魅せられて another
作者:ヒラマ コウ
登場人物
ユウスケ:30歳 海外結婚をしてスペインに住んでる妹に会いに来た。
マリア:28歳 スペインに住んでる。夜の酒場で日々ダンサーとして踊っている。
比率:【1:1】
上演時間:【40分】
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CAST
ユウスケ:
マリア:
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(1日目 昼)
ユウスケ(N):「日本から遠く離れ、辿り着いた異国の地、スペイン。
飛行機に何十時間も搭乗していたからか腰がなんだか痛い。
だが、そんな疲れも吹っ飛ぶ程にこの国の人達は明るい。
まるで、人々が太陽のようだ。
妹に呼ばれ来てはみたが、暫く気晴らしをするには良さそうだ。
妹と合流するまで、まだ時間があったので街を探索する事にした」
(街の広場 綺麗な女性が楽しく群衆の前で踊っている)
ユウスケ(M):「あそこの群衆はなんだろう? なんだか音楽も聴こえてくるな。
時間もあるし行ってみるか・・・」
間
ユウスケ(N):「広場の噴水の前で、一人の女性が楽しそうに踊っていた。
圧倒された・・・。笑顔で踊っている時もあるかと思えば、
時には険しい表情で激しく踊ったり・・・。
気付いた時には踊りは終わり、溢れる程の拍手が聞こえた」
マリア:「何、ぼさっとしてんだい? チップは此処に入れておくれ!
それともタダで観てくって気じゃないだろうね?」
ユウスケ:「あぁ! 済まない! あまりに素敵な踊りに魅了されてたんだ・・・」
マリア:(微笑み笑いながら)「だったら尚更チップを入れておくれよ!
ねえ、旅のお客さん、提案なんだけどさ、夜、時間あるかい?」
ユウスケ(N):「俺はその誘いに一瞬戸惑ったが、この目の前の女性の事を
もっと知りたいと思った。妹家族と約束があったけど、
なんとかなるだろう」
ユウスケ:「予定は特に無い」
マリア:「良かった! じゃあ、あたいの働いてる酒場においでよ。
夜は、そこでダンサーとして働いてるんだ!
たっぷりサービスもするからさ!」
ユウスケ:「・・・」
マリア:「安心しなよ。サービスと言っても料理をって事だよ。
いくらあたいでも、旅行に来てる知らない人をいきなりとって喰おうなんてしないよ!
あんた、名前は? あたいはマリア」
ユウスケ:「マリア・・・」
マリア:「どうしたんだい? そんなにあたいの名前は珍しいのかい?」
ユウスケ:「あぁ、ごめん。気にしないで。俺は、ユウスケ。」
マリア:「ユウスケ、日本人の名前は、不思議な響きが多いね。でも、あんたになんだか、似合ってる気がするよ。
それじゃあユウスケ、21時に待ち合わせなんてどうだい?」
ユウスケ:「オッケー」
マリア:「待ってるから! あっ、仲間達が呼んでる! それじゃあね!」
ユウスケ:「おい! 店の名前!」
マリア:(微笑みながら)「周りの人に訪ねてみなよ!!! あたい、この街では結構有名だからさ!!!」
(マリア、遠くへ走り去る)
ユウスケ(M):「不思議な魅力のある女性だな。マリア・・・まさかな・・・」
間
(1日目 夜)
ユウスケ(N):「妹と合流後も、俺の頭の中はあの女性「マリア」の事で一杯だった。
時折、妹に話を聞いてるの? と怒られはしたが、そんな時も
マリアに早く会いたいと思っていたし、こんな事知られたら
今以上の説教がくるだろう。当然だが、俺はこの事は黙っておくことにした。
なんとか妹を説得し俺は再び、この異国の地、スペインの夜の街に足を運んだ。
昼間の雰囲気とは打って変わり怪しい雰囲気を感じたが、それでさえ
今の俺には、なんだか心地良かった。肝心のお店だが・・・周りの人に訪ねても
そんな女性は知らないと言われ続け、5人目でやっとマリアの働いてるお店がわかった」
間
マリア:「いらっしゃい! 待ってたよ! どうだい? すんなり店に来られただろう?」
ユウスケ:「それについては言いたいことが沢山あるけど、まずはこの空腹を満たしたいかな」
マリア:「そうかい! じゃあ、まずは、たらふく料理を食べておくれ!」
ユウスケ:「そうする。メニュー、もらえるかい?」
マリア:「何言ってんだい? こちらの用意した料理の数々があるから、ユウスケは座って期待して待ってるだけでいいよ!
