宵闇の蝶は彼は誰時に死す 『疑』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      表紙画像作成:眞雪輝   文字入れ:片摩 廣

 

 

 

作者 片摩 廣

 

 

 

登場人物

 

 

 

有村 利久(ありむら としひさ)・・・28歳 

 

神経質で、世間体、近所付合いなど、

常に、周りの目、気にしている

黒髪、眼鏡かけている

芹沢 弥生と、不倫関係

 

 

有村 亜未(ありむら あみ)・・・27歳

 

夫、有村 利久との夫婦関係は冷え切り、

同じマンションの、芹沢 優斗と、不倫関係

夫と喧嘩するたび、死んでと心の中で唱えている

黒髪、ショートボブ

 

 

 

 

芹沢 優斗(せりざわ ゆうと)・・・28歳

 

有村 利久の同僚

有村 亜未と不倫関係

有村と違い、楽観的で、明るい性格だけど、

時に、相手を試す様な事、言ったり、心が読めない

やや茶髪

 

 

芹沢 弥生(せりざわ やよい)・・・27歳

 

芹沢 優斗の、奥さん

有村 利久と、不倫関係

普段は、社交的な雰囲気と、喋り方だけど、

利久と居る時は、女の表情を見せるなど、

旦那同様、心が読めない

ダークブラウン、ゆるふわロング

 

 

 

比率:【2:2】

 

上演時間:【40分】

 

 

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CAST

 

 

有村 利久

 

 

有村 亜未

 

 

芹沢 優斗

 

 

芹沢 弥生

 

 

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(マンションの入口で出会う二人)

 

 

 

 

弥生:「こんばんわ、有村さん」

 

 

亜未:「こんばんわ・・・」

 

 

弥生:「何処かお出掛けですか?」

 

 

亜未:「ええ、急いでるので、失礼します・・・」

 

 

 

亜未(N):「・・・私は、日が沈み夜になると一匹の光り輝く蝶になる・・・。

       再び、日が昇り始めるその時まで・・・」

 

 

 

(海沿いの駐車場で別れを告げる亜未と優斗)

 

 

 

 

亜未:「待って。そろそろ時間・・・」

 

 

優斗:「もう、そんな時間か・・・。でも、もう少しだけ良いでしょ・・・ね?」

 

 

亜未:「駄目よ・・・。そろそろ旦那が起きちゃう・・・」

 

 

優斗:「バレた時はバレた時。それとも、もう帰りたい?」

 

 

亜未:「・・・帰りたくない」

 

 

優斗:「じゃあ、このままもう少し」

 

 

亜未:「貴方の思惑通りね」

 

 

優斗:「君が俺にそう言うように仕向けてるんじゃない?」

 

 

亜未:「さぁ、それはどうかしら・・・」

 

 

優斗:「女は怖いね。初めはこんな事したら駄目って、あれだけ言い続けてたのに」

 

 

亜未:「・・・退屈な日常を、死ぬまで繰り返すなんて耐えきれなくなったの。・・・私だけ我慢するなんて馬鹿みたい」

 

 

優斗:「そんな人生、つまらないよ。この世に生まれて来たんだから、もっと人生、楽しまなくっちゃ」

 

 

亜未:「行きつく先は、底知れぬ闇だとしても?」

 

 

優斗:「例え闇だとしても、君となら道に迷わない自信ある」

 

 

亜未:「何それ・・・」

 

 

優斗:「此処まで来たら、一蓮托生って意味。・・・裏切らないでね・・・」

 

 

亜未:「わかってる・・・」

 

 

優斗:「良かった。・・・こっちもそろそろ帰らないと、怪しまれる・・・。じゃあ、また今夜ね」

 

 

 

 

亜未(N):「彼を見送ると・・・、私は、退屈な日常に戻る為、蝶から蛾に戻る・・・」

 

 

 

亜未(N):「この先、死ぬまでずっと・・・。でも・・・、そんな人生は、嫌だ・・・!」

 

 

 

(亜未と弥生 タイトルコール)

 

 

 

亜未:「宵闇の蝶は」

 

 

弥生:「彼は誰時に死す」

 

 

 

 

 

 

(マンションの扉を開けるとそこには旦那の利久が待ち構えている)

 

 

 

 

利久:「・・・お帰り」

 

 

亜未:「・・・ただいま」

 

 

利久:「・・・またいつものコンビニ・・・?」

 

 

亜未:「そうよ。・・・貴方こそ、今日は朝、早いじゃない。あまり寝付けなかった?」

 

 

利久:「思ったより早く目覚めてね。そしたら、お前がいなかった・・・。こんな早くにコンビニ行ってたんだな・・・」

 

 

亜未:「朝は何かと忙しいから、そうしてたの。悪い?」

 

 

利久:「別に・・・」

 

 

亜未:「だったら、気にしないで。貴方も仕事なんだし、もう少し寝たら? 私はもう少し寝る・・・」

 

 

利久:「なぁ、亜未」

 

 

亜未:「まだ何かあるの?」

 

 

利久:「前から言えなかったけど、外出する時は、化粧くらいしてくれないか?」

 

 

亜未:「少し先のコンビニに行くだけよ。それなのに、化粧しろって言うの?」

 

 

利久:「少しは周りの目を気にしてくれ。・・・近所付き合いもあるんだから・・・」

 

 

亜未:「わかってるわよ。それくらい。あ~あ、こう言う時、男はすっぴんでも何も言われないし、楽よね。

    朝から、説教なんてしないで!」

 

 

利久:「・・・」

 

 

亜未:「またそうやって自分の都合が悪くなると、黙るのね・・・」

 

 

利久:「・・・すまない」

 

 

亜未:「謝るくらいなら、初めから言わないで! おやすみ!」

 

 

利久:「・・・」

 

 

 

 

亜未(N):「旦那の体裁の為に、化粧する気なんて微塵もない。そんな気持ち、結婚して1年で消え失せたのだから・・・」

 

