パレットに愛を込めて

 

 

作者 片摩 廣

 

 

登場人物

 

 

イグナシオ・ロドリゲス・・・スペインの画家

              サグラダ・ファミリアに魅了されて、アトリエで描き続けてる

 

 

黒石 悠理子(くろいし ゆりこ)・・・日本のバイヤー

                  スペインに、注目を集めてる画家が居ると、社長の命令で遥々、日本から訪れる

 

 

 

比率:【1:1】

 

 

上演時間:【40分】

 

 

オンリーONEシナリオ2022

 

1月の誕生石【ガーネット】、テーマにしたシナリオ

 

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CAST

 

イグナシオ・ロドリゲス:

 

黒石 悠理子:

 

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(街の住人に訊きながら、イグナシオのアトリエに辿り着く黒石)

 

 

 

黒石:「・・・遂に、見つけた・・・」

 

 

 

黒石:(M)「此処に来るまで、人に訪ねたり・・・、何度、スペインの街中、歩き回ったか・・・。

       でも、その苦労も、もう少しで報われる・・・」

 

 

 

黒石:「あのう・・・、私は、日本から来た・・・」

 

 

 

イグナシオ:「おい、そこのお前、そっちに置いてある、ジョンブリアンを取ってくれないか?」

 

 

 

黒石:「ジョンブリアン・・・。確か、その色は・・・、これね・・・。 はいっ」※(鮮やかな黄色)

 

 

 

イグナシオ:「・・・」

 

 

 

黒石:「あれ? 確かこの色で、間違いないと思うのだけど・・・、もしかして、間違ってましたか?」

 

 

 

イグナシオ:「お前・・・、名前は?」

 

 

 

黒石:「・・・あっ、はい・・・。私は、日本から来ました、黒石 悠理子と申します」

 

 

 

イグナシオ:「俺に、何の用事があって、遥々日本から来たんだ・・・」

 

 

 

黒石:「実は、私は・・・、こういう職業でして・・・」

 

 

 

イグナシオ:「・・・バイヤー・・・」

 

 

 

黒石:「我社の社長は、今、海外のアートに興味がありまして・・・。

    その社長が、注目した画家が、此処最近、スペインで名の知れてる貴方でした・・・。

    イグナシオ・ロドリゲス・・・。

    スペインの有名な画家、パブロ・ピカソのように、作風も変幻自在で・・・、

    特に、貴方の書いている、サグラダ・ファミリアは、

    まるで、神が降臨したようにも感じると・・・、沢山の賞賛も、お聞きします。

    我社と正式に契約していただけたら、決して悪いようにはしないと・・・」

 

 

 

イグナシオ:「事前に、俺の事は調査済みってわけだな。それで、報酬は幾らだ・・・?」

 

 

 

黒石:「社長から、伝えるように言われてる契約料金は、70万ユーロ。日本円にして、約1億円です」

 

 

 

イグナシオ:「悪くない金額だ・・・。だが・・・」

 

 

 

黒石:「これ以上の金額を、ご希望ですと、一度、社長に確認してからでないと・・・」

 

 

 

イグナシオ:「そうじゃない・・・」

 

 

 

黒石:「え?」

 

 

 

イグナシオ:「今、描いてるこの絵は・・・、売る事が出来ないんだ・・・」

 

 

 

黒石:「それなら、今までに、描いた絵でも構いません。・・・駄目でしょうか?」

 

 

 

イグナシオ:「生憎、他の絵は・・・、既に、別のバイヤーと契約している・・・」

 

 

 

黒石:「そんな・・・。そこを何とか・・・!」

 

 

 

イグナシオ:「・・・話は以上だ・・・。分かったなら、帰ってくれ・・・」

 

 

 

黒石:「・・・わかりました」

 

 

 

イグナシオ:「物分かりが良いようで、助かるよ・・・」

 

 

 

黒石:「あのう・・・!」

 

 

 

イグナシオ:「まだ何か用なのか?」

 

 

 

黒石:「勘違いしないでください。・・・帰るのは、今日の所はです。

    また明日、改めて、お伺いに来ます」

 

 

 

イグナシオ:「何度来ても、答えは同じだ・・・」

 

 

 

黒石:「私は、決して諦めませんから・・・! それでは・・・」

 

 

 

 

 

 

イグナシオ:「・・・神は、この期に及んで、まだ俺に試練を与えるのか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