心配しなくて良いよ! あたいのおごりさ!」
ユウスケ:「ありがとう」
マリア:「残さず食べておくれよ! どれも味は絶品なんだからさ!」
ユウスケ(N):「そう言って笑いながら、マリアは店の奥へと料理を取りに行った。
待つこと10分。両手に溢れんばかりの料理を抱え戻って来た」
マリア:「お待たせ! まずこれは、トルティージャだよ!」
ユウスケ:「トルティージャ? 初めて聞く料理だ」
マリア:「じゃがいもがたっぷり入った卵料理だよ! 日本人は半熟とかが好きなの聞くけどさ
しっかりと火を通すのがスペイン流なのさ!」
ユウスケ:「俺も正直半熟が好きだな・・・」
マリア:「つべこべ言わずに食べてみな! 美味しいからさ!」
ユウスケ:(恐る恐る一口食べてみる)「美味しい・・・。じゃがいもの食感が卵に合ってる・・・」
マリア:「そうだろう! 一度食べると何度も食べたくなる味だよ! お次は、チャンピニョーネス・ア・ラ・プランチャだよ!」
ユウスケ:「これはマッシュルーム?」
マリア:「正解! マッシュルームの笠に、刻んだニンニクとパセリとチョリソーを詰めて、鉄板で焼いた料理だよ!
熱々を頬張れば口いっぱいに旨みが広がるよ! だけど火傷には注意するんだよ!」
ユウスケ:「熱っ!」
マリア:「言わんこっちゃないね! ほらお水!」
ユウスケ:「ありがとう! それにしても大きい・・・。日本で見るのより2倍くらいはありそうだ」
マリア:「そうなのかい? あたいは、これしか食べた事無いからよくわからないよ」
ユウスケ:「日本には来た事無いのかい?」
マリア:「・・・行ってみたいとは思うんだけどさ、なんせ遠くだから、まだ行った事はないよ」
ユウスケ:「いつか行けると良いな」
マリア:「あぁ・・・」
ユウスケ:「どうかしたか?」
マリア:「なんでもないよ! さぁ、次の料理持って来ないとね!」
ユウスケ(N):「マリアは、一瞬寂しい顔を見せたかと思うと、それを誤魔化すかのように
再び奥へと料理を取りにいった。なんだか気にはなったけど、なんだか・・・
それ以上聞くのもこの賑やかな雰囲気を壊す様な気がして、俺は問うのをやめた。
少し待っていると、再び両手いっぱいに料理を持って、マリアは戻って来た」
マリア:「お待たせ! 次の料理はガンバス・アル・アヒージョだよ!」
ユウスケ:「アヒージョ・・・。日本でも名前は聞いた事あるが食べた事無いな」
マリア:「じゃあちょうど良かった! たんと食べておくれ! マッシュルームに、かたつむりとかもあるけど
具材は海老にしといたよ! その方が食べやすいだろう? 熱々だから気を付けるんだよ」
ユウスケ:「子供じゃないんだから同じ失敗はしない。海老の旨みの中に鷹の爪やにんにく、
オリーブオイルが効いてて、これまた美味しい」
マリア:「気に入ってもらえたようで良かったよ! さて次は・・・(大きい鍋を持ちながら)これだよ!
