アヴェク・トワ
作者:ヒラマ コウ
登場人物
中村浩(なかむら ひろし)20歳(♂):ホテル・レジェンドの新人 フロントに配属されてまだ間もない。
元気が取り柄。
佐藤洋子(さとう ようこ)34歳(♀):ホテル・レジェンドのフロントマネージャー。明るい性格でムードメーカーなのだけど、
いまいち責任感が無く、頼りない。
阿部武(あべ たけし)35歳(♂):ホテル・レジェンドのサブフロントマネージャー。温厚な性格なのだけど、
仕事の時は厳しい面もあり。頼りがいがあり、頭が切れる。
井上静(いのうえ しずか)20歳(♀):ホテル・レジェンドの新人 フロントに配属されたけど初めてにしては
何でもこなす万能なタイプ。冷静な性格だが短気な所もある。
渡辺啓介(わたなべ けいすけ)25歳(♂):レストランAvec toi (アヴェク・トワ)のマネージャー。
変わった人で普段は何を考えてるかわからない。
仕事は真面目で、来ていただいたお客様一人一人を大事にし
心からのサービスを提供する事で人気の高い人物。
藤原俊(ふじわら とし)29歳(♂):ホテル・レジェンドに今回初めて宿泊する。奈央の恋人。この旅行である計画を考えてる。
近藤奈央(こんどう なお) 24歳(♀):ホテル・レジェンドに同じく今回初めて宿泊する。俊の恋人
比率:【4:3】
上演時間 :【120分】
※2020年、6月16日、改訂
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CAST
中村浩:
佐藤洋子:
阿部武:
井上静:
渡辺啓介:
藤原俊:
近藤奈央:
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本編はここから
0001 浩(M):「これは俺がホテル・レジェンドで働き始めた頃の話です。二人の恋人がご宿泊に訪れたのですが、
まさか、あんな騒動になるなんて! 今は懐かしい思い出ですが、当時は大変でした・・・。
でも、忘れる事の出来ない、大事なこのホテルでの思い出です。
あっ・・・! つい一人で思い出して、進行をするのを忘れてました・・・。
さて、どういう騒動が起きたかと言うと・・・」
(場所はホテル・レジェンド フロント裏、事務所、
いつものように朝のチェックアウトが終わり昼からのチェックインの準備を各々進めている)
0002 洋子:「ふぅ・・・。午前のチェックアウト作業も一段落ね・・・。新しい顧客様も取れたし満足満足!」
0003 武:「張り切るのは良いが、この前みたいな失敗はよしてくれよ・・・。本当に大変だったんだからな」
0004 洋子:「ごめんって! 今回の新規顧客の獲得については任されてるけど・・・、
私が休みの時のお客様からの電話までは責任もてないわ!」
0005 武:「全く・・・。だからあの時言ったじゃないか。こういう事になるかもしれないから、
何でも社長の提案を鵜呑みにするなって」
0006 洋子:「それは・・・わかっていたけど仕方なかったのよ・・・。社長も上機嫌で頼んでくるし、
私も断るに断り切れなかったのよ!」
0007 武:「その結果がこれだよ。もう少しマネージャーとしての自覚を持て。そんな事では新人にも呆れられるだけだからな!」
0008 洋子:「言われなくてもわかってるわよ! あー! もう! 朝から五月蠅いなー!」
0009 武:「・・・」
0010 浩:「あっ、お取込み中の所、すみません! 少し宜しいでしょうか?」
0011 洋子:「え? 何かしら? 今、チェックインの準備で忙しいのだけど・・・」
0012 浩:「それが・・・。洋子さんの任せられてる、新規顧客キャンペーンについての問い合わせが来てるのですが・・・」
0013 洋子:「え!? 今の時間なら予約部の仕事でしょ? 何でフロントの貴方が問い合わせに応じてるのよ!」
0014 浩:「えっと・・・予約部のマネージャーがフロントに来まして、私達じゃ内容、把握し切れないから
佐藤さんに変わってもらってと・・・」
0015 武:「言ってる側からこれだよ・・・。自分で撒いた種は自分で何とかしろよ」
0016 洋子:「えー、少しは手伝ってよー!」
0017 武:「悪いが、俺は俺で、用意に忙しいんだ」
0018 洋子:「薄情者~!!!」
0019 浩:「・・・洋子さん?」
0020 洋子:「わかったわよ・・・。電話繋いだままなのよね? お客様を待たせすぎてもいけないわ。こちらに電話を回して頂戴」
0021 浩:「わかりました。今すぐに」
0022 洋子:「本当、朝からなんか疲れたわ・・・。さてと・・・、お客様、大変長らくお待たせ致しました!!
今回の新規顧客キャンペーンについてのお問い合わせですね!!
その件につきましては・・・」
(フロント内 浩と静が予約カードをチェックしたりチェックインの作業をしている)
0023 浩:「えっと、本日から御宿泊のお客様は少ないみたいだね」
0024 静:「そうね。チェックアウトも問題なく終わったし、いつも通りかしら」
0025 浩:「何事もないのが一番なんだけどね」
0026 静:「それで、先程の問い合わせについてだけど、どうだったの?」
0027 浩:「どうって?」
0028 静:「佐藤マネージャーの反応よ」
0029 浩:「あー、何と言うか・・・、凄く面倒って感じだったな」
0030 静:「やはりね」
0031 浩:「やはり?」
0032 静:「佐藤マネージャーは適当過ぎるのよ! もう少し考えて行動してほしいものだわ」
0033 浩:「ちょっと声がでかいって! お客様や裏の事務所の人に聴こえたらどうするんだよ・・・」
0034 静:「どうもしないわよ! 聴こえたら聴こえたで、本人も少しは反省するんじゃないかしら?」
0035 浩:「それはそうだけど・・・」
0036 静:「私的には、阿部サブマネージャーの方が、マネージャーに向いてると思うのだけど、中村さんはどう思う?」
0037 浩:「え? それは俺も思うけど・・・。だけど、それは絶対に佐藤マネージャーの前で言ったら駄目だよ!」
0038 静:「何故?」
0039 浩:「何故って・・・。ああ見えて、傷つきやすい人なんだから、もう少し言葉を考えてさ・・・」
0040 静:「思ったより繊細なのね。そんな事より、予約カードの確認の続きするわよ」
0041 浩:「そんな事って・・・。聞いて来たのは井上さんなのに・・・」
0042 静:「いちいち細かいわね! 今は今よ! 早くしないとお昼になっちゃうわ!」
0043 浩:「・・・それもそうだね。まずはチェックを終わらせないと・・」
(チェック終了後、浩と静のいるフロントに同じく準備の終わった洋子と武が戻ってくる)
0044 静:「チェック完了っ! 本日からのお客様は、特に注意すべき内容の指示は書いてないわね」
0045 浩:「そうだね。今日は、何事もなくチェックイン終わりそうだね」
0046 洋子:「どう? 本日からの予約カードチェックは終わったかしら?」
0047 浩:「特に問題なく終わりました」
0048 静:「お部屋へのウェルカムフルーツの指示や、VIPのお客様などの情報もありません」
0049 洋子:「そうなんだ。じゃあ、今日はゆっくりと新規顧客キャンペーンを勧められるわね!」
0050 静:「佐藤マネージャー、程々にしてくださいね!! 大体・・・、電話を受ける私達の身にもなってください!!!」
0051 浩:「井上さん!」
0052 洋子:「わかってるわよ!!! その件については、私が悪かったわよ・・・。だけど・・・少しは貴方達も手伝ってよね!!!」
0053 浩:「佐藤マネージャー・・・」
0054 洋子:「ごめんなさい・・・。だけど、これも仕事なの。社長のいう事は聞かないと、いけないのよ・・・」
0055 静:「・・・」
0056 武:「みんな、チェックインの準備は終わったか?」
0057 洋子:「・・・」
0058 浩:「・・・」
0059 武:「おい? どうした? 何かあったのか?」
0060 洋子:「阿部サブマネージャー・・・。ごめんなさい・・・。少し席を外すので、フロントをお願いします・・・」
(洋子 フロントを出て事務所の方へと歩いていく。)
0061 武:「一体どうしたって言うんだ?」
0062 静:「すみません。阿部サブマネージャー、私も少し席を外します・・・」
(静 同じくフロントを出て行く。)
0063 武:「二人共どうしたって言うんだ・・・。中村君、何があったのか話してくれるかな?」
0064 浩:「はい・・・。実は佐藤マネージャーの任された新規顧客キャンペーンなのですが、
今朝も、チェックアウトの時にお客様より直接問い合わせがありまして、その時に対応したのが井上さんです・・・。
俺も井上さんも、佐藤マネージャーに詳しく教えてもらってなくて、どうすれば良いか聞いても、
私を呼べば大丈夫と言うだけでした。そんな状態の中、今朝の直接の問い合わせで・・・。
俺も、助けてあげたかったのですが、他のお客様の対応をしてまして・・・
井上さんは上手く説明が出来ずに、お客様を怒らせてしまいました・・・」
0065 武:「なるほどな・・・。それで、そのお客様はどうなった? 怒って帰ってしまわれたわけか?」
0066 浩:「いえ、危機一髪と言う所で、佐藤マネージャーが対応を終えて来てくれたので、
何とかお客様の機嫌も直り、新規顧客を獲得出来たみたいです。
だけど・・・、井上さんからしたら、辛い気持ちになっていたと思います・・・」
0067 武:「それで・・・、あの事務所での上機嫌てわけか。佐藤マネージャーは、井上さんをその後、怒ったりはしたのか?」
0068 浩:「怒ると言うか・・・。どんまい、こんな事もあるわよ。次頑張りなさい! って感じに、井上さんに言ってましたね」
0069 武:「あの馬鹿・・・。中村君、悪い! チェックインまで、まだ時間はあるから、フロントを暫く任せる!」
0070 浩:「え? 阿部サブマネージャー!」
0071 武:「何かあったら、すぐに俺の社用携帯に連絡するように。じゃあ任せたよ!」
(阿部もフロントを出て事務所へと行き、フロントは浩 一人。そこにレストランの朝食の片づけを済ました啓介が現れる)
0072 浩:「・・・はぁ~」
0073 啓介:「あれ? 今日はフロント、一人なのか?」
0074 浩:「あっ、渡辺マネージャー。そんなわけないじゃないですか。色々あって・・・、今一人なんですよ」
0075 啓介:「何があったかは知らないが、フロントも大変だな~。俺、レストランで良かったよ~」
0076 浩:「え? レストランは大変じゃないのですか?」
0077 啓介:「ん? そんなわけないだろ~う! 深刻な顔して、フロントに突っ立ってる中村君見たら、
ちょっと、からかいたくなっただけだよ!」
0078 浩:「なんですかそれ!」
0079 啓介:「はははは! とにかく、お客様をこれから迎えるのに、そんな仏頂面だとクレームの元だぞ。
お前はフロントの新人。だが、このホテル・レジェンドの顔なんだ。
そのお前が、いつまでもそんな顔しててどうする!」
0080 浩:「渡辺マネージャー・・・」
0081 啓介:「な~んてな。ほら、笑顔笑顔! こうしてる間にも、ホテルに向かってるお客様は胸を膨らませて来るんだ。
最高の思い出にして、帰ってもらおうぜ!」
0082 浩:「はい! いつまでも暗い顔してたら駄目ですよね! 気持ちを切り替えてお客様を迎えます!」
0083 啓介:「その意気だ! 任せたぞ! フロントの期待の新人君!」
0084 浩:「はい! どんと任せてください!」
0085 啓介:「よし! じゃあ、そろそろ本題に戻るぞ。
本日からの御宿泊のお客様は、特にレストランへの特別な指示は来て無かったが、増えたりはしてないか?」
0086 浩:「そうですね。予約カードのチェックを終了しましたが、特にレストランへの指示は増えてません」
0087 啓介:「わかった。それと、御宿泊者の夕食の予約なのだが、滞在中のお客様も含めても、
前半、後半共に(※前半:18:00 後半20:00)
まだ空いてるから新規も大丈夫だ。いつも通り、チェックイン時の新規の夕食の御案内、宜しく頼むぞ」
0088 浩:「わかりました」
0089 啓介:「さて、中村君も元気になった事だし、レストランに戻りますかね」
0090 浩:「え?」
0091 啓介:「こう見えても、中村君の事は気にかけてるんだからな!」
0092 浩:「ありがとうございます!」
0093 啓介:「色々初々しくて、弄りがいがあるって意味でも気に入ってるんだから、しっかり頑張れよ!!!」
0094 浩:「渡辺マネージャーーーー!!!」
0095 啓介:「はははは!!! またな! 中村君!!!」
(啓介 レストランへと戻っていく。)
0096 浩:「全く・・・。本当、渡辺マネージャーって変わった人だよな・・・。でも、おかげで元気が出た。
さてと、まだ時間あるな。ロビーのチェックして来るか!」
(ホテル裏 休憩室 洋子が一人何かを考えてる。そこにあちらこちらを探した後の武もやってくる。)
0097 洋子:「はあ~。何でこうなるんだろう・・・。私も悪いのはわかるわよ。
だけど、みんなだって・・・少しは、手伝ってくれても良いじゃない・・・」
0098 武:「探したぞ。ここにいたのか」
0099 洋子:「武・・・。ごめんなさい」
0100 武:「なんで謝る。起きたことは仕方ないだろう。
なぁ、洋子・・・。俺とお前がこのホテルに入社してから、もうだいぶ経つよな・・・」
0101 洋子:「そうね。色々あったわ・・・」
0102 武:「お前と初めて出会った時の事は、今でも忘れないよ。
入社当日に、これから働くホテルで迷ってて、こいつ大丈夫か? と思ったよ。
その後も、どちらがよりお客様に感謝してもらえるか、競い合ったりして、先輩に怒られたりして・・・、
帰りに、お前と飲みに行って、お互い間違ってた事を反省したり、
トラブルが起こるたびに、フロントメンバー、全員で解決したり、したよな~」
0103 洋子:「懐かしいわね・・・。
でも、それが出来たのは、私達はお互い、まだ今みたいに役職についてなかったからよ・・・。
役職についた以上、そう簡単に頼れないし・・・、今はもう・・・」
0104 武:「何も変わってないさ。今は、お互いサブマネージャーとマネージャーと言う立場だけだ。
もっと頼ったりしても、良いんだよ。
う~ん、何が言いたいかと言うとな、もっと周りを信用して、任せてみたらどうだ?