黒石:(N)「翌日、私は、再び彼に会いに向かった・・・。

      彼の住居は、二階建てで、オレンジ色の屋根の建物だった・・・。

      上に続く外にある石畳の階段を上っていくと・・・、昨日と同じように、彼はそこに居た・・・。

      声を掛けようと、近付いた瞬間、私はある事に気付いた・・・。

      彼の想像を絶する集中力に・・・。いや違う・・・。彼は・・・、サグラダ・ファミリアに恋をしていたのだ・・・。

      ・・・邪魔をしては悪いと・・・、そっとその場を離れようとした時、イグナシオが声をかけてきた・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「・・・また来たのか・・・」

 

 

 

黒石:「集中してる時に、お邪魔して、すみません・・・」

 

 

 

イグナシオ:「・・・質問して良いか?」

 

 

 

黒石:「私が答えれる範囲であれば・・・」

 

 

 

イグナシオ:「心配するな。そんな難しい事を聞こうとはしていない・・・。

       お前は、サグラダ・ファミリアは好きか・・・?」

 

 

 

 

黒石:「サグラダ・ファミリアは・・・、建築家、アントニ・ガウディの未完作品で、

    今や、バルセロナのシンボル・・・」

 

 

 

イグナシオ:「誰も、説明を聞きたいわけじゃない・・・! 単純に、好きか嫌いか訊いてるんだ・・・」

 

 

 

黒石:「・・・好きだと思います・・・」

 

 

 

イグナシオ:「その理由は?」

 

 

 

黒石:「え?」

 

 

 

イグナシオ:「好きなら理由があるはずだろう? 何でも良いから言ってみろ」

 

 

 

黒石:「・・・自分の直感です・・・」

 

 

 

イグナシオ:「直感ね~・・・。う~ん、それも悪くないんじゃないか」

 

 

 

黒石:「え?」

 

 

 

イグナシオ:「実は、この質問は、今まで訪ねてきたバイヤーにも聞いてるんだ。

       あるバイヤーは・・・、建物の構造を熱く語ったり・・・、

       また違うバイヤーは、彫刻されてる物について、語ったり・・・、

       様々な回答が聞けたよ・・・」

 

 

 

 

黒石:「そうですか・・・。そんな中でなら、私の回答なんて・・・、最低の中の最低ですよね・・・」

 

 

 

イグナシオ:「そうとも限らないよ。画家にとって、直感も大事な要素の一つだ。

       それに・・・」

 

 

 

黒石:「何ですか・・・?」

 

 

 

イグナシオ:「昨日、俺が取ってくれと頼んだジョンブリアンを、すぐさま見つけた洞察力も気に入った」

 

 

 

黒石:「それなら、我社と・・・」

 

 

 

イグナシオ:「おっと、それとこの話は別だ・・・。但し・・・」

 

 

 

黒石:「え?」

 

 

 

イグナシオ:「俺自身、君という人間に興味が沸いたから、条件を出させて貰おう」

 

 

 

黒石:「どんな条件ですか・・・?」

 

 

 

イグナシオ:「おいおい、そんなに怯えないでくれよ・・・。

       心配しなくて大丈夫だ。今日から1週間、俺の側で、この絵を完成させるのを手伝ってくれ」

 

 

 

 

黒石:「それが条件・・・?」

 

 

 

イグナシオ:「あぁ、そうだ。どうだ? 難しい事ではないだろう?」

 

 

 

黒石:「わかりました。微力ながら、手伝わせていただきます・・・」

 

 

 

イグナシオ:「宜しく頼むよ」

 

 

 

 

 

黒石:(N)「翌日、彼のアトリエに向かうと、そこには私の椅子も用意されていた。

       私は、その光景を見て、緊張していた・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「時間通りだな・・・。さぁ、何をしている。始めよう」

 

 

 

黒石:「はい・・・」

 

 

 

イグナシオ:「待った・・・。やはり駄目だ・・・」

 

 

 

黒石:「え? どうして・・・?」

 

 

 

イグナシオ:「そのままの恰好では、絵の具で服が汚れてしまうだろう・・・。

       そうだな・・・、仕方ない。これに着替えて」

 

 

 

黒石:「着替える場所は?」

 

 

 

イグナシオ:「そっちに部屋がある。中からも鍵が掛けられるから、安心して着替えて来てくれ」

 

 

 

黒石:「わかりました・・・」

 

 

 

 

 

 

 

黒石:「あのう・・・、着替え終わりました・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「それなら、そこに用意してある椅子に座って」

 

 

 

 

黒石:「はい・・・。・・・それで、私はどんな手伝いをしたら・・・」

 

