Last Checkered flag
作者 ヒラマ コウ
登場人物
オーウェン・ネルソン・・・レース中に、事故にあい、レーサーとしての、
選手生命を断ち切られた元チャンピオン
数々のグランプリーで優勝
テクニックで上り詰めたレーサー
ジェラルドとはハイスクールからのライバル
ジェラルド・スミス・・・オーウェンのライバルレーサー
レースの度に、オーウェンに優勝を奪われ続けていた
テクニックより、熱い走りで、
観客からの人気も高いレーサー
※オンリーONEシナリオ2022、
3月、テーマにしたシナリオで、
テーマは、卒業です
比率【2:0】
上演時間【30分】
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CAST
オーウェン・ネルソン:
ジェラルド・スミス:
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(レースの回想シーン)
ジェラルド:(N)「・・・今でも、俺は忘れない・・・。1年前の、あの出来事を・・・。
その日は・・・、レース日和で晴れていて、とても気持ちの良い風も吹いていた・・・」
間
(サーキット場の見える、小高い丘)
オーウェン:「こんな所に居たのか? ジェラルド・・・」
ジェラルド:「・・・こんなに良い天気なんだ。・・・少しくらい、のんびりさせてくれ・・・。
何の用だ?」
オーウェン:「あ~・・・、用って程では無いんだ・・・。
お前の姿が見えないから、気になって探した・・・。ただ、それだけだ」
ジェラルド:「・・・安心しろ。・・・俺は何処にも、逃げたりしない・・・」
オーウェン:「それなら良いんだ。・・・幾ら勝負とはいえ、俺ばかり優勝してるから・・・、
お前・・・、凹んでるんじゃないかって、心配だったんだ・・・」
ジェラルド:「流石・・・、連続で優勝し続けるチャンピオンは、余裕があるな・・・」
オーウェン:「・・・余裕、あるように見えるか?」
ジェラルド:「あぁ、十分、そう見える・・・」
オーウェン:「(溜息)・・・俺達、いつから、こんな微妙になっちまったんだろうな・・・」
昔は俺達、もっとお互いの事、話したり仲が良かった・・・」
ジェラルド:「今更、ハイスクールの話しても、何も変わらないだろう・・・。
俺達は、大人になったんだ・・・。
いつまでも、思い出に浸っても居られないんだ・・・。
心配しなくても、大丈夫だ。今日のレースは、お前に勝つさ・・・」
オーウェン:「ジェラルド・・・。・・・あのな・・・」
ジェラルド:「もう、話は終わりだ・・・。今は1人で集中したいんだ・・・。」
頼むから、邪魔しないでくれ・・・」
オーウェン:「あぁ・・・、邪魔してすまなかった・・・。・・・それじゃあ、レースでな・・・」
ジェラルド:(N)「オーウェンが、あの時、伝えようとした言葉・・・。
もし、あの瞬間、俺に、心の余裕があったのなら・・・、
・・・オーウェンの抱えていたプレッシャーにも、気付いてあげただろう・・・。
だが、現実はそんなに甘くなかった・・・」
(レース直前、サーキット場)
オーウェン:「いよいよだな・・・。ジェラルド、お前が俺のライバルで、俺は感謝してる・・・」
ジェラルド:「いきなりどうした? レース前に、辛気臭いのはごめんだ・・・」
オーウェン:「何となく伝えたくなっただけだ。・・・安心しろ・・・。お前に負ける気なんて、無いよ」
ジェラルド:「・・・やっぱり今日のお前は変だ。まさか、熱でもあるんじゃないだろうな?」
オーウェン:「心配してくれるのは有難いが、大丈夫だ・・・。
・・・少し、レース前で、感傷的になっただけさ。
お前も、経験あるだろう?」
ジェラルド:「・・・それなら、良いんだ・・・。なぁ・・・、オーウェン」
オーウェン:「何だ?」
ジェラルド:「俺は、お前がライバルで・・・、・・・してる」