 

 

 

 

 

(マンションのごみ出しで会い挨拶する亜未と弥生)

 

 

 

弥生:「おはようございます。有村さん」

 

 

亜未:「おはようございます。芹沢さん」

 

 

弥生:「今日も良い天気ですね」

 

 

亜未:「そうですね」

 

 

弥生:「ずっとこの天気が続けば良いんですけどね・・・」

 

 

亜未:「芹沢さんは、雨や曇りは嫌いなんですか?」

 

 

弥生:「どちらかと言えば、嫌いです。だって、せっかくの洋服が汚れちゃいますから。

    その言い方だと、有村さんは、お好きなんですか?」

 

 

亜未:「・・・好きです。これだけ雲一つない晴れた天気だと、何だか、偽物に感じますから。

    だから、そんな日常を覆い隠してくれる雨や曇りは、好きなんです」

 

 

弥生:「・・・そうなんですね。私達、真逆の考えですね」

 

 

亜未:「何も一緒でなくても良いと思いますし、違うからこそ、良いと思いますよ」

 

 

弥生:「そうですね。・・・それはそうと、あの噂、聞きましたか?」

 

 

亜未:「どんな噂ですか?」

 

 

弥生:「何でも、301の川中さんの奥さん。・・・不倫してたみたいで、旦那さんがその相手と修羅場状態だったそうよ」

 

 

亜未:「大人しそうな奥さんだったから、意外・・・」

 

 

弥生:「不倫なんて、良くないですよね。

    ・・・慰謝料請求されたり、運が悪ければ、相手の方に刺されたりするかもしれないですし・・・」

 

 

亜未:「芹沢さん、サスペンスドラマの見過ぎです。・・・刺される事なんて・・・」

 

 

優斗:「弥生、何の話してるんだ?」

 

 

弥生:「あら貴方、どうしたの?」

 

 

優斗:「どうしたもないだろう。ゴミ出しに出てから帰って来ないから、何かあったかと思って来たんだよ」

 

 

弥生:「ごめんなさい。有村さんの奥さんと、川中さんの奥さんについて、少し話、してたのよ」

 

 

優斗:「あ~、例の不倫ね。・・・マンションでも評判良かったのに、残念だ・・・」

 

 

弥生:「残念って事は、まさか・・・」

 

 

優斗:「・・・社内のグループ通知で今さっき連絡きたけど、川中さん、クビだって・・・。

    出世街道まっしぐらだっただけに残念だよ・・・」

 

 

弥生:「そうなると、この社宅も出て行かれることになるのね。・・・大変そう・・・」

 

 

優斗:「悪い事したんだから、当然と言えば当然だけど・・・。真面目な人程、退屈な日常から抜け出して、不倫なんてしたがるから、

    手に負えないね。・・・そう思わない? 有村さん」

 

 

亜未:「不倫する人の気持ち、私はわからないです・・・」

 

 

弥生:「ねぇ、大丈夫? なんだか、顔色、悪いわよ」

 

 

亜未:「最近、あまり寝れてなくて・・・」

 

 

弥生:「それってまさか・・・」

 

 

優斗:「弥生、それ以上は失礼だろう。有村さんには、有村さんの事情があるんだ」

 

 

弥生:「ごめんなさい・・・。でも、あまり無理しちゃ駄目よ。・・・有村さんの旦那さんの為にも・・・ね?」

 

 

亜未:「ありがとうございます・・・」

 

 

優斗:「噂をすれば、旦那の登場だ。・・・有村さん、おはようございます」

 

 

利久:「おはようございます。芹沢さん」

 

 

亜未:「利久・・・。どうして?」

 

 

利久:「お前の帰りが遅いから、心配して来たんだ。芹沢夫妻と話してたんだな」

 

 

亜未:「遅くなって、ごめんなさい・・・」

 

 

利久:「妻が長居して、すみませんでした」

 

 

弥生:「私の方こそ、奥さん引き留めちゃって、ごめんなさい」

 

 

優斗:「弥生は、昔から話し出すと、長いからね・・・。引き留めちゃってごめんね有村さん」

 

 

利久:「いえ、気にしないでください。それでは・・・」

 

 

優斗:「待って有村さん」

 

 

利久:「何か?」

 

 

優斗:「今度の日曜、二人でゴルフ、行きませんか? 近々、社内でのコンペもありますし」

 

 

利久:「わかりました。空けておきます」

 

 

弥生:「貴方達だけ、ずるい・・・。ねぇ、有村さん。旦那達もゴルフで居ないし、ショッピングでも行きませんか?

    有村さんと、一度ゆっくりお話してみたかったの」

 

 

亜未:「でも・・・」

 

 

利久:「俺の事は気にしなくて良いから、折角の機会だから、楽しんでおいで」

 

 

弥生:「旦那さんのお許しも出た事だし、行きましょう」

 

 

亜未:「わかりました。空けておきますね」

 

 

弥生:「日曜日、楽しみだわ」

 

 

優斗:「くれぐれも、はしゃぐなら、有村さんのご迷惑にならない程度にしとけよ」

 

 

弥生:「わかってるわよ。それくらい。それじゃあ、また日曜日に。帰るわよ。貴方」

 

 

優斗:「はいはい。という訳だから、またね。有村さん」

 

 

 

 

 

 

(自宅に戻り朝食を食べながら溜息つく亜未)

 

 

 

亜未:「はぁ~・・・」

 

 

利久:「深い溜息なんてついて、どうした?」

 

 

亜未:「日曜日、気が重い・・・」

 

 

利久:「頼むから、日曜日はしっかりしてくれ」

 

 

亜未:「貴方は良いわよね。気軽にゴルフなんだし・・・」

 

 

利久:「ゴルフも気を使ったり、気軽じゃないよ。ショッピングの方が気楽じゃないか」

 

 