確かに、中村君も井上さんも、まだまだ教える事ばかりで一人前には程遠いし、任せられない事もある・・・。
だが、洋子。お前が心から協力してと頼めば、あの二人も嫌だとは言わないはずだ」
0105 洋子:「だけど、今朝のチェックアウトの時も、私に聞く事無く、二人共対応をこなしていたし・・・
私は頼りにされていないのよ・・・」
0106 武:「お前、本当にわかっていないんだな・・・」
0107 洋子:「え?」
0108 武:「今朝の事、中村君から聞いたよ。聞く事無く対応をこなしてたってのは、お前の見る目が足りないだけだ。
本当は・・・井上さんはあの時、新規顧客キャンペーンについて、お客様にクレームを受けてかなり動揺していたんだ。
でも、その事を出す事無く必死にお客様に謝り、洋子・・・お前が他のお客様の対応終わるまで待ってたんだ」
0109 洋子:「嘘・・・? だって・・・その後、井上さんは笑いながら、気を付けますって言ってたのよ」
0110 武:「それは、恐らく動揺して、落ち込んでる所を、お前に見せないようにしてたんだろうな」
0111 洋子:「どうして? その時になんで、私にそう言う気持ちになってた事、言わなかったの?」
0112 武:「お前な~。新規顧客を獲得して、浮き浮きして上機嫌なお前に、そんな心境を話せると思うのか?」
0113 洋子:「あっ・・・」
0114 武:「洋子、マネージャーになって、色々と焦ったり、しっかりしないといけないって気持ちはわかる。
だが、どれも中途半端だと、周りは迷惑するし、信用も出来ないし、協力も出来ないんだ」
0115 洋子:「・・・」
0116 武:「まずは井上さんに謝る事。そして中村君にも。・・・大丈夫だ。ちゃんと心から謝れば、二人共わかってくれるさ」
0117 洋子:「・・・うん。ちゃんと二人に謝るわ・・・」
0118 武:「さてと、中村君にだけ、フロントを任せてるままだ。そろそろ戻るか。
・・・あっ、それとな・・・。・・・洋子、今度久しぶりに、二人で飲みに行こう。・・・約束だ。良いな?」
0119 洋子:「武・・・。ええ、楽しみにしてるわ。・・・さぁ、みんなの元へ戻りましょう」
(ロビーチェックも終わり、フロントに戻って来た浩 そこに席を外してた静も戻ってくる。)
0120 静:「ごめんなさい」
0121 浩:「良いよ。そんな事よりチェックインまでもう少し。気持ちを切り替えて頑張ろう」
0122 静:「そうね。頑張りましょう」
0123 浩:「あっ、ごめん。ちょっとトイレに行って来るから、フロントお願いね」
0124 静:「わかったわ。行ってらっしゃい」
(浩 フロントを出ていく。暫くしてフロントに予約部より内線の電話が入る。)
0125 静:「お疲れ様です。こちらフロント井上です。
・・・えっ? 本日御宿泊のお客様より問い合わせですか?
・・・はい、わかりました。繋いで下さい。
・・・お待たせ致しました。ホテル・レジェンド、フロント井上が承ります」
0126 俊:「あのう~・・・。本日より、そちらで1泊で予約してる藤原ですが・・・。
2、3、お願いがあるのですが、良いですか?」
0127 静:「かしこまりました。それでは藤原様、予約カードの確認を致しますので、下のお名前も宜しいでしょうか?」
0128 俊:「はい、藤原俊です」
0129 静:「藤原俊様ですね。少々お待ち下さいませ」(予約カードを確認する)
0130 静:「大変お待たせ致しました。藤原俊様のお名前で本日より1泊2食付きのプランでお伺いしておりますが、
何か変更はありますでしょうか?」
0131 俊:「いえ、変更ではなく、追加をしたいのですが・・・」
0132 静:「追加と申しますと・・・、どのような追加でしょうか?」
0133 俊:「そうですね・・・。例えば、夕食の時にケーキを出したりとかは出来ますか?」
0134 静:「はい、可能だと思いますが、一度レストランに確認を取りますので、もう少々お待ちくださいませ」
0135 俊:「わかりました」
0136 啓介:「はい、こちらレストラン、アヴェク・トワ。渡辺です」
0137 静:「お疲れ様です。フロント井上です」
0138 啓介:「あ~、井上さんか。お疲れ。どうしたんだ?」
0139 静:「実は、本日から御宿泊の藤原様より、夕食時にケーキを出してもらえないかと言う問い合わせなのですが、
可能でしょうか?」
0140 啓介:「可能と言えば可能だが・・・。藤原様は、どんなケーキをとか仰っていたか?」
0141 静:「すみません。それはまだ聞いてないです」
0142 啓介:「そうか、じゃあこれから言う事を藤原様に確認とってくれ。
まずはケーキの大きさ。予約カードの情報を確認する限り、2名様なので4号か5号あたりだろう。
4号が直径12cmで、5号が直径15cmだ。
次に、生クリームのショートケーキなのか、それともチョコレートケーキなのか。
そして料金なのだが、4号が2000円、5号が3000円だ。
それと一番大事な事なんだが・・・
相手のお名前と、どう言う目的でのケーキなのかを聞いてもらえるとこちら側も助かる。
とにかく、以上の事を確認して、もう一度連絡して来てくれ」
0143 静:「わかりました。確認が取れ次第、また連絡します。それでは」
0144 静:「・・・色々と確認する事だらけじゃない。なんで前日までに電話して来ないのよ。
本当、今日はついてない日だわ!」
0145 静:「・・・藤原様、大変長らくお待たせ致しました。レストランに確認した所、御用意は可能でございます」
0146 俊:「本当ですか? ありがとうございます!」
0147 静:「それで確認をとりたいのですが・・・まずは、ケーキのサイズが、4号と5号でのご用意が可能となります。
4号が直径12cm、5号が直径15cmとなりますが、どちらが宜しいでしょうか?」
0148 俊:「えっと・・・料金はいくらくらいでしょうか?」
0149 静:「はい、4号が2000円。5号が3000円でございます」
0150 俊:「・・・2000円と3000円か。う~ん、悩みますね。・・・では、4号の大きさでお願いします」
0151 静:「かしこまりました。次に、生クリームのショートケーキと、チョコレートケーキが御用意可能ですが、
どちらが宜しいでしょうか?」
0152 俊:「では、生クリームのショートケーキでお願いします」
0153 静:「かしこまりました。最後にどのような目的のケーキなのか、教えて頂けますでしょうか?」
0154 俊:「え・・・? それはどうしてもですか?」
0155 静:「はい、レストランへの指示書にも必要なので、教えていただきたいのですが?」
0156 俊:「すみません・・・、とりあえずケーキを用意、お願いします
その後の内容については・・・また後で電話します。それでは宜しくお願いします!」
0157 静:「え? お客様! ・・・あっ、切れた。・・・とりあえずレストランに伝えないと・・・。
お疲れ様です。フロント井上です」
0158 啓介:「井上さん、待ってたよ。それで、確認は取れたかな?」
0159 静:「はい。ケーキのサイズは4号で、生クリームのショートケーキでお願いします」
0160 啓介:「わかった。後、どう言う目的でのケーキかは、聞けたかい?」
0161 静:「・・・それはまだです。何か急がれてたらしく、また電話をかけますとだけで・・・」
0162 啓介:「そうか・・・。じゃあその電話があって、確認が取れたら連絡を頼む。
念の為に、目的以外の内容を書いた指示書を、レストランに出しといてくれ。頼んだよ」
0163 静:「わかりました。それでは失礼致します」
0164 浩(M):「まさか、席を外してる間に、こういう事が起きてて、
そして、この藤原様の御宿泊により、ホテル・レジェンドに大変な事が起こるとは・・・
まだ、その時の俺は知る由もなかった・・・」
(フロント 渡辺マネージャーへの内線を終えた静が一人レストランへの指示書を書き始めようとしてる所に浩が戻ってくる。)
0165 浩:「戻りました。・・・あれ? どうしたの? そんな難しそうな顔して?」
0166 静:「おかえりなさい。もう・・・、どうしたの? じゃないわよ。当日になって、面倒そうな予約の指示が増えて・・・、
今、レストランへの指示書を書いてるところよ・・・」
0167 浩:「レストランへの指示書という事は、
ウェルカムフルーツとか、お部屋へのプチフール入れとか?」 (※プチフール:一口サイズの洋菓子)
0168 静:「それならまだ楽だけど・・・。夕食時のケーキのサプライズよ」
0169 浩:「ケーキという事は、何かの記念日って事かな?」
0170 静:「それもわからないのよ。お客様は、また電話すると仰ったけど、
とりあえず渡辺マネージャーから、指示書を頼まれたから、書いてるところよ」
0171 浩:「何の目的かわからないのか・・・。あっ、お客様のお名前は?」
0172 静:「藤原俊様よ」
0173 浩:「わかった。過去に御宿泊されてないか、お名前でPCの顧客検索してみるよ」
0174 静:「お願いするわ」
0175 浩:「う~ん・・・。顧客情報を確認したけど、御宿泊の履歴は無いね。完全な新規のお客様だよ」
0176 静:「なら仕方ないわね。この指示書だけ、とにかく作り終えるわ・・・」
0177 浩:「それにしても・・・、目的を言わないなんて謎だね。そもそも、隠す理由がわからないよ」
0178 静:「それもそうなのよね。一体どんなお客様なのかしら・・・?」
(浩と静が色々と考えてる所に話しを終えた洋子と武が戻ってくる。)
0179 武:「いやあ、すっかりフロントを任せちゃったな。何も問題は無かったか?」
0180 静:「それが・・・、当日になって、ケーキの御予約が入ったので・・・、今、指示書を書いてました」
0181 武:「指示書? どのお客様だ? 見せてくれ」
0182 静:「はい、この御予約の藤原俊様です」
0183 武:「藤原俊様・・・。聞いた事無い名前だな。佐藤マネージャーは聞いた事あるか?」
0184 洋子:「私も初めて聞くお名前だわ。顧客検索で調べてみる?」
0185 浩:「それなら、俺が既に調べました。ですが、過去の履歴は見つかりませんでした」
0186 武:「と言う事は、新規のお客様と言う事だな。御宿泊の部屋のタイプはどうなってる?」
0187 静:「禁煙のツインルームで御予約されてます」
0188 洋子:「阿部サブマネージャー、場合によっては、最上階へのアップグレードも考えておいた方が良いかもしれないわね」
0189 武:「そうだな。念には念をだ。中村君、客室に内線で、最上階の禁煙のツインルームの清掃を急ぐように伝えてくれ」
0190 浩:「わかりました」
(場面が変わり、ホテル・レジェンドへ向かう車内。俊と奈央が話している。だけど何か様子がおかしい。)
0191 奈央:「俊との旅行、楽しみにしてたんだよ! 一体どんなホテルなのかな~?」
0192 俊:「そうだな・・・」
0193 奈央:「ちょっと俊! 今朝から何か変だよ!」
0194 俊:「どうしたんだいきなり大声出して? 奈央、俺は何も変じゃないよ」
0195 奈央:「嘘よ! さっきもサービスエリアで休憩の時も電話とか言ってさ、何か長いこと話してたし・・・」
0196 俊:「それは・・・」
0197 奈央:「それは何よ?」
0198 俊:「そう・・・! 会社からの電話だったんだよ・・・。何か俺に聞かないとわからない事ばかりで、つい長くなった」
0199 奈央:「ふ~ん」
0200 俊:「なあ、せっかくの2人きりの旅行なんだから、楽しもう!」
0201 奈央:「そうね・・・」
0202 俊:「そろそろ次のサービスエリアだな。俺、トイレ休憩したいんだけど、寄って良いか?」
0203 奈央:「・・・うん。お腹も空いたし、寄って行きましょう」
(サービスエリアに着いてほっと一息する奈央。だけど俊は先から何か落ち着きがない。)
0204 奈央:「ねえ? そんなに我慢が出来ないなら、早くトイレに行って来て良いよ」
0205 俊:「あっ、うん・・・。じゃあ悪い。ちょっと行って来る」
0206 奈央:「席とっておくね」
0207 俊:「ありがとう。頼むよ!」
(一方 ホテル・レジェンド フロント チェックインの開始時間まで残り僅かと言う頃にフロントの内線が鳴り洋子が出る)
0208 洋子:「お疲れ様です。フロント佐藤です。はい、本日のお客様より外線ですか?