オーウェン:「すまない、周りがうるさくて聞こえなかった。もう一度、言ってくれ!」
ジェラルド:「悪いがそろそろ時間だ・・・。・・・じゃあな」
オーウェン:「待てよ・・・! ・・・おいっ・・・! ・・・ジェラルド!」
間
ジェラルド:(N)「レースが始まり、オーウェンはいつも通り、圧倒的なテクニックで首位を独占した。
俺は、自分への不甲斐なさに苛立ちながらも、必死にオーウェンのマシーンを追いかけた。
今まで何度も、この光景を見て来た。悔しくて、悔しくて、必死に何度も、練習を繰り返した。
だが、それでも、俺はオーウェンに勝てないのか・・・!」
オーウェン:「うわあああああああああああ!!!!」
ジェラルド:(N)「一人で考えてた時、オーウェンの叫び声が聞こえた気がした。
・・・嫌な予感がしつつも、コースを走り続けると、次に見えた光景は、壮絶な物だった・・・。
オーウェンのマシーンが、サーキットのフェンスに激突して・・・、大破していたのだ・・・。
オーウェンは、衝撃で、マシーンから投げ出されていた・・・。
・・・すぐに自分のマシーンを停めて、オーウェンの元に駆けつけた・・・」
オーウェン:「うっ・・・、ジェラルド・・・」
ジェラルド:「おいっ! オーウェン・・・! しっかりしろ・・・!」
オーウェン:「お前・・・、何て顔してるんだ・・・」
ジェラルド:「・・・今、救助班が駆け付ける・・・! 大丈夫だ・・・! きっと、助かる・・・!」
オーウェン:「・・・俺のマシーン・・・、見事に、大破してるな・・・」
ジェラルド:「馬鹿野郎・・・! マシーンより、今は、自分の体の心配しろ・・・!」
オーウェン:「体か・・・。・・・なぁ・・・、ジェラルド・・・。変なんだ・・・」
ジェラルド:「どうした!?」
オーウェン:「右足と、左手の感覚が・・・、感じられないんだ・・・。俺の手と・・・、足、どうなってる・・・?」
ジェラルド:「・・・それは・・・。・・・・・・大丈夫だ、必ず治る・・・」
オーウェン:「・・・ジェラルド、・・・お前は、嘘が下手だな・・・。
・・・そんなんじゃ、俺には・・・、勝てない・・・ぜ・・・」(気を失う)
ジェラルド:「おいっ! オーウェン、しっかりするんだ! ・・・目を開けてくれ・・・! オーウェン・・・!!!」
間
ジェラルド:(N)「・・・その時の事故は、大々的にニュースになり、瞬く間に、世間に広がかった・・・。
オーウェンは、現役チャンピオンの地位を失うだけでなく・・・、
事故の後遺症で、プロレーサーとしての選手生命をも失う事になった・・・。
その後、オーウェンは、肉体面も、精神面も弱り・・・、自暴自棄になっていった・・・」
(現在)
(バーで泥酔しているオーウェン)
オーウェン:「おいっ! マスタ~! ウィスキ~、おかわり~!!!」
・・・うるせ~! 俺は、まだ余裕で飲めるんだ!
良いから、早く、おかわり、用意しやがれ!!!
俺を誰だと思ってる! 俺はな~、元チャンピオンレーサーの~、オーウェン・ネルソンだ~!!!
わかったなら、さっさとしろ~!!!」
ジェラルド:「・・・オーウェン・・・、こんな所に居たのか・・・」
オーウェン:「おや~、誰かと思ったら、現役チャンピオンの、ジェラルド・スミスさんではありませんか!?
こんな薄汚れた掃き溜めのバーにまで、ファンサービスしに来るなんて、レーサーの鏡ですね!」
ジェラルド:「お前・・・、幾ら何でも、飲みすぎだ・・・! 良いから、早く、此処を出よう!」(腕を引っ張る)
オーウェン:「うるさい、黙れ! この野郎・・・、離しやがれっ!!!
一体、お前に何の関係がある!!!
これは、俺の体だ! こんな出来損ないの、ボロボロの体・・・!
壊れて動かなくなっても、お前には関係ないだろ!!!」
ジェラルド:「いいや・・・、関係ある・・・。お前の事が心配なんだ・・・。
良いから、俺の言う通りに・・・!」
オーウェン:「俺の事が心配だ・・・!?
