Clumsy
作者 片摩 廣
登場人物
星野 美咲(ほしの みさき)・・・10月20日、天秤座
愛はやがて色褪せると、心の中にある天秤で測りにかけて、
そんな事を繰り返す内に・・・、人を、本当に愛する事を諦め始めていた
蒼井 零(あおい れい)・・・9月20日、おとめ座
レンタル彼氏、Libra(リーブラ)で、キャストとして働いて生活している
比率:【1:1】
上演時間:【約40分~50分】
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CAST
星野 美咲:
蒼井 零:
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星野:「もしもし・・・。・・・いつものコースで・・・。はい、お願いします・・・」
星野(N):「真実の愛なんて、私には必要ない・・・。・・・だって、愛はやがて色褪せるものだから・・・」
(タイトルコール)
蒼井:「Clumsy(クラムジー)」
間
蒼井:「・・・美咲さん、時間です・・・。起きてください・・・」
星野:「もう、そんな時間なの・・・。余りに心地良くて、眠ってたみたい・・・。それじゃあ、待って。今、持ってくる・・・。
・・・はい、これいつもの分・・・」
蒼井:「確かに・・・。2時間コース、御利用、ありがとうございました」
星野:「ねぇ、良い加減、その敬語、止めてくれないかしら・・・?」
蒼井:「美咲さん・・・」
星野:「何?」
蒼井:「・・・これ以上の時間、希望するなら、延長になるけど・・・、良いの?」
星野:「ええ、勿論よ・・・」
間
蒼井:「今週も、美咲さんと出会えて嬉しかった。・・・それじゃあ、次回の指名、お待ちしてます」
星野(N):「偽りの笑顔を張り付け、そう私に言い終わると、彼は家から早々と出ていく・・・。
彼を知ったのは・・・、一つの広告からだった・・・。
初めは興味なんて無かった・・・。そもそも、お金を払ってまで、男と時間を共にする・・・。
そんなの・・・、時間の無駄でしかないと、思っていた・・・。
彼・・・、蒼井 零と出会うまでは・・・」
星野:「もしもし・・・」
蒼井:「お電話ありがとうございます。レンタル彼氏、Libra(リーブラ)です」
星野(N):「彼の声を聴いた瞬間・・・、何とも言えない心地良さに包まれた・・・」
蒼井:「御客様・・・、当店を利用するのは初めてでしょうか?」
星野:「ええ・・・」
蒼井:「初めての御利用、ありがとうございます。・・・ホームページを見て電話されたのですか?」
星野:「もしかして・・・、ホームページから直接、申し込まないと駄目だった?」
蒼井:「いいえ、電話での予約も受けていますよ。・・・気に入ったスタッフの名前を仰って・・・」
星野:「貴方が良いわ」
蒼井:「え? ・・・・・・俺を御指名ですか・・・?」
星野(N):「一瞬、戸惑ったのだろうか・・・。暫しの沈黙の後に、彼はそう返答した」
星野:「・・・ごめんなさい。・・・もしかして、電話応対のバイトの方だった・・・?」
蒼井:「・・・いいえ、此処のスタッフです。・・・余りにも衝撃的だったので・・・、つい聞き返してしまいました・・・。
御指名、ありがとうございます・・・」
間
星野:「ねぇ・・・、零・・・」
蒼井:「・・・何ですか? 今日も延長なら・・・」
星野:「そうじゃない・・・。どうして、レンタル彼氏で、働いてるか気になったの。
もし、お金に困ってるのなら、私が援助して・・・!」
蒼井:「・・・美咲さん。これだけは伝えておきます。・・・俺は、女性に養われて、一緒に暮らす迄の気持ちは無いです」
星野:「そうなんだ・・・」
蒼井:「がっかりさせて、すみません・・・。もし気に障ったのなら、他のスタッフにチェンジも・・・」
星野:「駄目よ・・・。・・・私は、貴方だから、指名を続けてるの・・・。余計な事を聞いて、ごめんなさい・・・」
蒼井:「・・・構わないですよ。・・・でも、そんなに俺の事、気にしてくれて嬉しかったです・・・。
今まで、そんな経験した事、無かったから・・・」
星野:「貴方の容姿ばかり気に入るお客が多かったのね・・・」
蒼井:「そうですね・・・。俺にはそれしか取り柄が無いですから・・・」
星野:「謙遜しないでよ・・・。貴方は気付いてないと思うけど、その容姿なら、お店でNO.1も目指せるのに勿体ないわよ」
・・・よし、私が零を育てる・・・。推し活する・・・!」
蒼井:「まるで育成ゲームのキャラクターになった気分です。
・・・俺なんか、煌びやかなメインキャラクターの陰に居るモブ1とか2だと思いますが・・・」
星野:「そんな事ないってば・・・! 零みたいなキャラクターが居たら、毎月100万は課金しちゃう!」
蒼井:「えええええ・・・。そんなにですか・・・!?