アロス・ネグロ! 日本でも食べた事無いかい? スペイン料理の定番、パエリアだよ!」
ユウスケ:「パエリアって黄色い色して無かったっけ?」
マリア:「そう来ると思ったよ! せっかく、はるばる遠くから来てくれたんだからこっちにしようかと思ってね。
このアロス・ネグロは、イカ墨を加えたスープで、イカ、パプリカ、海老などの具材を炊き上げたものさ!
イカの風味が絶品だよ!」
ユウスケ:「見た目の黒さには驚いたけど、味は美味しい。パプリカとイカ、その他の具材の旨みが合わさって
なんとも深い味になってる」
マリア:「この味がわかるなんて、ユウスケやるね! それでこそ誘ったかいがあるってもんさ!
おっと、そろそろ時間・・・。
もっと話してたいけど、時間だから、後の料理は他のスタッフに持ってこさせるよ!」
ユウスケ:「まだ料理くるのかい?」
マリア:「まだまだあるよ! じゃあ、また後でね!」
ユウスケ(N):「そう言うとマリアは店の奥に走って行った。その言葉の通り、その後も料理は運ばれ続け、
どの料理も美味しかったのだけど、いい加減お腹が一杯になってきた・・・。
少し休憩をと思った時、店内の明かりが少し暗くなった。
次の瞬間、俺は目が釘付けになった。さっきまで此処で、楽しく話していたマリアが、
お店の舞台に立っている。仕事用の衣装だろうか? 赤の情熱的なドレスが、
焼けた肌の色に合ってて、妖艶な感じでもあった。
そして、ギターの陽気な音楽が鳴り出すと、マリアは軽やかに、
カスタネットを両手で鳴らしながら踊りだした。
その姿はなんとも美しくて、それでいて恐ろしさにも似た気迫を感じた。
これが本場のフラメンコなのか。その踊りに俺は圧倒されてしまった。
少し落ち着き、薄暗い店内を見ると、そこには同じように、料理や飲み物から手を止め、
マリアの踊りに魅了されてるお客がいた。
それもそうだ。こんな圧倒的な踊りを見せられては・・・。
フラメンコシューズから幾度となく繰り返されるその音は、
時に優しく、時に寂しく、そして、時に激しくも聴こえ、心を何度も揺さぶられた。
どれくらいの時間が経っただろうか・・・。気付いた時には、
マリアが深々とお客の前にお辞儀をしているのが見えた。
鳴り止まない歓声と拍手。俺も負けじと手を叩き、マリアに拍手を送り続けた」
間
マリア:「ユウスケ、どうだいあたいの踊りは?」
ユウスケ:「・・・」
マリア:「どうしたんだい、ポカーンとして? そんなにあたいの踊りに魅了されたのかい?」
ユウスケ:「ああ・・・。惹きこまれたよ・・・」
マリア:「そうかい! そりゃあ良かった! ねえ、今夜はどこに泊まるんだい?
良ければ、家(うち)に来ないかい? 日本の事、それに、ユウスケの事もっと知りたいんだ」
ユウスケ:「今夜は妹の家に泊まろうかと・・・」
ユウスケ(N):「俺はその瞬間を逃さなかった。妹の名前を出した途端、マリアはさっきと同じ寂しい顔を見せた。
これは何かある。俺はその理由が知りたかった。いや、これはただの口実だ・・・。
俺は目の前の女性、マリアに惹かれている」
マリア:「妹さんが待ってるのなら仕方ないね! 今夜は遅いしそろそろ帰ったほうが・・・」
ユウスケ:「いや、帰らない。妹には電話するから、今夜はマリアの家に泊めてくれないか?」
マリア:「いいのかい? 妹さんもユウスケと会話するの楽しみにしてるんじゃ?」
ユウスケ:「いいんだ」
マリア:「わかったよ。もう1(ワン)ステージ残ってるからこのまま待ってておくれ! じゃあまた後で!」
ユウスケ:「あぁ」
ユウスケ(N):「その後のステージも素晴らしかった。あれだけ激しく踊ってたのに、疲れを見せず、
むしろさっきよりも、より情熱的にマリアは、俺とお客を魅了し続けた。
二度目の拍手も終わり、店が落ち着いた頃、マリアの声が店内に響いた」
マリア:「マスター! あたい、先に帰るよ! うん、ありがとう! じゃあまたね!