・・・おい、ジェラルド・・・、随分と嘘が上手くなったんだな・・・。
この・・・、偽善者野郎が!!! 俺はな・・・、お前が俺を探してる本当の理由、知ってるんだよ!!!」
ジェラルド:「・・・!?」
オーウェン:「その顔・・・、どうやら、図星みたいだな!!!
さぁ、何か懺悔したい事あるなら、今此処で、さっさと白状しちまえよ!!!」
ジェラルド:「すまなかった・・・」
オーウェン:「何がすまなかっただ? それじゃあ、わからねぇよ」
ジェラルド:「・・・俺は、お前が事故した時・・・、これで俺がチャンピオンになれると・・・。
一瞬でも、考えてしまった・・・。
でも、信じてくれ! 今はそう思った自分を恥じてる・・・!」
オーウェン:「へ~、要するに、俺に許して貰いたいってわけか・・・。随分と、自分勝手な言い分だな~」
ジェラルド:「・・・」
オーウェン:「・・・今、俺がこんな風に苦しんでるのは・・・、お前があの時に・・・!」
ジェラルド:「あの時・・・?」
オーウェン:「・・・やっぱやめた。・・・今更、1年前の事、蒸し返しても惨めな気分になるだけだ・・・。
それに、今のお前になんて、話す気にもならね~」
ジェラルド:「俺が、お前に何かしたのか・・・?」
オーウェン:「・・・」
ジェラルド:「謝るから、何があったか教えてくれな・・・!」
オーウェン:「うる・・・、せーよ!!!」(空瓶を投げつける)
ジェラルド:「うわっ、何て事するんだ! 危ないだろ・・・!?」
オーウェン:「怪我したくないなら、さっさと、店、出てけ・・・!
・・・次は、お前の顔面に、空瓶、投げつける・・・」
ジェラルド:「・・・俺は、諦めないからな・・・。また、来る・・・」
オーウェン:「あぁ、そうかよ・・・。・・・偽善者野郎・・・」
ジェラルド:(N)「それからも、俺はオーウェンの通うバーに、何度も足を運んだ。
その度に、空瓶を投げつけられては、店を追い出される日々を繰り返した。
そんな、ある日・・・。オーウェンが、子供に話しかけてる場面に遭遇した・・・」
オーウェン:「・・・よう、坊主。何だ、また泣いてるのか・・・。
相変わらず、学校のイジメっ子から、虐められてるんだな・・・。
・・・そんなお前に、良い事、教えてやる・・・。
今度、思い切って、相手に歯向かってみるんだ!
あぁ・・・、怖いのは、わかってる・・・。
でも、全力で相手が怯むまで、殴るんだ!!!
大事なのは、今の現状を、変えたいと思う気持ちだ!
よし、良い子だ。・・・しっかり、相手のど真ん中にだからな~!
忘れるなよ~! ふ~・・・」
ジェラルド:「・・・相変わらず、弱い者の味方なんだな・・・」
オーウェン:「・・・ジェラルド!? ・・・いつから、見てたんだ?」
ジェラルド:「一部始終、見てたよ。・・・お前は、今も昔も、変わってなくて安心した」
オーウェン:「・・・話はそれだけか? ・・・じゃあな・・・」
ジェラルド:「おいっ、待ってくれ!」
オーウェン:「まだ、用があるのか・・・?」
ジェラルド:「なぁ・・・、少し、話さないか・・・?」
オーウェン:「・・・」
ジェラルド:「お願いだ・・・。頼む・・・!」
オーウェン:「俺は、これから病院の、定期検査だ・・・。付いて来たければ、勝手に付いてこい・・・」
ジェラルド:「ありがとう・・・。オーウェン」
オーウェン:「ふんっ・・・」
間
ジェラルド:(N)「黙ったままのオーウェンと一緒に、タクシーに乗り込み、病院に向かう・・・。
虚ろな表情で、車窓の景色を見続ける姿からは・・・、嘗ての輝いてた、男の姿は消えていた・・・。
病院に着き、タクシーを降りると・・・、長い沈黙を破り、オーウェンが話しかけて来た・・・」
オーウェン:「ジェラルド・・・」
ジェラルド:「何だ・・・?」
オーウェン:「タクシーの中で、見ていて分かっただろう?
