惹かれ始めていた・・・。

       逸る気持ちを抑えつつ、東屋に向かうと、篠上さんは、眼下の桜を見つめていた・・・」

 

 

 

 

侑一:「・・・今年も、此処から見る桜は、綺麗ですね・・・」

 

 

 

優花:「・・・蓮沼さん・・・。・・・ええ、本当に・・・、素敵な眺めですね・・・」

 

 

 

侑一:「何だか、元気ありませんね・・・」

 

 

 

優花:「蓮沼さんは・・・、2年前に比べたら、見違えるように、元気になりましたね・・・」

 

 

 

侑一:「篠上さんのお陰です・・・。こうして、1年毎に、此処で会うのが・・・、

    気付いたら、楽しみに変わっていましたよ」

 

 

 

優花:「それは良かったです・・・」

 

 

 

侑一:「篠上さん、今年は、これを用意しました」

 

 

 

優花:「・・・これは・・・、桜のあんぱん・・・」

 

 

 

侑一:「篠上さんに、御礼がしたくて・・・、どうぞ、食べてみてください」

 

 

 

優花:「・・・とても美味しい・・・」

 

 

 

侑一:「・・・気に入ってもらえて良かった・・・。それじゃあ、私も・・・」

 

 

 

優花:「あの・・・!」

 

 

 

侑一:「あっ・・・、どうかされました?」

 

 

 

優花:「私も、渡したい物があるんです・・・」

 

 

 

侑一:「もしかして、今年も手作りお弁当ですか? 去年のも、美味しかったので、楽しみだ・・・」

 

 

 

優花:「・・・これです・・・」

 

 

 

侑一:「・・・手紙ですか?」

 

 

 

優花:「はい・・・」

 

 

 

侑一:「・・・私に?」

 

 

 

優花:「はい・・・」

 

 

 

侑一:「・・・読んで良いですか?」

 

 

 

優花:「どうぞ・・・」

 

 

 

侑一:「侑一へ・・・。今、この手紙を目の前で読んで、さぞかし驚いてるでしょうね・・・」

 

 

 

真紀:「・・・篠上さんとはね・・・、病院で出会って意気投合したのよ・・・。

    ・・・入院の間、お互いの事を話し合ってる内に・・・、すっかり仲良くなったの。

    だから私ね・・・、ある我儘を頼んだの・・・」

 

 

 

侑一:「ある我儘・・・」

 

 

 

 

真紀:「私が亡くなった後・・・、貴方は悲しみを引きずって、前に進めないと思ったの・・・。

    だから、貴方が元通り、元気を取り戻すまで、一緒に桜を見る相手になって欲しいと・・・。

    つまりね・・・。・・・サクラを・・・、頼んだの・・・。

    貴方の事だから、今、さぞかし驚いてるでしょうね・・・。

    お願い・・・。・・・優花さんを責めたりはしないで・・・。

    これは全部、私が望んでしてもらった事なの。・・・どうか、こんな妻を許してください・・・」

 

 

 

 

侑一:「・・・貴方の妻。・・・真紀より・・・。・・・」

 

 

 

優花:「蓮沼さん・・・。今まで、騙していて、ごめんなさい・・・!」

 

 

 

侑一:「最初から、私に近付くためにですか・・・?」

 

 

 

優花:「はい・・・。私は、奥さんの手紙に書いてある通り・・・、サクラの役目をしていました・・・」

 

 

 

侑一:「そうですか・・・」

 

 

 

優花:「でも、信じてください・・・! 決して悪気があって、近付いたわけでは・・・!」

 

 

 

侑一:「・・・それは、わかっています・・・!

