半月に照らされし桜

 

 

 

作者:ヒラマ コウ

 

 

 

上演時間:【30分】

 

 

比率:【1:2】

 

 

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登場人物

 

 

 

江口 亮太・・・事故にあい、心臓移植をし、一命を取り留めた。だが・・・。

 

 

伊藤 桜・・・江口の彼女、江口とは結婚前提で付き合っている。

 

 

村橋 真矢・・・江口を担当した医師。大学病院に勤めていて、頭脳明晰。評判も良いのだが・・・

 

 

 

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CAST

 

江口 亮太:

 

伊藤 桜:

 

村橋 真矢:

 

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(大学病院、病室のベッドで目を覚ます江口)

 

 

 

 

 

江口:「此処は・・・?」

 

 

伊藤:「・・・亮太。意識が戻ったのね! こうしちゃ、居られない。今、先生を呼ぶね・・・!」

 

 

江口:「(俺は確か・・・桜の家に車で向かってて・・・その途中で、車が前方から突っ込んできて・・・)」

 

 

伊藤:「意識が戻りました。早く来てください!」

 

 

江口:「俺・・・一体・・・」

 

 

伊藤:「本当に良かった・・・」

 

 

 

 

 

 

伊藤:「・・・先生、亮太、もう大丈夫ですよね?」

 

 

村橋:「それは、診てみないと・・・。江口さん、気分はどうですか?」

 

 

江口:「気分・・・?」

 

 

村橋:「此処は、大学病院です。貴方は、3週間前、交通事故にあい、此処に緊急搬送されてきました」

 

 

江口:「交通事故・・・」

 

 

伊藤:「何も覚えて無いの・・・?」

 

 

江口:「・・・」

 

 

村橋:「江口さんは、意識が戻ったばかりですので、時間が必要です。詳しくは明日、検査を行いますが、

       無事に目覚めたので、とりあえずは心配はないでしょう。

       今夜は、ゆっくりお休みください」

   

 

 

伊藤:「先生、ありがとうございます・・・」

 

 

村橋:「私はこれで」

 

 

江口:「桜・・・。ありがとう・・・」

 

 

伊藤:「亮太、今夜はゆっくり休んで。また明日来るね」

 

 

江口:「あぁ・・・」

 

 

 

 

 

 

(1日目 朝 大学病院)

 

 

 

村橋:「江口さん、これから私が話す内容に、かなりショックを受けるかもしれませんが、最後まで話を聞いてください。

       貴方は、昨夜も話た通り、交通事故で緊急搬送されました。事故による怪我はかなり酷い状態でして、

       緊急手術を行いました」

 

 

江口:「・・・緊急手術?」

 

 

村橋:「ええ。搬送時の江口さんは、左腕骨折、右足骨折、頭部を強く打っており、

    出血も酷かったのと・・・

       心臓損傷により、かなり危ない状態でした。

       ですが、運よく適合する、心臓がすぐに見つかり、心臓移植を行いました。

       本当、こんな事は滅多にないので、江口さんは、運に恵まれてたのでしょうね」

 

 

江口:「心臓移植・・・」

 

 

村橋:「ショックだと思いますが、今の所、移植後の拒絶反応も起きてませんので、

    これからも術後の経過を見ていきましょう。

       手足の骨折、頭部の損傷も、順調に回復していますので、

       2週間後には、退院できると思います」

 

 

伊藤:「村橋先生、本当にありがとうございました」

 

 

村橋:「私は医者として、当然のことをしただけです。江口さん、今日からはこの薬を飲んでください。

       これは、移植後の拒絶反応を抑えるものになります。もっとも、検査結果からみても、飲まなくて

       良いレベルではありますが、万が一の事もありますので、食後に必ず飲んでください」

 

 

 

江口:「わかりました」

 

 

 

村橋:「それでは、病室に戻り、安静にしててくださいね」

 

 

 

 

 

(2週間後 大学病院)

 

 