あれが、今の俺の姿だ・・・。
もう・・・お前の憧れたオーウェンは、何処にも存在しない・・・。
わかったなら・・・、もう、帰ってくれ・・・」
ジェラルド:「オーウェン・・・」
オーウェン:「予約してる時間に、遅れる・・・。・・・じゃあな・・・」
ジェラルド:(N)「・・・重い足取りで、病院の中に入っていくオーウェンに・・・、
俺は、それ以上、声をかける事が出来なかった・・・」
間
オーウェン:「・・・おい、ジェラルド・・・、・・・ジェラルド・・・」
ジェラルド:「・・・オーウェン、検査は終わったのか・・・?」
オーウェン:「・・・とっくの昔にな。・・・お前こそ、何で帰らなかったんだ?」
ジェラルド:「・・・お前が心配だったからだ・・・」
オーウェン:「その割には、ぐっすり寝てたようだがな」
ジェラルド:「あぁ、すまない・・・。此処、最近、寝れない日々が続いたからな・・・」
オーウェン:「・・・俺のせいか?」
ジェラルド:「お前は悪くない。・・・ただ単に、俺が不器用なだけなんだ・・・。
さて、そろそろ、俺は帰る・・・。
・・・病院まで付いてきて、悪かったな・・・。じゃあ、またな・・・」
オーウェン:「待てよ、ジェラルド・・・!」
ジェラルド:「ん?」
オーウェン:「行きたい場所があるんだ。・・・少し、付き合え・・・」
ジェラルド:「・・・あぁ、わかった」
間
(病院の屋上)
ジェラルド:「・・・行きたい場所ってのが、病院の屋上だとはな・・・」
オーウェン:「・・・文句がある割に、素直に付いて来たじゃないか」
ジェラルド:「・・・それは、まぁ・・・、あれだ・・・。
お前から、行きたい場所あるから、付き合えなんて・・・、久しぶりだから、嬉しかったんだ・・・」
オーウェン:「・・・最初に、俺がグランプリーチャンピオンになる前・・・、以来か・・・」
ジェラルド:「・・・それまで、俺達はライバルだったけど、毎晩、夜遅くまで、騒いだり・・・、
馬鹿な事してたっけ・・・」
オーウェン:「あぁ・・・。・・・お前との腐れ縁は、ハイスクールからだったな。
・・・今だから、言うけどな・・・。・・・最初は、お前の事、大嫌いだったよ・・・!」
ジェラルド:「何だよ、それ!? だいぶ昔とは言え、思い出にヒビ入れるなよ!」
オーウェン:「事実なんだから、仕方ないだろ。
・・・お前の中では、だいぶ美化されてるみたいだから・・・、敢えて言う・・・。
最初、俺に向けて言い放った言葉、あれは、最低最悪だったからな・・・!」
ジェラルド:「待て待て! そこまで酷くは無かっただろう!?」
オーウェン:「いいや! あの態度は、酷過ぎる!」
ジェラルド:「昔の事だろ! 許してくれよ・・・」
オーウェン:「・・・さては、何を言ったか覚えてないな・・・?」
ジェラルド:「・・・」
オーウェン:「・・・忘れてるようだから、言うとだな・・・」
ジェラルド:「成績優秀で、目立ってるのも今の内だ!