    ・・・でも、いきなりこんな真実、訊いたばかりで、正直、混乱しています・・・。

    ですので・・・、少し一人にしてください・・・」

 

 

 

優花:「待ってください・・・。まだお話が・・・!」

 

 

 

 

侑一:「失礼します・・・」

 

 

 

 

優花:「・・・侑一さん・・・。・・・ごめんなさい・・・」

 

 

 

 

 

 

 

(東屋を後にして、桜並木を歩きながら、真紀との思い出を思い出している侑一)

 

 

 

 

侑一:「・・・真紀・・・。どうして、こんな事・・・」

 

 

 

 

 

(真紀との回想シーン)

 

 

 

真紀:「ねぇ、貴方・・・」

 

 

 

侑一:「何だ?」

 

 

 

真紀:「もし私が、貴方より早く・・・、この世を去ったら、どうする・・・?」

 

 

 

侑一:「いきなりどうした・・・? もしかして、何処か体調が悪いのか・・・?」

 

 

 

真紀:「そうじゃない、例え話よ。・・・さっきね、テレビでそんな特集やってたから、

    侑一なら、どうするのか訊いてみたくなったの」

 

 

 

侑一:「・・・ふ~ん。・・・そうだな~。・・・俺なら、ずっと悲しみ引きずるだろうな・・・」

 

 

 

真紀:「え?」

 

 

 

侑一:「え? は無いだろう・・・。・・・愛してる妻が亡くなるのだから、それくらい当然だろう?」

 

 

 

真紀:「それは、そうだけど・・・」

 

 

 

侑一:「・・・何か不満そうだな?」

 

 

 

真紀:「貴方の気持ち聞けたのは嬉しいけど、少し複雑・・・。

    ・・・侑一には、私が亡くなった後は、早く次の素敵な女性、見つけて幸せになって欲しい」

 

 

 

侑一:「え?」

 

 

 

真紀:「だって、私だけじゃ、勿体ないもん! そりゃあ、貴方の愛を独占したいって気持ちもあるけど・・・」

 

 

 

侑一:「なぁ、やっぱり何処か体調・・・」

 

 

 

真紀:「ねぇ、貴方・・・、来週、桜を見に行かない?」

 

 

 

侑一:「良いけど・・・」

 

 

 

真紀:「貴方と結婚したら、見に行きたかったの・・・。やっと願いが叶う・・・」

 

 

 

侑一:「大げさだな・・・」

 

 

 

真紀:「ずっと夢だったのよ。・・・だから、大げさじゃない」

 

 

 

侑一:「はいはい、わかったよ」

 

 

 

真紀:「ありがとう・・・。貴方・・・!」

 

 

 

 

(真紀との回想シーン 終わり)

 

 

 

 

 

 

 

 

侑一:「・・・真紀、お前はあの時から、既に・・・」

 

 

 

優花:「蓮沼さん・・・」

 

 

 

侑一:「・・・篠上さん・・・。・・・付いて来たのですか?」

 

 

 

優花:「お願いです・・・。少し、私の話を聞いてください・・・」

 

 

 

侑一:「わかりました・・・」

 

 

 

優花:「ありがとうございます。・・・東屋に戻りましょう・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

(東屋に戻り、病院での出来事を、侑一に話す優花)

 

 

 

侑一:「それで、話とは・・・?」

 

 

 

優花:「真紀さんの事です・・・。・・・真紀さんとは、手紙に書いてある通り、病院で知り合いました・・・」

 

 

 

 

 

 

真紀:「今日から、隣のベッドになりました、蓮沼です・・・」

 

 

 

優花:「・・・初めまして。・・・篠上です・・・」

 

 

 

真紀:「篠上さんね。・・・良かった・・・」

 

 

 

優花:「え?」

 

 

 

真紀:「・・・実は私ね、入院するの初めてで緊張してるの・・・。

    だから、お隣さんが無口な人だったら・・・、緊張して大変だったなって・・・」

 

 

 

優花:「そうですか・・・」

 

 

 

 

真紀:「短い間だけど、宜しくね」

 

 

 

 

 

侑一:「そんな事があったのですね・・・。・・・とても、真紀らしいです」

 

 

 

優花:「そうですね。・・・真紀さんは、とても人当たりが良くて、私も次第に打ち解けていきました・・・」

 

 

 

 

 

 

真紀:「・・・あっ、篠上さんも、今、検査終わり?」

 

 

 

優花:「はい。蓮沼さんもですか?」

 

 

 

真紀:「・・・そうなのよ。・・・予定より検査長引いて、お腹ぺこぺこ・・・」

 