お待たせ! ユウスケ、行こうか!」
ユウスケ:「あぁ」
ユウスケ(N):「暫く無言で歩いていると、マリアが問いかけてきた」
マリア:「あのお店どうだい? 気に入ったかい?」
ユウスケ:「そうだな。料理も美味しかったし、マリアの踊りにも圧倒された。言う事無いな」
マリア:「そうかい。本当、ユウスケは優しいね。あたいは・・・」
ユウスケ:「どうかしたか?」
マリア:「なんでもないって言いたいところだけどさ、詳しくは家に着いてから話すよ」
マリア:「・・・」
ユウスケ:「綺麗だ・・・」
マリア:「景色がかい?」
ユウスケ:「いや、月明かりに照らされたマリアの顔がさ」
マリア:「あたいを誘ってるのかい?」
ユウスケ:「そうだって言ったらどうする?」
マリア:「どうって・・・からかわないでおくれよ。そりゃ、ユウスケのような魅力溢れる男性に誘われたら
あたいだって、その気になっちゃうよ・・・」
ユウスケ:「それ、本当?」
マリア:「嘘は言わないよ」
ユウスケ:「マリア・・・」
マリア:「でも、ここでは、まだ駄目さ。その代りに、今からあたいと一緒に踊ってくれないかい?」
ユウスケ:「此処でフラメンコをかい?」
マリア:「そうだよ。大丈夫、ちゃんとリードするよ」
ユウスケ:「俺は、踊った事なんて一度も無いけど・・・大丈夫かい?」
マリア:「踊りに苦戦するユウスケも見てみたい」
ユウスケ:「転けたり、マリアの足を踏みつけるかも・・・」
マリア:「ユウスケ、踊りに大事なのは「心」さ。感情のうねりを、命の鼓動を感じて、
そして、相手の鼓動を感じ、
なにより、湧き上がる感情に身を任せて楽しむのさ。そうすればユウスケの踊りが出来るよ。
あたいは、それが見たい・・・。下手でも、転けても良いんだよ!
精一杯踊るユウスケを、あたいに見せておくれ!」
ユウスケ(N):「そう言って、月明かりに照らされながら、俺に手を差し出すマリアが、この世の者とは思えないほど、
美しくて、俺は少しの間眺めていた」
マリア:「・・・駄目かい?」
ユウスケ:「俺なりの踊りか・・・。マリアとなら、出来そうな気がする!」
マリア:「その意気だよ!」
間
ユウスケ:「痛っ・・・。つま先や、踵で床を踏み鳴らしてリズムをとるのが難しいな・・・」
マリア:「手の動きも大事でフラメンコの命だよ。もっと、リズムも感じて!」
ユウスケ:「よし、もう一度だ・・・。マリア! 手拍子頼む!」
マリア:「良い笑顔だ! じゃあ、行くよ!」
ユウスケ:「あぁ!」
マリア:「ユウスケ! 手が御留守になってるよ! もっと全体で表現して! 顔は下を向かないで、ちゃんと真正面を見るんだよ!
湧き上がる感情の波に身を任せて、何より自分を信じるんだよ!」
ユウスケ:「わかった!」
マリア:「そうだ! 段々良くなってきたよ! その意気だ!」
ユウスケ(M):「マリアの手拍子が、自分の心臓の鼓動が、スペインの風が、全て心地良い・・・!