 

伊藤:「村橋先生、どうですか?」

 

 

村橋:「移植後の拒絶反応も出てませんし、予定通り、午後には退院ですね」

 

 

伊藤:「良かった・・・」

 

 

村橋:「江口さん、定期診察は忘れないように。お大事にしてください」

 

 

江口:「先生、ありがとうございました・・・」

 

 

 

 

 

 

 

(江口のマンション)

 

 

 

伊藤:「着いたよ」

 

 

江口:「桜、ありがとう」

 

 

伊藤:「良いのよ。今夜は一緒に居て良い?」

 

 

江口:「ごめん・・・。今夜は帰って・・・」

 

 

伊藤:「うん・・・。退院したばかりだし・・・ゆっくり休まないとね」

 

 

江口:「悪いけど、そうする」

 

 

伊藤:「何かあったときは、連絡して。すぐに駆け付けるから」

 

 

江口:「あぁ・・・」

 

 

伊藤:「じゃあね・・・」

 

 

 

 

 

 

江口(M):「此処は・・・俺の部屋・・・。間違いないはずなのに・・・なんでこんなに、違和感を感じるんだ・・・。

          まるで・・・初めて入ったような・・・。駄目だ・・・。凄く眠い・・・」

      

 

 

 

 

 

(玄関のインターフォンが何度も鳴る)

 

 

 

 

伊藤:「亮太・・・! 居ないの・・・?」

 

 

(インターフォンのカメラ越しに)

 

 

江口:「桜・・・どうしたんだ?」

 

 

伊藤:「ちゃんと謝りたくて・・・」

 

 

江口:「今、開ける」

 

 

 

 

伊藤:「亮太・・・私・・・」

 

 

江口:「桜の気持ち、痛いほど伝わってる」

 

 

伊藤:「え?」

 

 

江口:「俺が目覚めるまで、ずっと看病してたんだろう? 本当に、ありがとうな」

 

 

伊藤:「当たり前でしょ! あのまま、目が覚めないかもしれないって思ったら、私、家でじっとしていられなくて・・・」

 

 

江口:「すまなかったな・・・。俺があんな事故に合わなければ・・・」

 

 

伊藤:「亮太のせいじゃないよ! あの事故のことは・・・すぐに忘れられないと思うけど、

       私、頑張るから! いっぱい忘れちゃうくらい、楽しい思い出、作ろう!」

 

 

江口:「あぁ。今すぐには無理だけど、今度、水族館に行こうか。桜、ずっと行きたがってたよな?」

 

 

伊藤:「うん・・・。イルカショー観たい・・・」

 

 

江口:「わかった。頑張って早く良くなるから、桜、リハビリ付き合ってくれな」

 

 

伊藤:「ビシバシいくからね。亮太が勘弁してっていうくらい」

 

 

江口:「とんだ鬼コーチだな」

 

 

伊藤:「私を此処まで心配させた罰なんだから・・・」

 

 

江口:「すまなかった・・・。もう、心配かけたりしないよ」

 

 

伊藤:「約束だからね。水族館デート、楽しみにしてる!」

 

 

 

 

 

 

 

(6か月後 大学病院)

 

 

 

村橋:「術後、順調ですね。オペから半年経ちましたが、移植後の拒絶反応も出てませんし、

       手と足の骨折ももう心配いりませんよ」

 

 

伊藤:「良かった。これで、水族館デートも行けるね!」

 

 

江口:「そうだな」

 

 

村橋:「デートですか? 拒絶反応は出てませんが、忘れずに、薬は飲んでくださいね」

 

 

江口:「わかりました」

 

 

村橋:「それでは、次の検診で。お大事にしてくださいね」

 

 

江口:「はい」

 

 

 

 

 

(水族館前、江口を待つ伊藤)

 

 

伊藤(M):「亮太と初めての水族館デート・・・。緊張しすぎて、心臓がやばいよ・・・」

 

 