 

 

優花:「・・・もうすぐ、夕飯の時間ですね」

 

 

 

真紀:「朝食は8時。昼食は12時。夕食は18時頃・・・って、規則正しいのは良いけど・・・、

    ・・・量が物足りないのよね・・・」

 

 

 

優花:「病院食なので、仕方ないのもありますけど、少ないですよね・・・」

 

 

 

真紀:「ねっ! 篠上さんもそう思うでしょ! 良かった、私だけじゃなくて!」

 

 

 

優花:「ふふふ・・・」(思わず笑ってしまう)

 

 

 

真紀:「どうしたの突然?」

 

 

 

優花:「蓮沼さんが余りに元気良いから、つい・・・!」

 

 

 

真紀:「あっ、それもそうね・・・。これだけ元気なら、病人に見えないよね! あははは・・・」

 

 

 

優花:「はい、そう思います。蓮沼さん」

 

 

 

真紀:「・・・真紀よ」

 

 

 

優花:「え?」

 

 

 

真紀:「私の下の名前。・・・気軽に、真紀って呼んで」

 

 

 

優花:「わかりました。真紀さん。・・・私も、優花って呼んでください」

 

 

 

真紀:「優花さんね。わかった。・・・それじゃあ、優花さん、病室に戻りましょう」

 

 

 

優花:「はい、真紀さん」

 

 

 

 

 

 

 

侑一:「真紀は、そんなに元気だったのですね・・・」

 

 

 

優花:「病人に見えないくらいでした・・・」

 

 

 

侑一:「そうでしたか・・・。私がお見舞いに行くときは、そこまで・・・」

 

 

 

優花:「ええ、そうでしたね・・・」

 

 

 

侑一:「え?」

 

 

 

優花:「・・・実は、カーテン越しですけど、蓮沼さんのお声は、聴こえてました。

    ・・・あの時も・・・」

 

 

 

 

 

 

真紀:「貴方、来たのね。・・・お願いしてた物は、持ってきてくれた?」

 

 

 

侑一:「あぁ、勿論。そんな事よりも、体調はどうだ・・・?」

 

 

 

真紀:「うん。検査結果は・・・、まだだけど、思ってたより、重病では無いみたい」

 

 

 

侑一:「そっか・・・。それなら安心した・・・」

 

 

 

真紀:「心配かけてごめんね・・・」

 

 

 

侑一:「そんなのは良いんだ。・・・早く、元気になってくれたら、それで良いんだ」

 

 

 

真紀:「うん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

優花:「重病では無いと聴こえて来て、私も何だか自分の事のように、隣で喜んでました。

    しかし、・・・その夜遅くの事でした・・・」

 

 

 

 

真紀:「・・・どうしてよ・・・、どうして、私が・・・こんな運命に・・・。

    これから・・・、もっと、沢山・・・、侑一と一緒に過ごしたり・・・」(静かに泣く)

 

 

 

 

優花:「あのう・・・、真紀さん・・・?」

 

 

 

真紀:「あっ、優花さん!? ・・・起きてたのね・・・。ごめんなさい・・・。うるさくて、寝れなかった?」

 

 

 

優花:「そんな訳では・・・。真紀さんこそ、どうかされたのですか?」

 

 

 

真紀:「・・・」

 

 

 

優花:「あっ、・・・話したく無ければ、別に良いので、無理しないで・・・」

 

 

 

真紀:「私、夫にね・・・、嘘付いたの・・・」

 

 

 

優花:「え?」

 

 

 

真紀:「私ね・・・、本当は、重い病気なの・・・。・・・ステージ4のスキルス胃癌・・・。

    ・・・何でもっと早くに・・・、病院に行かなかったのかな・・・。

    ・・・優花さん・・・、私ね・・・、後、半年も経たないで、死ぬの・・・」

 

 

 

優花:「そんな・・・」

 

 

 

 

真紀:「長くて1年・・・。短ければ、半年だって・・・」

 

 

 

優花:「真紀さん・・・」

 

 

 