もっと情熱的に踊りたい・・・! この大地の鼓動を感じたい・・・!」
マリア:「ユウスケ! あんた最高だよ! あたいにも、情熱が流れ込んでくるよ!」
ユウスケ:「体が、燃えるように熱い! 俺の中に生まれる感情をもっと踊りで表現したい!」
マリア:「こりゃ、あたいも我慢できないよ・・・!」
ユウスケ(N):「暫く夢中になって踊っていると、いつの間にかマリアも踊りに参加していた。
ショーの時とは違い、間近で見るマリアの踊りは、より妖艶で、床を踏み鳴らす
リズムが心地よくて、そのリズムに合わせて踊るのが心地よかった」
マリア:「ユウスケと踊れて嬉しいよ! もっと情熱的に、激しく、あたいの心を揺らしておくれ!」
ユウスケ:「マリアこそ、俺の心を揺さぶってくれ!」
マリア:「その言葉を待っていたよ! さぁ、テンポを上げるよ! どこまでもついて来な! ユウスケ!」
ユウスケ:「あぁ!」
間
ユウスケ(N):「どれくらい踊っていたのだろうか。気付くと俺とマリアだけの空間が、
いつの間にか集まったギャラリーの熱気と歓声と拍手で包まれていた」
マリア:「みんな! ありがとうね! 此処にいる素敵な男性は今日、日本からやってきたんだ!
踊るのは初めてだけど、こうして、みんなの心に踊りが伝わったみたいで、あたいも嬉しいよ!
スペインにようこそ! ユウスケ!」
ユウスケ:「なんか照れるな・・・」
マリア:「何を言ってるんだい! 堂々としていれば良いんだよ! もうこれで、ユウスケは私達の仲間さ!」
ユウスケ:「仲間・・・?」
マリア:「あぁ、そうだよ!」
ユウスケ:「仲間か・・・」
マリア:「どうしたんだい? ユウスケ」
ユウスケ:「何でもない。もっと踊っていたい気分ではあるけど、そろそろマリアの家に行かないか?」
マリア:「そうだね、そうするかい」
ユウスケ(N):「熱気あふれる路地を後にして、俺達はマリアの家に急いだ。
暫く話していると、マリアの家に到着した」
マリア:「遠慮せず上がんな。靴はそのままで良いよ」
ユウスケ:(周りを見ながら)「お洒落な部屋だな」
マリア:「そんな事ないさ。ここいらでは当たり前の部屋だよ。何か飲む?
ワインでも良いかい?」
ユウスケ:「ありがとう、貰うよ。それで俺に話したい事ってなんだい?」
マリア:「少し飲んでから話すよ・・・」
ユウスケ:「わかった。じゃあ、2人の出会いに乾杯」
マリア:「乾杯」
間
マリア:「実はあたいさ、好きな人が居たんだ。その人とは、さっきのお店で出逢ってさ、一目惚れだった。
外見もタイプだったんだけど、中身も本当気が合ってさ、一緒にいて楽しかった。
その人から色々教えてもらったんだ。日本語とか日本の事とか」
ユウスケ:「それで日本語が上手いのか・・・」
マリア:「あぁ。それで、その人といる時は、本当楽しい事ばっかしでさ、同棲みたいな事もしてた。
だけど、ある日、彼が言ったんだよ。日本に戻らないと行けないって・・・」
ユウスケ:「仕事か何かで此処へは来てたのか?」
マリア:「そう・・・、仕事で来てた。こっちでの仕事も軌道にのってきたから戻ってこいって連絡があったみたいでさ・・・
彼、言ったんだ。一緒に日本に来て結婚しないかって。
その言葉聞いた時嬉しかったよ! だけどすぐ現実に戻った。あたいはこっちに両親を残して日本には行けないって。
それにあたいには夢があるんだ・・・!」