江口:「ごめん・・・。待たせたかな?」

 

 

伊藤:「ううん、私も今来たとこ」

 

 

江口:「そっか。じゃあ入ろうか」

 

 

伊藤:「うん」

 

 

江口:「手・・・繋ごうか」

 

 

伊藤:「え?」

 

 

江口:「俺達、付き合ってるんだし・・・」

 

 

伊藤:「うん・・・。でも、なんか、恥ずかしい・・・」

 

 

江口:「周りもカップルだらけだし、大丈夫さ」

 

 

伊藤:「うん・・・」

 

 

伊藤(M):「幸せすぎて、おかしくなっちゃうよ・・・。あれ・・・? 亮太も緊張してる?

          手の震えが伝わってくる。そっか・・・。私だけじゃないんだ・・・」

 

 

 

江口:「どうかした?」

 

 

伊藤:「なんでもない。ねぇ、何から見る? 私はペンギンが見たいな! それから・・・」

 

 

江口:「桜の観たいものからで良いよ」

 

 

伊藤:「ありがとね。じゃあ、行こう」

 

 

江口:「うん」

 

 

 

 

 

 

伊藤:「見てみて! ペンギンがいっぱい! ちょこちょこ歩いてて、可愛い!!!

       あっ、あっちの子はなんだか、眠そうにしてるよ!」

 

 

 

江口:「本当だ! 可愛い」

 

 

 

伊藤:「うん。次はあっち観に行こうよ!」

 

 

江口:「あっちは、ラッコか。良いね」

 

 

伊藤:「でしょ。他にも観て回りたい所がいっぱい!」

 

 

江口:「まだ時間は沢山あるし、全部見て回ろう!」

 

 

 

伊藤:「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

江口:「そろそろ閉館時間か・・・。なんだかあっと言う間だったな」

 

 

伊藤:「でも、楽しかったよ! またいつか観に来たいな」

 

 

江口:「あぁ。また観に来ような」

 

 

伊藤:「約束だよ」

 

 

江口:「さて、この後どうする? 何処かで夕飯食べてく?」

 

 

伊藤:「うん、私、イタリアンが食べたいな」

 

 

江口:「オッケー、じゃあ、とっておきの店に行こう」

 

 

伊藤:「やった!」

 

 

 

 

 

 

伊藤:「ふ~、美味しかった。今日は本当、楽しすぎてどうにかなっちゃいそうだった!」

 

 

江口:「俺もだよ。桜と夢のようなひと時を過ごせたよ」

 

 

伊藤:「亮太ったら、おおげさなんだから・・・。でも、嬉しい。あっ、此処でいいよ」

 

 

江口:「一人で帰れるのか?」

 

 

伊藤:「大丈夫だよ。亮太も気を付けて帰ってね。お休み」

 

 

江口:「おやすみ、桜」

 

 

 

 

 

(江口のマンション)

 

 

江口(M):「桜が喜んでくれて良かった。・・・それにしても眠い。着替えてないけど・・・。

       このまま寝てしまいそう・・・。

          このまま、まるで・・・深い海の底に、沈んでいくようだ・・・」

 

 

 

 

 

(村橋の家)

 

 

 

村橋:「随分遅かったじゃない・・・。待ってたわよ。今日はどうする?

    ・・・泊ってく?

       そう・・・。待って、焦らないで・・・。

        時間は、たっぷりあるんだから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

(江口のマンション)

 

 

 

伊藤:「ねぇ、亮太? 話、聞いてる?」

 

 

江口:「え? なんだっけ?」

 

 

伊藤:「もう・・・今朝からなんだか変だよ」

 

 

江口:「そうかな?」

 

 

伊藤:「なんだか上の空って感じ・・・」

 

 

江口:「そんな事ないと思うけど」

 

 

伊藤:「絶対変だって。さっきから、空返事ばかりだし、何かあったの? もしかして体の調子が・・・」

 

 