わかりました。繋いでください。
大変お待たせ致しました。ホテル・レジェンド、フロント佐藤が承ります」
0209 俊:「もしもし、先程ケーキの予約をした、本日から宿泊の藤原ですが・・・」
0210 洋子:「藤原様ですね。お電話お待ちしておりました。先程の担当の井上より、お話は伺っております。
ケーキの御予約の目的なのですが、お話しいただけませんでしょうか?」
0211 俊:「目的なのですが・・・その・・・」
0212 洋子:「はい」
0213 俊:「実は・・・」
(目的を伝えようとしたその時、突如電話が切れた。)
0214 洋子:「もしもし! 藤原様! ・・・一体なんなの?」
0215 武:「藤原様からか?」
0216 洋子:「目的を聞こうとしたのだけど、いきなり電話が切れたわ」
0217 武:「電波が悪かったとか、そう言う事だと思うが、再び電話が来るのを待つしか無いだろうな」
0218 洋子:「いっその事、チェックイン時に聞いてみるのはどうかしら?」
0219 武:「お前な・・・。少しは考えろよ。ケーキを頼むくらいだ。お連れ様には知られずに驚かせたいに決まってるだろう」
0220 洋子:「それはそうだけど・・・。じゃあ、電話がこのまま無くてチェックインの時にも聞けなかったらどうするのよ?
それこそ、レストランから何を言われるかわからないわよ・・・」
0221 武:「その時はその時だ。お客様も、お連れ様がいらっしゃらない間に、フロントに来られるなりして、伝えてくださるだろう」
0222 洋子:「だと良いけど・・・」
0223 武:「さあ、チェックインまで時間がないぞ。昼のミーティングを始めよう!」
(場面は戻ってサービスエリアで休憩してる奈央と俊。俊は奈央の居る席に向かう間、悩んでいる。)
0224 俊(M):「くそ。充電切れなんて・・・。ホテルへの連絡どうすれば・・・。
う~ん、あまり待たせても奈央に怪しまれるし、とりあえず戻るか・・・」
0225 俊:「ただいま。あれ? 奈央どうした?」
0226 奈央:「別に・・・。それにしても、随分と長いトイレだったね」
0227 俊:「参ったよ。また会社から電話かかってきてさ。休みに、何度もかけて来るんじゃ無いって感じだよ」
0228 奈央:「あんまり遅いから、LINE送ったけどそれも見てないの?」
0229 俊:「あっごめん。スマホの充電してなかったから、電池切れちゃってコンビニで充電器買ってたんだ」
0230 奈央:「そうなんだ・・・」
0231 俊:「そんな事より、お腹空いたから何か食べよう」
0232 奈央:「うん。待ちくたびれたし、いっぱい食べるんだから」
0233 俊:「おいおい、ホテルでの夕食もあるんだから程々にな」
0234 奈央:「そんな事言われなくても、わかってますよーだ!」
0235 俊:「全く・・・」
(食事を終えて車に戻る奈央と俊)
0236 奈央:「ふぅ~、お腹いっぱい。もう食べれな~い」
0237 俊:「あれだけ食べたら充分だろ?」
0238 奈央:「お腹も一杯だし、少し疲れたから寝るね。着いたら教えて・・・」
0239 俊:「おい、奈央」
0240 奈央:「(寝息)」
0241 俊:「寝ちゃったか。全く、人の気持ちも知らないで、暢気に寝やがって・・・。
さてと、ホテルへ急ぎますか」
(ホテルに向かう俊。一方、ホテルではチェックインの客が玄関に到着して、浩と静が対応をしている。)
0242 浩:「お待ちしておりました。吉川様。お車は奥の駐車場に御自由にお停め下さいませ。
宜しければ、お先にお連れ様はチェックインの手続きをお願い致します」
0243 浩:「こちらでございます。お荷物をお持ち致します。
吉川様、御到着でございます!」(フロントに向けて)
0244 洋子:「吉川様、お待ちしておりました。どうぞおかけになってください。
それでは、まずこちらの御宿泊カードに、御名前と御住所の御記入をお願い致します。
はい、ありがとうございます。それでは吉川様、禁煙のツインルームにて1泊2食付のプランでお伺いしております。
まず、本日の御夕食ですが1階にございます、レストランAvec toi (アヴェク・トワ)にて、
18時に御予約いただいております。
お時間になりましたら、レストラン入り口にてスタッフにお名前をお伝え下さいませ。
続きまして、明日の御朝食ですが(アヴェク・トワ)にて、7時から9時の間に、ご用意してございます。
ビュッフェとなっておりますのでご自由にお召し上がりくださいませ。
明日のチェックアウトは11時になっております。
その他ご質問等ございましたらお気軽にフロントまでお申し付けくださいませ。
それでは、吉川様。ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」
0245 静:「吉川様、こちらでございます。お部屋までご案内致します」
0246 洋子:「ふぅ~、チェックインも順調ね」
0247 武:「そうだな。問題は藤原様か・・・。レストランへの連絡もあるし困ったな・・・」
0248 浩:「とりあえず、今のところ、チェックインのお客様はいらっしゃっていません」
0249 武:「そうか」
(客室清掃からの電話が鳴る)
0250 洋子:「お疲れ様です。はい、ありがとうございます。 客室清掃からで、最上階の禁煙ツイン清掃完了よ」
0251 武:「部屋は間に合ったな。後はレストランにも念のため確認をとるか。お疲れ様です、フロント阿部です」
0252 啓介:「お疲れ様です。どうですか? その後、藤原様より電話はありましたか?」
0253 武:「いいえ、あれから一度かかってきたのですが、すぐに切れてしまったらしく目的は聞けずじまいです」
0254 啓介:「そうですか・・・」
0255 武:「井上さんが指示書を書いて出したのですが、ケーキの用意はどうなってますか?」
0256 啓介:「それでしたら、準備はもう少しで終わるので夕食の時間には間に合いますよ。
まだどういう目的かわからないのですが、お席は眺めの良い窓側の席で準備を進めてます」
0257 武:「流石は渡辺マネージャーですね。そのまま引き続き、準備をよろしくお願いします」
0258 啓介:「わかりました。それでは」
0259 洋子:「阿部サブマネージャー、ケーキの準備はどう?」
0260 武:「夕食までには間に合うそうだ。席も渡辺マネージャーが、窓際の良い場所を準備してくれている」
0261 洋子:「そう。流石ね」
0262 静:「戻りました。藤原様から連絡はありましたか?」
0263 洋子:「まだよ」
0264 静:「そうですか。そろそろ予定のチェックイン時間ですが・・・」
0265 浩:「あっ、車が1台来ました! 出迎えに行って来ます!」
0266 洋子:「よろしくね」
(ホテル・レジェンド玄関前 俊と奈央が予定通りホテルに到着する。)
0267 浩:「いらっしゃいませ! ようこそホテル・レジェンドへ! 御宿泊のお客様でしょうか?」
0268 俊:「はい、予約した藤原です」
0269 浩:「藤原様、お待ちしておりました。お車ですが奥の駐車場にご自由にお停め下さいませ」
0270 俊:「わかりました」
0271 浩:「それではお待ちしております」
(ホテル・レジェンド奥駐車場 車を停め、奈央を起こす俊)
0272 俊:「おい奈央、ホテルに到着したぞ。起きろよ。早くしないと置いていくぞ」
0273 奈央:「(起こされて)・・・俊。・・・ホテルに着いたの?」
0274 俊:「全く・・・。あれからずっと爆睡だったんだぞ」
0275 奈央:「ごめんね・・・。運転、疲れてない?」
0276 俊:「(背伸びしながら)そうだな・・・。ずっと、運転で疲れたよ~」
0277 奈央:「お疲れ様。ホテルに着いた事だし、のんびりしましょう」
0278 俊:「それもそうだな。とにかくホテルのチェックインに行くぞ」
0279 奈央:「うん、どんなホテルか楽しみだな~」
(ホテル・レジェンド フロント 俊たちの到着を報告しに浩がフロントに戻ってくる)
0280 浩:「藤原様、到着されました! 今、お車を停めに行ってらっしゃいますので、
チェックインの準備お願いします」
0281 洋子:「わかったわ。・・・そうだ! こういうチェックインも勉強になると思うし、井上さんやってみる?」
0282 静:「私がですか?」
0283 洋子:「ケーキの予約を受けたのも井上さんだし、どうかしら?」
0284 静:「ですが・・・」
0285 武:「通常のチェックインは、井上さんに覚えてもらったが、今回の様なケースはまだだ・・・。
佐藤マネージャー、本当に任せて大丈夫か?」
0286 洋子:「大丈夫よ。阿部サブマネージャーも、この子達を信じて、任せてみろって言ったじゃない。
私は、井上さんを信じて任せてみたいのよ。どう? 井上さん、やれるかしら?」
0287 静:「・・・わかりました。そこまで信頼して下さるのでしたら、藤原様のチェックインやらせていただきます」
0288 洋子:「よろしくね」
0289 静:「はい」
0290 浩:「井上さん、本当に大丈夫?」
0291 静:「大丈夫よ。藤原様のフロントへの誘導、よろしくね」
0292 浩:「わかった」
0293 武:「佐藤マネージャーわかってるな? もしもの時は・・・」
0294 洋子:「言われなくてもわかってるわ。その時は、私が井上さんのサポートに回るわよ」
0295 武:「よろしく頼む。さてと、後は待つだけだな」
(ホテル・レジェンド 玄関前 玄関で浩が俊と奈央を出迎える)
0296 浩:「藤原様、お疲れ様でございました。御荷物をお持ち致します」
0297 俊:「ありがとうございます。それじゃあ、この荷物をお願いします」
0298 浩:「かしこまりました。お連れ様のお荷物は、いかが致しましょうか?」
0299 俊:「奈央、荷物はどうする?」
0300 奈央:「う~ん、じゃあお願いします」
0301 浩:「かしこまりました。それでは、フロントまで御案内致します」