ユウスケ:「夢?」
マリア:「プロのダンサーになるって夢がさ! だから・・・彼にはついていけなかった。
そりゃあ悩んださ! このまま彼に、ついて行こうかなって・・・。だけど、あたいには出来なかった。
この街が好きだし、ここには両親もいる・・・」
ユウスケ:「・・・」
マリア:「別れて半年が経ったくらいからかな、彼から手紙が届いたんだ。
『元気か? 俺はいつまでも日本で待ってる。例えお前が来なくてもずっと・・・』
文章は短かったけど、彼の意志が伝わった。だけど・・・返信はしなかった」
ユウスケ:「彼はその後?」
マリア:「その後も彼は手紙を送り続けたよ。あれからもう2年・・・。手紙も来なくなって、
あたいも彼の事すっかり忘れてた時に出会ったのさ、ユウスケに。
あんたを見た瞬間、彼かと思った!顔も背丈も瓜二つで、手にはスーツケース。
だから声かけたのさ。だけど・・・、声や雰囲気で別人だとわかった・・・」
ユウスケ:「そうだったのか。だったら俺は・・・」
マリア:「察しの通り・・・、彼の代わりにと初めは思ったさ・・・」
ユウスケ:「・・・」
マリア:「さっきお店で会話してる時、本当楽しかった。それは紛れもない事実さ。
だけどあまりに似てるからさ、彼と違うんだと思うと寂しくなったよ・・・。
気付いてたんだろう? 寂しい顔してたの」
ユウスケ:「あぁ・・・」
マリア:「でも誤解しないでおくれ! あたいは、今日出会ったばかりだけど、ユウスケに惹かれてるよ。
彼の代わりとかじゃない。さっき、一緒に踊った時に確信したのさ。あたいは、あんたの事が好きだって。
一目惚れだったかもしれない! でも、そんなの関係ない。このドキドキした気持ちは嘘じゃ無いんだよ。
信じてくれるかい?」
ユウスケ:「・・・信じるよ。俺もマリアに一目惚れだった。彼の代わりと聞いて、正直ショックが無いとは言わないけど、
そんな事どうでも良くなるくらい、マリアが愛しい。一緒に踊って、心を通わせてく内にどんどん
この気持ちは強くなっていった」
マリア:「嬉しいよ・・・。なぁ、ユウスケ、お願いがあるんだ・・・。あたいを・・・抱いてくれないか・・・?
それで彼を忘れさせておくれ・・・」
ユウスケ:「あぁ、俺が忘れさせてやる。」
マリア:「ありがとう、ユウスケ。じゃあ・・・少し・・・向こうを向いていておくれ」
ユウスケ:「どうしてだい?」
マリア:「まじまじと、服を脱ぐ姿、見られるのは恥ずかしいんだよ・・・」
ユウスケ:「そんな事はない・・・。マリアは綺麗だよ・・・。こっちに来て」
マリア:「うん・・・」
ユウスケ:「顔が赤いけど、酔いが回った・・・?」
マリア:「違うよ・・・」
ユウスケ:「じゃあ、どうしたんだい?ちゃんと言わないと、わからないよ」
マリア:「ユウスケの顔が近いから・・・」
ユウスケ:「顔が近いと嫌なのかい?」
マリア:「嫌じゃないよ・・・。嫌じゃないけど・・・」
ユウスケ:「何だい?」
マリア:「・・・」
ユウスケ:「仕方ないな」(マリアの唇にそっとキスをする)
マリア:「ユウスケ・・・」
ユウスケ:「嫌だった・・・?」
マリア:「そんな事ないよ・・・。もっと・・・ユウスケを感じさせておくれ」
ユウスケ:「わかった」(ベッドに押し倒す)
ユウスケ:「マリア・・・」(上着を脱がそうとする)
マリア:「ユウスケ・・・。明かり・・・」
ユウスケ:「明るいままは嫌?」