江口:「ごちゃごちゃ、うるせえんだよ! 何でもないって言ってるだろうが!」

 

 

伊藤:「え・・・?」

 

 

江口:「お前の知った事かよ! だいたい、毎日、毎日、会いに来てんじゃねえよ! 気持ち悪いし、正直、重いんだよ!」

 

 

伊藤:「ねぇ・・・いきなりどうしたの?」

 

 

江口:「いきなり? はっ、今に始まった事じゃねえよ! お前のそういう所、俺は大っ嫌いだったんだよ!」

 

 

伊藤:「酷いよ・・・亮太・・・」

 

 

江口:「いちいち、泣いてんじゃねえよ! めんどくせーな!」

 

 

伊藤:「私が悪いのなら、謝るし、なおすから・・・」

 

 

江口:「そういう所が、重いんだっていってるだろうが! お願いだ! 帰ってくれ・・・」

 

 

伊藤:「でも・・・」

 

 

江口:「いいから、さっさと帰れ!!!」

 

 

伊藤:「亮太・・・!!!」(ショックで家を飛び出す)

 

 

 

 

 

 

伊藤(M):「・・・亮太の身に何がおこったの・・・。今まで、何ともなかったのに・・・。

       移植によるストレスが、私のせいで、爆発したのかな・・・」

 

 

 

 

江口(M):「俺は・・・どうして、桜に怒鳴ったんだ・・・。桜・・・。眠い・・・。倒れそうなくらい眠い・・・」

 

 

 

(村橋のマンション)

 

 

 

村橋:「いらっしゃい。今夜は遅かったのね・・・。どうかしたの? やだっ待って、がっつかないでよ・・・。

       でも、嬉しい・・・。そんな強引な部分も好きよ・・・謙太郎」

 

 

 

(江口のマンション インターフォンを鳴らす伊藤)

 

 

 

伊藤:「亮太・・・。いないの・・・? ・・・また来るね」

 

 

 

伊藤(M):「亮太・・・何処に行ったんだろう・・・。昨日の事があるし・・・心配だよ・・・」

 

 

 

 

(大学病院 村橋に会いに来た江口)

 

 

 

村橋:「江口さん、今日は検診の日ではありませんが、どうされました?」

 

 

江口:「先生・・・。俺、なんだか最近、おかしいんです・・・。いきなり怒鳴ったり・・・」

 

 

村橋:「それは、移植後のストレスによるものかもしれませんね。念の為に、精神安定剤を処方しますね」

 

 

江口:「それで、治るのですか・・・?」

 

 

村橋:「江口さん、移植後は何かとストレスがかかるものです。それを緩和するためには、必要なことなんですよ。

       彼女と何かあったのですか?」

 

 

江口:「それが・・・。彼女の言葉がうっとおしく感じて、怒鳴ってしまいました・・・。

    桜は・・・俺の為に一生懸命だったのに・・・」

 

 

村橋:「そうでしたか・・・。江口さん自身、かなり精神的に、無理をしていた可能性がありますね・・・。

    その彼女とは少し、距離を置くのはいかがでしょう?」

 

 

江口:「距離を置く・・・」

 

 

村橋:「今の現状、精神に支障が出ていますので、このままだと、いずれ体にも異変が起こるかもしれません。

       そうなると・・・移植した心臓にも、拒絶反応が起こるかもしれません・・・」

   

 

江口:「彼女と離れたら、この症状は治まりますか?」

 

 

村橋:「必ずしもとは言えませんが、改善はすると思いますし、その為に私も力を尽くします。

    ・・・大丈夫、また彼女さんとも、会えるようになりますよ」

 

 

江口:「はい・・・」

 

 

村橋:「時間がかかると思いますが、頑張って一緒に治して行きましょう。では江口さん、また来週、検診で」

 

 

 

 

 

(江口のマンション 伊藤に電話をかける江口)

 

 

 

伊藤:「もしもし・・・」

 

 

江口:「俺だけど、この前はごめんな・・・」

 