 

 

イグナシオ:「目の前に見えるサグラダ・ファミリアを見つめて・・・」

 

 

 

黒石:「え?」

 

 

 

イグナシオ:「言われたとおりにするんだ」

 

 

 

黒石:「はいっ・・・」

 

 

 

イグナシオ:「集中して見つめるんだ。・・・そして、お前の心の中に見えた色を、俺に渡してくれ」

 

 

 

黒石:「心の中に見えた色・・・」

 

 

 

イグナシオ:「自分の直感を信じろ。決してこの色では無いという疑心感は捨てるんだ。

       さぁ、・・・お前の中に見えた色は・・・、何色だ・・・?」

 

 

 

黒石:「・・・その色は・・・・、あっ・・・」

 

 

 

イグナシオ:「どうした?」

 

 

 

黒石:「見えたような・・・、でも、はっきりでは無くて・・・」

 

 

 

イグナシオ:「それで構わない。さぁ、その色を渡してくれ」

 

 

 

黒石:「わかりました・・・。見えた色は、これです・・・」

 

 

 

イグナシオ:「オリーブドラブ・・・。うん、悪くない選択だ。この調子で、続けてくれ・・・」※(くすんだオリーブ色)

 

 

 

黒石:「どうして、この方法なのですか?」

 

 

 

イグナシオ:「さあな・・・。強いて言うなら、俺も、自分の直感力を信じてみたくなったんだ・・・」

 

 

 

黒石:「え? それはどういう意味・・・?」

 

 

 

イグナシオ:「あの色を選んだお前と、一緒にサグラダ・ファミリアを描き上げたら、

       どんな素晴らしい絵に仕上がるか・・・、見てみたくなったんだ・・・。悪いか?」

 

 

 

 

黒石:「ふふふふっ・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「どうした? 何故、笑うんだ・・・」

 

 

 

黒石:「最初は門前払いされてたのに、今は何だか、別人のように優しいから・・・、

    ついさっきまでの緊張も・・・、何だか解れて、息苦しさもなくなったから、嬉しくて・・・つい・・・」

 

 

 

イグナシオ:「良い表情だ」

 

 

 

黒石:「え?」

 

 

 

イグナシオ:「今の笑顔は、仕事で作り上げた社会的な笑顔ではなく、お前自身の本当の笑顔だと思ってな。

       何も緊張する必要はない・・・。絵を作る楽しさ、喜びを一緒に共有してくれれば良いんだ」

 

 

 

 

黒石:「わかった、そうする。ねぇ、次の色は、これだけど、どうかしら?」

 

 

 

イグナシオ:「タンジェリンオレンジ・・・、今度は随分と思い切った色が浮かんだんだな」※(鮮やかな黄赤)

 

 

 

黒石:「あっ・・・、ちょっと思い切り過ぎた?」

 

 

 

イグナシオ:「大丈夫・・・。このくらい問題ない」

 

 

 

黒石:「本当に?」

 

 

 

イグナシオ:「あぁ」

 

 

 

黒石:「え? この色!? なんて表情が一瞬、見えたのは気のせいかしら?」

 

 

 

イグナシオ:「・・・負けたよ。・・・確かに一瞬、この色で大丈夫だろうかって疑った・・・」

 

 

 

黒石:「自分で、疑心感は捨てろって言ったくせに」

 

 

 

イグナシオ:「すまない・・・。どうやら俺も、まだ未熟だったようだ。

       その事に気付かせてくれて、感謝するよ」

 

 

 

黒石:「未熟ね・・・。・・・」

 

 

 

イグナシオ:「どうかしたのか?」

 

 

 

黒石:「貴方も、素直になった事だし・・・、私も自分に素直になろうかな~」

 

 

 

イグナシオ:「え?」

 

 

 

黒石:「実はね・・・、今回の仕事、私にとって、初めての大きい仕事なの・・・。

    今まで、国内の画家と契約したりも、ベテランの先輩と一緒でね・・・。

    ・・・そんな中、舞い込んだ仕事だったから、一人でって不安と、心細さがあったわ・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「・・・その事なら、最初に会った時から気付いてたよ。

       今回、来たバイヤーは、今まで来たバイヤーと違って、慣れてないなって」

 

 

 

 

黒石:「気付いてたんだ。・・・それなのに、あの冷たい態度だったなんて、何かショック・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「最初の態度は謝る・・・。それにも事情が・・・」

 

 

 

黒石:「どんな事情?」

 

 

 