・・・前から思ってたのですけど、美咲さんって、お金持ちなんですか・・・?
此処も都内のタワーマンに該当するし・・・、部屋の内装も・・・」
星野:「お金はね・・・、同世代の中では、稼いでる方だと思う・・・。
・・・でも、それだけよ・・・。それ以外は、私も取り柄も無いの・・・」
蒼井:「美咲さんこそ、謙遜しないでくださいよ。・・・俺には憧れても、届かない夢のような暮らしです・・・」
星野:「私、零の住んでる場所も興味あるんだけどな~」
蒼井:「・・・何の変哲もない7階建ての1Kのマンションですよ。
美咲さんの部屋の20階からの景色と比べたら・・・、ちっぽけです」
星野:「1Kのマンション・・・。・・・初めて東京に越してきた時は、私も、それくらいの部屋だった・・・。
・・・初めて見た新宿の光景は・・・、今も忘れないわ・・・。
周りの人達は・・・、何かに追われてるかのように、速足で次々と通り過ぎていって・・・。
私も、浮かないように、必死に速足で新宿の街を駆け回った・・・。
慣れないヒールのせいか、翌日には筋肉痛になったりもしたな~・・・」
蒼井:「美咲さんにも、そんな過去があったんですね・・・。・・・何だか親近感が湧きました。
・・・俺も、初めて高速バスで、池袋の街に辿り着いた時は・・・、
今日から俺も都民の仲間なんだと、高揚感に包まれたりして・・・。
・・・でも、待っていたのは・・・、厳しい現実でした・・・」
星野:「もしかして、思ってた以上に、お金がかかるとか・・・?」
蒼井:「そうなんです・・・! 新生活を始めるのには、こんなにお金がかかるのかと・・・、打ちのめされました・・・」
星野:「そうなのよね~。・・・私も、家具、揃えるのに・・・、苦労した・・・。
・・・私・・・、海外の家具に憧れていてね・・・。
・・・初めてのボーナスで、部屋の家具、全て揃える気で、勢いよくお店に入ったのだけど・・・、
値段の高さに驚いて・・・。その・・・」
蒼井:「え? 話の続き、気になります」
星野:「・・・何、聴いても笑わない?」
蒼井:「多分、大丈夫です・・・」
星野:「じゃあ続きね・・・。・・・値段の高さに驚いて・・・、当初、考えていた家具コーナーを通り過ぎて・・・、
その近くにセールで売ってた、少しお洒落なゴミ箱、買って帰ったの・・・」
蒼井:「ははは・・・」
星野:「ほら、やっぱり笑うじゃない・・・」
蒼井:「すみません・・・。今の自身に満ちてる美咲さんからは、想像が出来なくて・・・。何だか、可愛いですね」
星野:「あ~、恥ずかしかった・・・。・・・ねぇ、私だけ恥ずかしいエピソード、話すなんて・・・、何だか理不尽・・・」
蒼井:「え~、自分から、話したんじゃないですか・・・」
星野:「それでもなの! ・・・零の恥ずかしいエピソードも、聞きたいな・・・」
蒼井:「・・・あっ、もう時間です・・・。俺のエピソードは、また次回に・・・」
星野:「延長する・・・。何なら、泊りコースで!」
蒼井:「ちょっと、そこまでして、俺の恥ずかしいエピソード、聞きたいんですか!?」
星野:「ええ、そうよ。話すまで、帰らせないんだから!」
蒼井:「もう、美咲さんってば・・・強引だな~・・・」
星野(N):「少し困りながらも、笑って答える彼の姿に・・・、私は・・・、いつも以上に心を許していた・・・」
間
星野(N):「・・・彼に出会って、半年が過ぎたある日・・・」
蒼井:「美咲さん・・・、今日も御指名、ありがとうございます」
星野:「・・・今週も忙しかったけど、零と週末に会えると思うだけで、乗り切れた」
蒼井:「今週も、仕事、お疲れ様です。・・・今日は、そんな頑張った美咲さんに、俺からプレゼントがあります・・・」
星野:「え・・・? 本当に!? ・・・零から、プレゼント、貰うなんて初めて・・・。ごめん、ちょっと待って・・・!」