 

伊藤:「私こそ、ごめんね・・・」

 

 

江口:「それでだな・・・」

 

 

伊藤:「うん・・・」

 

 

江口:「俺達、少し距離を置かないか・・・」

 

 

伊藤:「距離を?」

 

 

江口:「あぁ・・・。俺自身、今は自分の事で精一杯なんだ・・・」

 

 

伊藤:「いつまで?」

 

 

江口:「え?」

 

 

伊藤:「私は、いつまで待てば良いの?」

 

 

江口:「それは、わからない・・・」

 

 

伊藤:「このまま、別れちゃうなんて、ないよね?」

 

 

江口:「・・・」

 

 

伊藤:「ねぇ・・・答えてよ・・・!」

 

 

江口:「ごめん・・・。今は何とも言えない・・・」

 

 

伊藤:「亮太の・・・馬鹿・・・」

 

 

江口:「ごめん・・・」

 

 

伊藤:「馬鹿・・・。馬鹿、馬鹿! 馬鹿!! ・・・馬鹿!!!」

 

 

江口:「・・・」

 

 

(電話が切られる)

 

 

伊藤:「え? もしもし、亮太! ・・・ねぇ。私達、どうしてこんな事に・・・」(涙があふれ出す)

 

 

 

 

 

 

 

江口(M):「俺はこれから、どうなるんだ・・・。桜のこと、好きなのに・・・。今はその気持ちに応えられない・・・。

       本当なら、桜との結婚式・・・来年の春に考えてたのにな・・・。

       怖い・・・。辛い・・・。

       不安で押しつぶされそうだ・・・。駄目だ・・・。先生から処方された薬を飲まないと・・・。

          これで、少しは楽になる・・・。

          なんだろう・・・深い海の底に沈んで・・・。そのまま・・・消えていくようだ・・・」

 

 

 

(村橋のマンション)

 

 

 

村橋:「ねぇ・・・。そろそろかしら? ・・・わかったわ。貴方がそう望むのなら、そうしましょう。

       その為には仕方ない事よ・・・。だって、それが一番良いんですもの。

       そうでしょう? 謙太郎・・・」

 

 

  

 

 

伊藤(N):「亮太と離れてから、数ヵ月が経った・・・。

       あの電話から、1週間後、やはり心配になり、彼のマンションに向かった。

          だけど、そこには彼はいなかった・・・。どこかに引っ越したらしく、

       消息不明のまま・・・更に数ヵ月が経った・・・」

 

 

 

 

伊藤(M):「亮太・・・何処に行ったの?」

 

 

 

(その時、江口が向いの通りを歩いて行く姿を見かける)

 

 

 

伊藤(M):「あれは、亮太!? 早く声をかけないと・・・。でも・・・。そうだ・・・。

       後をつけよう・・・。

          そうすれば、亮太の居場所がわかる・・・」

 

 

 

 

伊藤(M):「何処まで行くのかな? ・・・あっ、時計を気にしている・・・。誰かと待ち合わせなの?

          あっ、誰か来た・・・。えっ、あれって!」

 

 

 

 

村橋:「随分、早いじゃない」

 

 

江口:「そんな事無い。俺も今来たところだ」

 

 

村橋:「そう。じゃあ、行きましょう」

 

 

江口:「あぁ」

 

 

 

伊藤(M):「あれは・・・村橋先生・・・。どうして、亮太が・・・彼女と?