俺が、お前をトップから引きずり降ろしてやる!!! だな・・・。
今・・・、思い出したよ・・・」
オーウェン:「(溜息)・・・。・・・今、聞いても、虫唾が走るよ・・・」
ジェラルド:「・・・若気の至りって、怖いな・・・」
オーウェン:「何が、若気の至りだ・・・。今も、お前は変わって無いよ・・・」
ジェラルド:「どこら辺がだよ?」
オーウェン:「周りを巻き込む明るさ・・・。思い立ったら即、行動する部分・・・」
ジェラルド:「あ~、当たってるかも・・・」
オーウェン:「・・・だから、余計に腹が立ったんだ・・・」
ジェラルド:「え・・・?」
オーウェン:「・・・俺が、チャンピオンになった途端・・・、お前が、距離を置いたのがさ・・・」
ジェラルド:「あ・・・」
オーウェン:「正直に、言ってくれ。・・・羨ましかったのか・・・?」
ジェラルド:「あぁ・・・、死ぬ程、羨ましかった・・・」
オーウェン:「・・・何故、俺に言わなかった?」
ジェラルド:「言える訳ないだろう・・・。・・・俺が一方的に、劣等感に苛まれ・・・、嫉妬してたんだから・・・」
オーウェン:「・・・」
ジェラルド:「お前に、一生敵わないって事には、ハイスクール時代から、気付いてた・・・。
・・・お前がチャンピオンになったあの日も・・・。お前が凄く遠くに感じたよ・・・。
俺が、どんなに必死に追いついても・・・! お前は、遙か先に進んで行ってしまう・・・!
側に居続けたら・・・、自分には、お前を超える程の才能が無い事を、認める事になる・・・!
だから・・・、距離を置くのが一番だと気付いて、そうしたんだ・・・」
オーウェン:「・・・お前に、才能が無いなんて間違ってる・・・!」
ジェラルド:「慰めなら、止してくれ・・・。・・・そんな事されても、嬉しくも何とも・・・」
オーウェン:「そうじゃない・・・! ・・・違うんだ・・・」
ジェラルド:「え・・・?」
オーウェン:「・・・俺も、お前の才能に嫉妬していたよ・・・。
テクニックで走るんじゃなく・・・、熱い走りで、観てる観客の心を虜にする・・・。
・・・そんなお前の姿に、俺は、危機を感じてたんだ・・・」
いつも、お前の周りには沢山の人達が居た・・・。
それに対して、俺は・・・、孤高の人で・・・。
だから、友達と呼べる人なんて、一人も居なかった・・・」
ジェラルド:「オーウェン・・・」
オーウェン:「周りの連中は、俺の才能に、憧れはするけど・・・。
遠くから見たり・・・、・・・勝手に嫉妬したり・・・、そんな日常が当たり前だった・・・。
だからあの日、俺の目の前に現れて、俺に言い放った、お前の言葉は・・・、
虫唾が走ったけど・・・、それだけじゃなくて、嬉しくもあったんだ・・・」
ジェラルド:「・・・」
オーウェン:「そんなお前が、側に居たからこそ、俺もチャンピオンになるまで頑張れたんだ・・・。
でも・・・、いざチャンピオンになったら、お前は・・・、俺と距離を置きだした・・・。
そんな日々が続いてく中で、レースに優勝しても、段々と虚しくなって行ったよ・・・」
ジェラルド:「俺のせいで、お前がそんな気持ちで居たなんて、知らなかった・・・」
オーウェン:「知らなくて当然だ。・・・俺も精一杯、お前の前では、強がってたからな・・・。
でも、それが裏目に出てたなんて・・・、情けないよ・・・」
ジェラルド:「・・・オーウェン、一つ訊いて良いか?」
オーウェン:「何だ・・・?」
ジェラルド:「事故が起きたレース直前に、俺に言いかけた事って、何だったんだ・・・?」
オーウェン:「・・・(深い溜息)。
俺はあの時・・・、お前に今回のレースで、引退する事を伝えようとしていた」
ジェラルド:「引退だと・・・?」
オーウェン:「あぁ・・・。それと、もう一つ、お前に訊こうとした・・・。
どうして、俺から距離を置いたのかを・・・」
ジェラルド:「・・・そうだったのか・・・。・・・それなのに、俺は・・・、クソッ・・・!