真紀:「・・・夫に嘘ついても、すぐにバレちゃうのにね・・・。

    ・・・残された時間は短いし、いつまでも、嘆いてばかり要られない・・・。

    出来る事、考えなくちゃ・・・」

 

 

 

優花:「・・・」

 

 

 

真紀:「心配かけて、ごめんね・・・。さぁ、夜も遅いし、寝ましょう・・・」

 

 

 

優花:「・・・真紀さん、私に出来る事があれば、手伝うので言ってくださいね」

 

 

 

真紀:「優花さん・・・。うん、ありがとう・・・」

 

 

 

 

 

 

侑一:「・・・妻がスキルス胃癌と知ってからは、目の前が真っ暗になりました・・・。

    ・・・私が悲しむ一方・・・、真紀は私の前では、決して弱音を吐こうとはしませんでした・・・。

    きっと、私に心配かけたくなくて・・・、無理してたんです・・・」

 

 

 

 

優花:「真紀さんは、とてもお強い方でした・・・。

    退院後も、お見舞いに行く度に、明るい笑顔で、いつも出迎えてくれて・・・。

    そんな真紀さんの人柄に惹かれて、この真紀さんからの願いも、受けたんです・・・」

 

 

 

 

侑一:「・・・優花さんの気持ちも・・・、真紀の気持ちも分かります・・・。

    だから、複雑なんです・・・」

 

 

 

 

優花:「え・・・?」

 

 

 

 

侑一:「・・・私は、優花さんの優しさに惹かれていました・・・。

    1年毎に、此処で会うだけの関係でしたが・・・、

    それでも毎年、春が訪れると、また貴女に会えると、待ち遠しかったんです・・・」

 

 

 

 

優花:「・・・どうして私達、こんな形で出会ってしまったんでしょうね・・・」

 

 

 

 

侑一:「え・・・?」

 

 

 

 

優花:「私も・・・、貴方の事が・・・、気付けば好きになっていました・・・。

    毎年、此処で侑一さんを待つ度・・・、好きという気持ちが、増していくのを感じたんです・・・。

    その度に、真紀さんへの罪悪感も増していき・・・、でも、好きという気持ちは抑えきれなかった・・・」

 

 

 

 

侑一:「優花さん・・・。それなら・・・、私達、一緒に・・・」

 

 

 

 

優花:「いっその事、侑一さんの胸に、何も考えずに飛び込めたなら・・・。

    今、こんなに、胸が苦しくなる事も無かった・・・。

    ・・・私が真紀さんから、頼まれたサクラは・・・今日で役目も終わりです・・・。

    ・・・。

    ・・・さようなら、蓮沼さん・・・」

 

 

 

 

侑一:「待ってください・・・! お願いです・・・! 待って・・・!」

 

 

 

 

優花:「・・・ごめんなさい・・・」(涙をこらえながら東屋から離れる)

 

 

 

 

侑一:「来年の今日も、私は此処で、貴方を待ってます・・・! 貴方が来るまで、ずっと・・・!

    ・・・待ってます・・・」

 

 

 

 

(その夜、侑一の寝ていると、真紀が枕元に現れる)

 

 

 

侑一:(N)「優花さんから、真実を打ち明けられて・・・、

       お互い、好意を持っている事を知った夜遅くの事だった・・・」

       

 

 

(その夜、侑一の寝ていると、真紀が枕元に現れる)

 

 

 

真紀:「ねぇ・・・貴方・・・、起きて・・・」

 

 

 

侑一:「・・・真紀、どうして・・・?」

 

 

 

真紀:「今年で、三周忌だから・・・、貴方が、元気か気になって、会いに来ちゃった・・・。

    それより・・・、この浮気者・・・! ・・・、・・・なんてね・・・。

    そう、それで良いの。もう貴方は・・・、貴方の幸せを願って良いのよ・・・」

 

 

 

侑一:「しかし・・・、篠上さんは・・・」

 

 

 

真紀:「優花さんには、悪い事しちゃった・・・。・・・こんなに、苦しませるなんて・・・」

 

 

侑一:「・・・サクラなんて、よく思いついたな・・・?」

 