          駄目だ・・・。見失う・・・。後をつけなきゃ・・・」

 

 

 

 

 

 

村橋:「待って・・・。こんな街中じゃ嫌よ・・・。私の家に行きましょう・・・」

 

 

江口:「そうだな・・・」

 

 

 

伊藤(M):「亮太が・・・村橋先生と肩を組んで、キスまで・・・。わけがわからないよ・・・」

 

 

 

 

 

伊藤(M):「この家・・・。村橋先生の家かな・・・? 2人して・・・何してるの・・・。

          駄目だ、気になる・・・」  

 

 

 

(インターフォンを鳴らす伊藤)

 

 

 

村橋:「はい」

 

 

伊藤:「すみません! 村橋先生のお宅ですよね?」

 

 

村橋:「ええ、そうよ。どうして貴女が?」

 

 

伊藤:「・・・亮太と一緒に歩いてるの見かけて、追いかけて来ちゃいました」

 

 

村橋:「そうだったの・・・。良いわ、中に入って」

 

 

伊藤:「ありがとうございます」

 

  

 

 

村橋:「伊藤さん、久しぶりね。どうかしたのかしら?」

 

 

伊藤:「亮太は何処ですか?」

 

 

村橋:「彼は・・・」

 

 

伊藤:「何処です?」

 

 

村橋:「貴女の後ろにいるわ。ねぇ、江口君」

 

 

伊藤:「えっ?」

 

 

江口:「・・・」

 

 

伊藤:「亮太・・・。会いたかったよ・・・」

 

 

江口:「・・・」

 

 

伊藤:「・・・どうしたの?」

 

 

江口:「・・・」(無言で伊藤を強く押す)

 

 

伊藤:「きゃっ!」

 

 

江口:「・・・」

 

 

伊藤:「痛っ・・・。どうして・・・」

 

 

村橋:「あら? どうしてか知りたいの?」

 

 

伊藤:「亮太に何かしたの?」

 

 

村橋:「(大声で笑う)」

 

 

伊藤:「笑ってないで、答えて!」

 

 

村橋:「ええ・・・。したわよ」

 

 

伊藤:「何をしたの・・・?」

 

 

村橋:「簡単よ。江口君は、私のものになったの」

 

 

伊藤:「どういう意味?」

 

 

村橋:「何処から話そうかしら? そう、始まりはあの交通事故だった・・・。あの事故の相手ね・・・。

       実は、私の彼氏だったの・・・」

 

 

伊藤:「え!?」

 

 

村橋:「彼もね、緊急搬送されたんだけど、江口君より、状態が悪くて、オペしてる間に、亡くなったわ・・・。

       私は、絶望感に襲われた・・・。だけどね・・・すぐに思いついたの・・・。

       彼を生き返らす方法を・・・。

       でも、正直賭けだったわ。拒絶反応が起こるかもしれないし、適合検査を急いでおこなった。

       結果は・・・見ての通り、無事に成功したわ。

       そうでしょう・・・。江口君、いや・・・謙太郎」

 

 

江口:「あぁ。この体も悪くない。ありがとう、真矢」

 

 

村橋:「貴方に気に入ってもらえて、私も嬉しいわ」

 

 

伊藤:「待ってよ・・・。じゃあ、亮太は何処に行ったの?」

 

 

村橋:「彼なら、私が処方していた薬で、少しずつ死んでいったわ。精神の死・・・。消滅とも言うかしら。

    今では、この体は、私の彼氏のものよ」

 

 

伊藤:「そんな・・・。これは悪い夢よ・・・」

 

 

村橋:「悪い夢? じゃあ、その夢から覚ましてあげないとね・・・。謙太郎、良いわよ」

 

 

伊藤:「亮太・・・。何をするの?」

 

 

江口:「人を殺すのは初めてだが、楽しめそうだ」

 

 

伊藤:「冗談でしょ・・・?」

 

 

江口:「俺と真矢の秘密を知ったお前は、生かしてはおけないんだよ」

 

 

伊藤:「正気に戻って・・・亮太・・・」

 

 

江口:「うるさい! 大人しくしろ! この悪い夢から覚ましてやるんだから!」

 

 

伊藤:「元の優しい亮太に戻ってよ・・・」

 

 

江口:「お前の彼氏はもういないって言ってるだろう! 俺と真矢が消してやったよ! 跡形もなくな!」

 

 

伊藤:「そんな・・・嘘よ」

 