(ホテル・レジェンド内 ロビーからフロント 2人を連れて浩がホテルに入ってくる)
0302 奈央:「うわ~! 素敵なホテル!!! 見て見て俊! ロビーから海が見えるよ!」
0303 俊:「本当だな! このホテルを選んで良かったな」
0304 浩:「喜んでいただけて何よりです! 藤原様、御到着されました!」(フロントに向けて)
0305 静:「藤原様、御疲れ様でございました。こちらへおかけ下さいませ」
0306 浩:「どうぞ、藤原様」
0307 俊:「ありがとうございます。・・・どうした? 奈央、座らないのか?」
0308 奈央:「あっ・・・、ごめんね。ちょっと、お手洗いに行って来る」
0309 俊:「そっか。わかった」
0310 奈央:「すみません。お手洗いはどちらに?」
0311 浩:「こちらでございます」
0312 奈央:「はい」
(奈央、浩の案内でお手洗いへ フロントでチェックインの手続きをする俊)
0313 静:「藤原様、チェックインは、このまま進めさせていただいても、宜しいでしょうか?」
0314 俊:「大丈夫です」
0315 静:「かしこまりました。それでは藤原様、こちらの御宿泊カードに御名前、御住所の御記入をお願い致します」
0316 俊:「わかりました」
間
0317 俊:「書き終わりました。これで良いですか?」
0318 静:「はい、ありがとうございます。それでは、御宿泊のプランの確認をさせていただきます。
藤原様の御名前で、本日より禁煙のツインルームにて、1泊2食付のプランにて、御伺いしておりますが、
お間違いないでしょうか?」
0319 俊:「はい、間違いないです」
0320 静:「それでは、まず本日の御夕食ですが、
1階にありますレストランAvec toi (アヴェク・トワ)にて、御予約いただいております。
御時間は、まだ未定とお伺いしておりまして、前半が18時から後半が20時からで、
ご用意出来ますが、いかが致しましょうか?」
0321 俊:「そうですね・・・。ゆっくりしたいので、そうなると、後半の20時からが良いのかな?」
0322 静:「それでしたら、レストランの御予約も混んでおりませんので、20時からの方がゆっくりしていただけるかと思いますよ」
0324 俊:「わかりました。では、20時でお願いします」
0325 静:「かしこまりました。それでは20時で御予約させていただきます。
お時間になりましたら、スタッフにお名前をお伝え下さいませ。
続きまして、明日の御朝食ですが、
同じくAvec toi (アヴェク・トワ)にて7時から9時の間に、ご用意してございます。
ビュッフェとなっておりますので、ご自由にお召し上がりくださいませ」
0326 俊:「はい」
0327 静:「それでは藤原様、レストランに御予約いたしますので、少々お待ちくださいませ」
0328 俊:「わかりました。お願いします」
(フロント奥 静は席を外し、レストランへ内線をかける)
0329 静:「お疲れ様です。フロント井上です。
藤原様が御到着されまして、御夕食の時間が決まりましたので、連絡しました」
0330 啓介:「お疲れ様。それで、御夕食の時間は、前半と後半、どちらになった?」
0331 静:「後半の20時からでお願いします」
0332 啓介:「わかった。それで、ケーキの目的は聞けたか?」
0333 静:「それは、まだです。どうしましょう?」
0334 啓介:「そうだな・・・。チェックインには、藤原様のお連れ様も、一緒に側にいらっしゃるか?」
0335 静:「いえ、お連れ様は今、席を外していらっしゃいます」
0336 啓介:「そうか・・・。聞くなら、チャンスという事か。佐藤マネージャーに代わってもらえるか?」
0337 静:「わかりました。お待ちください。佐藤マネージャー、渡辺マネージャーがお話があるそうです」
0338 洋子:「わかったわ。お疲れ様です。お話とは?」
0339 啓介:「御連れ様が、席を外されていると聞きました。
ケーキの目的を訊くには、今がチャンスだと思うのですが・・・
佐藤マネージャー、訊き出していただけないでしょうか?」
0340 洋子:「そうね。このままだと、レストランも大変だと思うし、何とかしてみるわ」
0341 啓介:「よろしくお願いします。それでは、分かり次第、連絡して下さい。それでは」
0342 洋子:「ふぅ~」
0343 静:「渡辺マネージャーは、何と言ってましたか?」
0344 洋子:「私に、上手く訊き出して欲しいって頼まれたわ」
0345 静:「そうですか。よろしくお願いします」
0346 武:「佐藤マネージャー、くれぐれも慎重にな」
0347 洋子:「任せて。こう言う事は得意なのよ」
0348 武:「またすぐそれか。あまり調子に乗ると・・・」
0349 洋子:「心配いらないわよ。私に任せなさい!」
0350 武:「全く、お前って奴は・・・」
0351 静:「それでは、佐藤マネージャー、よろしくお願いします」
(フロント奥から俊のいるチェックインデスクへ 洋子が俊の接客にあたる)
0352 洋子:「藤原様、大変長らくお待たせ致しました」
0353 俊:「あれ? 先程の方は?」
0354 洋子:「井上の事でしょうか? 申し訳ございません。
藤原様に少し御確認をしたい事がございますので、私が代わらせていただきました。
あのう~、藤原様、本日の御夕食でケーキの御予約を朝方、 新たにお電話にて承り、
まだ目的をお聞かせいただいてないのですが・・・お連れ様との記念日とかでしょうか?」
0355 俊:「・・・えっと」 (俊は奈央がまだ帰って来ないか周りを確認する。)
0356 洋子:「藤原様? いかがなされましたか?」
0357 俊:「いえ。実は・・・今回の宿泊で、彼女にプロポーズをしようと思ってます」 (大丈夫そうなので話し始める。)
0358 洋子:「おめでとうございます!!!」
0359 俊:「はい」
0360 洋子:「それは、素敵な事ですね! それでは、今回のケーキの目的は・・・」
0361 俊:「そうです。プロポーズをして、成功した記念日にと考えて予約したのです」
0362 洋子:「そうでしたか・・・。それで、中々こちらへ言い出しにくかったのですね」
0363 俊:「すみません。ホテルの方々に、御迷惑をおかけ致しまして・・・」
0364 洋子:「迷惑なんてとんでもございません! そのような理由でしたら、私達にも考えがございます!」
0365 俊:「考えですか?」
0366 洋子:「はい。藤原様のプロポーズが成功されますように、私達も全力でサポートさせていただきます!」
0367 俊:「え? 本当ですか!?」
0368 洋子:「勿論でございます! 旅先でのプロポーズなんて素敵じゃありませんか!
私もされてみたいですね! 全力で応援致します!
藤原様、遠慮なさらずに、何なりとお申し付け下さいませ!」
0369 俊:「ありがとうございます!」
(一方その頃 ホテル・レジェンド 手洗い場で思い悩む奈央)
0370 奈央(M):「勢いでここまで来ちゃったけど、俊、本当に・・・私の事、愛してるのかな・・・?
この1ヶ月くらい、何か様子がおかしい時あったし・・・。もしかして・・・、他に好きな子が・・・?
サービスエリアでの様子も、おかしかったし・・・。俊、私どうしたら良いの・・・?
もしかして・・・、この旅行って・・・。別れる前の最後の思い出とかじゃないよね・・・?
恐い・・・。そんな事無いって・・・、何度も何度も自分で言い聞かせて、明るく振舞ってたけど、
もう限界だよ・・・。不安で仕方ないよ・・・。俊・・・」 (今まで我慢してた涙が一気に溢れてくる。)
間
0371 洋子:「お連れ様、戻って来られませんね」
0372 俊:「そう言えばそうですね。ちょっと見て来ます」
0373 洋子:「かしこまりました。それでは、戻ってこられましたら、お部屋まで係がご案内致します」
0374 俊:「はい」
(係の者についていく俊 洋子はフロントカウンターへ移動)
0375 静:「どうでしたか?」
0376 洋子:「ばっちり目的聞けたわよ!
それがね、藤原様の今回のケーキの目的は・・・何と! お連れ様へのプロポーズの為なのよ!」
0377 静、浩、武:「プロポーズ!?」
0378 洋子:「何よ! みんな一斉に! そんなに驚く事なの?」
0379 浩:「プロポーズですよ! 凄い事じゃないですか!
そっか・・・。それで藤原様は、中々目的を言えなかったんだ」
0380 静:「どういう事・・・?」
0381 浩:「どういう事? って、お連れ様に秘密で、サプライズでプロポーズしようと考えてるんだよ」
0382 静:「なるほどね。ロマンチックだけど・・・ホテルでって事は、色々大変なんじゃ・・・」
0383 洋子:「(咳払い)そうなのよ! 藤原様も、旅先でのプロポーズで大変でしょ?
そこで私達の出番よ! おもてなしの心で、藤原様を全力でサポートするのよ!」
0384 浩:「俺達が恋のキューピットをするわけですね! よし、頑張るぞ!」
0385 静:「そう上手く行くのでしょうか? ケーキだけでも、これだけ時間がかかったんですよ。何か、先行き不安です・・・」
0386 武:「俺も、井上君の気持ちはわかる。佐藤マネージャー、本当に大丈夫か?」
0387 洋子:「大丈夫よ! 私達が連携して、藤原様に協力すれば、絶対上手く行くわよ!」
0388 武:「そうだな。不安な部分はあるが・・・、藤原様一世一代の晴れ舞台!
成功するように、ホテルのメンバー全員で頑張ろう!」
0389 静:「わかりました・・・」
0390 浩:「頑張りましょう!」
0391 洋子:「頑張るわよ! じゃあ、藤原様がお連れ様とフロントに戻ってこられたら、お部屋までのご案内を、井上さんよろしくね。
お部屋は、最上階702号室、禁煙スィートよ」
0392 武:「おいおい・・・、部屋は、最上階の禁煙ツインで用意してたんじゃないのか?」
0393 洋子:「何言ってるの! プロポーズなのよ! 部屋のアップグレードぐらいしたって良いじゃない!