 

 

真紀:「あの時の私は、とにかく必死だったのよ・・・。

    残された時間で、貴方に何が出来るか必死に考えてたの・・・。

    だから、あの時も・・・」

 

 

 

 

 

 

(病院の回想シーン。病院の中庭にあるベンチで優花が来るのを待つ真紀)

 

 

 

優花:「真紀さん、話ってなんですか?」

 

 

 

真紀:「呼び出してごめん。えっと・・・、優花さん、この前はごめんね・・・」

 

 

 

優花:「そんな、とんでもないです・・・。・・・あれから少し、落ち着かれましたか?」

 

 

 

真紀:「お陰様でね・・・。・・・それで、呼び出した理由だけどね・・・。

    ・・・優花さんに、・・・サクラを頼みたいの・・・」

 

 

 

優花:「サクラですか・・・?」

 

 

 

 

真紀:「うん・・・。・・・夫ね、思ってた以上に、寂しがり屋なの・・・。

    だから、私が亡くなった後も・・・、きっといつまでも、落ち込んだまま、

    人生を楽しむ事さえも、忘れてしまいそうで、怖いの・・・」

 

 

 

優花:「優しい性格の旦那さんなんですね・・・」

 

 

 

 

真紀:「う~ん・・・。優しいけど、鈍感な部分もあったり・・・、

    それに・・・、ふふふ・・・」

 

 

 

優花:「どうしたのですか?」

 

 

 

真紀:「・・・夫ね、かなりの甘党でね・・・。

    私が注意しても、いつもコーラとか、甘い物、食べてたのよ・・・」

 

 

 

優花:「甘党ですか・・・」

 

 

 

真紀:「玉子焼きもね・・・。甘くしないと絶対、食べないくらいだったから、大変だった・・・。

    そんな性格だから・・・、私ね・・・、夫の健康も心配だったのよ・・・」

 

 

 

優花:「心配になるのもわかります・・・」

 

 

 

真紀:「良かった・・・。優花さんには、この苦労が伝わって・・・。

    夫は鈍感だから、私が砂糖を・・・、甜菜糖(てんさいとう)に変えても、

    いつも通り美味しいで、全然、気付いてくれなくてね・・・。

    ・・・だから、余計に・・・、ね・・・」

 

 

 

優花:「・・・私も、食べる物は、忙しいからという理由で・・・、

    コンビニで買う事が多くて・・・、気付いたら、体を壊していました・・・」

 

 

 

真紀:「コンビニばかりは駄目よ・・・。・・・後で、私の取って置きのレシピの数々、

    教えてあげるから、退院したら作ってみて」

 

 

 

優花:「・・・ありがとうございます」

 

 

 

 

真紀:「・・・それでね・・・、サクラの内容だけど・・・、

    来年、夫と桜を見に行く約束したの・・・。

    でも・・・、その頃には・・・、私は、もう生きてない可能性が高いの・・・。

    ・・・夫ね、私の死んだ後も・・・、私との約束だから、

    必ず、二人で見た桜を見に行くと思う・・・。

    だから、後で場所を伝えるわね」

 

 

優花:「・・・わかりました」

 

 

 

 

真紀:「後、夫に近付いた時だけど・・・、

    伝えた通り・・・、コーラが好きだから、飲み物、渡す時は渡してみて。

    きっと、喜ぶと思うから・・・。

    それとね・・・、これから健康面には、気を付けて貰いたいから・・・、

    そうね・・・、お弁当を作って渡して・・・。

    ・・・それと最後に、この手紙を・・・、夫が元気を取り戻したと、思えた時に渡して欲しいの・・・」

    私からの、お願いは以上よ。・・・その他の方法は、優花さんに任せる・・・。

    どうか・・・、夫を・・・、宜しくね・・・」

 

 

 

優花:「わかりました。・・・必ず、約束は果たします・・・」

 

 

 

 

(病院での回想シーン、終わり)

 

 

 

真紀:「・・・という訳よ・・・」

 

 

 

侑一:「そうだったのか・・・。

    真紀が考えたサクラのお陰で、俺は優花さんに、出会えて・・・、

    彼女の優しさで・・・、元気を取り戻せた・・・。

    だけど・・・」

 

 

 

真紀:「どうしたの・・・? 貴方・・・」

 

 

 

侑一:「・・・、真紀・・・。私は、これから、どうしたら良い・・・?」

 

 

 

真紀:「もう、どうするかは、決めてるのでしょう?