蒼井:「え? どうかしたんですか?」
星野:「良いから、ちょっと待って・・・」
蒼井:「もしかして、お腹、痛いんですか? 美咲さん・・・」
星野:「やだ! 近寄らないで・・・! そうじゃないの・・・」
蒼井:「それじゃあ、どうして?」
星野:「こんなにやけた顔、零には、見られたくないの!! ・・・あっ・・・」
蒼井:「ふふふ・・・、俺からのプレゼント、そんなに嬉しかったんですか?」
星野:「うん・・・」
蒼井:「そうですか・・・。それなら、もっとにやけた顔、俺に見せてください」
星野:「え・・・!?」
蒼井:「俺に、美咲の可愛く照れてる顔、いっぱい見せて」
星野:「もう・・・、こんなタイミングで、敬語じゃ無くなるの、ズルい・・・」
蒼井:「だって、美咲は、敬語、嫌なんだよね・・・? ほらっ、こっち向いて・・・」
星野:「・・・零の女たらし・・・! いや、これはもう天然のたらしよ。この天然たらし!」
蒼井:「美咲さんが、喜んでくれるなら、たらしと呼ばれても、光栄です」
星野:「馬鹿・・・」
間
蒼井:「話、脱線しちゃいましたね・・・。改めまして・・・、はい、これを受け取ってください」
星野:「これって、お店の会員カード・・・。でも私、カードなら持ってる・・・」
蒼井:「よく見てください。・・・そのカードは、プラチナ会員に特別に渡している専用カードです」
星野:「プラチナ・・・。・・・え? それじゃあ・・・」
蒼井:「ええ、美咲さんがLibra(リーブラ)を利用されて、一定の金額を突破したので、その記念です」
星野:「そうなんだ・・・。・・・もう、そんなにお金、見継いだのか・・・。へぇ~・・・」
蒼井:「もしかして、嬉しくないですか・・・?」
星野:「ううん! そんな事、無いよ・・・。凄く嬉しい・・・」
星野(N):「私は嘘を付いた・・・。本当は、もっと特別な物を期待していた・・・。
だって、推しからの初めてのプレゼント・・・。期待しない方が、どうかしてる・・・。
でも・・・、私は、ふと我に返った・・・。
そうだ・・・。・・・幾ら推しとはいえ・・・、所詮はキャストと御客の関係・・・。
・・・それ以上を望むなんて・・・、愚かな事・・・」
蒼井:「それと、これは俺、個人から美咲さんに、記念のプレゼントです」
星野:「え・・・? 嘘・・・」
蒼井:「・・・そんなに高価な物は用意出来ませんでしたが、・・・俺からの感謝の気持ちです。受け取って貰えますか?」
星野:「ええ、勿論よ・・・。・・・ありがとう・・・、零・・・。私・・・、私・・・、ごめんなさい・・・」(涙が溢れる)
蒼井:「え? どうしたんですか!? 美咲さん、泣かないでください・・・」
間
星野(N):「私は・・・、東京に来て、沢山の出会い、別れを経験した・・・。
自分では、初めて東京に来た頃から、何も変わらないと信じていた・・・。
いいえ、そうじゃない・・・、変わらないと信じてると自ら暗示をかけて・・・、
厳しい東京の生活を一人耐えて・・、耐え抜いて・・・。
・・・その度に、心は卑屈に、人を信じる気持ちを無くしている事に・・・、
・・・零の優しさに触れて・・・、初めて気付いたのだ・・・」
蒼井:「・・・美咲さん、落ち着きましたか・・・?」
星野:「心配かけてごめんなさい・・・。もう平気よ・・・。・・・綺麗な薔薇をありがとう・・・、零・・・」
蒼井:「喜んで貰えて、俺も嬉しいです。・・・美咲さん、実はもう一つプレゼントがありまして」
星野:「え?」
蒼井:「・・・美咲さんの願い、何か一つ、言ってください」
星野:「私の願いを・・・? ・・・どんな事でも良いの?」
蒼井:「ええ、俺が叶えてあげられる願いなら」