イグナシオ:「それは・・・」

 

 

 

黒石:「それは? ・・・もう、勿体ぶらないで早く・・・」

 

 

 

イグナシオ:「すまない・・・。今は話せない・・・」

 

 

 

 

黒石:「そうなの・・・。それなら話てくれるまで待つ」

 

 

 

イグナシオ:「いつになるか、わからないのにか?」

 

 

 

黒石:「どんな事情があるのか分からないけど、焦っても仕方ないもの」

 

 

 

イグナシオ:「お前は、優しいんだな・・・。・・・くっ・・・」

 

 

 

黒石:「どうしたの?」

 

 

 

イグナシオ:「すまない・・・。少し慣れない事をして、疲れたようだ・・・。

       この続きは、また明日、頼む・・・」

 

 

 

 

黒石:「大丈夫? 何だか、ふらついてる・・・。良ければ、一緒に部屋まで・・・」

 

 

 

イグナシオ:「よせっ! 俺に触れるなっ!!!」

 

 

 

黒石:「え!? どうしたの!? いきなり!? 私はただ・・・!」

 

 

 

イグナシオ:「怒鳴ったりしてすまない・・・。一人で歩けるから、大丈夫だ・・・。

       それじゃあ、また明日な・・・」

 

 

 

 

黒石:「ええ・・・」

 

 

 

 

 

 

黒石:(N)「私は、ホテルまで向かう道の中で、考えていた・・・。

       さっきの態度は、明らかに可笑しい・・・。

       でも、手を差し伸べた瞬間に見せた彼の表情は・・・、何処か怯えていた・・・。

       一体、貴方は、何に怯えてるの・・・?

       その日は流石に、中々、眠りに付けなかった・・・」

 

 

 

 

 

 

イグナシオ:「おはよう、 悠理子・・・。今日も、宜しく頼む」

 

 

 

黒石:「あっ・・・、私の名前・・・」

 

 

 

イグナシオ:「一緒に作業してるんだ。構わないだろう? 俺の事も、イグナシオで構わない」

 

 

 

黒石:「ねぇ・・・、昨日の事だけど」

 

 

 

イグナシオ:「怒鳴ったりしてすまない・・・。」

 

 

 

黒石:「それは別に構わないの。私の気になってることは、別で・・・」

 

 

 

イグナシオ:「別とは何だ?」

 

 

 

黒石:「ううん、気にしないで・・・。さぁ、作業、始めましょう!」

 

 

 

イグナシオ:「そうだな・・・」

 

 

 

 

黒石:(N)「私は、素直に訊けなかった・・・。

      訊いてしまえば・・・、きっとこの関係は終わってしまう・・・。

      それなら、今はもう少し彼と、絵を創り上げる喜びを共有していたい・・・。

      そう、思ったのだ・・・。

      それにしても、彼の集中力は素晴らしい・・・。

      こうやって、横に座っていると、彼の情熱が伝わってくる・・・。

      スペインに差す太陽のように、温かくて・・・、心地よかった・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「なぁ・・・、そんなに、見つめないでくれないか・・・」

 

 

 

黒石:「それは無理な相談よ。貴方の魅力に、引き込まれてるんだから・・・」

 

 

 

イグナシオ:「・・・それじゃあ、これならどう・・・?」

 

 

 

黒石:「ちょっと・・・! どうして貴方まで・・・」

 

 

 

イグナシオ:「君が見つめてるんだから、俺が君を見つめ返しても、構わないだろう・・・?」

 

 

 

黒石:「それは・・・」

 

 

 

イグナシオ:「駄目なのかい?」

 

 

 

黒石:「駄目じゃない・・・。もっと私を見つめて・・・」

 

 

 

イグナシオ:「あぁ・・・。・・・悠理子の目の色、綺麗だ・・・。

       宝石に例えるなら・・・、ブラックスピネルのように・・・、

       艷やかで、強い輝きを放っている・・・」

 

 

 

黒石:「貴方の目も・・・、吸い込まれそうなブルーで、綺麗だわ・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「俺達、スペイン人は、ブラウンの目の色が多いんだ・・・。

       青色は少ない方でね・・・。

       だから、この目は・・・、小さい頃から、コンプレックスだった・・・。

       周りの友達も、俺とは違うブラウンで・・・、寂しい思いもしたよ・・・」

 

 

 

黒石:「そんな・・・」

 

 

 

イグナシオ:「出来るなら、俺も皆と同じブラウンが良かった・・・」

 

 

 