マリア:「・・・」
ユウスケ:「これで良いかい?」
マリア:「あぁ・・・。」
ユウスケ:「マリア、本当に綺麗だ・・・」
マリア:「あたいばかり・・・ずるいよ・・・。ユウスケも・・・」
間
ユウスケ:「これで良いかい?」
マリア:「ユウスケ・・・、強く抱きしめておくれ」
ユウスケ:「こうかい・・・?」
マリア:「もっとだよ・・・。あたいが何処にも行かないように強く・・・強く・・・抱きしめておくれ」
ユウスケ:「あぁ、それが望みなら・・・二度と離さない」
マリア:「嬉しいよ・・・。ユウスケ・・・」
ユウスケ(N):「いけないと頭では思っていても、心と体がマリアを求めた。
お互いの体を何度も何度も愛し・・・気付けば、マリアは涙を流していた」
間
マリア:「(泣いている)」
ユウスケ:「どうしたんだ・・・?」
マリア:「ごめんよ・・・。嬉しいんだよ・・・。こうして、ユウスケと一つになれてさ」
ユウスケ:「マリア・・・」
マリア:「ユウスケは、あたいとこうなって後悔してないかい・・・?」
ユウスケ:「後悔するわけないだろ」
マリア:「嬉しいよ」
ユウスケ:「ただ・・・」
マリア:「ん? どうしたんだい・・・?」
ユウスケ:「1つ確かめときたい事があるんだ・・・。俺の話、聞いてくれるか?」
マリア:「いいよ。聞かせておくれ」
ユウスケ:「俺には・・・兄貴がいるんだ。
そして、ここへは妹に呼ばれたのとは別に、もう一つ頼まれた事があるからなんだ。
『ある女性を探して欲しい』そう兄貴に頼まれた。
その女性は、太陽のように明るく、名前は・・・」
マリア:「ん?」
ユウスケ:「名前は・・・マリア」
マリア:「・・・もしかして!? あんたの兄貴の名前は・・・」
ユウスケ:「シンイチだよ・・・」
マリア:「っ!! そんな・・・」
ユウスケ:「マリアを見かけた時、俺は恋に落ちた。だけどその相手が、まさか・・・兄貴の今でも恋しい女性とはな・・・。
本当、運命って残酷だな・・・」
マリア:「・・・」
ユウスケ:「マリアの名前を聞いた時、まさかとは思った。だけどスペインは広い。同じ名前なんていくらでもいる、
そう自分に言い聞かせた・・・。マリアの部屋に来るまでは・・・。今でも大事に写真飾ってるなんて、
兄貴の事、本当は忘れてないんだろう・・・?」
マリア:「ユウスケ、あたいは・・・」
ユウスケ:「兄貴は、こっちで暮らす覚悟が出来ている。マリア、お前はどうなんだ?」
マリア:「あたいは・・・」
ユウスケ:「マリア、俺も君を愛している。一目惚れだし・・・兄貴とマリアの過ごした時間には
到底敵わない・・・。
だけど兄貴には、本当に渡したくなんかない! こんな気持ちになったのは産まれて初めてなんだ!
兄貴の事なんか俺が二度と思い出さないように忘れさせてやる!」
マリア:「ユウスケ・・・」
間
ユウスケ:「マリア・・・」
マリア:「・・・」
マリア:「ユウスケ、あたいは・・・。本当に、ごめん・・・!」
ユウスケ:「待て! マリア! どこに行くんだ!」
間
マリア(M):「ユウスケがシンイチの弟だなんて・・・。あたいはどうしたら良いんだい・・・。
彼と血の繋がってるユウスケの事をあたいは愛してしまった・・・。
ユウスケの踊り・・・情熱・・・鼓動。・・・全てが心地よかった・・・。
もっと一緒に踊っていたい・・・! ユウスケと一緒に過ごしたい・・・!