星野:「・・・それじゃあ、私ね・・・、零と一緒に行きたい所があるの・・・」
蒼井:「何処ですか?」
星野:「それはね・・・」
間
蒼井(N):「それから数日後・・・。美咲さんの願いを、叶えに行く日が来た・・・。
・・・待ち合わせの場所、新宿駅南口で待っている間・・・、俺は色々な事を考えていた・・・。
美咲さんは・・・、今まで出会った御客の中でも、何かが違う・・・。
漠然とした感覚でしかないけど・・・、・・・美咲さんの事を考えると・・・、俺は・・・」
星野:「零、お待たせ・・・。ごめんね・・・。少し待たせちゃった?」
蒼井:「ううん・・・、10分前に着いた所なので、大丈夫ですよ。それで、何処に行くんですか?」
星野:「それは着いてからのお楽しみ。・・・さぁ早く、車に乗って」
蒼井:「はい」
間
蒼井(N):「美咲さんの車に乗り込んで、新宿を後にして・・・、車は高速道路に入った・・・。
・・・その間、俺と美咲さんは、お互い話す事もなく・・・、
車内には、美咲さんの選んだ音楽と、走行するタイヤの音が響いていた・・・。
何か、話しかけなければと思えば、思う程・・・、何故だか、声が出なかった・・・。
そんな初めての心境に、戸惑っていると・・・、・・・美咲さんが、長い沈黙を破って話しかけてくれた・・・」
星野:「ねぇ、零・・・。もしかして、緊張してる・・・?」
蒼井:「・・・やっぱり、バレてましたか?」
星野:「あっははは・・・。そうだと思った・・・。
車に乗ってからの零、外の景色を見るばかりで・・・、私の事、全然、見てくれないんだもん・・・。バレバレよ」
蒼井:「そうですよね・・・。ははは・・・」
星野:「・・・無理も無いわよね・・・。いつもの私の部屋とも違うし・・・、緊張しない方が可笑しいわよ・・・。
実は言うとね・・・。私も新宿、出てから緊張してたの・・・。
車内で流す音楽のチョイスは、これで良かったかな~とか・・・。
運転に慣れてる姿、見せるのも・・・、もしかして、男のプライド、傷付けちゃうかな~とか・・・、色々・・・」
蒼井:「大丈夫です。俺は運転免許、持ってないので、むしろ、運転してる姿、格好良いと、思ってました・・・」
星野:「ふふふ・・・、ありがとう・・・。零は、本当、優しいわね。・・・私が付き合った男の中だと・・・、
女の癖して・・・、運転が上手いとかあり得ないだろうとか・・・、色々、悪態を吐かれたものよ・・・。
その度に、こいつより、将来偉くなって、見返してやると心の中で強く思ってた」
蒼井:「その出会いの数々が、今の自身に満ち溢れてる美咲さんの原動力になったのでしょうね」
星野:「零、良い事、言うじゃない。・・・その通りよ。そんな駄メンズと出会ったおかげで、今の私があるの。
そう思ったら、そんな出会いにも、感謝しないと行けないわね」
蒼井:「ですね。・・・所で、良い加減、何処に行くのか、教えてくださいよ」
星野:「駄目よ。サプライズなんだから、もう少し我慢して」
蒼井:「は~い」
蒼井(N):「・・・俺に話しかけてる間も・・・、表情を次々と変える美咲さんを見てると・・・、不思議と心地良かった・・・。
あれだけ緊張して、何を話しかけようか迷ってたのが、嘘だと思うくらい・・・、
目的地に到着する迄の間・・・、俺は美咲さんと沢山、会話を楽しんだ・・・。
そして・・・辺りは、日も暮れ始めた頃・・・」
星野:「・・・お疲れ。・・・目的地に到着よ」
蒼井:「美咲さん、長時間の運転、お疲れ様です。・・・疲れてませんか?」
星野:「これくらい平気よ。それよりも、此処からは、別の乗り物に乗るわよ・・・」
蒼井:「別の乗り物?」
星野:「ええ、ゴンドラよ。・・・早く行きましょう! ほらっ、早く!」
蒼井(N):「そう言い終わると、美咲さんは、俺の手を掴んだ・・・。そして、まるで子供のようにはしゃぎながら、