黒石:「私は、貴方の目の色、とても好きよ・・・。ずっと見つめていたいもの・・・」

 

 

 

イグナシオ:「じゃあ、君の記憶の1ページに、留めて置いてくれるかい?」

 

 

 

黒石:「え?」

 

 

 

イグナシオ:「覚えていて欲しいんだ・・・」

 

 

 

黒石:「ねぇ、どうして・・・?」

 

 

 

イグナシオ:「悠理子の事が好きだから・・・」

 

 

 

黒石:「だって、私達、ついこの前、会ったばかりなのよ・・・」

 

 

 

イグナシオ:「ずっと昔から、知っていたかのように・・・、君の事を考えると・・・、心が温かくなる」

 

 

 

黒石:「嬉しいけど・・・、私に、もし恋人が居たら・・・」

 

 

 

イグナシオ:「君を手に入れられるのなら、自分の大事な物を・・・、神に差しだしても構わない・・・」

 

 

 

黒石:「私・・・」

 

 

 

イグナシオ:「・・・今は、俺の事だけ考えて・・・」

 

 

 

黒石:「イグナシオ・・・」

 

 

 

黒石:(N)「イグナシオの手が私の頬に触れる・・・。

       数々の美しい作品を創り上げた・・・、太陽のように温かい手・・・。

       彼に触れられる度・・・、私の胸は高鳴っていくのを感じた・・・。

       そして・・・、私達はその晩・・・、お互いの思いを・・・、日が昇り始めるまで、確かめ合った・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

イグナシオ:「おはよう・・・、悠理子。よく眠れた・・・?」

 

 

 

黒石:「ええ、とても良い夢を見ていたわ・・・」

 

 

 

イグナシオ:「どんな夢だい?」

 

 

 

黒石:「それは内緒よ・・・。だって、話してしまったら、消えてしまいそうだから・・・」

 

 

 

イグナシオ:「気になるけど仕方ない。・・・それなら、消えない物なら、どうだい?」

 

 

 

黒石:「え?」

 

 

 

イグナシオ:「これを、悠理子にあげる」

 

 

 

黒石:「・・・何だか、高級感ある箱・・・。開けて良いの?」

 

 

 

イグナシオ:「あぁ・・・」

 

 

 

黒石:「綺麗なネックレス・・・。この宝石は・・・ガーネット・・・」

 

 

 

イグナシオ:「家に代々から伝わるネックレスだ。・・・君に受け取って欲しい・・・」

 

 

 

黒石:「待って・・・、こんな高価な物、受け取れない・・・」

 

 

 

イグナシオ:「・・・ガーネットの宝石言葉は、変わらない愛情・・・。

       だから、これは俺の決意の証なんだ・・・。

       悠理子と、一晩を共にしたのも・・・、決して遊びではない・・・」

 

 

 

 

黒石:「イグナシオ・・・。・・・嬉しい・・・。でも、少し考えさせて・・・。

    突然の事で、頭が混乱してるわ・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「・・・わかった。・・・悠理子の答えを待つよ」

 

 

 

 

黒石:「・・・ありがとう・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒石:(N)「それから数日が経過した。彼も告白した事には触れず、私も彼と、絵画を完成する事に集中した・・・。

       彼がコンプレックスと言った青い目は・・・、真っすぐサグラダ・ファミリアを見つめていた。

       その表情は、とても真剣で・・・、でも、何だか悲しい表情にも見えた・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「悠理子・・・」

 

 

 

黒石:「何かしら?」

 

 

 

イグナシオ:「今日の作業は、この辺にして、少し街を歩かないか?」

 

 

 

黒石:「そうね、此処数日、集中して書いていたし、気分転換しましょう。

    それで、何処に案内してくれるの?」

 

 

 

イグナシオ:「それは着いてからのお楽しみだ」

 

 

 

黒石:「楽しみにしてるわ」

 

 

 

 

 

 

 

黒石:(N)「バルセロナの街の風景は、とても魅力的で、擦れ違う人々も皆、お洒落だった。

       私は、華やかな雰囲気に飲まれてしまい、少し俯いてしまう・・・」

 

 

 

イグナシオ:「どうかしたか?」

 

 

 

黒石:「皆、私より綺麗で・・・、何だか恥ずかしくなっただけよ・・・」

 

 

 

イグナシオ:「そんな事、気にしなくて良い。悠理子は、スペインで一番だ」

 

 

 

黒石:「ちょっと、こんな人混みで言わないで・・・」

 

 

 