こっちに戻る前に、客室清掃にも確認したけど、スィートも前日の使用が無かったから、
清掃は確認済みよ! いつでも、ご案内出来るわ!」
0394 武:「そうか。確認してるのなら、大丈夫だな」
0395 洋子:「そういう事。井上さん、702号室のルームキーよ。ご案内宜しくね。
お部屋のアップグレードは、藤原様が戻ってこられたら、私が説明するわ」
0396 静:「わかりました」
0397 洋子:「さ~て、そうと決まれば、準備準備!」
(一方 館内 女子トイレ前へ俊が奈央の様子を窺いに来る)
0398 俊:「おーい! 奈央! 大丈夫か?」(トイレ内の奈央に向けて)
0399 奈央(M):「あの声は俊? いけない・・・。少し時間を取りすぎちゃった・・・」
0400 俊:「奈央! いないのか?」
0401 奈央:「俊、ごめんなさい。大丈夫よ。もう出るから!」(トイレの外の俊に向けて)
0402 俊:「わかったよ。待ってる」
0403 奈央:「お待たせ」
0404 俊:「時間かかってたが、どうした?」
0405 奈央:「長旅で疲れただけ。早く部屋で、少し休みたいな」
0406 俊:「わかった。フロントに戻るぞ」
0407 奈央:「ええ」
(フロントに戻ってきた俊と奈央を静が見つける)
0408 静:「あっ、佐藤マネージャー。藤原様が、戻って来られました」
0409 洋子:「わかったわ」
0410 俊:「戻りました」
0411 洋子:「お連れ様、大丈夫でしたか?」
0412 俊:「少し、長旅で疲れたみたいです。部屋までの案内をお願いします」
0413 洋子:「かしこまりました。本日のお部屋ですが藤原様、
今回は当ホテルをご利用していただくのが 初めてという事ですので、
お部屋のアップグレードをさせていただきまして、最上階、禁煙のスィートルームをご用意してございます」
0414 俊:「本当ですか? ありがとうございます!」
0415 奈央:「え? 最上階?」
0416 洋子:「最上階ですので、景色も抜群ですよ! ごゆっくり御寛ぎくださいませ!」
0417 奈央:「はい。やったね! 俊!」
0418 俊:「ああ!」
0419 洋子:「それでは、お部屋まで係がご案内致します。井上さん、宜しくね」
0420 静:「藤原様、こちらで御座います」
(俊と奈央を部屋へと案内する静 洋子と武と浩は作業にとりかかる)
0421 洋子:「ふぅ~。中村君、チェックインの入力、宜しくね」
0422 浩:「わかりました。チェックイン、お疲れ様です」
0423 洋子:「さてと、ケーキの目的をレストランに伝えないと・・・」
0424 武:「お疲れ。藤原様のお部屋のアップグレードの反応は、どうだった?」
0425 洋子:「喜ばれてたわよ~!」
0426 武:「お連れ様は、アップグレードを、怪しんでいらっしゃられなかったか?」
0427 洋子:「私を誰だと思ってんのよ! 初めて宿泊していただいたので、
お部屋のアップグレード致しますって、説明したら素直に喜ばれてたわ」
0428 武:「そうか。今の所、順調ってわけだな。それにしても、プロポーズか・・・。
このまま、何事もなく上手く行けば良いのだが・・・」
(静が俊と奈央に702号室の案内をしている)
0429 静:「こちらのお部屋でございます」
0430 奈央:「うわぁ~、素敵!!! 窓も大きいし、ここからの景色も最高!!!
こんな良い部屋に、泊まれるなんて夢みたい! ねっ! 俊!」
0431 俊:「あぁ! これは凄い部屋だ! 良かったな! 奈央!」
0432 静:「喜んでいただけて、私達も嬉しいです。何か御座いましたら、
フロントまで内線でお申し付けくださいませ。それでは失礼致します」
0433 俊:「ありがとうございます! さてと・・・、夕飯まで時間あるな・・・。
ごめん奈央、ちょっと電話とか、用事済ませてくるよ」
0434 奈央:「え~、せっかくなんだし、ホテルの館内とか、一緒に見て回りたかったのに~」
0435 俊:「そうしたい所なんだけどさ・・・。会社の人から、連絡通知来てるから、そのままに出来ないし・・・」
0436 奈央:「うん・・・。わかった。じゃあ、なるべく早く帰って来てね。戻ってきたら一緒に、色々見に行こう」
0437 俊:「わかった、約束だ。じゃあ、少し行ってくる。また後でな」
0438 奈央:(M)「やっぱり様子が変・・・。一体、何を隠しているの・・・?
俊の事、疑いたく無いのに・・・、頭の中ぐちゃぐちゃで、じっとしてられない・・・。
そっと後を追いかけてみよう・・・」
(フロントに戻ってくる静)
0439 静:「戻りました」
0440 洋子:「ご苦労様。藤原様の反応は、どうだった?」
0441 静:「お部屋を見て、とても喜ばれてました」
0442 洋子:「そう。なら、一安心ね。さてと問題は・・・、御夕食の時間ね。藤原様、上手くプロポーズ出来るのかしら・・・」
0443 武:「上手くも何も、そうなるように俺達がいるんだろ。
全力でサポートすると言った以上、藤原様のプロポーズ、何としてもみんなで成功させるぞ!」
0444 浩:「そうですね。一生に一度の晴れ舞台ですし、明日笑顔で、帰っていただけるように頑張ります!」
0445 武:「その意気だ! さてと、佐藤マネージャー、ケーキの内容をレストランの渡辺マネージャーに・・・」
0446 洋子:「あっ!!!」
0447 武:「いきなり大声出してどうした?」
0448 洋子:「ごめん! プロポーズってのは聞いたのだけど、どんなケーキが良いか聞くの忘れた・・」
0449 武:「おいおい・・・、全くお前は・・・」
0450 洋子:「お部屋に内線電話とか・・・?」
0451 武:「お連れ様もいらっしゃるだろう! いつも肝心な所が抜けてるんだから・・・」
0452 洋子:「ごめんなさい・・・」
(俊がフロントにやってくる)
0453 俊:「あのう~。すみません」
0454 洋子:「藤原様、ナイスタイミングでございます!」
0455 俊:「え?」
0456 洋子:「今まさに、ケーキのご詳細について、話し合っておりました」
0457 俊:「ケーキの種類とか、タイミングですよね」
0458 洋子:「そうです。それで・・・」
(啓介がフロントにやってくる)
0459 啓介:「佐藤マネージャー、ケーキの目的を訊いていただけましたか? こちらも、これ以上延ばされますと・・・」
0460 洋子:「渡辺マネージャー、ちょうど良いところに。こちらが話していた藤原様よ」
0461 啓介:「これは失礼致しました。私はレストランのマネージャーで、渡辺と申します」
0462 俊:「藤原です。本日は、よろしくお願いします」
0463 啓介:「はい。それでケーキの目的なのですが・・・」
0464 俊:「佐藤さんにはお話しましたが、実は、今夜の夕食の時に、プロポーズをしようと思ってます。
それで、その時にケーキを出していただけたらと思いまして」
0465 啓介:「そうだったのですね。フロントに尋ねても、目的が分からず、困り果てておりました」
0466 俊:「そうでしたか。御迷惑をおかけして、すみません」
0467 啓介:「いえいえ、とんでもございません!
それで・・・ケーキの大きさは、4号で生クリームのショートケーキと伺っておりますが、
中の果物は、どのような物が宜しいでしょうか?」
0468 俊:「そうですね。奈央は、苺が大好きなので、沢山入れていただけると嬉しいです」
0469 啓介:「かしこまりました。苺でございますね。
後は、ケーキの上のプレートに、何かご希望のメッセージは、ございますでしょうか?」
0470 俊:「プロポーズのメッセージが・・・、良いですよね・・・?
俺、こういうの初めてで・・・。どんな言葉が良いでしょうか?」
0471 啓介:「左様でございますね・・・」
0472 洋子:「う~ん、世界中の誰よりも愛してます! 俺と結婚してくれ! とか、いかがでしょう?」
0473 浩:「一生幸せにします、結婚してくださいとか・・・」
0474 静:「ストレートに伝える方がわかりやすいですし、結婚してくれ 奈央とか?」
0475 武:「それか、絶対俺でよかったと思えるようにするから。結婚しよ! は、いかがでしょう?
う~ん、渡辺マネージャー、何か良い案ありますでしょうか?」
0476 啓介:「そうですね。I promise love of the eternityとか、いかがでしょうか?」
0477 武:「流石、渡辺マネージャーですね。英語でのプロポーズメッセージで、永遠の愛を誓います、とは」
0478 啓介:「ありがとうございます。
さて、藤原様、色々とご提案させていただきましたが、何か、お気に召した言葉はございましたでしょうか?
・・・とは言いましても、こういう言葉は心がこもってこそ。
ですので、藤原様の考えられたお言葉が一番だと思います」
0479 俊:「その通りですね。今から考えるので少し時間をください」
0480 啓介:「かしこまりました」
間
0481 洋子:「さてと、私達は引き続きチェックインの続きよ。
阿部サブマネージャーは私とチェックイン対応、井上さんはアテンド、中村君はお出迎えとロビーの巡回をお願いね」
0482 静:「わかりました」
0483 浩:「さっそく、ロビーの巡回してきます」
(ロビーでなにやらコソコソとしている奈央)
0484 奈央(M):「いけない事とわかってても、見にきちゃった・・・。
ばれないように、サングラスとスカーフしたけど、かえって目立つかな・・・。
ううん・・・そんな事はどうでも良いの・・・。俊はどこ行ったんだろう・・・?
居た・・・! だけど、あれ・・・? ロビーじゃ無くて、フロントの人と何か話してる・・・。
会社の人と電話するって言ってたのに、どうしてフロントに・・・。何話してるんだろう・・・。
まさか! このホテルに他に女の人が泊まっててその人に連絡取ろうとしてるとか・・・?
そんな事あるはずないよね・・・。
俊・・・、何を考えてるの・・・? ・・・俊の気持ちが、わからないよ・・・」
(フロント前ではケーキの相談が進む)
0485 俊:「ケーキのメッセージ考えました。Touch my heartでお願いします」
0486 啓介:「想いを届けたい。でございますか、素敵なお言葉です」
0487 俊:「ケーキが出て、このメッセージを奈央が見たら告白します」
0488 洋子:「なんだか、私まで緊張してきました・・・」
0489 武:「お前が緊張してどうする」
0490 洋子:「だって、仕方ないじゃない。こういう事初めてなんだから」
0491 俊:「俺達の為に、本当にありがとうございます。成功するよう頑張ります!」
0492 洋子:「その意気でございます、藤原様!」
0493 武:「御夕食の御予約まで、まだ時間はございます。お連れ様と、ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」
0494 俊:「はい。それでは、部屋に戻ります」
(部屋に戻る俊)
0495 啓介:「では、こちらも色々と、準備を始めますのでこの辺で」
0496 洋子:「ご苦労様。夕食の時は、渡辺マネージャー、よろしくね」
0497 啓介:「はい。それでは」
(レストランに戻る啓介)
0498 洋子:「プロポーズか~。良いわね。私にも誰かしてくれないかしら?」
0499 武:「その前に、まずは相手を探さないとだな」
0500 洋子:「なによ! その言い方! 私にだって、相手の一人や二人、本気出したらすぐに・・・」
0501 武:「はいはい、そういう事にしときますか」
0502 洋子:「信じてないでしょ?」
0503 武:「どうだろうな。さて、そろそろ次のお客様の御到着時間だ。気持ち切り替えるぞ」
0504 洋子:「言われなくてもわかってるわよ!」
(俊が702号室に戻ってくる)
0505 俊:「ただいま」
0506 奈央:「おかえり・・・」
0507 俊:「なんだ? 元気無いけど、長時間のドライブで疲れたのか?」
0508 奈央:「ううん・・・。あのね・・・」
0509 俊:「どうしたんだよ?」
0510 奈央:「俊・・・私に何か隠してる事とかってない?」
0511 俊:「・・・なんだよ、いきなり? 奈央に隠してる事なんてあるわけないだろう?」
0512 奈央:「本当に・・・?」
0513 俊:「本当だよ・・・」
0514 奈央:「嘘よ・・・」
0515 俊:「どうして・・・」
0516 奈央:「ねぇ・・・会社の人に電話してたんだよね?」
0517 俊:「そうだよ」
0518 奈央:「じゃあ・・・なんでフロントになんて居たの・・・?」
0519 俊:「・・・なんでフロントに居た事、知ってるんだよ?」
0520 奈央:「悪いと思ったけど・・・俊の様子がおかしかったから、そっと後をつけたの・・・。
そしたら、フロントの人と話してる姿を見たんだ・・・」
0521 俊:「・・・」
0522 奈央:「それだけじゃないよ。ここに来るまでの間も・・・俊、様子が可笑しかった・・・」
0523 俊:「それは・・・」
0524 奈央:「今日だけじゃない・・・。ここ数ヵ月、私と会ってる時も、どこか上の空で話聴いてなかったり、
会社からの電話って言っては、私から離れて電話してばかり・・・」
0525 俊:「会社での重要なプロジェクト関係の話だから、そうしたんだよ」
0526 奈央:「そんなの関係ないよ! ねぇ、俊・・・他に好きな人でも出来たの・・・?」
0527 俊:「何を言い出すんだよ」
0528 奈央:「だって・・・私と会ってる時でも、よそ見だったり、疲れたって言っては早く寝たりで
抱きしめてももらってない・・・」
0529 俊:「それは、本当に仕事で疲れてて・・・」
0530 奈央:「ここ数ヵ月の間、一度もキスしたり、抱きしめたりもしてくれなかった・・・!