ゴンドラ乗り場に向かった・・・。いつもの大人の雰囲気ではない姿に・・・、胸がドキッとした・・・」
星野:「うわ~・・・、高~い・・・。・・・でも、夕焼けが綺麗・・・」
蒼井:「美咲さん、何だか楽しそうですね」
星野:「そりゃあ、大好きな推しと、遠くまで来て、一緒にゴンドラ、乗ってるんだもの・・・。
・・・楽しい以外なんて、あり得ないわよ・・・」
蒼井:「そうですよね。不躾な質問でした・・・。ごめんなさい・・・」
星野:「ひょっとして、零は高い所、駄目だった・・・?」
蒼井:「いいえ、東京スカイツリーも登るの大好きだし、高い所は平気です」
星野:「良かった・・・。もし高所恐怖症だったら、どうしようと思ったわよ・・・。
そっか、高い所、好きなんだ・・・。ふふふ・・・、また一つ、零の好きな事、知っちゃった・・・」
蒼井:「美咲さん・・・」
星野:「え? 何?」
蒼井:「美咲さんは、そんな可愛い一面もあるんですね」
星野:「こんな一面、知ってるのは零だけよ・・・」
蒼井:「え?」
星野:「何よ、その反応・・・。誰にでも見せる一面じゃないって事よ」
蒼井:「・・・」
星野:「どうかした?」
蒼井:「あっ・・・、何でも無いです。・・・そろそろ頂上に到着するみたいですよ」
星野:「いよいよなのね・・・。・・・陽も落ちたし、楽しみ・・・」
蒼井(N):「頂上に付いて・・・、ゴンドラ乗り場から出ると・・・、
そこには今まで見た事がない美しい光景が広がっていた・・・」
星野:「・・・初めて来たけど・・・、皆が一度、来たくなる意味・・・、分かる・・・。
ねぇ、そう思わない・・・?」
蒼井:「こんなに綺麗な星空・・・、初めて見た・・・」
星野:「気に入って貰えて良かった・・・。・・・ねぇ、こっちに寝ころべる場所があるみたいよ」
蒼井:「行きましょう」
間
星野:「よいしょっ・・・はぁ~、最高の気分~・・・。・・・ほら~、零も寝ころんでみて~、気持ちいいよ~」
蒼井:「・・・。・・・あぁ・・・、本当だ・・・。これは、此処でしか味わえない気分ですね・・・。
こうして・・・、手を伸ばすと・・・、今にも星に、手が届きそうだ・・・」
星野:「・・・長野県、阿智村・・・。・・・此処は、日本一の星空の村と言われてる所よ・・・。
テレビの特集で、見た瞬間・・・、いつか零と二人で来たいな~と思ったの・・・。
まさか、こんなにも早く、夢が叶うなんて思わなかったけどね・・・」
蒼井:「・・・俺も、美咲さんと、こんなに美しい星空が観れて・・・、嬉しいです・・・」
星野:「今の感情は・・・、本心から・・・?」
蒼井:「どうして・・・、そんな事、聞くんですか?」
星野:「・・・時々ね・・・、零の表情がね、信じられない時があったの・・・。
無理に笑顔を作っているみたいで・・・、そんな表情を見るたびに・・・、
私達は、お店のキャストと、お客の関係でしか無いのかなって・・・」
蒼井:「・・・」
星野:「そこで、黙っちゃうんだ・・・。
・・・むしろ、違うんですと、反論、期待するのも・・・、私の我儘でしかないのかな・・・」
蒼井:「違うんです・・・」
星野:「え?」
蒼井:「美咲さん・・・。俺は、怖いんです・・・。
初めて美咲さんと出会った頃は・・・、確かに、ただのお客としか見てませんでした・・・」
星野;「そっか・・・。当然と言えば当然よね・・・」
蒼井:「でも・・・、美咲さんに、何度も指名を貰って・・・、その度に一緒に過ごしていく内に・・・、
その考えは・・・、激しく揺らぎ始めました・・・。
こんな事は、初めてなんです・・・。そんな感情に揺らぐ度に、これは仕事なんだと言い聞かせました・・・。
そうでもしなければ・・・、頭が可笑しくなりそうだった・・・!