イグナシオ:「困った顔も、可愛いな」

 

 

 

黒石:「からかわないでよ・・・!」

 

 

 

イグナシオ:「もっと悠理子の色んな表情を、俺に見せてくれ! さぁ、悠理子、手を! 走ろう!!!」

 

 

 

黒石:「うん・・・!」

 

 

 

 

黒石:(N)「イグナシオに手を引かれて、バルセロナの街を駆け抜ける・・・。

       まるで、風になったみたいに、次々と風景が変わっていった。

       彼の強引さに、私は戸惑いながらも、今、この時を楽しんでいた・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・、こんなに走ったのは久しぶりだ・・・!」

 

 

 

黒石:「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ~・・・。ふふふ・・・、あははははははっ!」

 

 

 

イグナシオ:「あははははははっ! 悠理子、どうしたんだい!?」

 

 

 

黒石:「イグナシオこそっ・・・!!! あはははははっ!」

 

 

 

イグナシオ:「悠理子が楽しんでくれて、良かった! さぁ、目的地に着いたよ」

 

 

 

黒石:「凄く綺麗な場所・・・」

 

 

 

イグナシオ:「此処は、グエル公園。上からの景色も最高なんだ。さぁ、登ろう」

 

 

 

黒石:「ええ。・・・うわ~、綺麗・・・。これは、陶器やタイルの破片かしら?」

 

 

 

イグナシオ:「あぁ、その通りだ・・・。・・・くっ・・・」

 

 

 

黒石:「イグナシオ、どうかしたの・・・?」

 

 

 

イグナシオ:「大丈夫だ。俺のペースは気にしないで、先に登ってくれ」

 

 

 

黒石:「わかったわ」

 

 

 

黒石:(M)「ねぇ、貴方は何と戦ってるの・・・? 私を好きなら、隠さず話して・・・」

 

 

 

黒石:(N)「白い階段を一段ずつ登っていく間も、

       私より後に、息を切らしながら登っている彼が気になって、仕方なかった・・・」

 

 

 

 

 

イグナシオ:「はぁ、はぁ・・・、はぁ、はぁ・・・。久しぶりに登ったから、キツかった~」

 

 

 

黒石:「イグナシオ、遅いわよ・・・」

 

 

 

イグナシオ:「慣れない事はしないに限るな・・・」

 

 

 

黒石:「私は、楽しかったわよ。あんなに全力で走ったのなんて、いつぶりかしら」

 

 

 

イグナシオ:「俺も、いつぶりだろうな~。俯いてる悠理子を見たら、元気にしたくなったんだ」

 

 

 

黒石:「イグナシオ・・・」

 

 

 

イグナシオ:「悠理子、此処からの景色、どうだい?」

 

 

 

黒石:「バルセロナの街が、見渡せて、とても綺麗~!!!」

 

 

 

イグナシオ:「気に入った?」

 

 

 

黒石:「ええ!!! 世界に、こんなに美しい景色があったなんて、何だか夢を見てるみたい・・・」

 

 

 

イグナシオ:「バルセロナは、街の至る所に、

       ガウディ建築の骨頂が息づいていて、街全体が一つの芸術になっている。

       俺は、此処で生まれ、この風景をずっと見て育ったんだ・・・」

 

 

 

 

黒石:「羨ましいわ・・・。私もスペイン人に産まれてれば・・・」

 

 

 

イグナシオ:「もっと早く、悠理子に会いたかった・・・」

 

 

 

黒石:「え・・・?」

 

 

 

イグナシオ:「もうすぐ、絵は完成する・・・。

       そうしたら悠理子は、日本に一度、帰らないと行けないだろう?」

 

 

 

 

黒石:「社長に報告しなければならないし、帰る事になるわね・・・」

 

 

 

イグナシオ:「残り数日になると思うけど、あの絵に、

       悠理子のありったけの気持ちを込めてくれないかい・・・?