亜未:「一人で行くならね・・・」

 

 

利久:「会社付き合いもあるんだから、上手くやってくれ」

 

 

亜未:「そうやって、いつも体裁ばかり・・・」

 

 

利久:「社宅に住んでるんだったら、我慢しろ・・・」

 

 

亜未:「わかってるわよ・・・」

 

 

 

 

 

 

弥生:「ふんふんふん~」(鼻歌を歌ってご機嫌)

 

 

優斗:「ご機嫌だね。有村さんの奥さんと出かけるの、そんなに楽しみなんだ」

 

 

弥生:「だって、ゴミ出しとか、玄関であった時に、少し会話したりだったし、それに・・・」

 

 

優斗:「それに・・・?」

 

 

弥生:「ううん、何でもない。貴方こそ、有村さんの旦那さんとゴルフなんて、どういう風の吹き回し?」

 

 

優斗:「有村さんって、会社でも真面目で非の打ち所がないけど・・・、

    いまいち人間味に欠けるっていうか、人付き合いもなくてね。・・・だからかな~」

 

 

弥生:「何それ。全然質問の答えになってないじゃない」

 

 

優斗:「つまり会社以外での彼に、興味を持ったって事。ほら、上手く仕事を回すには、人付き合いも大事じゃない。

    それを彼に教えてあげようかなって思ったのさ」

 

 

弥生:「ふ~ん。それも良いと思うけど、程々にね~」

 

 

優斗:「わかったよ。あっ、今夜も残業で遅くなるから、帰るの明け方くらいになるから、先に寝て」

 

 

弥生:「わかった。いつも家庭の為に、頑張ってくれてありがとう」

 

 

優斗:「愛する妻がいるんだ。頑張らなきゃ。それじゃあ、行ってくる」

 

 

弥生:「いってらっしゃい!」

 

 

 

 

 

亜未:「貴方、忘れ物はない?」

 

 

利久:「大丈夫。お前こそ遅刻しないようにな」

 

 

亜未:「もう少しで出るから大丈夫よ」

 

 

利久:「あのさ・・・」

 

 

亜未:「何? やっぱり何か忘れ物?」

 

 

利久:「・・・仕事、辞める気はないか?」

 

 

亜未:「え・・・? どうしたの? いきなり・・・」

 

 

利久:「俺の稼ぎだけでも、充分、生活出来てる。お前には、家をしっかり支えてもらいたいんだ」

 

 

亜未:「・・・気持ちはわかるけど、無理。・・・結婚する時に言ったよね。私、専業主婦になる気はないって。

    今の仕事も、軌道に乗って来て、頼りにされてるの。・・・貴方の都合ばかり優先して、考えないで・・・」

 

 

 

利久:「悪かったよ。・・・会社からも、何で夫婦で共働きしてるんだって聞かれてばかりで、うんざりしてたんだ。

    そういう理由だってちゃんと伝えておく・・・」

 

 

 

亜未:「前から思ってたけど、貴方は、会社の事ばかり気にし過ぎよ・・・。もっと気楽に考えて・・・」

 

 

 

利久:「努力してみる・・・。・・・今夜も遅くなるのか?」

 

 

 

亜未:「いつも通りよ・・・」

 

 

 

利久:「わかった。・・・それじゃあ、行って来る」

 

 

 

亜未:「いってらっしゃい・・・」

 

 

 

 

 

 

亜未:「本当・・・、死んでよ・・・!」

 

 

 

亜未(N):「何度、心の中で旦那を殺しただろう・・・。旦那が世間体を気にするたび、私は旦那への愛情と共に、

       旦那を殺し続けた。そうする事で現実で殺す事なく留まれていられるからだ。

       だけど、それも後、何年、我慢出来るだろう・・・」

 

 

 

 

 

 

 

亜未:「・・・優斗からメールだ」

 

 

 

優斗:「今夜も、いつもの場所で待ってる。遅れないでね」

 

 

 

亜未:「了解・・・っと。・・・そろそろ仕事、行かなくちゃ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

(会社の社員食堂)

 

 

 

 

優斗:「有村さん、隣の席、良い?」

 

 

利久:「芹沢さん・・・。どうぞ」

 

 

優斗:「ありがとう。おっ、有村さんは、A定食か~。そっちも悩んだんだよね~」

 

 

利久:「B定食も、気になりましたけど・・・、今日は、こっちかなって思いまして・・・」

 

 

優斗:「その様子だと、A定食も食べたかった?」

 

 

利久:「・・・白身魚のフライ、好きなんです・・・。でも、こっちの豚カツも食べたくて・・・」

 

 

優斗:「それじゃあ、こういうのはどう? お互いのおかず、半分、分けるってのは?」

 

 

利久:「その提案、良いですね。お願いします」

 

 

優斗:「よし、決まり。はい、じゃあ、はい。半分っこ」

 

 

利久:「ありがとうございます。それじゃあ、私のも。どうぞ」

 

 

優斗:「ありがとう。・・・何か意外だな~」

 

 

利久:「何がですか?」

 

 

優斗:「有村さんって、こういう提案、乗らないかな~って、思ってたから。ほら、真面目だし、

    自分の物は、自分で食べるって言うと思ったよ」

 

 

利久:「俺って、そんな感じに見えてるんですね・・・」

 

 

優斗:「別に悪気があって、言ったわけじゃないんだ。・・・何かごめん・・・」

 

 

利久:「謝らないでください。その通りですから・・・。昔は、芹沢さんの言う通り、分けるなんて考え、ありませんでした」

 

 

優斗:「昔はって事は、そんな有村さんを変えた人物が居るって事か」

 

 

利久:「妻です。あいつと出会って、分けるのも、良いなって思えるようになったんです」

 

 

優斗:「へぇ~。何だかお熱いね~」

 

 

利久:「別にそういう意味で言ったわけでは・・・!」

 

 