・・・お前の気持ちも、知ろうとしないで・・・、・・・厄介払いした・・・!」
オーウェン:「・・・正直、あの時のお前の言葉は、きつかったよ・・・。
・・・でも、原因は俺にあるかもと思ったから、その場を立ち去った・・・」
ジェラルド:「それなら、あの事故は、俺のせいで・・・」
オーウェン:「いいや・・・、それは違う・・・。
コーナリング手前で、これから先の事も考えていたら、
減速、ハンドル操作をミスしただけだ・・・。
・・・事故の瞬間・・・、これで、苦しい日々から、開放されると思った・・・」
ジェラルド:「死ぬ覚悟だったのか!?」
オーウェン:「・・・天罰だと思い、受け入れようとしただけさ・・・。
でも残念ながら・・・、生き残って、今はこの有り様だ・・・」
ジェラルド:「俺は、あの時・・・、本当に、心配だったんだ・・・」
でも、お前に体の状態を訊かれた時・・・、これで嫉妬の日々から、開放されるとも思ってしまった・・・」
オーウェン:「その事は、お前の表情で見抜いたよ・・・。
でも、勘違いするな。・・・俺は、それでお前に怒ってたわけじゃない・・・」
ジェラルド:「え・・・?」
オーウェン:「・・・俺が怒ってたのは、事故後の態度だ・・・。・・・お前は、熱い走りを止めてしまった・・・。
・・・何が、素晴らしいチャンピオンの走りだ・・・。・・・誰も、本当のお前の事、わかってないじゃないか・・・。
・・・お前も、お前だ・・・! どうして、あんな走りになってしまったんだ!!!」
ジェラルド:「それは・・・、お前への罪滅ぼしだ・・・。
お前のように、テクニックを磨き・・・、上り詰めて行こうと・・・」
オーウェン:「この、大馬鹿野郎!!!」
ジェラルド:「オーウェン・・・」
オーウェン:「誰が、そんな事、頼んだ!? そんな事されて、本当に俺が喜ぶと思ったのか!?
そうだと思ったなら、大間違いだ!!!
俺は・・・、ファン達を虜にする、お前らしい熱い走りが見たいんだ!!!
・・・俺の真似事なんて、お前らしく無いんだよ!!!」
ジェラルド:「・・・すまなかった・・・」
オーウェン:「謝るくらいなら、態度で示せ」
ジェラルド:「どう意味だ・・・?」
オーウェン:「良いから、付いてこい・・・」
間
(夕方、サーキット場)
ジェラルド:(N)「オーウェンはそう言うと、屋上から玄関に向かい、タクシーに乗り込む。
何処に向かうんだと、訊こうとしたが・・・、とてもそんな雰囲気ではなく・・・、
俺達は、再び沈黙の時間を過ごした・・・。
暫くして、付いた場所は・・・、サーキット場だった・・・。
タクシーから降りて、ピットに着くと、オーウェンが話しかけて来た」
オーウェン:「・・・ジェラルド」
ジェラルド:「何だ? オーウェン」
オーウェン:「少し、此処で待っててくれ」
ジェラルド:「あぁ」
間
オーウェン:「待たせたな・・・」
ジェラルド:「オーウェン、それっ・・・」
オーウェン:「あぁ・・・チェッカーフラグだ・・・。
最終ラップで・・・、最後のコーナーリングを曲がり、ホームストレートに入り・・・。
フィニッシュラインを、先頭で通過する時に振られる勝利の証・・・。
小さい頃・・・、父親に連れられて、サーキット場に行った時に・・・、
初めて、チェッカーフラグを見た時・・・、レーサーに憧れたんだ・・・」
ジェラルド:「・・・」
オーウェン:「それから、必死に努力して、チャンピオンにまで上り詰めた・・・。
だからどうしても・・・、どんなに諦めようとしても・・・、いつまでも、未練が残るんだ・・・。
・・・ジェラルド、頼みがある・・・!」
ジェラルド:「何だ?」
オーウェン:「俺と、勝負してくれないか・・・?
・・・此処から、フィニッシュラインまで、約100m・・・。
本気で、走ってくれ・・・」
ジェラルド:「でも、お前、その足じゃ・・・!?」
オーウェン:「手加減なんてしたら、お前を一生、許さない・・・!
これは、男と男の、真剣勝負なんだ・・・!