       俺もそうする・・・」

 

 

 

 

黒石:「わかったわ。約束する」

 

 

 

 

イグナシオ:「Muchas gracias (ムーチャス・グラシアス)・・・悠理子。

       さぁ、帰ろう・・・」

 

 

 

 

 

黒石:(N)「彼はそう言って、私の手を再び握った・・・。

       私は、その時、何故か胸騒ぎがしたが、その理由をしる術はなかった・・・。

       そして、更に数日が経過した・・・。

       絵も完成して・・・、私はついに明日の朝、帰国する事になった・・・」

 

 

 

 

 

イグナシオ:「最後まで、付き合ってくれてありがとう」

 

 

 

 

黒石:「言葉に表せないくらい美しい絵だわ・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「言葉は不要だ・・・。心で感じるんだ。

       この絵は、俺一人では、描き終わる事が出来なかっただろう・・・。

       完成したのも、全て、悠理子のおかげだ・・・。

       さぁ、明日は早いんだろう・・・?」

 

 

 

黒石:「ええ・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「絵の梱包は、俺が準備するから、先に寝ててくれ」

 

 

 

 

黒石:「でも・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「大丈夫、後は、俺に任せて・・・。おやすみ、悠理子・・・」(おでこにキス)

 

 

 

 

黒石:(N)「彼は、私のおでこにキスをして、寝室に送ると、再びアトリエに戻っていった。

       最後の夜くらい・・・、一緒に居て欲しいと思った・・・、その時だった・・・。

       イグナシオは、戻ってきてくれた・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「やっぱり、悠理子が眠るまで、側に居ていいかい・・・?」

 

 

 

黒石:「その言葉、待ってたから、嬉しい・・・」

 

 

 

イグナシオ:「慣れない事して、疲れただろう?」

 

 

 

黒石:「このくらい平気よ・・・。・・・初めて出会った時から、今日まで、初めての経験ばかりで・・・、

    気付いたら・・・、私も・・・、貴方の事・・・、気になりだしてた・・・」

 

 

 

イグナシオ:「その言葉が聞けただけで、俺は幸せだよ」

 

 

 

黒石:「・・・社長に報告して、絵を届けた後、

    また必ず、此処に戻ってくるわ・・・」

 

 

 

イグナシオ:「それって・・・?」

 

 

 

黒石:「私を本気にさせたんだから、最後まで責任取って・・・。良い、約束よ」

 

 

 

 

イグナシオ:「わかった、約束する・・・。さぁ、目を閉じて・・・」

 

 

 

 

黒石:「・・・おやすみなさい・・・、イグナシオ・・・」

 

 

 

イグナシオ:「おやすみ・・・。・・・悠理子」

 

 

 

 

 

 

 

 

黒石:(N)「翌朝・・・、目を覚ますと、そこに彼は居なかった・・・。

       私は、何故だか不安になり、アトリエに向かうと・・・、

       そこには、梱包された絵と、・・・adiós(アディオス)の文字が書かれたカードが置かれていた・・・」

 

 

 

 

黒石:「イグナシオ・・・。何処に行ったの・・・。どうして・・・、何も言わないで、居なくなったの・・・!?」

 

 

 

 

黒石:(N)「身支度を整えると、私はバルセロナの街を駆け回っては、街の人々に彼の行方を聞いて回った・・・。

       でも・・・、中々、手掛かりが見つからず・・・、途方に暮れていた時、

       二人組の会話が聞こえてきた・・・。その二人組は、こう言っていた・・・。

       イグナシオ・ロドリゲスの、画家としての才能は、もう終わりだ・・・。

       私は、思わず彼らに詰め寄り、その理由を訊いた・・・。

       衝撃の事実を知って・・・、目の前が真っ暗になったが・・・、今はそんな場合ではない・・・。

       なりふり構わず、聞き込みを続けて・・・、ようやく彼が向かった場所がわかった・・・。

       私は、急いで、その場に向かった・・・」

 

 

 

 

 

 

 

イグナシオ:「神よ、貴方は何故、このような試練を与えた・・・?

       俺には・・・、絵が・・・、サグラダ・ファミリアが、全てだった・・・!

       パブロ・ピカソのようにと、世間から注目を浴びたから、

       貴方は、更に試練を与えたというのか・・・?

       そうだとしても・・・、この試練は・・・、余りに酷い・・・!!!

       ・・・俺から・・・、芸術を奪わないでくれえええええええ・・・!!!!!」

 

 

 

 

 

黒石:「イグナシオ!!!」

 

 

 

イグナシオ:「その声は!? 悠理子なのか!?」

 

 

 

黒石:「ええ、そうよ!!! 今、そっちに行くから!!!」

 

 

 

イグナシオ:「来るんじゃない!!! お願いだ!!! 来ないでくれ!!!」

 

 

 

黒石:「こんな崖の側に来たら、危ないじゃない・・・!!! 馬鹿な真似はよして・・・!!!」

 

 

 

イグナシオ:「馬鹿な真似だと!? まさか・・・!?」

 

 

 

黒石:「街の人から聞いたわ!!! 貴方にとって、とても辛い事よね・・・!!!」

 

 

 

イグナシオ:「そう思うなら・・・、もう終わらせてくれ・・・! もう、俺には時間が残されてないんだ・・・!!!」

 

 

 

黒石:「馬鹿言わないで!!! そんな事、絶対にさせない!!!