優斗:「仲が良くて羨ましい限りだ」

 

 

利久:「芹沢さんこそ、仲が良いのではないですか?」

 

 

優斗:「あ~、家はそうでもないかな~。・・・結婚して3年経つけど、昔程、ラブラブなんて事もないし」

 

 

利久:「何処の家庭も、そうなるのですかね・・・」

 

 

優斗:「何々、有村さんの所もそんな感じ?」

 

 

利久:「恥ずかしながら・・・」

 

 

優斗:「そうだったんだ。じゃあ、尚更、日曜日はパっと発散しなきゃね!」

 

 

利久:「お手柔らかに、頼みます・・・」

 

 

優斗:「残念だけど、俺、勝負事は手加減しない主義なんだよ。だから覚悟しててね」

 

 

利久:「わかりました・・・」

 

 

優斗:「ご馳走様。さてと、定時に上がれるように、午後からも頑張るか! ねぇ・・・有村さん」

 

 

利久:「はい?」

 

 

優斗:「また・・・、おかず分け合いっこ、してね」

 

 

利久:「わかりました」

 

 

優斗:「ありがとう。じゃあね」

 

 

 

 

 

 

(夕方、待ち合わせの場所で待ってる亜未)

 

 

 

亜未(M):「まだ、優斗は来てない。少し早く着いちゃったみたいね・・・」

 

 

 

弥生:「あら、有村さん! こんな所で奇遇ね!」

 

 

 

亜未(M):「どうして弥生さんが此処に・・・」

 

 

 

弥生:「どうかしました?」

 

 

亜未:「いえ・・・。芹沢さんこそ、何かお買い物ですか?」

 

 

弥生:「これから友人と食事に行くから、その前にショッピングでもって思ってたの。

    有村さんこそ、お買い物で?」

 

 

 

亜未:「高校の頃の親友と急遽、会う事になって・・・、それでです」

 

 

 

弥生:「そうだったの。あっ、そうそう。・・・有村さん、お願いがあるの・・・」

 

 

 

亜未:「何ですか・・・?」

 

 

 

弥生:「此処で私と会った事は夫には内緒にして欲しいの」

 

 

 

亜未:「どうしてですか?」

 

 

 

弥生:「夫ね・・・。・・・束縛が強いの。だから、こうして時々、内緒で、

    友人と会って、ストレス発散してるのよ・・・」

 

 

 

亜未:「束縛が強いと、ストレス溜まりますよね・・・」

 

 

 

弥生:「そうなのよ。・・・本当は、私だって、有村さんみたいに、外に出て、働いたりしたいわ・・・。

    専業主婦で終わりたくない・・・。私にとっては、有村さんは憧れなの!」

 

 

 

亜未:「憧れなんてそんな・・・。・・・でも、気持ちわかります。・・・私も、専業主婦になんてなりたくない・・・!」

 

 

 

弥生:「それって、どういう事・・・?」

 

 

 

亜未:「今朝、夫に言われたんです。・・・仕事、辞める気はないかって・・・。いつかは言われるかもって覚悟してました。

    だけど、いざその時を迎えると、・・・予想以上にストレスで・・・」

 

 

 

弥生:「ストレスになって当然よ。・・・そっか、有村さんも苦労してるのね・・・」

 

 

 

亜未:「事情はわかりました。今日、此処で会った事は内緒にしておきます。その代り・・・」

 

 

 

弥生:「何かしら?」

 

 

 

亜未:「私と此処で会った事も、内緒にしてくれませんか? 私もストレスの限界で・・・、夫には言ってないんです・・・」

 

 

 

弥生:「わかったわ。・・・内緒にしてあげる。・・・お互い、ストレス発散、楽しみましょう!」

 

 

 

亜未:「ありがとうございます」

 

 

 

弥生:「それじゃあ、またね! 有村さん!」

 

 

 

亜未:「はい」

 

 

 

 

 

 

亜未(M):「これで良い・・・。むしろ私にとっては好都合。それにしても、優斗は、奥さんに対して束縛強いなんて初耳・・・」

 

 

 

優斗:「険しい表情して、何か考え事?」

 

 

 

亜未:「ううん。何でもない」

 

 

 

優斗:「もしかして少し待った?」

 

 

 

亜未:「そんな事ないよ。私も今さっき来た所。それより提案なんだけど・・・」

 

 

 

優斗:「君から提案なんて珍しいね。何だい?」

 

 

 

亜未:「いつものホテルじゃなくて、今夜は別のホテルが良いな」

 

 

 

優斗:「いつもの所は、飽きた?」

 

 

 

亜未:「何て言うか、たまには気分転換も良いかなって」

 

 

 

優斗:「何だか、今日は我儘だね」

 

 

亜未:「嫌いになった・・・?」

 

 

優斗:「むしろ余計、惚れた。女は、少しくらい我儘の方が、可愛いよ」

 

 

亜未:「優斗の奥さんは、我儘、言わなさそうよね」

 

 

優斗:「もう少し我儘でも、良いくらいだよ。そんな事は良いから、今夜もお互いのパートナーの事なんて、

    忘れて楽しもう。さぁ、早く車に乗って」

 

 

 

亜未:「それもそうね。ねぇ、何処に連れてってくれるの?」

 

 

 

優斗:「景色の良い場所」

 

 

 

亜未:「もう、それだけじゃ、わからないって」

 

 

 

優斗:「着いてからのお楽しみ」

 

 

 

 

 

 

 

(ショッピングを終えて待ち合わせ場所で待ってる弥生)

 

 

 

弥生:「そろそろかしら・・・」

 

 

利久:「待たせたかな?」

 

 

弥生:「・・・10分、遅刻よ。・・・利久。・・・でも、今日は、特別に許してあげる」

 

 

利久:「何だか、ご機嫌みたいだけど、良い事あった?」

 

 

弥生:「何にも。いつも通りよ」

 

 

