HOTEL
作者:ヒラマ コウ
比率:【0:1】
上演時間:【15分】
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私は、都会の慌ただしさに疲れを感じると、1人だけで、旅行をする。
1泊2日は慌ただしいので、だいたい2泊3日が多い。
旅行先へは、電車もしくは飛行機が一般的には楽なのだろう。
だけど、私は車の運転が好きなので、
時間がかかっても、何処に行く際も、車を選ぶのだ。
まだ、辺りも暗い時から、出発すると、都会に居ても、
車は少なく、まるで自分一人だけが取り残されたように、
静寂を感じる。
私は、この瞬間がとても大好きだ。
昼間、渋滞の中、何度もブレーキを踏んで、車を走らせてると、
まるで、会社での自分を思い出す
周りを気にして、つねに神経を張り巡らせ、
上司や同僚の顔色を伺いながらの日常。
それが嫌でたまらなくて、
快適に、走れるこの時間を選ぶ。
そんな事を感考えながら、車を軽快に走らせ高速に向かうと
少しずつ車が増え、辺りも賑やかになる。
高速道路を走っていると、
目的地はそれぞれ違うのだけど、
一緒に真っ直ぐに続く道を走らせてるからか、
一体感を感じる事がある。
その不思議な感覚を楽しみながら、目的地へと向かう。
途中疲れたら、SAで休憩をし、また車を走らせる。
それを何度か繰り返していると、
辺りも明るくなり、私は車の窓を半分程、開ける。
そうすることで、爽やかな朝の風が車内に入って来て、
凄く心地良いのだ。
SAで購入した珈琲を飲んだり、走り続けて5時間
ようやく目的地のホテルに着く。
時間はだいたい、お昼過ぎ
ホテル内はチェックアウトも終わり、
慌ただしさも落ち着いた頃なんだろう。
館内に流れるゆったりとしたピアノの音と、
連泊をして、ゆっくりランチを楽しんでる宿泊者の話し声が聞こえてくる。
そのホテル独特の空間を感じながら、
私もロビーのソファーに腰掛ける。
そして、窓一面に広がる海を見ると、一気に心が解放されるのだ。
その心地よさを、ゆっくり感じながら、
ぼーっとしてると、年老いたご夫婦の会話が耳に入って来た。
「今年も記念日に来れましたねー。貴方と出会い、このホテルを知って、
貧しいながらも少し無理をし、泊まりに来て、
高級なホテルで緊張をしていた私達に、
ホテルのスタッフは、温かく出迎えてくれて、
緊張も解け、楽しい時間を過ごせ・・・そんな何気ない優しさが心地よくて、
記念日の度に貴方と来てますが、後、何回来れるのかしらね・・・」
「いつまでかはわからないさ・・・。だけど、変わらず笑顔で出迎えてくれるホテルのスタッフを見ると、
また来年、お前と一緒に此処に来たくなる。今は、それだけで良いんだよ・・・」
「ええ・・・。そうですね・・・」
少し寂しさも感じる会話だった・・・。
だけど、深い愛情も感じるそのやり取りは、私の心を温かくする。
そして、私は再び海を見ながらこう思った。
此処に来て良かったと。
ホテルには、色々なお客のドラマがある。そんな一面を楽しむのも醍醐味だ。
周りを改めて見ると、
私と同じように、1人で来てる女性もちらほらと見かける
女性が1人で旅行というと、周りからは傷心旅行とか、
マイナスなイメージが多かったけど、
今はそうではなく、働く女性が自分へのご褒美に、ホテルに1人泊まる。
そんなのは当たり前になり、学生の頃、そういう姿をTVで観た時は、
むしろカッコイイとさえ思った。
そして、いつか私も同じように、優雅な時間を楽しむのを誓ったのだ。
少し時間はかかったけど、それも出来るようになり、
大人になったんだなと実感した。
そんな事を考えながら、1時間程、ロビーで珈琲と軽食を楽しんでたら、
フロントは賑やかさを増しているのに気づく。
チェックインの準備を進めてるのだろう。
首にスカーフを撒き、髪をアップにした上品な雰囲気の女性が、ロビーで待つチェックインのお客様に声をかけている。
そんな姿を見ながら、静かに順番を待つ。
「予約した何々ですが、チェックインはまだですか?」
そんな事を、せかせかと訊ねたら、優雅な気分はぶち壊しになってしまう。
だから、慌てずにじっと声がかかるのを待つのだ。
そうして待っていると、私の出番になり、その女性スタッフは声をかけてきた。
私は静かに答え、チェックインカウンターへ向かう。
向かう途中、レストランが見えた。
螺旋階段を降りた下にあるレストラン
私がこのホテルを選んだ理由の一つだ。
HPを見た時に一目惚れだった。
白い螺旋階段を降りながら向かうなんて、まるで、有名な女優になったような気分になる。
そう思ったからだ。
期待通りのレストランで、私の胸は更に高鳴る。
チェックインカウンターで手続きを済ませ、部屋へと案内してもらうと、
もはや、一国のお姫様になった気分でさえいた。
部屋からの景色も抜群で、一通り説明を聞いた後、
私はベッドへと勢いよく倒れ込む。
体を、そっと優しく包み込む、その感触を楽しんでると、
ストレスや悩みなんて、一気に忘れてしまう。
そしてそのまま窓の外に広がる海を見ると、
此処にずっと居たいとさえ思い始める。
波の音は疲れた私には最高の癒しなのだ。
ざぶーん
さぶーん
さぶーん
耳に聴こえるその音を楽しんでいると、瞼は少しずつ閉じてくる。
ざぶーん
さぶーん
ざぶーん
どれくらい時間が経っただろう。
気付くと夕日が目の前に広がっていた。
私はゆっくりとベッドから起き上がり、夕食の為に準備をする。
シャワーを浴び、この日の為に用意したドレスに着替え、
いつもより、少し長い時間をかけ、化粧をする。
お気に入りのピアスに、お気に入りのネックレス、そしてお気に入りのヒール。
それらを身に纏うと、予約していた夕食の時間近くになる。
だけど慌てたりなんてしない。
ゆっくりと部屋のドアを閉め、ゆっくりとホテルの廊下を歩き、エレベーターホールに向かう。
そしてエレベーターに乗り、ゆっくりと下へ降り、
エレベーターのドアが開くと、私は目の前に広がる光景に、息を飲んだ。
昼間の風景とは違い、上品な大人の時間を感じる。
館内に流れるピアノの音楽。
そして、少し薄暗くも感じる、館内の照明。
それら全てが、とても綺麗で、周りの雰囲気を楽しみながら、レストランへと向かった。
白い螺旋階段が見えてきて、私の胸は高鳴り始める。
そして、階段に到着すると、ゆっくり降りていく。
コツ
コツ
コツ
お気に入りのヒールの音を響かせながら。
そうして降りていると、レストランに着き、スタッフが上品に出迎えてくれた。
私は、案内してくれた席に座り、窓からの海を見ると、
月明かりが水面に映り、美しい河が出来ていた。
こういうのを何ていうのだったけ?
そう思っていたら、ピアノの曲が終わり、次の曲になった。
その旋律を聴いて私は思い出す。
あぁ、ムーンリバーだと。
そんなゆったりとした時間は、私の疲れをすっかり癒していた。
贅沢な私だけの時間。
それを楽しむために、これからも私は、ホテルへと泊まりに来る。
そう、ムーンリバーを聴きながら、フレンチを楽しみ、静かに1人、心の中で決意をした・・・。
終わり
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