他に、好きな人が出来たのなら、ちゃんと言って・・・!」
0531 俊:「なんでそんな事言うんだよ・・・!」
0532 奈央:「俊の気持ちがわからない・・・。なんで、こんなに私だけ苦しまないといけないの・・・」
0533 俊:「奈央・・・」
0534 俊:「俺は・・・」
0535 奈央:「私の事、愛してくれてるなら、何でも隠さずに話してよ・・・!」
0536 俊:「・・・」
0537 奈央:「そっか・・・。話せないんだね・・・」
0538 俊:「本当に・・・、俺は・・・、何も隠していないんだ」
0539 奈央:「嘘! じゃあ、なんでそんなに、困った顔してるの!?
隠してるから、そんな顔するんでしょ!?
そんなに私、信用出来ない・・・?
ねえ! 俊・・・答えてよ・・・!」
0540 俊:「俺だって! どうする事も出来ないんだ!
他に、どうすれば良いかわからないし・・・
俺はただっ・・・!
なんで、こんな事になるんだよ・・・!」
0541 奈央:「私達・・・、心がすれ違ってきてるね・・・。
ここ数ヵ月の間、ずっと不安で不安で、たまらなかった・・・!
一緒にいても・・・、二人の間に見えない壁があるみたいで、ひとりぼっちな感じがして怖かった・・・。
俊に・・・この気持ち、わかって欲しかった・・・!
ねぇ・・・。もう・・・、終わりにしようよ・・・」
0542 俊:「え・・・? 何、言い出すんだよ!?」
0543 奈央:「私、もう・・・、わかんない・・・。
一緒にいても不安は募るし・・・、正直辛いよ・・・!
こんな自分が嫌だし・・・こんな姿を俊にも見せたくない・・・!
私達、別れた方が、お互いの為にも良いんだよ・・・」
0544 俊:「俺の事、もう愛してないのか・・・?」
0545 奈央:「・・・」
0546 俊:「俺の事、もっと信じて欲しかった・・・」
0547 奈央:「・・・」
0548 俊:「なんで、そんなに不安ばかりなんだ・・・!?
そんなに俺は、信用の無い人間なのか・・・?
奈央こそ、俺の気持ち・・・ちっとも理解してない・・・!
俺が、どれだけ奈央の為を思って行動してたかわかるか・・・!?
喜んで欲しくて、忙しくても、色々考えて・・・」
0549 奈央:「・・・」(部屋から荷物を持って出て行こうとする)
0550 俊:「何してるんだ?」
0551 奈央:「帰る準備・・・」
0552 俊:「帰るって・・・?」
0553 奈央:「心配しないで・・・。一人で帰れるから・・・」
0554 俊:「おい、落ち着けよ!」(奈央の手を掴む)
0555 奈央:「離して! 近寄らないで!」
0556 俊:「俺は、奈央の事が・・・」
0557 奈央:「いやあああああ!!!」(俊の頬をぶつ)
0558 俊:「・・・奈央」
0559 奈央:「もう・・・何も聞きたくない・・・。
これ以上・・・私を・・・傷つけないで・・・!」(ドアを開けて立ち去る)
0560 俊:「・・・奈央。ごめん・・・」
0561 奈央(M):「なんで・・・こんな事になったの・・・? どこで私達、間違えたのかな・・・?
こんな終わり方、嫌だよ・・・。でもこれ以上、俊の顔見る事出来ないし、側に居られないよ・・・」
間
(フロントではチェックインが終了し一息つく洋子と浩)
0562 洋子:「ふ~、今日のチェックイン、さっきのお客様で最後ね~。あ~、疲れた~」
0563 浩:「洋子さん、お疲れ様です」
0564 洋子:「中村君、此処はフロントよ。洋子さんじゃなくて、佐藤マネージャーって呼びなさい」
0565 浩:「あっ、すみません」
0566 洋子:「全くもう。気を付けなさいよ。・・・阿部サブマネージャーと井上さんが戻ってきたら、休憩行ってきて」
0567 浩:「わかりました」
0568 洋子:「そう言えば、藤原様達はどうなったかしら?」
0569 浩:「お部屋に上がられてからは、お見かけしませんし、ゆっくり過ごされてるんじゃないですか?」
0570 洋子:「それもそうか。あ~あ、ホテルでプロポーズか~。良いわね~」
0571 浩:「佐藤マネージャーも、ホテルでプロポーズとか憧れるのですか?」
0572 洋子:「そりゃあ、私も女だし、憧れたりはするわよ。だけど、働いてしまうと・・・
他のホテルに行った時でも、今頃裏では、フロントやレストランが、サプライズ準備してるんだろうとか、
考えちゃって、雰囲気を味わえないのよね」
0573 浩:「それ、わかる気がします」
0574 洋子:「でしょ? だから、憧れはするけど現実問題、ホテルでのプロポーズや挙式はしないかな」
0575 浩:「そうですね、別の場所ってなりますよね」
0576 洋子:「そうそう」
(奈央が姿を現す)
0577 浩:「あれ? エレベーターから出て来られた方、藤原様のお連れ様じゃないですか?」
0578 洋子:「どれどれ。あっ本当。館内でも、お散歩しに来られたのかしら?」
0579 浩:「どうでしょう。あっ、こちらに来られますよ」
間
0580 洋子:「こんばんわ。近藤様。いかがされましたか?」
0581 奈央:「あの・・・」
0582 洋子:「はい」
0583 奈央:「送迎バスとかは、何時にありますか・・・?」
0584 洋子:「送迎バスでございますか? それでしたら、1時間毎にロビー前から駅まで出ておりますが?」
0585 奈央:「次に乗るので、着いたら教えてもらえますか?」
0586 洋子:「次と仰いますと、18時になりますが・・・。
近藤様、失礼ですが20時から、御夕食の御予約ですがよろしいのですか?」
0587 奈央:「はい。少し、外の空気を吸いたくなったので・・・。夕食までには戻ります」
0588 洋子:「かしこまりました。それではロビーでお待ちくださいませ」
(ロビーへ向かう奈央)
間
0589 浩:「大丈夫ですかね?」
0590 洋子:「多分、大丈夫だとは思うけど、なんか気になるわね。気のせいか近藤様、暗かったし・・・」
0591 浩:「そうですよね」
0592 洋子:「中村君、ごめん。悪いけど、阿部サブマネージャー呼んできて」
0593 浩:「わかりました」
0594 洋子:「なるべく早くね。なんか嫌な予感がするわ」
間
(一人、ロビーで座っている奈央)
0595 奈央(M):「これでよかったのよね・・・。もう・・・、こうするしか・・・。
家に着いたら・・・、俊の連絡先も、何もかも消してしまおう・・・。
綺麗な景色だけど、涙でよく見えないよ・・・」
(武がフロントにやってくる)
0596 浩:「戻りました」
0597 洋子:「おかえり。あっ、阿部サブマネージャー、休憩中にごめんなさい」
0598 武:「何があった? 中村君が大変です! と呼びに来たから、慌てて戻ったが」
0599 洋子:「実は、702号室の藤原様の、お連れの近藤様だけど・・・。なんだか様子がおかしいのよ」
0600 武:「どういう事だ?」
0601 洋子:「それが、つい先程、フロントに来られたかと思うと、
ホテルの送迎のバスの時間を聞かれて、時間になったら教えてくださいと」
0602 武:「普通だと思うんだが、他におかしい事はあったのか?」
0603 洋子:「なんだか、表情も暗いし、それに20時から夕食も予約されてて。
2時間あるので、大丈夫だとは思うのだけど、なんか気になっちゃって・・・」
0604 武:「事情はわかった。今、近藤様はどちらに?」
0605 浩:「えっと、ロビーのソファーに」
0606 武:「わかった。佐藤マネージャーと、中村君は引き続き、フロントに居てくれ。
俺がそれとなく、様子をうかがってくる」
0607 浩:「わかりました」
0608 洋子:「よろしくね」
(ホテル館内一階ロビー、奈央の様子を窺いに来た武)
0609 奈央:「はぁ・・・」
0610 武:「こんばんわ。近藤様、ゆっくりお過ごしになられてますでしょうか?」
0611 奈央:「貴方は確か、フロントの・・・」
0612 武:「サブマネージャーの阿部でございます。近藤様のお姿をお見かけしたので、声をかけさせていただきました」
0613 奈央:「そうでしたか。ここからの景色って、綺麗ですね」
0614 武:「はい、当ホテルの自慢の一つでございます。
日頃の疲れなども、この景色を見る事で、癒されたとおっしゃるお客様も多いですよ」
0615 奈央:「本当・・・、癒されますね」
0616 武:「失礼ですが、先程フロントのスタッフより、バスを待ってらっしゃるとお聞きしたのですが、
何か、お買い物にでも、お出かけでしょうか?」
0617 奈央:「はい・・・。私、こういう豪華なホテルって慣れてないから、なんだか気後れしちゃって・・・。
気晴らしに、外の空気吸ったり、お買い物に行こうかと・・・」
0618 武:「そうでしたか。外は冷え込みますので、くれぐれもお気をつけて。
夕食は、レストランのスタッフ一同、腕によりをかけて準備をしておりますので、
予約の時間までには、お戻りくださいませ」
0619 奈央:「わかりました。夕食・・・、楽しみにしてます」
0620 武:「それでは、バスが到着しましたら、お呼び致しますので、お待ちください」
0621 奈央:「ありがとうございます」
0622 武:「それでは」
(フロントに戻ってくる武)
間
0623 洋子:「どうだった?」
0624 武:「う~ん、佐藤マネージャーの言う通り、確かに暗い感じがしたな。
これから、ショッピングに行かれると言われていたが、そんな感じには見えなかった・・・」
0625 洋子:「そうよね・・・」
(静がフロントに戻ってくる)
0626 静:「只今、戻りました」
0627 浩:「おかえり」
0628 静:「深刻な顔して、何かあったのですか?」
0629 洋子:「それがね・・・」
(俊が慌てた様子でやってくる)
0630 俊:「奈央! 奈央! 俺が悪かった! もう一度、話し合おう!」
0631 洋子:「あれは、藤原様!」
0632 俊:「すみません! 奈央、見ませんでしたか!?」
0633 洋子:「近藤様でしたら、ロビーのソファーに・・・」
0634 俊:「ロビー! ありがとうございます! 奈央~!!!」 (ロビーを確認後、お礼を言って、ロビーに向かう)
0635 静:「藤原様、かなり焦ってましたが、どうかされたんですか?」
0636 武:「う~ん、嫌な予感が当ったかもな」
0637 静:「え?」
0638 武:「詳しい話は後だ。他のお客様のご迷惑にもなる。佐藤マネージャー、行くぞ!」
0639 洋子:「ええ!」
(ホテル館内、一階ロビー、奈央を見つけて必死に話をしようとする俊)
0640 俊:「はぁ、はぁ、はぁ・・・、奈央!!!」
0641 奈央:「・・・俊!」
0642 俊:「奈央、頼むから俺の話を聞いてくれ!」
0643 奈央:「近寄らないで・・・! これ以上・・・何も聞きたくない!!!」
0644 俊:「奈央・・・。じゃあ、俺は一体どうしたら良いんだ!?」
0645 奈央:「そんなのわかんないよ! もう此処には居たくないの!