利久:「それにしても、また随分、買い込んだな・・・」

 

 

弥生:「ちょっと使い過ぎちゃったかも・・・。ごめん・・・」

 

 

利久:「その分、仕事頑張れば良いだけだから良いよ。弥生には、いつまでも綺麗で居て欲しいんだ」

 

 

弥生:「私が綺麗で居られるのも、利久が私の為に、こうして色々、尽くしてくれるからよ。感謝してるわ」

 

 

利久:「・・・妻とは大違いだ。・・・少しは、弥生の事、見習って欲しいもんだよ」

 

 

弥生:「あら、亜未さんも可愛いじゃない。・・・世間一般的なレベルでは」

 

 

利久:「俺の側に居るんだ。世間一般レベルでは、俺まで霞んでしまう・・・。どうせなら、弥生みたいな美人と結婚したかったよ」

   

 

弥生:「私も、利久が夫なら良かったわ・・・。ねぇ、いっその事、結婚しちゃう?」

 

 

利久:「何、馬鹿な事、言ってるんだ。・・・会社にバレたら、間違いなくクビにされる・・・」

 

 

弥生:「同じ会社ってのも厄介ね・・・。私達もっと早くに会っていたら上手くいってたのにね・・・」

 

 

利久:「まだこれからだってチャンスはあるかもしれないだろ? 待たせる事になるかもしれないけど、

    弥生と一緒になれるように、努力するから、今はこの関係で我慢してくれ」

 

 

弥生:「わかったわ。期待して待ってる。あ~、お腹空いた。ねぇ、早く行きましょう」

 

 

利久:「そうだな。今夜も期待してるよ。弥生」

 

 

 

弥生:「もう・・・。利久のエッチ・・・」

 

 

 

 

 

 

(都会から離れた山奥に車を走らせる優斗)

 

 

 

亜未:「随分と山奥に来たね・・・」

 

 

優斗:「ひょっとして、海の方が良かった?」

 

 

亜未:「ううん・・・。そんな事無いけど・・・、何だか薄気味悪くて・・・」

 

 

優斗:「あっはははは! そんな怖がらなくったって平気だから!

    ・・・こう見えて此処は、昼間はとても穏やかな土地なんだよ。

    夜はご覧の通り、ホラー映画に出てきそうな森林だけどね」

 

 

 

亜未:「昼間の森林、綺麗だろうな~。・・・でも・・・」

 

 

 

優斗:「どうかした?」

 

 

 

亜未:「私達の関係を考えると、昼間にそんな場所、歩けないなって・・・。

    そんな事して、誰か知り合いに見られたりしたら・・・」

 

 

 

優斗:「こんな山奥に、知り合いなんて来ないさ。

    ・・・それにだ。俺達は何も芸能人でも、

    著名人でもないただの一般人だ。

    そこまで、他人の事、気にしてみる人なんていないよ」

 

 

 

 

亜未:「ごめん・・・。考え過ぎね・・・。夫がいつも周りの目を気にしてくれって言うから、

    私もいつの間にか、洗脳されてた・・・」

 

 

 

優斗:「ふ~ん、何か亜未にとって、旦那さんは毒だね」

 

 

 

亜未:「毒?」

 

 

 

優斗:「だってそうだろう? 亜未をこんなに卑屈な性格にまで変えて置きながら・・・」

    会社では、自分を変えた大事な人って、俺に照れながら言うんだから」

 

 

 

 

亜未:「え・・・?」

 

 

 

優斗:「自分の都合の良いように、考えてるだけで、実際は、亜未の事なんて、

    1ミリも考えてないから、平気で傷つけれられるんだ」

 

 

 

亜未:「・・・」

 

 

 

優斗:「・・・」

 

 

 

亜未:「・・・はぁ~・・・」(深く長い溜息)

 

 

 

優斗:「・・・流石に旦那の事、悪く言われて怒った・・・?」

 

 

 

亜未:「ううん・・・。そうじゃない・・・」

 

 

 

優斗:「じゃあ、何で溜息なんか?」

 

 

 

亜未:「・・・全部、優斗の言う通りだなって思って・・・。

    ・・・私ね、昔は凄く活発的だったの。

    周りからも信頼されて、友達付き合いも上手い方だった。

    だけど、利久と結婚してから、少しずつ、そんな自分がまるで幻に思えるくらい、

    不器用になってるのに、今、気付いた・・・」

 

 

 

優斗:「それって、つまり旦那のせいで?」

 

 

 

亜未:「うん・・・。社会人になって、世間の荒波に揉まれる内に、

    誰もが自然とそうなるって思ってた・・・。

    でも、そうじゃなかった・・・!

    私は・・・、利久からの毒を喰らい続けて、本当の自分を、深い眠りにつかせてしまったの」

 

 

 

優斗:「まるで、御伽話の白雪姫のようだね。旦那が悪い魔女で、君は騙され林檎を齧り、眠るお姫様」

 

 

 

亜未:「永遠に眠りから目覚めないお姫様・・・。・・・ずっとそうだと思ってた・・・」

 

 

 

優斗:「でも、そうならなかった・・・。違う?」

 

 

 

亜未:「その眠りから、貴方という王子様が、目覚めさせてくれた」

 

 

 

優斗:「でもさ、その王子様は、果たして本当に、良い王子様なのかな?」

 

 

 

亜未:「え?」

 

 

優斗:「その悪い魔女以上に、お姫様をより深い闇の底に沈める為、

    お姫様に自分の林檎を差し出したとしても、君は受け入れられる?」

 

 

 

亜未:「・・・うん。・・・猛毒の林檎でも、迷わず受け取り齧る・・・!」

 

 

 

優斗:「それでこそ、俺の選んだ君だよ。あ~・・・着いた。

    さぁ・・・、おいで!