    自分の気持ちに、素直になって・・・」

 

 

 

侑一:「それで、お前は恨んだりしないのか・・・?」

 

 

 

真紀:「恨む訳ないでしょう・・・!

    私は、貴方に出会えて・・・、貴方に、沢山、愛して貰えて・・・、

    とても幸せで、充実した人生でした・・・。

    こんなに素敵な人生を、ありがとうございました・・・。貴方・・・!」

 

 

 

侑一:「真紀・・・。・・・私は・・・、私は・・・」

 

 

 

真紀:「何・・・? 貴方・・・」

 

 

 

侑一:「私も・・・、お前と出会えて、とても幸せだったよ・・・。

    ありがとう・・・。真紀・・・」

 

 

 

真紀:「ほら・・・。ちゃんと素直に気持ち伝えられたじゃないの・・・!

    ・・・もう、心配しなくても、大丈夫そうね・・・。

    それじゃあ、貴方・・・。・・・幸せになってね・・・!」

 

 

 

侑一:「・・・真紀・・・、ありがとう・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

(1年後、東屋に向かう侑一)

 

 

 

侑一:(N)「翌年の春の同じ日・・・。・・・私は、あの東屋に向かった・・・。

       一歩ずつ、近付く度に・・・、これまでの優花さんのとのやり取りが浮かんだ・・・。

       ・・・もう一度、会いたいという気持ちが、胸一杯に広がり・・・、私は、足を速めた・・・。

       しかし・・・、・・・優花さんは、そこには居なかった・・・」

 

 

 

 

 

 

 

侑一:「・・・優花さん・・・。

    (溜息)・・・やはり来てないか・・・。・・・ん、これは手紙・・・?

    ・・・拝啓・・・、蓮沼侑一様・・・」

 

 

 

 

優花:「・・・お元気ですか・・・? ・・・今年も此処の桜は満開で、来る人々を笑顔で一杯にしてます・・・。

    そんな人達の姿を見ながら、一人、この東屋で貴方に向けて、手紙を書いていると・・・、

    貴方と、この東屋で出会った、3年間が、とても懐かしく感じます・・・。

    ・・・あの後も、色々と考え、貴方との未来は・・・、運命に任せようと決めました・・・。

    ・・・今日、再び・・・、貴方とまた出会えたら・・・、その時は、貴方の胸に飛び込もうと・・・。

    ・・・本当は、このまま、貴方が来るまで、此処で待って居たかった・・・。

    ・・・でも、それだと・・・、私は、真紀さんへの後ろめたさを、引きずると思いました・・・。

    だから・・・、こんな形で、貴方との運命の糸を試す・・・、私を許してください・・・」

 

 

 

 

侑一:「・・・優花さん・・・。・・・どうして、こんな方法を・・・。

    ・・・私は、貴方の事を・・・本気で好きに・・・」

    ・・・優花さんっ・・・、何処に居るんだ・・・!」(焦って、周りを見回す)

 

 

 

 

 

優花:「・・・PS.私も・・・、侑一さんの事が、大好きです・・・。

    ・・・もし、もう一度・・・、二人の運命の糸が繋がっていて・・・、出会えた時は・・・」

 

 

 

 

 

侑一:「優花さーーーーーーーーーーーーーん・・・!!!」(遠くに向かい叫ぶ)

 

 

 

 

優花:「・・・その時には、一生・・・、貴方の側で・・・、幸せにしてくださいね・・・。

    ・・・篠上 優花より・・・」

 

 

 

 

侑一:(N)「・・・私の叫びに、応えるかのように、眼下に広がる満開の桜は・・・、

       心地よい風に揺られ・・・、花びらを舞い上がらせていた・・・」

 

 

 

 

 

 

終わり