美咲さんの事を考えると・・・、こう胸が痛むんです・・・。・・・今まで経験した事のない痛みでした・・・」
星野:「それって・・・、私の事が・・・好きな・・・」
蒼井:「それは分かりません。・・・美咲さん、俺は・・・、今まで、人を愛した事が無いんです・・・」
星野:「嘘よね・・・?」
蒼井:「本当です・・・。だからこのまま、この感情が大きくなると、怖いんです・・・!」
星野:「・・・零・・・。・・・気持ち分かるよ。
・・・私もね、・・・人を好きになる事が怖かった・・・」
蒼井:「どうして・・・?」
星野:「・・・初めてそう感じたのは、中学生の頃だった。
・・・一緒のクラスの男子の事が気になりだして、勉強も、部活も、手に付かなくなったの・・・。
でもね・・・。それから暫くして・・・、私の中で変化が起きたの・・・。
あ~・・・、この男子を気にしてるから、勉強の成績も、部活も集中出来ないんだ・・・。
だったら・・・、今、私にとって大事な方を選べば良いだけなんだって・・・」
蒼井:「それって・・・」
星野:「ええ、そうよ・・・。私は、心の中にある天秤で・・・、好きになった男子と、勉強と部活の成績を掛けたの・・・。
そうしたら・・・、悩んでた気持ちも、すぐに消えていったわ・・・。
大人になった後も・・・、何かある度に、私は、心の中にある天秤を使い続けた・・・。
自分にとって最良の選択を出し続けたの・・・」
蒼井:「・・・」
星野:「そんな事を繰り返してる内に、気付いたの・・・。・・・誰かに愛され、愛しても・・・、楽しいのは最初だけ・・・。
そのうち、浮気されたり・・・、喧嘩別れしたり・・・。相手の嫌な部分が見えだしたり・・・。
激しく燃え上がった愛情も・・・、気付くと、嘘のように色褪せていた・・・。
だからね・・・。愛情なんてやがて色褪せるもの・・・・。それなら真実の愛なんて・・・、
私には必要ないと・・・、思うようになった・・・。
本当に信じられるのは自分自身と、自分の頑張りで得られる対価のお金だけ・・・」
蒼井:「愛はやがて色褪せる・・・。・・・それならどうして人は・・・、愛を求めるんですか?」
星野:「・・・私にも分からない・・・。・・・でも、これだけは、今度こそ最後まで信じたいと思ったの・・・。
初めてLibra(リーブラ)に電話して、貴方の・・・、零の声を聴いた瞬間・・・、
私の中で、生まれた心地良さ・・・。・・・この人となら・・・、真実の愛も見つけられるのかもって・・・」
蒼井:「俺とですか・・・?」
星野:「ええ、貴方と一緒に・・・」
蒼井:「・・・俺は・・・、美咲さんと・・・」
星野:「何?」
蒼井:「一緒に・・・、うっ・・・、ゴホッゴホッ・・・、ゴホッゴホッ・・・!!」
星野:「ちょっと大丈夫!?」
蒼井:「・・・平気です。・・・ちょっと寒気が・・・」
星野:「10月の初めとはいえ・・・、薄着は無茶だったかしら・・・。今、何か温かい飲み物、買ってくるわね・・・」
蒼井:「すみません・・・」
間
星野:「お待たせ・・・。はい、お茶。熱いから気を付けて」
蒼井:「ありがとうございます・・・」
星野:「・・・ごめんなさい」
蒼井:「どうして、謝るんですか・・・?」
星野:「私が、此処に連れてきたからよ・・・。風邪、引かせちゃたかも・・・」
蒼井:「・・・」
星野:「落ち着いたら、車に戻りま・・・」
蒼井:「連れて来て貰えて、嬉しかったです・・・。・・・出来るなら、また一緒に・・・、
美咲さんと、観に来たいです・・・」
星野:「本当に・・・? じゃあ、今月の後半に、また此処に来たいな・・・。二人で・・・。
10月20日は・・・、私の誕生日なの・・・」
蒼井:「え? ・・・あ~・・・」
星野:「あっ・・・、今、天秤座だから、心の測りかけたりしたのかと思ったでしょう?」
蒼井:「そんな事、思ってませんよ」
星野:「嘘ばっかり。・・・推しの洞察力を舐めないで。・・・零の表情、見てたら分かるよ」
蒼井:「すみません・・・」
星野:「ねぇ・・・、零の誕生日も教えてくれる?」
蒼井:「俺の誕生日は9月です。9月20日・・・」
星野:「9月・・・、私が10月で天秤座だから・・・、おとめ座か~・・・。あ~、ね~・・・」
蒼井:「美咲さんこそ、おとめ座、納得だ~って顔してるじゃないですか・・・」
星野:「・・・だって、おとめ座は、細やかな心配りが出来て、自分の事より相手の事を先に考えてしまう心優しい人・・・。
・・・零、そのまんまなんだもん・・・」
蒼井:「悪かったですね・・・。そのまんまの性格で・・・」
星野:「そんなに拗ねないでよ。褒めてるんだから・・・。
でも、そっか・・・。・・・私達・・・、生まれた時から、隣同士だったのね・・・。
何だか、運命、感じちゃった・・・」
蒼井:「・・・運命ですか・・・」
星野:「こんな綺麗な星空を一緒に観れただけでも、奇跡なのに・・・、
星も・・・、隣なのよ・・・。・・・ゲームで言えば、推しとの特別なイベントよ・・・!