    俺の手を取って。

    禁断の果実のなる地へ、共に行こう・・・」

 

 

 

亜未:「ええ・・・」

 

 

 

 

亜未(M):「これで良い。私はこの差し出された手を取り、堕ちていく・・・。

       もう、後戻りなんて出来ないのだから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

(ホテルのベッドで抱き合う利久と弥生)

 

 

 

 

弥生:「・・・今、奥さんの事、考えてたでしょ?」

 

 

 

利久:「どうしてそう思うんだ?」

 

 

 

弥生:「・・・今日の貴方、心ここに有らずって感じだったから」

 

 

 

利久:「お前には敵わないな・・・」

 

 

 

弥生:「当然よ。こんな関係になってから、何年になると思ってるの? 貴方の考えてる事なんて、

    手に取るようにわかるわ。それだけじゃない。

    貴方の感じる部分も・・・、弱い部分も・・・全部・・・」

 

 

 

利久:「今までどれだけの男が、君のその妖艶な雰囲気に飲み込まれ、虜になったんだろうな・・・」

 

 

 

弥生:「あら、本当に心の底から、深く愛した人なんて、利久、・・・貴方だけよ」

 

 

 

利久:「またそうやって、平気で嘘を付く・・・」

 

 

 

弥生:「嘘じゃないわ。・・・貴方とこうして一緒に居る為に、・・・努力したの。

    ・・・貴方の思ってる以上に・・・」

 

 

 

利久:「確かに君は、初めて出会った時より、より魅力的に、美しくなった。その努力は認めるよ」

 

 

 

弥生:「・・・ありがとう」

 

 

 

利久:「これからも俺の為に、完璧な容姿を、保ってくれるかい?」

 

 

 

弥生:「保つだけで満足・・・?」

 

 

 

利久:「いいや・・・」

 

 

 

弥生:「だと思った。心配しないで大丈夫よ。貴方の為に、これからもより美しく、綺麗になり続けるから。

    ・・・だから、お願い。・・・私を裏切ったり手放さないでね・・・」

 

 

 

利久:「勿論だ。君が俺から離れたいと思っても、死ぬまで離れないよ」

 

 

 

弥生:「嬉しいわ。利久・・・」

 

 

 

利久:「・・・それで、旦那さんとはその後どうなんだ?」

 

 

 

弥生:「相変わらずよ。・・・夫とはしてない。

    彼ね・・・私とじゃ不能になるみたい・・・。

    本当、笑えるわよね・・・。結婚した当初は毎日飽きる程、体を重ね合わせていたのに、

    僅か半年で、セックスレスに陥るなんて・・・」

 

 

 

利久:「何処の家庭も、燃え上がるのは、初めだけだ・・・。

    好きって感情も、段々と写真のように色褪せて、やがては全て消えて・・・」

 

 

 

弥生:「残ったものは、後悔、憎しみだけかしら?」

 

 

 

利久:「本当に何も消えてしまったら、そうかもしれない」

 

 

弥生:「その言い方だと、まだ奥さんの事、信じてるの?」

 

 

利久:「・・・」

 

 

弥生:「貴方って、本当、すぐに顔に出るわよね・・・。

    ・・・そんな複雑な表情なんて、見せないで・・・。

    私と居る時は、奥さんの事なんて、考えないで・・・!

    目の前の私だけを見ていて・・・!」

 

 

利久:「弥生・・・」

 

 

弥生:「あ~あ、こんなのちっとも私らしくない・・・! 

    貴方の前で、こんなに嫉妬深い姿、見せて、恥ずかしいし・・・情けないわね・・・」

 

 

利久:「今夜は、俺が悪かった・・・。だけど、すまないが、約束できない・・・」

 

 

 

弥生:「ずるい男・・・」

 

 

 

利久:「勿論、弥生の事は大事だ。

    ・・・でも、俺の中から、完全に亜未の事を、

    消し去ることは、今はまだ出来ない。わかってくれ・・・」

 

 

 

弥生:「そうだろうって思ってた・・・。・・・だから平気よ」

 

 

 

利久:「本当か?」

 

 

弥生:「・・・」

 

 

弥生(M):「今はそれでも良い・・・。でもいずれ・・・」

 

 

 

利久:「おい。本当に平気なのか・・・?」

 

 

 

弥生:「平気よ。

    ・・・ねぇ~、今夜はまだ物足りないの・・・。だからお願い・・・」

 

 

 

利久:「弄びやがって・・・。でも、そんな部分も好きだ」

 

 

 

弥生:「私もよ・・・。利久・・・」

 

 

 

 

 

 

 

(暫く山道を歩く二人。優斗が立ち止まり亜未に声をかける)

 

 

 

 

優斗:「此処だよ。さぁ、中に入って」

 

 

 

亜未:「・・・」

 

 

 

優斗:「どうかした?」

 

 

 

亜未:「何だか怖い・・・」

 

 

 

優斗:「さっき俺に言ってくれた言葉は嘘だったの?」

 

 

 

亜未:「嘘じゃない」

 

 

 

優斗:「そう。・・・なら、俺を信じて、その扉を開けて・・・」

 

 

 

亜未:「うん・・・」

 

 

 

 

 

(不安を感じつつも扉を開く亜未)

 

 

 

亜未:「此処って・・・」

 

 

 

優斗:「何々? もしかして、もっと別の物が置いてあると想像してた?」

 

 

 

亜未:「・・・」

 

 

 

優斗:「当ててあげようか。・・・都会から遠く離れたうす暗い山奥の小屋で、周りは人の気配すらない場所。

    だから、亜未はこう思ったんでしょ。

    私を監禁して、調教する道具が置いてある小屋かもって」

 

 

 

亜未:「・・・どうしてわかったの?」

 

 

 

優斗:「怖いなんて言うから、すぐわかったよ。ねぇ、亜未。・・・俺ってそんなにSっ気あるように見える?」

 

 

 

亜未:「・・・独占欲は強い感じに思った」

 

 

 