 

江口:「嘘じゃない! お前もさっさと、彼氏の元へいっちまえよ!」

 

 

伊藤:「やだ・・・来ないで・・・」

 

 

江口:「逃げる所なんてないんだ! さっさと、死にやがれ! おいっ、真矢、包丁をよこせ」

 

 

村橋:「包丁で殺すの? この部屋、汚されたくないんだけど・・・」

 

 

江口:「うるせえ! ごちゃごちゃ言ってると、お前も殺すぞ!」

 

 

村橋:「わかったわよ。本当、強引なんだから。ほら、これで良い?」

 

 

江口:「おう! これで、この女を殺せるぜ!」

 

 

伊藤:「誰か・・・助けて・・・!」

 

 

村橋:「ごめんなさい。この家、全室防音なのよ」

 

 

江口:「そういうこった。諦めて、死ねよ!」

 

 

伊藤:「いやあああああああ!!!!」

 

 

村橋:「諦めが悪いわね! うるさいし、殺しちゃって。謙太郎」

 

 

江口:「おらああああああ!!!!」(思いっきり包丁を振り下ろす)

 

 

伊藤:「ごふっ・・・」

 

 

江口:「ははははははっ、真っ赤な血が、噴き出したぞ! おらっ、もっとだああああ!」

 

 

伊藤:「ごふっ・・・。痛い・・・。止めて・・・」

 

 

村橋:「そんなんじゃ、死なないわよ。謙太郎、私に包丁かしなさい」

 

 

江口:「楽しんでる所なのによ・・・。仕方ねえな・・・。ほらよ」

 

 

村橋:「ありがとう。じゃあ、伊藤さん、これで、楽に死なせてあげる。さようなら」(深く心臓に突き刺す)

 

 

伊藤:「ごふっ・・・。亮・・・太・・・」

 

 

江口:「・・・」

 

 

村橋:「死んだわ。謙太郎、これで邪魔者はいなくなったわよ」

 

 

江口:「さ・・・く・・・ら・・・」

 

 

村橋:「どうしたの? 謙太郎?」

 

 

江口:「どうして・・・。おいっ、桜っ・・・!」

 

 

村橋:「馬鹿な・・・。江口君の意識が、まだ残ってたと言うの・・・」

 

 

江口:「村橋先生! どうしてこんな酷い事を・・・!」

 

 

村橋:「決まってるじゃない。復讐よ。彼を殺した貴方にね!」

 

 

江口:「復讐?」

 

 

村橋:「どう? 愛しい彼女を、自分の手で殺した感想は?」

 

 

江口:「俺のこの手で・・・彼女を・・・」

 

 

村橋:「そうよ。笑い、喜びながら、何度も突き刺してたのよ。その手でね!」

 

 

江口:「そんな・・・うわあああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

村橋:「彼女を見なさい。あの絶望の顏、堪らないわ・・・!」

 

 

江口:「桜ああああああああああああ!!!・・・ごめんな・・・」(桜に駆け寄り抱きしめる)

 

 

 

村橋:「江口君」

 

 

江口:「どうして・・・こんな事に・・・。俺はどうしたら・・・」

 

 

村橋:「大丈夫、この薬を飲めば、すぐに楽になるわ」

 

 

江口:「これを・・・飲めば・・・」

 

 

村橋:「えぇ。私を信じなさい」

 

 

江口:「俺は・・・」(薬を飲みこむ)

 

 

村橋:「良い子ね。江口君」

 

 

村橋:「貴方は頑張ったわ。だから、今は眠りなさい。深い深い海の底の眠りに・・・」

 

 

江口:「さ・・・く・・・ら・・・」

 

 

村橋:「おやすみなさい。江口君・・・」

 

 

 

 

 

 

村橋:「これで良いわ。大丈夫、またすぐに会えるわ。目覚めたら、今度こそ、

    私達、幸せになりましょう・・・。ねぇ、謙太郎・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わり