私は帰る! そして俊とも金輪際会わないし、連絡もしない!!!」
0646 俊:「馬鹿を言うな! 俺の気持ちはどうなる!?」
0647 奈央:「・・・」
0648 俊:「俺は、今でも奈央を愛して・・・」
0649 奈央:「いやあああああああ!」 (絶叫後、倒れる。)
0650 俊:「おい! 奈央! しっかりしろ!」
0651 洋子:「藤原様!」
0652 俊:「佐藤さん。奈央が! 奈央が!?」
0653 洋子:「落ち着いてください! 奈央さんはとりあえず医務室へお連れします。阿部サブマネージャー、お願いします」
0654 武:「わかった。他のお客様へのサポート頼むぞ!」
0655 洋子:「ええ!」
(武が奈央を背負い医務室へ運ぶ)
間
0656 俊:「俺は一体どうしたら・・・」
0657 洋子:「藤原様、落ち着いてください。ゆっくり深呼吸して」
(俊、何度か言われた通り深呼吸して側のソファーに座る。)
間
0658 洋子:「どうです? 落ち着かれましたか?」
0659 俊:「はい、ご迷惑をおかけしました」
0660 洋子:「ご迷惑だなんて、とんでもございません。それより、何があったのですか?」
0661 俊:「俺のせいなんです・・・。奈央が、不安になるような行動ばかり、今思えばしてたんです。
俺が奈央を喜ばせようと考えてた事が、奈央を傷つけてたなんて、思いもしませんでした・・・」
0662 洋子:「藤原様・・・」
0663 俊:「すみませんが、今日のディナーはキャンセルで」
0664 洋子:「え?」
0665 俊:「こんな状態じゃ、プロポーズも出来ませんし、ディナーの意味もないので・・・」
0666 洋子:「・・・わかりました」
0667 俊:「すみません・・・。部屋に戻ります・・・」
0668 洋子:「近藤様の様子を、見に行かれないのですか?」
0669 俊:「今の俺が側に居ても・・・、奈央の負担になるだけですから・・・。
すみませんが、奈央の事、よろしくお願いします」
(部屋に戻る俊)
間
(フロントで洋子が、武と浩と静に状況を説明する)
0670 洋子:「・・・と言う事よ。藤原様から聞いた話は、これで全部」
0671 浩:「・・・」
0672 静:「・・・」
0673 武:「・・・」
0674 洋子:「阿部サブマネージャー、近藤様の様子はどう?」
0675 武:「先生曰く、ショックによる失神だそうだ。倒れた時に、頭打ったりもないようだから、暫く寝ていれば、大丈夫との事だ」
0676 洋子:「そう。まさか・・・、こんな事になるなんて、思いもしなかった・・・」
0677 武:「レストランへの予約キャンセルは伝えたのか?」
0678 洋子:「それが・・・」
0679 武:「どうした?」
0680 洋子:「このまま本当に、夕食をキャンセルして良いのかな・・・?」
0681 武:「それはそうだが・・・」
0682 静:「私、このまま明日、チェックアウトされるなんて嫌です!」
0683 洋子:「井上さん・・・」
0684 静:「だって、こんなのって、悲しいだけじゃないですか!
お互いの気持ちがすれ違って、こんな事になって・・・
このまま帰られても、藤原様と近藤様の心には、悪い思い出として一生残ります!
なんとかして、笑って帰っていただけるように、私達で出来ませんか?」
0685 浩:「俺も、井上さんの意見に賛成です。お二人は、絶対にこのままじゃ幸せになれないですよ!
このまま明日まで何もしないで、待つなんて嫌です! 何か俺達で出来る事、考えましょう!」
0686 武:「中村君・・・」
0687 啓介:「二人共、一人前のホテルマンになってきたな!」
0688 洋子:「渡辺マネージャー! いつの間に!」
0689 啓介:「すみません。用事があって、フロントの裏に来てたので、
全部事情は聴かせてもらいましたよ。この件は、俺に任せてくれませんか?」
0690 武:「何か考えがあるのですか?」
0691 啓介:「はい。井上さんや中村君の言う通り、このまま藤原様と近藤様を明日、帰す事など出来ません。
お帰りいただく時は、やはり笑顔じゃないと!」
0692 武:「佐藤マネージャー、どうする?」
0693 洋子:「渡辺マネージャーを、信じるわ!」
0694 啓介:「ありがとうございます! それでは、いくつか皆さんにやっていただきたい事があるのですが・・・」
間
(ホテル医務室、武が奈央の様子を見にくる)
0695 奈央:「う~ん・・・。ここは・・・?」
0696 武:「気付かれましたか? ここはホテルの医務室です」
0697 奈央:「私・・・ロビーにいて・・・それから・・・」
0698 武:「ロビーで気絶されましたが、頭などは打ってないので、大丈夫との診断です」
0699 奈央:「そうですか。ご迷惑をおかけしました・・・」
0700 武:「とんでもございません。宜しければ、少し外の空気をお吸いになられませんか?
素敵な眺めの場所がございます」
0701 奈央:「はい」
0702 武:「少し風にあたれば、気分もよくなりますよ。・・・起き上がれますか?」
0703 奈央:「はい、大丈夫です」
0704 武:「では、ご案内します」
間
(702号室前、洋子が俊の部屋に行く)
0705 洋子:「(ノック音)藤原様、佐藤でございます!」
0706 俊:「なんの用ですか・・・?」
0707 洋子:「宜しければ、少しお話しませんか?」
0708 俊:「話・・・?」
0709 洋子:「はい。せっかく当ホテルにお泊まりいただいたので、是非とも素晴らしい景色をご覧いただきたいのです」
0710 俊:「景色ですか・・・? でも・・・」
0711 洋子:「部屋に籠りっぱなしだと、気分が落ち込むだけです。外の景色をご覧になれば、気持ちも変わると思いますよ」
0712 俊:「・・・わかりました。用意するので待ってください」
0713 洋子:「此処でお待ちしていますね」
間
0714 俊:「お待たせしました」
0715 洋子:「いえ。それでは、ご案内致しますね」
間
(ホテル、オープンテラス、啓介の指示に従い準備を手伝う浩と静)
0716 浩:「渡辺マネージャー、これは、何処におけば良いですか?」
0717 啓介:「それは、そこのテーブルに頼む」
0718 静:「これは何処に?」
0719 啓介:「それは、ここに飾ってくれ。二人共、時間が無い! 急ぐぞ!」
0720 浩、静:「はい!」
間
0721 啓介:「ふ~、なんとか間に合ったな。二人共、よくやった!」
0722 浩:「はぁ~、疲れた~」
0723 静:「ちょっと中村さん、そんな所で座り込んでないで、こっちこっち」
0724 浩:「え?」
0725 啓介:「どうやらお着きのようだ。ほら、中村君、早くこっちに来て隠れて!」
0726 浩:「あっ、はい!」
間
(奈央を武がオープンテラスまで案内する)
0727 武:「こちらでございます。足元に気を付けてください」
0728 奈央:「はい」
0729 武:「いかがでございますか?」
0730 奈央:「波の音が聴こえて、良い所ですね」
0731 武:「ええ。気に入っていただけましたか?」
0732 奈央:「はい。なんだか心が軽くなりました。
此処は少し暗いですが、このくらいが、今は落ち着きます」
0733 武:「そうですか。ゆっくり景色をご覧ください」
(俊を洋子がオープンテラスまで案内する)
0734 洋子:「こちらです」
0735 俊:「風が気持ちいい所ですね」
0736 洋子:「ええ。私も、お気に入りの場所です」
0737 俊:「そうなんですね」
0738 洋子:「波の音も聴こえますし、嫌な事もここにいると、忘れちゃうんです」
0739 俊:「そうですね。それで、お話と言うのは?」
0740 洋子:「実は・・・」
0741 啓介:「佐藤マネージャーからの合図が来た。二人共、準備は良いか? せ~の!!!」
(うす暗かったオープンテラスに明かりが一斉に灯る。そこには綺麗に飾り付けられた一卓のディナーテーブルがあった。)
0742 俊:「眩しい! なんだ・・・?」
0743 奈央:「眩しい・・・なに・・・?」
0744 俊:「・・・奈央」
0745 奈央:「・・・俊。これって、どういう事・・・?」
0746 洋子:「騙してごめんなさい。どうしても、このまま・・・、お二人を、明日帰す事なんて出来なくて・・・」
0747 俊:「佐藤さん・・・」
0748 奈央:「私・・・、その・・・!」(その場を立ち去ろうとする)
0749 武:「近藤様、お待ちください! どうか、藤原様のお話をお聞きください」
0750 武(M):「俺達が出来るのはここまでだ。後は渡辺マネージャー頼む」
0751 奈央:「でも・・・。私・・・」
0752 啓介:「お話し中の所、失礼致します。藤原様、近藤様。私はレストランのマネージャーの渡辺と申します。
予約時間は過ぎてしまいましたが、フロントより、何もお食事されていないと、お伺いしましたので、
誠に勝手ではございますが、こちらに、お二人の為の特別な、お席とディナーをご用意致しました。
せっかくですので、どうぞこちらへ」
0753 俊:「ありがとうございます。さあ、奈央」
0754 奈央:「俊・・・」
0755 啓介:「どうぞ、おかけくださいませ」
0756 俊:「奈央、座って」
0757 奈央:「うん・・・」
間
0758 啓介:「こちらが本日のメニューでございます。
それでは、まずは前菜、彩り野菜のテリーヌを、お楽しみくださいませ」
(次の料理をとりにレストラン厨房に戻る啓介)
(気まずい雰囲気の中、二人共、料理を食べ始める)
0759 俊:「・・・」
0760 奈央:「・・・」
0761 俊:「・・・その」
0762 奈央:「・・・」
0763 俊:「・・・体調はどうだ・・・?」
0764 奈央:「うん・・・。もう大丈夫・・・」
0765 俊:「そっか・・・」
0766 奈央:「・・・」
0767 俊:「・・・」
間
(オープンテラスの少し離れた物陰から二人を見守るフロントメンバー)
0768 洋子:「会話が続かないわね」
0769 武:「無理も無い。・・・俺達は、今は渡辺マネージャーを信じて、此処から見守るしかない」
0770 浩:「上手くいきますよね?」
0771 武:「俺達が、不安になったりしたら駄目だろう! 信じるんだ!」
0772 浩:「はい!」
0773 静:「奈央さん、辛そう・・・」
0774 洋子:「目を背けちゃ駄目よ。今は信じて、見守り続けるのが私達の仕事よ」
0775 静:「はい」
間
(頃合いを見て啓介が次の料理を、二人の元へ運んでくる)
0776 啓介:「続きまして、ポルチーニ茸(たけ)の、クリームスープで御座います。
空いたお皿は、下げさせていただいて宜しいでしょうか?」
0777 俊:「お願いします」
0778 啓介:「かしこまりました」
0779 奈央:「・・・」
0780 俊:「・・・」
間
(気まずい雰囲気で食事が続く中、啓介は俊にある質問を問いかける)
0781 啓介:「ところで藤原様、近藤様は、当レストランの名前の由来をご存知でしょうか?」
0782 俊:「由来ですか?」
0783 啓介:「ええ」
0784 俊:「いえ」
0785 啓介:「当レストランのAvec toi (アヴェク・トワ)とは、フランス語で「あなたと一緒」と言う意味でございます」
0786 奈央:「あなたと一緒・・・」
0787 啓介:「はい、お二人がこのレストランをお選びくださったのも、何かの縁だと私は思います。
この広い世界で、お二人は巡りあった。それって、とても素敵な事ではありませんか?