優斗:「あ~、それは否定できないかも。でも、拘束して調教なんて相手が嫌がる事はしないよ」

 

 

 

亜未:「本当に?」

 

 

 

優斗:「うん。・・・さぁ、此処に座って」

 

 

 

亜未:「・・・これって、陶芸の機械?」

 

 

 

優斗:「その通りだよ。

    ・・・俺、一人で何か考えたいときは、弥生にも教えず、此処で、陶芸に没頭するんだ。

    目の前にある土だけに意識を集中させ・・・。作品を作る・・・」

 

 

 

亜未:「素敵ね・・・」

 

 

 

優斗:「そう思うなら、亜未にも素質あるよ。さっ、座って」

 

 

 

亜未:「うん。・・・それで、どうやるの・・・?」

 

 

 

優斗:「コツなんてないよ。・・・しいて言うなら、頭の中に作りたい器の形をしっかりとイメージする。

    それが出来たら、自ずと体は動いてくれるよ」

 

 

 

亜未:「わかった。・・・やってみる」

 

 

 

優斗:「・・・そうそう、その調子。・・・あっ、少し力を入れ過ぎだから、もっとリラックスして」

 

 

 

亜未:「うん・・・。こう・・・かな? ・・・・ああああああああ!!! 曲がっちゃった・・・」

 

 

 

優斗:「最初だから、仕方ないよ。でも、さっきの感じで良いから、もう少し手の力、緩めてみて」

 

 

 

亜未:「そうは言われても・・・、上手く出来ない・・・」

 

 

 

優斗:「仕方ないな。・・・じゃあ、これでどう・・・?」

 

 

亜未:「あっ・・・」

 

 

優斗:「俺がリードするから、よく手の動き、見ていて」

 

 

亜未:「うん・・・」

 

 

亜未(M):「優斗がすぐ側で・・・。・・・後ろから抱きしめられてる感じだから・・・。

       ・・・恥ずかしい・・・」

 

 

優斗:「亜未、顏赤いけど、別の事、考えてたでしょ?」

 

 

亜未:「仕方ないじゃない・・・。・・・だって、こんなにすぐ傍に居るから・・・」

 

 

優斗:「ベッドの中では、いつもすぐ傍じゃない」

 

 

亜未:「それと、これとは違うの・・・」

 

 

優斗:「・・・陶芸、やってみたいと思った映画があって、

    その映画観てから、いつかこれもしたかったんだ」

 

 

亜未:「それって、ゴースト/ニューヨークの幻・・・?」

 

 

優斗:「亜未もその映画、知ってたんだね。・・・だから意識しちゃったんだ・・・」

 

 

亜未:「でも映画では、恋人同士。・・・私達は、不倫関係・・・」

 

 

優斗:「真実の愛にはそんなの関係ないさ。・・・今この時、間違いなく君は、俺の愛する恋人だよ」

 

 

 

亜未:「優斗・・・」

 

 

 

優斗:「さっ、集中して・・・」

 

 

 

亜未:「うん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

(ベッドから出て、帰り支度を始める利久)

 

 

 

 

利久:「もうこんな時間だ・・・。さっさと出る準備、してくれ・・・」

 

 

 

弥生:「貴方との時間って、あっという間ね・・・。私達、朝まで一緒に居れた事ないわ・・・」

 

 

 

利久:「朝までなんて無理だ。もたもたしてたら、亜未が帰って来てしまう・・・」

 

 

 

弥生:「・・・今日は、亜未さん・・・、遅い気がする・・・」

 

 

 

利久:「それは、どう言う意味だ・・・?」

 

 

 

弥生:「結婚したとはいえ、亜未さんも一人の女よ・・・。後は、言わなくてもわかるんじゃない?」

 

 

 

利久:「・・・誰か男と居るって言うのか? 馬鹿を言うな! 亜未に限ってそんな事は・・・」

 

 

 

弥生:「私達がこんな関係になってるのよ。・・・何故、亜未さんは大丈夫だって、信じられるの?」

 

 

 

利久:「・・・俺は、亜未を信じている・・・」

 

 

 

弥生:「はぁ!? いつまで理想の奥さん、夢見てるのよ! 現実を見なさいよ! 貴方達の関係なんて、

    とっくの昔に、冷え切ってるのよ! 亜未さんだって、今頃・・・!」

 

 

 

利久:「黙れっ!!!」(弥生の頬をぶつ)

 

 

 

弥生:「きゃっ・・・!」

 

 

 

利久:「そんなのは、お前達、夫婦も同じだろう!」

 

 

 

弥生:「・・・ええ。・・・その通りよ・・・。とっくの昔に、愛情なんて、無くなったわ・・・」

 

 

 

利久:「・・・亜未。・・・くそっ!」(居ても立っても居られず亜未に電話をかける)

 

 

 

弥生:「・・・」

 

 

 

 

 

 

優斗:「亜未・・・。その調子・・・」

 

 

亜未:「・・・ねぇ、優斗。・・・キスして・・・」

 

 

優斗:「キスだけで、良いの?」

 

 

亜未:「・・・その後も・・・。お願い・・・」

 

 

優斗:「今の亜未、凄く綺麗だよ。でも足りない。もっと俺を求めて」

 

 

亜未:「私を・・・、優斗の・・・」

 

 

優斗:「俺の・・・、何だい?」

 

 

(その時、亜美の携帯が鳴る)

 

 

亜未:「優斗、待って・・・!? この着信音は・・・!? ・・・早く出なきゃ! ・・・もしもし・・・」

 

 

 

利久:「・・・亜未、今、何処に居る・・・?」

 

 

 

亜未:「・・・何処って、まだ会社だけど・・・」

 

 

 

利久:「・・・誰か、男と会ってるんじゃないだろうな?」

 

 

 

亜未(M):「どうして、そんな質問・・・。もしかして、バレた・・・?」

 

 

 

利久:「・・・質問に答えろ。・・・本当に会社なのか・・・?」

 

 

 

亜未:「・・・会社に決まってるでしょ。・・・何? 男って・・・?」

 

 

 

利久:「・・・いつも帰り遅いから、他に男が出来たのか、心配だったんだ・・・。そうじゃなければ、良い・・・

    。すまなかったな・・・。仕事、頑張ってくれ」

 

 

 

亜未:「うん、ありがとう・・・」

 

 

 

利久:「それと、今夜は久しぶりに、二人で飲みたい・・・。

    遅くなっても良い。・・・帰りを寝ないで待ってる・・・。じゃあな・・・」

 

 

 

亜未:「ちょっと、待って! 利久・・・! もしもし・・・!