思い切って、提案して良かった~・・・」
蒼井:「・・・美咲さん・・・」
星野:「何?」
蒼井:「さっきの続き、聞いて貰えますか?」
星野:「ええ・・・」
蒼井:「・・・俺も・・・、美咲さんと一緒に・・・、過ごしたいです・・・。
・・・俺に、愛する気持ち・・・、教えてくれますか・・・?」
星野:「私で良ければ・・・」
蒼井:「美咲さんが良いです・・・」
星野:「分かったわ・・・」
間
星野(N):「それから、私達は、ベッドの上で、お互いに産まれた感情を、何度も、何度も確かめ続けた・・・。
彼に抱きしめられる度に・・・、今まで感じた事がない幸福感に満たされて行くのが分かった・・・」
蒼井:「・・・後悔してませんか・・・?」
星野:「後悔なんてしないわ・・・。だって、こんなに幸せなんだもの・・・」
蒼井:「・・・俺も、今、最高に・・・、幸せです・・・」
星野:「・・・零、愛してる・・・」
蒼井:「・・・美咲さん、俺も愛しています・・・」
間
蒼井(N):「初めて心から、幸せを感じる事が出来た・・・。・・・美咲さんに出会えて、本当に俺は・・・幸せだ・・・。
これから先も、美咲さんと一緒に・・・」
蒼井:「うっ・・・、ゴホッゴホッ・・・。
・・・はっ・・・!(吐血)
・・・嫌だ・・・。もっと・・・今の幸せを・・・、美咲と・・・、分かち合いたい・・・。
ゴホッゴホッ・・・! ・・・ゴホッゴホッ・・・!
・・・あぁ・・・、この感情を・・・、父さんも・・・、経験したのか・・・。
・・・美咲・・・」
間
星野(N):「・・・私が彼と結ばれてから・・・、2週間が経過した・・・。
・・・今日は、10月20日・・・。私の誕生日・・・。
私は、零と約束した、阿智村に来ていた・・・」
星野:「・・・あの時と同じように、綺麗な星空・・・。ねぇ、そう思わない? 零・・・?」
星野(N):「私は、あの時のように、零に問いかけた。
・・・しかし、彼から返答は来なかった・・・。
・・・来るはずがない・・・。・・・零は・・・もうこの世に居ないのだから・・・」
星野:「・・・嘘付き・・・。私の誕生日に、もう一度一緒に来ようねって約束したじゃない・・・」
星野(N):「彼は、私と結ばれた翌日・・・。・・・ソファーで亡くなっていた・・・。
・・・医者の診断は・・・、突然死だった・・・。
・・・私は、余りに突然の別れを、今日まで受け入れる事が出来なかった・・・。
・・・彼が無くなっていた側には・・・、彼のスマホが落ちていて・・・、
そこには、私宛のメールが残されていた・・・。
でも私は、それを読む勇気が、今日まで無かった・・・」
星野:「此処まで来たのよ・・・。
勇気を出さなくちゃいけないの・・・。
・・・愛している美咲へ・・・。先ずは、謝ります・・・」
蒼井:「・・・俺は、美咲に、嘘を付いていました・・・。
・・・その嘘については・・・、美咲と出会って・・・、
美咲に赤い薔薇を渡した時に、本当は、打ち明けようと思っていました・・・。
でも・・・、あんなに喜ぶ美咲を見て・・・、打ち明けるのが怖くなりました・・・。
その後も・・・、阿智村で一緒に星空を眺めて・・・、美咲が俺に気持ちを打ち明けた時も、
勇気を振り絞ろうとしました・・・。だけど・・・、その時に、突然の胸の痛みに襲われました・・・。
その時・・・、分かったんです・・・。
あ~・・・、俺も、この運命から逃れる事が出来ないんだと・・・」
星野:「運命・・・?」
蒼井:「・・・俺の父さんは・・・、ある奇病にかかっていました・・・。
・・・その奇病は・・・、俺も遺伝していたのです・・・。
・・・父さんと、俺は・・・、心から愛を感じると・・・、死ぬ病気です・・・」
星野:「嘘・・・」