せっかくのそんな夜を、悲しい気分で終わらせては勿体ないです。
どうか、藤原様、近藤様、お顔をお上げください。ホテルのスタッフ一同、そう願っております。
そして近藤様。藤原様が当ホテル、当レストランを、どのような気持ちで、お選びくださったかご存知ですか?」
0788 奈央:「いえ・・・」
0789 啓介:「では、藤原様。その気持ちをどうか素直にお伝えください。近藤様は待っていらっしゃいます」
0790 俊:「はい・・・」
0791 啓介:「それでは私はこの辺で。次の料理の頃に、またお伺い致しますので、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
(啓介は再び次の料理をとりにレストランの厨房へ戻る)
(啓介の言葉を受け取り奈央に話を始める俊)
間
0792 俊:「・・・奈央。本当にごめん。俺さ、奈央と、このホテルに一緒に来るのを、凄く楽しみにしてた」
0793 奈央:「うん・・・。私も楽しみだった・・・」
0794 俊:「でも、奈央の為と思って行動してた事が、裏目に出て傷つけてしまった・・・」
0795 奈央:「・・・」
0796 俊:「俺が奈央を好きな気持ちは、今もこれからも変わらない」
0797 奈央:「うん・・・。だったら、私に隠れて何をしてたの・・・?」
0798 俊:「それは・・・」
0799 奈央:「やっぱり言えないんだ・・・」
0800 俊:「ごめん、もう少しだけ俺を信じて、待ってくれないか?」
0801 奈央:「いつまで?」
0802 俊:「それは・・・もう少しだけ。今は、それしか言えないんだ」
0803 奈央:「うん・・・」
(段々と雰囲気が良くなってきてるのを見て次の料理を運んでくる啓介)
0804 啓介:「続きまして、鴨肉のロースト、赤ワインソースでございます。
こちらのフランスパンは、こちらのオリーブオイルをかけて
お召し上がりくださいませ。それでは、失礼致します」
(再び厨房へと戻る啓介)
0805 俊:「美味しいな」
0806 奈央:「うん。でも・・・、少し多いかな・・・」
0807 俊:「無理はするな。俺の皿に少しよこして」
0808 奈央:「うん、ありがとう」
間
0809 俊:「奈央、寒くないか?」
0810 奈央:「大丈夫、平気だよ・・・。俊は、大丈夫・・・?」
0811 俊:「俺は、大丈夫。ほら、これを羽織って」 (着ていたジャケットを奈央にかけてあげる)
0812 奈央:「ありがとう・・・。俊・・・」
間
(重い雰囲気も少しずつ良くなってきて、そろそろ頃合いだと感じたので、啓介はケーキを持ってくる。)
0813 啓介:「お料理の味は、いかがでしたでしょうか?」
0814 俊:「美味しかったです」
0815 奈央:「ええ、とっても」
0816 啓介:「お気に召していただけて何よりです。
それでは最後に、デザートを御用意致します。お飲み物は珈琲と紅茶、どちらが宜しいでしょうか?」
0817 俊:「珈琲で」
0818 奈央:「私も」
0819 啓介:「かしこまりました。それではこちらが本日のデザート、
ホテル特製、苺と生クリームのデコレーションケーキになります」
0820 奈央:「苺が沢山・・・。これって?」
0821 啓介:「はい。こちらは、藤原様より頼まれました、ケーキで御座います。
それでは、失礼致します」
(二人のプロポーズの成功を祈りながら啓介その場を離れる)
0822 奈央:「・・・私の為に?」
0823 俊:「あぁ。そこを見て」
0824 奈央:「これって・・・」
0825 俊:「Touch my heart。俺の想いを届けたい。今、此処で奈央に」
0826 奈央:「俊、それって・・・?」
0827 俊:「随分待たせちゃったり、不安にさせたりしてごめんな・・・。
奈央・・・。俺と、この先も一緒に居てほしい。
ずっと俺は、奈央の事、愛し続ける。・・・結婚しよう。奈央」
間
0828 奈央:「・・・。遅い・・・遅すぎるよ・・・」
0829 俊:「!! 奈央・・・?」
0830 奈央:「・・・こんな私だけど・・・、末永くよろしくお願いします・・・。俊」
0831 俊:「・・・こちらこそ。末永くよろしくな・・・。奈央」
0832 奈央:「・・・うんっ!!!」
間
(二人のプロポーズの成功を確認し喜ぶホテルメンバー)
0833 洋子:「やった~! 大成功よ!」
0834 武:「そうだな! 本当に成功して良かった!」
0835 浩:「俺、感動しました・・・!」
0836 静:「私も・・・!」
0837 啓介:「二人共、良く頑張ったな!」
0838 静:「きゃ! ・・・渡辺マネージャー、いつの間に!?」
0839 啓介:「なんだ? さっきから後ろにいたぞ。気付かなかったのか?」
0840 浩:「いきなり驚きましたよ!」
0841 啓介:「なんだ二人共、俺の気配に気付かないとは、まだまだ半人前だな! ははははは!」
0842 浩、静、:「渡辺マネージャー!!!」
0843 武:「ははははは! 弄るのはその辺で。渡辺マネージャー、本当になんとお礼をいったら良いか」
0844 啓介:「礼には及びませんよ。私はただ、藤原様、近藤様の背中を押しただけです。
上手くいったのは、お互いが自分の気持ちに素直になれたからです。
それと、私達スタッフ一同の想いが、お二人の心に届いたってのもありますね」
0845 武:「そうですね。この仕事は辛い事、大変な事は色々ありますが、
そんな時でもお客様の笑顔で、その疲れも吹っ飛びます。
私達がいて、お客様がいる。一時の出会いになりますが、
またいつかお客様が、このホテルにお帰りになる事を、心よりお待ちする。
それが、何よりの楽しみです」
0846 啓介:「ええ。一人でも多くのお客様が、またこのホテルにお帰りになられるように、
これからもスタッフ一同、頑張りましょう!
さてと、藤原様、近藤様をお見送りしてきますので、私はこの辺で」
0847 武:「わかりました。よろしくお願いします」
(二人の元へと戻る啓介)
0848 洋子:「ねえ、私も挨拶しにいって良いかな?」
0849 武:「駄目だ。今は、お二人のお時間を過ごされているんだから、余計な野暮は必要じゃないからな」
0850 洋子:「それもそうね。明日、挨拶しようっと。さ~て、みんな、まだまだ仕事は残ってるわよ!
早くフロントに戻った! 戻った!」
間
(オープンテラス。入口で二人を見送る啓介)
0851 啓介:「藤原様、近藤様、本日はありがとうございました。
これからの、お二人のお幸せを、心よりお祈りしております。
この後も良い時間をお過ごしくださいませ」
0852 俊:「本当にありがとうございました。行こうか?」
0853 奈央:「うん」
間
(ホテルロビー、一階。良い雰囲気の中話をしている俊と奈央)
0854 奈央:「それで、私に隠れて色々行動してたのって、今日の為だったんだね」
0855 俊:「うん、色々とごめんな」
0856 奈央:「私の方こそごめんね。もう、これからは俊の事、疑ったりしないよ」
0857 俊:「うん、俺も隠し事はやめる」
0858 奈央:「・・・別にいいよ。今日みたいなサプライズなら。
俊が私の為にと思って、考えてくれた事が、凄く嬉しかった」
0859 俊:「奈央・・・。落ち着いたら、指輪、買いに行こうな」
0860 奈央:「うん、他にも色々準備しないとだね!」
0861 俊:「そうだな! さてと、そろそろ部屋に戻るか」
0862 奈央:「うん。・・・あなた」
間
0863 浩(M):「こうして、ハラハラドキドキした一日は無事に終わった。
あの後も、残ってた仕事にフロント一同、てんてこ舞いだったが、
心なしか、いつもより疲れはなかった。そして、翌日の朝・・・」
(フロント前、チェックアウト作業をしている洋子の所へやってきた俊と奈央)
0864 洋子:「藤原様、近藤様、おはようございます! 昨夜はゆっくりお過ごしいただけましたか?」
0865 俊:「ええ。おかげさまで、楽しい時間を過ごせました」
0866 洋子:「それは良かったです! ご朝食はいかがでしたか?」
0867 奈央:「色々な種類があって美味しかったです! 特に、その場で焼いてくれる
ふわふわなオムレツは、帰ったら私も、チャレンジしてみます!」
0868 洋子:「あのオムレツは私も大好きです! あまりに美味しくて、気付いたら3皿、4皿と・・・!」
0869 俊、奈央:「(一緒に笑う)」
0870 武:「藤原様、近藤様、ゆっくりお過ごしになられましたでしょうか?」
0871 奈央:「阿部さん、本当にありがとうございました! なんとお礼を言って良いのか」
0872 武:「そのお気持ちと藤原様、近藤様の笑顔で充分でございます。
チェックアウトが終わりましたら、お車まで、お荷物をお運び致します」
0873 俊:「お願いします」
間
(ホテル玄関、俊と奈央をお見送りしようと勢ぞろいするホテルメンバー)
0874 武:「お荷物は、トランクで宜しいですか?」
0875 俊:「はい」
0876 啓介:「藤原様、近藤様、お気を付けて」
0877 俊:「渡辺さん、本当にありがとうございました!」
0878 奈央:「渡辺さん、そして皆さん、本当にありがとうございました!
私達、幸せになります!」
0879 洋子:「結婚の御報告を楽しみに待ってますね」
0880 奈央:「はい。今度来るときは、もう一人・・・、増えてるかもしれません・・・。 (照れながら)
その時はまた宜しくお願いします」
0881 洋子:「ええ!」
0882 武:「藤原様、近藤様、末永くお幸せに」
0883 啓介:「心から、またのお越しをお待ちしております! お幸せに」
0884 洋子:「藤原様、近藤様、またいつでも、お越しくださいね!」
0885 浩:「藤原様、近藤様、お幸せに!」
0886 静:「これからも、お二人仲良くお過ごしくださいね」
0887 俊:「はい、本当にお世話になりました! じゃあ、奈央、行こうか」
0888 奈央:「うん」
0889 洋子: 「 藤原様、近藤様、またのお帰りを、心よりお待ちしております。
行ってらっしゃいませ!」
0890 武、啓介、浩、静:「行ってらっしゃいませ!」
(笑顔で帰っていく俊と奈央、車が見えなくなるまでホテルメンバーは全員で手を振り続ける)
間
0891 武:「行ってしまわれたな」
0892 洋子:「大変だったけど、上手くいって良かったわね」
0893 武:「ああ」
0894 洋子:「さ~て、まだまだチェックアウトは残ってるわ! 戻るわよ!」
0895 浩:「はい!」
0896 静:「そうですね!」
0897 啓介:「二人共、これからも頑張れよ! 俺に追いつくようにな!
まあ、当分無理だと思うがな! はははは!」
0898 浩:「それは!」
0899 静:「どういう意味ですか!?」
0900 啓介:「やべっ! 逃げろ~!!!」
0901 浩、静:「あっ、こら! 渡辺マネージャー!!! 待てええええ!!!!」
0902 武:「全く、あいつらと来たら・・・」
0903 洋子:「良いじゃない!」
0904 武:「そうだな」
0905 洋子:「さぁ、私達も戻りましょう!」
間
0906 武:「なあ、洋子・・・」
0907 洋子:「何?」
0908 武:「来年、どうやら新しい総支配人が、本社より着任するらしいんだ」
0909 洋子:「何それ? 初耳だけど」
0910 武:「俺も今朝、社長から聞いたんだ。・・・相当なやり手らしい」
0911 洋子:「そうなんだ・・・。じゃあ、その総支配人が来るまでに、
このホテル・レジェンドを、素敵なホテルにしなくちゃ、駄目ね。
中村君と、井上さんにも、今よりもっと成長してもらわなくちゃ・・・」
」
0912 武:「そうなるな・・・。どんな総支配人か、不安だが、このホテル・レジェンドを好きになってくれると良いな」
0913 洋子:「そうね! このホテルの素晴らしさ、色々、伝えるわよ!」
0914 浩:「大変です! 佐藤マネージャー、阿部サブマネージャー!」
0915 洋子:「どうしたのよ? 二人して戻ってきて」
0916 浩:「それが、フロントに、チェックアウトのお客様、一気に来られてて」
0917 静:「私達だけじゃ、無理です・・・。戻ってきてください・・・!」
0918 武:「わかった。すぐに戻る。お客様を待たせては駄目だ。早くフロントに戻るんだ」
0919 浩、静:「はい!」
0920 武:「全く・・・。まだまだ手がかかるが、これからどう成長していくか、楽しみだな!」
0921 洋子:「本当。楽しみで仕方ないわね!」
0922 武:「さあ、フロントに戻るぞ。佐藤マネージャー! お客様が、お待ちかねだ!」
0923 洋子:「ええ! 阿部サブマネージャー!」
終わり
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