    ・・・どうして、今夜に限って・・・」

 

 

 

優斗:「その様子だと、今夜は、残念だけど、お開きのようだね・・・」

 

 

 

亜未:「ごめんなさい・・・。・・・利久。・・・寝ないで待ってるって・・・」

 

 

 

優斗:「それは大変だ。急いで帰らないとね」

 

 

 

亜未:「・・・それとね」

 

 

 

優斗:「まだ何かあるの?」

 

 

 

亜未(M):「・・・優斗との関係、バレたかもって、伝えるべき・・・? ・・・どうすれば・・・」

 

 

  

優斗:「・・・とりあえず、此処、出よう。話は、車の中で聞くよ」

 

 

 

亜未:「うん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

弥生:「・・・亜未さんに、電話したのね・・・」

 

 

 

利久:「亜未は・・・、会社で残業してる・・・」

 

 

 

弥生:「・・・貴方の勝ちってわけね。

    ・・・悪かったわ。あまりにも亜未さんの事ばかり、

    優先するから、ちょっとムキになっちゃった・・・。

    ごめんなさい・・・」

 

 

 

利久:「俺こそ、ぶって、すまなかった・・・。・・・悪いが、先に出る・・・。・・・また、連絡する」

 

 

 

 

弥生:「・・・またね。・・・利久」

 

 

 

 

(ホテルの部屋を出る利久)

 

 

 

 

弥生:「行っちゃった・・・。このホテルの部屋から見る夜景・・・。

    此処の最上階のバーラウンジのカクテル・・・。

    全部、気に入ってたんだけど、もう、それも最後ね・・・。

    ・・・ふふふ。全て計画通り・・・。日は熟したわ・・・。

    これからの、未来の破滅に、乾杯・・・」(ワインをワイングラスに注いで飲む)

 

 

 

 

 

亜未(N):「私はこの時は何も知らなかった・・・。

       知っていれば、これから先の未来も変えられてたかもしれない・・・」

       

 

 

 

 

 

 

 

(数日後、日曜日の午後 ゴルフ場で、ゴルフを楽しむ優斗と利久)

 

 

 

優斗:「ナイスショット! 有村さん。・・・何だ、思った以上に、出来るじゃない!」

 

 

 

利久:「少し、今日の為、密かに練習したかいあったようです」

 

 

 

優斗:「え? それなら俺も誘ってよ~」

 

 

 

利久:「それでは、練習になりませんよ」

 

 

 

優斗:「あっ、それもそうか! ・・・ねぇ、有村さん・・・、奥さんと何かあった?」

 

 

 

利久:「どうしてですか・・・?」

 

 

 

優斗:「何となく、表情、暗いなって思って」

 

 

 

利久:「・・・芹沢さん。・・・可笑しな質問になりますが・・・。

    自分の妻が、違う男と浮気してるかもしれないとしたら、芹沢さんは、どうしますか?」

 

 

 

優斗:「・・・う~ん。それは、正直、ショックうけると思う。・・・最愛の妻が、他の男と浮気なんて・・・、

    考えるだけで、悲しくなるよ・・・」

 

 

 

利久:「それだけですか?」

 

 

 

優斗:「それだけって?」

 

 

 

利久:「いや・・・、相手の男性には、その・・・、報復とかは考えないのかなって・・・」

 

 

 

優斗:「報復ね・・・。・・・俺、暴力は嫌いだからな~。

    ・・・でも、本当にムカついたら、相手の男性、二度と社会復帰、出来ないくらいに、

    後悔させるかもね・・・」

 

 

 

利久:「芹沢さん・・・」

 

 

 

優斗:「嘘嘘! 冗談だって! そんな引かないでよ! 

    そうだな~・・・相手としっかり話し合って、弁護士を通して、慰謝料請求するくらいかな。

    有村さんは?」

 

 

 

利久:「・・・私は、相手・・・、この手で殺すかもしれないです・・・」

 

 

 

優斗:「え!? 殺す!? そんなの、冗談だよね?」

 

 

 

利久:「本気です・・・」

 

 

 

優斗:「本気って・・・。それだと、有村さん、刑務所に・・・」

 

 

 

利久:「覚悟は、出来てます」

 

 

 

優斗:「そんな・・・」

 

 

 

利久:「それくらい真剣に、亜未を愛してるんです・・・!」

 

 

 

優斗:「・・・有村さん、強いね・・・。

    そっか・・・。よしっ! 決めた!

    俺も、弥生が・・・、浮気してた時は・・・、相手、死ぬ程、後悔させる・・・!

    お互い・・・、最愛の妻を、守りましょう!」

 

 

 

 

利久:「はい・・・、そうしましょう・・・。 芹沢さん・・・」

 

 

 

 

亜未:「私はこの時は何も知らなかった・・・。

    知っていれば、これから先の未来も変えられてたかもしれない・・・。

    私達、4人は・・・、少しずつ、運命の歯車が、狂い出し、堕ちて行った・・・。

    この先、待っている・・・、二度と戻れない、深い奈落の底へと・・・」

 

 

 

 

終わり

 

 

 

 

宵闇の蝶は彼は誰時に死す 「惑」に続く