ジェラルド・・・、頼む・・・」
ジェラルド:「・・・わかった。・・・その前に、俺も、ケジメ付けさせてくれ・・・。
・・・ふんっ!」(自分の頬、全力で殴る)
オーウェン:「ジェラルド・・・!? お前・・・」
ジェラルド:「止めるな! これは・・・、事故後・・、
心の中で、お前の事、同情していた俺自身に対してだ・・・。
・・・(深い溜息)。・・・待たせたな・・・」
オーウェン:「・・・あぁ。・・・チェッカーフラグは、俺とお前だけだから、
フィニッシュラインに置いておく・・・」
ジェラルド:「・・・それで良い。・・・俺が置いてきて良いか?」
オーウェン:「あぁ、頼む」
オーウェン:(N)「俺から、チェッカーフラグを受け取り・・・、
フィニッシュラインに、向かうジェラルドの背中からは・・・、
俺に対して、同情で接していた頃の、彼の姿は消えて・・・。」
嘗ての・・・、自信に溢れた姿に戻った事に・・・、俺は安堵した・・・」
間
ジェラルド:「待たせたな。・・・準備、オッケーだ」
オーウェン:「ジェラルド・・・、昔の顔に戻ったな・・・。お前は、それでこそ、お前だ・・・」
ジェラルド:「俺達、随分、遠回りしちまったけど・・・、また此処から、やり直そう・・・」
オーウェン:「そうだな・・・。・・・さぁ、始めるぞ・・・」
ジェラルド:「あぁ・・・、いつでも良いぜ」
オーウェン:「・・・、On your mark, get set・・・,・・・ go!!!」
ジェラルド:「・・・!」(勢いよく駆け出す)
オーウェン:「・・・はっ・・・、はっ・・・、はっ・・・、はっ・・・」
ジェラルド:「・・・はっ、はっ、はっ、はっ・・・!」
オーウェン:「・・・はっ・・・、はっ・・・、はっ・・・、はっ・・・!」
ジェラルド:「・・・はっ、はっ、はっ、はっ・・・!!」(更に加速する)
オーウェン:「くそっ! ・・・はっ・・・、はっ・・・、はっ・・・、はっ・・・、・・・っ!!!」(足に痛みが走る)
ジェラルド:「オーウェン!!!? 大丈夫か!!!?」
オーウェン:「馬鹿野郎!!! 振り向くな!!! 前を向いて、走り抜けろ!!!」
ジェラルド:「でも!!!」
オーウェン:「でもじゃない!!! 良いから、走れ!!! ジェラルド!!!」
ジェラルド:「あぁ・・・、わかった!!!!
はっ、はっ、はっ、はっ、はっ・・・!!!!」
オーウェン:「・・・そうだ、そのまま・・・、フィニッシュラインだけ、目指して・・・、突き進め・・・」
ジェラルド:「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ!!!」
オーウェン:「それで良い。・・・これで、俺も・・・、やっと・・・」
ジェラルド:「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ・・・・、ゴール・・・!!!!」
オーウェン:「・・・やったな・・・。ジェラルド・・・。
・・・よしっ、俺も・・・。
はっ・・・、はっ・・・、はっ・・・くっ・・・、はっ、はっ、はっ・・・はっ・・・」(必死にフィニッシュラインに向かう)
ジェラルド:「オーウェン・・・」
オーウェン:「はっ・・・、はっ・・・、・・・はっ・・・、・・・はぁ~、はぁ~・・・!