    確かに、貴方にとって・・・、二度と見えなくなるのは・・・、死を望むくらい辛い事だってわかる・・・!

    だから・・・、私と最初にあった時に、貴方は・・・、最後の望みを私に託したんでしょ・・・!?」

 

 

 

 

イグナシオ:「俺は・・・」

 

 

 

 

黒石:「例え、失明しても・・・、芸術、絵を描く事を諦めたくない・・・!!!

    わかるわよ、その気持ち・・・。

    ・・・だって、あの二人で仕上げたサグラダ・ファミリアの絵には・・・、

    痛いくらい、貴方の思いが詰まっているもの・・・。

    お願い・・・、神様に与えてもらった才能を・・・、無くそうとしないで・・・」

 

 

 

 

イグナシオ:「俺は・・・、その神に今度は奪われようとしてるんだ・・・。

       このバルセロナの美しい景色も・・・、・・・サグラダ・ファミリアも・・・、君の笑顔でさえ・・・。

       俺は・・・、何も見えなくなる・・・。待っているのは・・・、何もない闇で、絶望しか残されてない・・・」

 

 

 

 

黒石:「それは違うわ!!!」

 

 

 

 

イグナシオ:「こんな俺に何が残されてるんだ!? ・・・こうしてる間にも、俺の視界は狭くなっている・・・。

       ・・・もう、君の顔も・・・、よく見えない・・・。・・・君の素敵な目の色さえ・・・」

 

 

 

黒石:「だったら、これから先の未来は、私が貴方の目になってあげる・・・!!!」

 

 

 

イグナシオ:「え・・・!?」

 

 

 

黒石:「私が側で、貴方に色を伝えるわ。貴方の闇を、色鮮やかな色で一杯にする・・・」

 

 

 

イグナシオ:「俺と、これから先、一緒に居てくれるのかい・・・?」

 

 

 

黒石:「そうよ・・・。一生、側から離れない・・・」

 

 

 

イグナシオ:「悠理子・・・。くっ・・・、視界が・・・」(ふら付いて崖から落ちそうになる)

 

 

 

黒石:「危ない・・・!!! イグナシオ・・・!!!」

 

 

 

イグナシオ:「・・・!? ・・・悠理子・・・?」

 

 

 

黒石:「馬鹿・・・。もう、絶対に離さないんだから・・・」

 

 

 

イグナシオ:「泣いているのか? ・・・視界もぼやけて・・・、よく見えない・・・」

 

 

 

黒石:「・・・イグナシオ・・・」

 

 

 

イグナシオ:「・・・教えてくれ・・・。悠理子の目から見える美しい景色を・・・。これから先、俺に・・・」

 

 

 

黒石:「・・・ええ。・・・わかったわ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

黒石:(N)「・・・その日、彼は・・・、光を失った・・・。

       でも・・・、彼の才能は・・・、まだ、光を失っていない・・・。

       これからも・・・、光り輝き続けるのだ・・・。

       ・・・それから、3年が経過した・・・。

       私は会社を退職して、スペインに移住した・・・。

       そう・・・、彼の側で・・・、一緒に絵を描き続けるために・・・」

 

 

 

 

 

イグナシオ:「・・・悠理子、さぁ、始めてくれ・・・」

 

 

 

黒石:「そうね・・・。今日のサグラダ・ファミリアには・・・、この色かしら・・・」

 

 

 

イグナシオ:「どの色を選んだんだ・・・?」

 

 

 

黒石:「うふふ・・・。ジョンブリアンよ・・・」

 

 

 

イグナシオ:「・・・その色は・・・、俺も好きな色だ・・・。・・・あの時の事、覚えてくれてたんだな・・・」

 

 

 

黒石:「・・・当然じゃない。だって、この色は・・・、私と貴方を結んでくれた、幸せの色なんだから・・・」

 

 

 

 

黒石:(N)「・・・その後、私は・・・、彼からプレゼントされた、

       ガーネットのネックレスを、そっと握りしめ・・・、今の幸せを祈った・・・。

       そして今日も、彼と一緒にサグラダ・ファミリアを描く・・・。

       そう・・・、パレットに愛を込めて・・・」

 

 

 

 

 

 

終わり