蒼井:「こんな理不尽な病気・・・、こうして、この文章を読んでいても、信じられないでしょう・・・。
でも・・・、本当です・・・。
この病気で・・・、俺は父さんの姿を、遺影でしか見た事がありません・・・。
・・・父さんは・・・、母さんを愛した後、亡くなった事・・・。
母さんも、突然死した父さんの側に置いてあった手紙によって、その事実を知った事・・・。
・・・全て・・・、俺が18歳を迎えて、母さんが病に倒れて病院生活になった時に、打ち明けてくれました・・・。
・・・その時・・・、俺は初めて母の優しさを知ったのです・・・。
・・・、物心が付いてから、その病院生活までの間、俺は母の優しさを知らずに育ちました・・・。
今、思えば・・・、母も怖かったんだと思います・・・。
俺も・・・、父さんと同じ奇病にかかっていたら・・・、愛する息子まで失ってしまうのではないかと・・・」
星野:「・・・」
蒼井:「・・・それから一年後・・・、母さんはこの世を去りました・・・。
短い期間だったけど・・・、母の本当の優しさが知れた一年間は、嬉しかった・・・。
・・・面会に行った時にも・・・、母は、幸せ、愛だと、思っては駄目よ・・・。
心にフィルターをかける事を忘れないでと・・・、言い聞かせられました・・・。
・・・それから、東京に出た後も・・・、俺はその事を肝に銘じてきました・・・。
そう・・・、美咲に出会って・・・、美咲を愛し始めるまでは・・・」
星野:「零・・・」
蒼井:「美咲は・・・、俺がこんな奇病を持っている可能性がある身だと、打ち明けられたら・・・、
どうしてましたか・・・? 俺の事・・・、嫌いになっていましたか・・・?」
星野:「嫌いになんてなる訳ないでしょう・・・」
蒼井:「あの綺麗な星空を一緒に観て、美咲に素直な気持ちを訊いた時・・・、
打ち明けていたら・・・、今でも、美咲を悲しませないでおけたのかな・・・?
でも・・・、胸の痛みが激しくなっても・・・、
あの時、あの瞬間・・・! 俺も、美咲に本当の気持ちを伝えたかった・・・!
例え、その先・・・、長く生きれなかったとしても・・・!
人生で、一番愛した・・・、美咲に・・・、偽りのない気持ちで、答えたかった・・・!!」
星野:「うん・・・、うん・・・!」
蒼井:「・・・俺は・・・、レンタル彼氏になった事で・・・、運命に復讐を考えた・・・。
偽りの愛情で・・・、お客を満足させて・・・、愛なんて感情は、愚かな感情だと・・・運命に訴え続けた・・・!
その度に・・・俺の心は・・・、黒く染まり続けた・・・。
そんな俺の心を・・・、純粋な優しさ・・・、愛情で、浄化してくれたのは・・・、美咲だったんだよ・・・。
・・・ありがとう・・・。俺に・・・、真実の愛を教えてくれて・・・。
・・・一緒に側に居て・・・、美咲と幸せを感じたり・・・、楽しいねと笑いあう事は・・・、もう出来ないけど・・・。
これからは・・・、空の星となって・・・、美咲の星座の隣で・・・、美咲を見守っているね・・・。
この世で、一番愛している星野 美咲へ・・・。
・・・蒼井 零より・・・」
星野:「零・・・。・・・私の方こそ・・・、真実の愛を教えてくれて・・・、沢山の幸せをくれて・・・、ありがとう・・・。
・・・ねぇ・・・、そこから見える?
・・・私は・・・、これからもずっと~・・・!! 零を愛し続けるからね~・・・!!」
星野(N):「愛はやがて色褪せる・・・。今まではそう思って居た・・・。でも、これからは違う・・・。
私と零の愛は・・・、これからもずっと色褪せはしないのだから・・・」
終わり
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