今の俺は・・・、こんな距離も・・・、満足に走り抜けれないのか・・・。・・・くっ・・・」
オーウェン:(N)「思うように動かない、不自由な体に負けそうになった、その時だった・・・」
ジェラルド:「・・・負けるな!!! オーウェン!!! 後、半分だ・・・!!!」
オーウェン:(N)「・・・フィニッシュラインから、ジェラルドの声援が聴こえた・・・」
ジェラルド:「何、諦めようとしてるんだ!!! お前の本気を、俺に見せてくれ!!!」
オーウェン:(N)「その声援に、勇気をもらい、一歩ずつ、足を進める・・・」
ジェラルド:「その調子だ!!! 後、20m!!!」
オーウェン:(N)「全身が痛くて・・・、今にも倒れそうだった・・・。
でも、俺は、・・・友人の声を目指して・・・、突き進んだ・・・」
オーウェン:「はっ・・・、はっ・・・、はっ・・・、はっ・・・、っ・・・」
ジェラルド:「・・・もう少しだ!!! ・・・オーウェン、ラストパート!!!!」
オーウェン:「・・・はっ・・・、はっ・・・はっ・・・、あああああああああああああ!!!!」(フィニッシュラインで、雄たけびをあげる)
ジェラルド:「ゴ~ル!!!!!!」(チェッカーフラグを手に持ち、激しく振る)
オーウェン:「はぁ~、はぁ~、はぁ~、はぁ~・・・!!!」
ジェラルド:「オーウェン、よく、頑張った・・・!!!」
オーウェン:「・・・ジェラルド・・・。
・・・これで、ようやく・・・、俺も、ケリが付いた・・・。・・・ありがとう・・・」
ジェラルド:「あぁ・・・」
間
ジェラルド:(N)「そう言い残し、息を整えると・・・、オーウェンは、その場を後にした・・・。
・・・それを最後に、オーウェンは、俺の前から、姿を消したのだ・・・。
数年経った今でも、あの時の、ケリと言う言葉が引っかかる・・・。オーウェンは、一体、何処に・・・」
間
ジェラルド:「・・・こうして居られない・・・。・・・そろそろ、本番の時間だ・・・」
ジェラルド:(N)「サーキット場の、ピットで、レースの準備をしていると・・・、
監督から、呼び出され・・・、新しいオーナーを紹介された・・・。
紹介されたオーナーの顔を見て、俺は・・・、思わず涙が零れた・・・」
間
オーウェン:「久しぶりだな。ジェラルド・・・」
ジェラルド:「・・・この数年間・・・、何処に、行ってたんだ・・・」
オーウェン:「あぁ・・・。話すと長くなるけど・・・、世界中を、回っていたよ・・・」
ジェラルド:「何だと・・・!? ・・・あの後、俺が、どれだけ心配したか・・・。
それなのに、お前は・・・!」
オーウェン:「すまない・・・。一人になって、考えたかったんだ・・・。これからの事とか・・・」
ジェラルド:「これからの事・・・?」
オーウェン:「・・・本当、言うと・・・、何処か見知らぬ国で、飛び降りて、死のうとも考えた・・・」
ジェラルド:「オーウェン! お前・・・!?」
オーウェン:「そうしようと思った時に、お前の、あの時の声援が浮かんだんだ・・・。
だから、思い直す事が出来た・・・。感謝するよ・・・、ジェラルド」
ジェラルド:「・・・馬鹿野郎。何が感謝だ・・・。・・・二度とそんな気なんて、起こさせないからな・・・!」
オーウェン:「・・・心配するな。・・・もう、心を入れ替えたさ・・・。
だから、こうして今・・・、お前の目の前に、現れたんだ・・・。
残念ながら、レーサとしては、卒業する事になったけど・・・、
これからは、ライバルとしてではなく・・・、同じチームとして宜しくな! ジェラルド!」
ジェラルド:「あぁ!!! 望む所だ!!!」
オーウェン:「それじゃあ、早速で悪いが・・・、今日のレース・・・、何が何でも優勝してくれ・・・。
オーナーになったからには・・・、一切、容赦するつもりは無いからな! 覚悟しておけよ!」
ジェラルド:「おいおい、誰に、物を言ってるんだ! 心配は要らないさ。
熱い走りで、優勝して、此処に居る観客、全員を虜にしてやるよ!!!」
オーウェン:「・・・頼もしい限りだ・・・。・・・じゃあ、頼む・・・。
おい・・・、ジェラルド・・・!」
ジェラルド:「何だ? オーウェン・・・!」
オーウェン:「あの時の、掛け声は、まだ、覚えているか?」
ジェラルド:「あぁ、勿論・・・!」
オーウェン:「それじゃあ・・・、行ってこい、ジェラルド。
・・・、On your mark, get set・・・!」
ジェラルド:「・・・ go!!!」
END
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※この台本は、オンリーONEシナリオ2022の企画で、
3月、テーマにしたシナリオです
オンリーONEシナリオ2022への参加は、
Twitter、イベントアカウント、【@only2022one】、
確認後、リプもしくは、DMにて、受け付けておりますので、
お気軽に、御参加くださいませ
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