だけど、あたいは・・・シンイチを裏切った。
あんなに、好きだったシンイチを・・・。
そっか・・・。あたいは・・・人を愛したらいけない運命なのかもしれないね・・・」
間
(2日目の朝)
ユウスケ(N):「明け方になっても、マリアは家に戻ってこなかった・・・。
時間だけがただ過ぎ・・・日本への帰国時間となった。
だけど、俺はこのまま・・・」
間
(バス停で1人、バスを待つマリア スーツケースを手にしながら考え込んでいた)
マリア:「これで良かったんだよ・・・。あたいを愛したら2人は不幸になる・・・。
このまま、黙って、この街を去るのが一番なんだ・・・」
マリア:「Gracias.(グラシアス)・・・。そして、Adiós.(アディオス)シンイチ・・・ユウスケ・・・」
間
ユウスケ:「待ってくれ! マリア!!!」
マリア:「ユウスケ! どうしてここが!?」
ユウスケ:「お店のマスターに聞いたんだ! マリアが店を辞めたって! 一体、どうしたんだ?」
マリア:「あたいは・・・2人を不幸にする女さ・・・。このまま誰も知らない所に行くのが一番なのさ!」
ユウスケ:「それは本心からか?」
マリア:「そうだよ。もう、決めたんだ」
ユウスケ:「わかった・・・。だったら、最後に俺ともう一度、踊ってくれないか?」
マリア:「・・・」
ユウスケ:「駄目か?」
マリア:「・・・わかったよ。これが本当の最後だよ!」
ユウスケ:「あぁ・・・!」
間
マリア(M):「どうしてだい・・・? 何故、こんなに心を揺さぶるんだい・・・。
あたいは・・・一緒にいたらいけないんだ。どちらかが悲しむ姿は・・・見たくないよ」
ユウスケ(M):「マリア・・・俺の踊りを見て感じろ・・・。そして思い出すんだ・・・。
昨日の夜、あの路地で踊った情熱の踊りを」
ユウスケ:「どうしたんだ! マリア! お前の踊りはそんなものじゃないだろ! もっと心を曝け出せ!」
マリア:「ユウスケ・・・あたいは・・・・」
ユウスケ:「顔を下に向くな! 顔上げて、しっかり俺を見るんだ! マリア!!!」
マリア:「あたいは・・・あたいは・・・」
ユウスケ:(N)「マリアは踊りながらも、何かを考えてるようだった」
マリア(M):「ユウスケ・・・あんなに一生懸命に・・・。こんな・・・あたいの為に・・・。
シンイチ・・・あんたの事も好きだったよ・・・。
だけど・・・・あたいは・・・!!!」
ユウスケ:「もっとだ! もっと俺の鼓動を感じろ! そして、お前自身の素直な心を俺に感じさせてくれ!」
マリア(M):「あたいの・・・素直な心・・・。ユウスケの素直な気持ちが
踊りに乗せてあたいに流れてくる・・・。
それなのに・・・あたいは・・・。迷ってばかりで・・・ユウスケに素直な気持ちを・・・
届けてないよ・・・」
ユウスケ:「痛っ・・・。くっ・・・まだだ・・・!」
マリア:「ユウスケ! 無茶は止めておくれ! あたいを探して、寝てないんだろ! このままじゃ、ユウスケが倒れちまうよ!」
ユウスケ:「今頑張らないで・・・いつ頑張るんだ! 俺は・・・! マリアに・・・俺の気持ち・・・全てを伝えるんだ・・・!
倒れても・・・何度でも・・・立ち上がり・・・踊る! マリアへの気持ちを!!!」
マリア:「ユウスケ・・・」
ユウスケ:「だから・・・マリアの素直な気持ちを・・・。湧き上がる気持ちを・・・俺に見せてくれ!!!」
マリア:「あたいは・・・・ユウスケの事・・・!!!」
ユウスケ:「俺とどうしたい!?」
マリア:「このまま・・・一緒に・・・。ずっと・・・側にいたい!!! 一緒に踊りたいよ!!!」
ユウスケ:「俺もだ、マリア!!!」
マリア:「ユウスケ・・・!!!」
間
ユウスケ:「やっと、素直になったな・・・」
マリア:「ユウスケの気持ちが・・・あたいの迷いを消したんだよ」
ユウスケ:「俺ももう逃げない! マリアの抱えてる気持ちも全部一緒に背負う! 2人で兄貴に会いに行こう。日本へ」
マリア:「あぁ。あたいももう逃げない! 今の気持ち、シンイチにちゃんと伝えるよ」
ユウスケ:「マリア、もう離さない! 心から愛してる!」
マリア:「ユウスケ。もう二度と離さないよ!」
間
マリア(N):「あたいは、この先もユウスケと一緒に踊り・・・笑い、怒り、泣いたり、日々を過ごしていく。
この情熱の街、スペインで・・・。
降り注ぐ太陽、大地の息吹を感じながら・・・」
終わり
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